定時総会の開催にあたりまして、一言ごあいさつを申し上げます。
日本経済でございますが、この3年半のアベノミクスの経済政策によって、緩やかではありますが、回復の基調をたどっております。デフレ脱却は、もう一息のところにまで来ておりますが、内需の柱である個人消費は、前回の消費増税以降、足踏み状態が続いており、景気回復の足取りに力強さを欠いた状態が続いております。
そういったなかで、先週開催されたG7伊勢志摩サミットでは、世界経済は下振れリスクに直面しているという認識が示されました。そして共同宣言では、G7各国が強固で持続可能な均衡ある成長の達成に貢献するため、すべての政策手段、すなわち金融、財政および構造政策という三本の矢を総動員するといった合意がなされました。
こうしたなか、昨日、安倍総理は、消費増税の再延期という大変重い決断をなされました。これは、サミットの合意を議長国である日本が先頭に立って、率先して実行するものと受け止めております。また、伸び悩む個人消費を喚起し、日本経済を再びデフレに戻さない、経済再生を最優先するといった安倍総理の強い決意を示されたものと理解しております。経団連といたしまして、この決定を尊重したいと思います。
政府においては、600兆円経済の実現と2020年度の財政健全化目標の達成の双方を目指していただきたいと思います。そのためにも、景気浮揚のための経済対策の早期策定や実行を求めたいと考えております。
ここで、この1年間の経団連の活動を総括したいと思います。
経団連は、昨年1月に取りまとめたビジョンを行動指針として、日本の経済・社会全般の改革の牽引役を担うべく、国益や将来を見据えた政策提言とその実現に向けた働きかけを果敢に進めてまいりました。
具体的な活動成果をご紹介したいと思います。
現下の最重要課題であるデフレ脱却と経済再生に向けて、そのカギを握るのは、賃金の引き上げでございます。今年の春季労使交渉におきまして、一昨年、昨年と2年間続いた賃金引き上げのモメンタムを継続することが、経済の好循環を回すためにも必要との判断のもとに、収益が拡大した企業に、年収ベースの賃金引き上げについて前向きな検討をしていただきました。その結果、多くの企業が、3年連続となるベースアップの実施と昨年以上の賞与・一時金の支給を回答されました。さらに、非正規労働者の賃金引き上げ、育児・介護に関する制度の充実など、総合的な処遇改善も行われました。こうした企業の積極的な対応は、経済の好循環を生み出す大きな原動力になると考えております。
また、ご案内のとおり、法人実効税率の20%台への引き下げが実現しました。経団連は、事業環境の国際的なイコールフッティングの確保に向けて、法人実効税率の引き下げが不可欠であると強く主張してまいりました。その結果、2016年度に29.97%、2018年度に29.74%と、従来のスケジュールを前倒しして20%台に引き下げられることになりました。
TPP(環太平洋パートナーシップ)協定も署名に至りました。TPP協定は成長戦略の要であり、アジア太平洋地域に高度なバリュー・チェーンを構築するための重要な制度インフラです。そこで、経団連は、閣僚会合に代表団を派遣するなど、早期妥結に向けて積極的に行動しました。
経済外交も精力的に進めました。まず米国に、総勢100名のハイレベルなミッションを派遣し、日米経済関係のさらなる強化に努めました。
アジア諸国についても、中国の李克強総理、韓国の朴槿恵大統領、インドのモディ首相、モンゴルのエルベグドルジ大統領と会談するなど、経済協力の強化・拡大に取り組みました。
また、G7伊勢志摩サミットに先立ち、経団連は、G7各国の経済団体トップを東京に招いて、B7サミットを主催しました。当日は、世界経済の成長に向けた方策を討議し、その成果を共同提言に取りまとめたうえで、安倍総理に直接建議しました。このたびのG7サミットの首脳宣言には、この提言の多くが反映されたと考えております。
本日から、私の会長としての3年目のスタートとなります。今年度は、これまでの取り組みをベースに、経団連活動をさらに強化してまいりたいと考えております。
今年度、優先的に取り組む課題を4点申し上げます。
第1に、デフレ脱却と経済再生を確実に実現すること、そして、GDP600兆円経済実現への確固たる道筋をつけることです。
特に重要となるのが、個人消費の喚起でございます。前回の消費税率引き上げ以降、個人消費は足踏みの状況が続いております。これを上昇トレンドに切り換え、消費回復を定着させていくため、政府による消費のてこ入れ策・需要創造策が必要と考えます。政府には、財政出動を伴う大胆な消費喚起策の早期実行を求めてまいります。
また、このたび閣議決定となる「日本再興戦略2016」に盛り込まれた「官民戦略プロジェクト10」につきましても、成長戦略の柱として、政府との連携のもとで取り組みを進めてまいります。とりわけ、第4次産業革命の実現、Society 5.0 の推進に重点的に取り組みたいと考えております。
第2は、経済外交です。まず、TPP協定の早期発効に加え、包括的で質の高い日中韓FTA、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日EU EPAの早期実現に取り組んでまいります。また、昨年開設した米国事務所を活用しながら、米国の連邦政府および州レベルでの交流を促進するとともに、中国や韓国をはじめとするアジア諸国とも、ミッションの派遣や合同会議の開催などを通じて経済交流の強化・拡大を図ります。さらに、安倍総理の経済外交戦略に呼応して、8月末にケニアで開催されるTICAD Ⅵ に参加し、官民一体でアフリカ諸国との経済関係を強化してまいります。
第3は、財政健全化に向けた働きかけです。このたび消費増税は再延期されましたが、先ほども申し上げましたとおり、政府には、GDP600兆円経済の実現とあわせて、2020年度の財政健全化目標の達成を目指していただきたいと思います。財政健全化の最大の課題は、社会保障分野の抜本改革であり、社会保障給付の適正化・効率化と社会保険料負担増の抑制、ならびに子育て世代への支援の強化・重点化が不可欠であると考えております。
第4は、女性の活躍推進です。安倍政権が発足以降、この3年間で、女性活躍推進に向けての日本の社会と国民の意識は大きく変わりつつあります。この流れをより確実なものとするため、経団連は、女性の活躍推進を引き続き重要政策課題として、着実に取り組んでまいります。本日、箔一の浅野邦子会長に審議員会副議長に就任いただきますが、吉田晴乃副議長と共に、女性のトップメンバーとして大いに活躍いただきたいと期待をしております。
こうした課題への取り組みを確実に進めるためには、政治との連携強化が不可欠と考えます。政治と経済が車の両輪として、それぞれの役割を果たしながら、相互の連携関係、信頼関係をさらに強化してまいりたいと考えております。
ご来賓の皆様方には、今後とも経団連の活動につきまして、一層のご指導・ご鞭撻をいただきますようお願い申し上げます。
また、会員の皆様方におかれましても、引き続き経団連の活動に対して格別のご支援とご協力をいただきますようお願い申し上げまして、私のごあいさつとさせていただきます。