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Policy(提言・報告書) アジア・大洋州 第11回日印ビジネス・リーダーズ・フォーラム共同報告書

(和文仮訳/英文正文
2018年10月29日

日印のビジネス・リーダーは、両国の「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の一層の進化とともに、日本の「自由で開かれたインド・太平洋戦略」とインドの「アクト・イースト」のさらなる融合を通じ、インド太平洋地域と世界の平和・繁栄のために協働するとの両国首脳の決意に敬意を表する。同時に、自由で開かれた国際経済秩序の下での経済連携関係の一層の強化や、イノベーションをはじめとする戦略的重要分野での協力の一層の推進を図り、世界経済の牽引役を果たすことを強く望む。

日印ビジネス・リーダーズ・フォーラムは、2007年の設置以来、日印首脳会談に合わせて両国を代表するビジネス・リーダーが一堂に会して、両国間の経済交流の拡大に向けて真摯な議論を交わしてきた。その結果に基づき取りまとめた共同報告書を両国首脳に提出し実現を働きかけることにより、両国間の多くの課題解決と連携・協力関係の強化に貢献してきた。

日印のビジネス・リーダーは、ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道(MAHSR)プロジェクトの開始や、インドにおける「日本式ものづくり学校(JIM)」の発足、防災リスク軽減に関するワークショップの定期開催、日本からインドへの投資促進に関するロードマップに基づく「メイク・イン・インディア」の推進、バンガロールにおける日印スタートアップハブの創設、健康や食料、防衛、技術移転、クリーンエネルギー、ICT、バイオテクノロジや医薬品等の重要分野に協力等の取組みが、日印関係を前進させていると認識している。

今般、第11回目となる本フォーラムでは、世界的な反グローバリゼーションや保護主義的な動きが高まるとともに、デジタル化の進展が急速に進むなど世界を取り巻く環境が大きく変化する中、日印が共に発展し持続的な成長を実現するため、両国の経済情勢や成長戦略に相互理解を深めるとともに、自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化および経済連携の推進やビジネス環境の整備を通じた経済交流の拡大、さらには戦略的重要分野における連携強化を通じた包摂的成長の実現等について議論を行い、本共同報告書を取りまとめた。

日印のビジネス・リーダーは、両国首脳に対して、本提言の実現を求めるとともに、経済界の立場から、両国の特別な戦略的グローバル・パートナーシップの一層の発展に貢献する所存である。

1.自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化および経済連携の推進

世界的な反グローバリゼーションや保護主義の高まりが懸念される中、世界の安定と繁栄を支えてきた自由で開かれた国際経済秩序を維持・強化し、物品・サービス・資金・人材・技術・データ等が国境を越えて自由に行き交うことのできる貿易・投資環境を整備していくことが重要である。同時に、知的財産権の保護や公正競争の確保等のルール整備を通じたビジネス環境の円滑化に取組んでいかねばならない。

かかる観点から、日印のビジネス・リーダーは、両国が自由貿易の旗を共に高く掲げ、世界に対してその意義と両国の強いコミットメントを発信すべく、現在交渉中の東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)を、包括的かつ互恵的で高水準なものとして早期に実現する必要性を確認した。同協定には、物品・サービス貿易、投資の自由化や累積原産地制度の導入に加え、人の移動、競争政策、知的財産、電子商取引、政府調達、紛争解決等の各種ルールの整備を含める必要がある。日印のビジネス・リーダーは、これらの早期実現に向けて、引き続き相協力し両国の主導的な役割の発揮に貢献することで合意した。

2.ビジネス環境の整備を通じた経済交流の拡大

両国間の貿易・投資や技術・データ・人的交流等を加速するためには、自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化や経済連携の推進ともに、両国における公正・透明で予見可能性の高いビジネス環境の整備が極めて重要である。

日印のビジネス・リーダーは、昨年7月のインドにおける物品・サービス税(GST)導入や日印原子力協定の発効、破産・倒産法の布告等を高く評価するとともに、企業の自由で円滑な事業展開の整備を一層推進すべく、別表に示した日本・インド双方の経済界からの要望の早期実現を日印両政府に対して強く望むものである。

日本のビジネス・リーダーは、引き続きGST制度や手続きの簡素・迅速化とともに、土地収用法の早期改正、税制の整理・合理化とマスターファイル要求の見直し等の国際整合性の確保、労働法の是正・統合、データローカライゼーション規制の撤廃等データの自由流通の確保、インフラ整備の促進ならびに入札制度の改革、法令・制度の明確化および安定した運用、行政手続の一般ルールの整備及び電子化の推進、行政契約等の透明性・履行確保等をインド政府に対して求める。

インドのビジネス・リーダーは、サービス分野のプロフェッショナル人材に関する相互承認協定の締結や、ICTや医薬品等の分野における貿易投資の促進、日本における源泉課税等の税率軽減等により、両国間の財・サービスの流れが加速されると感じている。また、インドのビジネス・リーダーは、日本の大企業による産業間貿易やオフショア生産が、日本とマレーシア、タイ、台湾等のアジア主要国との貿易の基礎を形成していることを踏まえ、日印間のサプライチェーンのつながりやオフショア生産を加速する必要があると感じている。

日印のビジネス・リーダーは、こうした要望の実現に向け、投資促進ロードマップに基づく取組みや、インド工業連盟(CII)およびインド日本商工会等の産業団体、ならびに日本大使館等の日印関連当局との協議、日印包括的経済連携協定(IJCEPA)の下に設置された「ビジネス環境整備に関する小委員会」の毎年の定期的開催等での議論を通じて、具体的な改善策が見出されることを強く期待する。インドと日本の企業がアフリカにおいて共同事業を推進する「アジア・アフリカ成長回廊」が進展しているは特筆に価する。これはインドと日本の企業が第三国市場において連携するための良いモデルである。

3.戦略的重要分野における連携強化を通じた包摂的成長の実現

2015年9月の国連サミットでは包摂的な成長と持続的な社会の実現に向けた国際統一目標であるSDGs(Sustainable Development Goals)が採択され、その達成に向けて民間セクターの創造性とイノベーションの発揮が求められている。

このような中、日本では、革新技術を最大限活用した幅広いイノベーションの推進により、経済発展と社会的課題解決の両立を目指す「Society 5.0」の実現に向けた取組みを官民連携の下で進めている。また、インドでは、「デジタル・インディア」や「スタートアップ・インディア」等のイニシアティブのもと、イノベーション創出を推進している。こうした両国の取組みを一層強化するとともに、日印相互の優位性を相互補完しつつ連携を進めることにより、包摂的成長の実現に向けたイノベーション創出を協同して主導することが可能となる。従って、日印両国はその実現に向けて、データの自由な流通を確保するなど技術やデータの相互利活用を推進する事業環境の整備や人的交流の一層の推進を図るべきである。

また、包摂的成長を支えるインフラ整備も重要である。日印のビジネス・リーダーは、「日印新時代」の象徴であるムンバイ・アーメダバード間高速鉄道(MAHSR)の整備に関する交換公文締結等の具体的成果を歓迎するとともに、インドの産業競争力の強化や持続的で包摂的な成長、および国民生活の向上に向け、貨物専用鉄道(DFC)建設計画、デリー・ムンバイ産業大動脈(DMIC)構想などの回廊計画とその関連プロジェクトはじめ、引き続き、道路、鉄道、港湾、空港、電力・スマートグリッド、水処理、工業団地等のインフラ整備が推進されることを求める。その際には、官民連携による質の高いインフラ整備促進の観点から、インドのインフラ・プロジェクトの入札手続きにおいて、ライフサイクル・コストから見た経済性や技術を適切に評価する総合評価落札制度の導入・拡充、円借款プロジェクト等における免税措置の導入・徹底、官民パートナーシップ(PPP)における政府保証の付与や政府による土地収用の実施等の官民の適切なリスク・役割分担等が求められる。

また、産業活動及び国民生活の基盤である電力の安定供給と環境保護との両立の観点から、日印のビジネス・リーダーは日印原子力協定の締結・発効を高く評価し協力具体化とそのための環境整備を期待するとともに、高効率かつクリーンな石炭・ガス火力発電の推進、再生可能エネルギーの大規模導入等の日印協力の強化を求める。防衛ならびに安全保障分野においても、首脳間の合意に基づく両国間におけるハイテク分野の協力強化も重要である。

これらの協力を推進する上で、それを支える優秀な人材の育成・確保が不可欠である。日本は、インドにおける人的資本の形成に大きな役割を果たしている。国際協力機構(JICA)の支援のもとでインド産業連盟(CII)が推進している「包括的成長のための製造業経営幹部育成支援プロジェクト(The Champions for Societal Manufacturing project)」は、インド製造業の管理能力を強化している。CIIは、インドの技術開発・起業省より、技能インターンシップ訓練プログラムの支援機関として任命されている。第一バッチの15名のインターン生は、プログラム開始前の4ヶ月間、日本の専門家から集中訓練を受けた。加えて、日本の経済産業省とインドの技能開発・起業省による基本合意書(2016年11月)に基づいて創設された「日本式ものづくり学校(JIM)」が拡大され、インドにおける受講生の数が増えている。同プログラムは、日本式ものづくりの実践的なスキルを参加者に提供しており、すでに5つの実施機関が動いている。

日印のビジネス・リーダーは、各種プロジェクトの進展を歓迎するとともに、大学生・大学院生の交換留学、企業内におけるインターンシップ、語学研修、技能訓練等の充実の重要性を改めて認識し、その引き続きの推進に向けた日印協力を求めたい。

総括

日印のビジネス・リーダーは、歴史的に強い結びつきを持ち、基本的な価値観を共有する日印両国共同の取り組みが、日印両国の持続的成長の実現にとどまらず、インド太平洋地域さらには世界全体の平和・繁栄に寄与し、SDGsの達成に貢献することを確信する。

最後に、本フォーラムのメンバーは、日本の安倍総理とインドのモディ首相より我々に寄せられた信頼に対し、深い謝意を表したい。

日印ビジネス・リーダーズ・フォーラム 日本側共同議長   中西 宏明
日印ビジネス・リーダーズ・フォーラム インド側共同議長  ババ カリヤニ
以上

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