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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年4月12日 No.3082 昼食講演会シリーズ<第15回> -「欧州債務危機の行方とわが国への影響」
/同志社大学大学院ビジネス研究科教授 浜矩子氏

経団連は3月19日、東京・大手町の経団連会館で第15回昼食講演会を開催し、167名の参加のもと、同志社大学大学院ビジネス研究科の浜矩子教授から「欧州債務危機の行方とわが国への影響」と題した講演を聞いた。
講演概要は次のとおり。

■ 欧州債務危機の三つのキーワード

欧州債務危機には、(1)ECB(2)パックス・ゲルマニア(3)「ユーロよ、さらば」――という三つのキーワードがある。

第1のECBは、 European Central Bank が European Catastrophe Bank になることである。そもそも政府は、民間部門が窮地に陥った時に助けてくれるレスキュー隊であるべきだ。しかし、現在の欧州では国への援助が必要なので、中央銀行であるECBが「第2のレスキュー隊」として大出動し、信用力の低い国債を市場から買い入れている。これを続ければ、中央銀行の手元に信用力の低い国債がたまっていくので、中央銀行の倒産という事態も想定しなければならなくなる。またECBは、民間の金融機関にも資金を供給し続けており、「最初にして唯一の貸し手」となってしまっている。

第2のパックス・ゲルマニアは、ヒト・モノ・カネが地球上を飛び回って支配的な国家が現れないというグローバル時代における例外である。ユーロ圏では、ドイツの存在感が非常に強まっている。そもそも、ドイツを封じ込めるためにユーロは導入されたが、皮肉なことに、ますますドイツの影響力は強まっている。

第3の「ユーロよ、さらば」は、ユーロは消滅せざるを得ない運命にあるということである。そもそも、単一通貨を成立させるためには、国内の経済が収斂しているか、所得再分配によって格差が平準化されていなければならない。しかしユーロ圏内には経済格差が残っているし、再分配にはドイツが反対している。ECBの出動によって小康状態を得ていても、単一通貨を成立させるための条件がそろっていない。

■ 日本への示唆

日本に対しては二つのメッセージがある。

一つ目は「グローバル経済に『対岸の火事』はない」ということである。リーマンショックや東日本大震災などから、グローバル経済のもとでは一つの事象がさまざまな分野に広範な影響を与えることを経験している。ユーロが消滅すれば、債権や株式市場に大混乱が生じるだろう。

二つ目は「円よ、さらば?」である。「円はいつまで単一通貨であり続けることができるか」「円はいつまで単一通貨であり続けることが合理的か」という問題である。

日本の通貨は、実質的には円で統一されている。これは、国内の経済が収斂していなくても、所得再分配が行われているからである。しかし、現在の日本の財政状態はギリシャよりも大幅に悪いので、財政の機能も“風前のともしび”である。財政が機能不全になれば、日本が単一通貨を導入する前提を失い、一国多通貨も選択肢になり得る。ヒト・モノ・カネが自由に行き来するグローバル経済のなかでは、一国多通貨体制に備えることが求められる。

【総務本部】

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