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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年6月28日 No.3091 第107回労働法フォーラム -報告I 弁護士・緒方彰人氏
「職場のいじめ・嫌がらせ、ハラスメントに関するトラブルの現状と課題」

弁護士・緒方彰人氏

経団連・経団連事業サービス主催、経営法曹会議協賛による「第107回経団連労働法フォーラム」が14、15の両日、都内のホテルで開催され、(1)職場のいじめ・嫌がらせ、ハラスメントに関するトラブルの現状と課題(1日目)(2)労働法制の見直しへの対応策~高年齢者雇用安定法および労働契約法の改正法案(2日目)――について検討が行われた。1日目の報告の概要は次のとおり。

■ 現状について

職場のいじめ・嫌がらせ等に関する労働局への相談件数は、2010年度に約4万件で、02年度と比較すると約6倍に増加している。この背景には、企業競争の激化やそれに伴う職場内のコミュニケーションの希薄化等がある。また、業務上の指導との線引きが困難、管理職が弱腰になる等、企業が対応するうえで課題も少なくない。

政府も国民の理解を深めるために、今年3月「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」を出した。民事・刑事の一般法理、また労働災害等多様な場面で問題となることから、企業は法的観点から整理、検討を行う必要がある。

■ 正当な指導と不法行為との区別

業務上の指導といじめ・嫌がらせ等との線引きで直接問題とされるのは、「不法行為責任」と、「労災補償制度」である。

上司や同僚等行為者の不法行為責任については、指導を行う必要性、言動内容、回数、態様、日常的な関係等により、その違法性が判断される。業務上の指導目的であっても、一般的に妥当な方法と程度を逸脱している場合、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与える場合は違法となる。

また、従業員の不法行為責任を前提に、民法第715条により、使用者も「執行について第三者に加えた損害」に対する賠償責任(使用者責任)を負う。上司が業務命令や指導の形式を取っている場合には、業務の執行についてなされたとして使用者責任を問われる裁判例が多い。

加えて、使用者には安全配慮義務、職場環境配慮義務が課されており(労働契約法第5条等)、こうした義務を履行しない場合には損害賠償責任を負うことになる。配慮義務の具体的な内容は、職種、労務内容、労務提供場所等の状況によって異なるが、厳しい叱責等が日常的に繰り返されたものでなくとも、従業員の状態によっては配慮を求められる場合がある。

一方、労働基準法第8章、労働者災害補償保険法に基づく労災補償制度は、使用者の故意過失を問わず業務に内在する危険の現実化として負傷ないし疾病にかかった場合の損失を補償するものである。いじめ・嫌がらせ等の場合、「心理的負荷による精神障害の認定基準」により心理的負荷の強度が評価される。

■ 企業の対策

予防のための対策としては、トップのメッセージの明示、ルールの作成、従業員アンケート等の実態把握、教育、周知等がある。また、解決のための対策としては、相談や解決の場の設置、再発防止研修等が挙げられる。実際に、相談を受けた場合の対応としては、配慮義務の履行や企業秩序の回復を目的として、事実関係の確認(相談者、行為者、第三者)、行為者および被害者に対する措置の実施、再発防止策の実施を図ることになる。

<質疑応答>

参加企業・団体からの質問に対し、「被害者が訴えない・調査を望まない場合も配慮義務の観点からは介入することが望ましい」「段階的に注意する・記録を残す等の内容の管理者教育は重要であり、このような教育が管理者の委縮の予防にも有効」等、実務的な対応策について弁護士らによる活発な討論がなされた。

【労働法制本部】

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