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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年8月2日 No.3096 「目指すべき日本経済の姿」 -夏季フォーラム2012 第2セッション

2日目の第2セッションでは、「目指すべき日本経済の姿」をテーマに東京大学特任研究員の小川紘一氏、東京大学大学院経済学研究科教授の吉川洋氏から、それぞれ産業構造論とマクロ経済の観点から講演を聞くとともに、わが国の経済成長戦略について、講師を交えて意見交換を行った。

小川氏

まず、小川氏は、「グローバル産業構造の転換とわが国企業の課題」と題して、(1)従来の産業の常識が通用しなくなっていること(2)産業構造変化の背景(3)産業構造変化への欧米企業の対応(4)わが国製造業の方向性――の4点を中心に講演した。
冒頭小川氏は、「『常に最先端の技術に挑戦し続ければ勝てる』『重要特許を多く保持すれば勝てる』『国際標準の規格づくりの主導権を握れば勝てる』『グローバル市場で大量普及する製品の開発をリードすれば勝てる』というこれまでの四つの常識がグローバル市場で通用しなくなっている」と述べた。さらに、「この変化を受けて、巨大な産業構造がグローバル市場に出現し、『技術立国』『知財立国』『ものづくり立国』などの供給サイドの政策が必ずしも企業の競争力と雇用・成長に結び付かなくなっている」と指摘した。
次に、このように産業構造が変化した背景として、(1)デジタル化により製品のアーキテクチャー(設計思想)が変わったこと(2)1980年代の欧米諸国において小さな政府への転換やオープン化を進める産業政策が推し進められたこと(3)デジタル化、オープン化に伴うエコシステム型の産業構造の発展にあわせて、90年代にアジア諸国が政策を転換し、経済成長したこと――の3点を挙げた。
続いて、こうした変化に欧米企業がどう対応したか、アップルを例に説明し、「アップルの強みは『収益を維持する仕掛けづくり』である。『自社と市場の境界』を自社優位に設計したうえで、特許権、著作権、意匠権等を戦略的に活用し、合法的に模倣を防止し、価格を維持している」と述べた。
最後に、わが国製造業の方向性について、「イノベーションの成果をグローバル市場での競争優位に結び付ける仕組みの再構築が必要であり、そのためにはビジネスモデルと知財マネジメントがカギだ」と述べた。

吉川氏

続いて、吉川氏が「人口と経済成長の関係」「成長に求められるイノベーション、第3次産業革命」を中心に講演した。
まず、人口と経済成長の関係について吉川氏は、人口減少が重要な問題であることを認めつつも、「人口が減るから経済成長はできない」という考え方に疑問を呈し、「人口減と経済成長の相関関係は供給サイドと需要サイドの両面から根拠があるとされ、供給面では生産年齢人口の減少が、需要面では需要創出が高齢世代では小さいことが経済成長にマイナス圧力になるとされているが、短期的にも、中長期的にも相関関係はない」と述べた。この理由として、現在、経済が堅調なドイツで人口減少幅が日本よりも大きいことを紹介するとともに、仮に経済規模が人口によるとすれば、1人当たり所得が変化しないことになると述べた。そのうえで、「今の日本経済を包む閉塞感の原因は人口動態ではなく、1人当たりの所得を生み出す力が弱くなっているからだ」とし、具体的には、「設備投資による資本整備率の低下ではなく、ハード・ソフトを含めたイノベーションの力が低下したことが原因となっている」と述べ、イノベーションの重要性を強調した。
次に、製造業の先進国回帰を特集したエコノミスト誌の“The Third Industrial Revolution”を紹介し、「先進国が製造拠点を国内に戻すのは、中国の賃金が上昇しているからではなく、需要の変化に迅速に対応するためであり、すなわち、先進国という需要のある場所に企業が立地を戻すという行動は合理的である」と述べた。そのうえで、「多くの課題を抱える日本にはイノベーション創出の芽が多い。さらに、1億人の人口を抱え、比較的所得も高く、良質なマーケットが存在している。日本はイノベーションに最適な環境であり、この市場環境こそが第3次産業革命のトリガーになる」と主張した。

その後の自由討議では、幅広い観点から経済成長戦略等について議論を行い、「日本企業は技術に長け、とりわけ『つくる文化』に優れているが、一方で『使う文化』に欠けている」「需要と供給のうち、需要こそが基本であり、『使う文化』がより重要だ」といった意見や、未来都市モデルプロジェクトやスマートコミュニティーを通じたイノベーションの推進、人材育成の重要性等に関する意見が出された。加えて、税・財政・社会保障改革、農業、医療・介護産業、観光産業の活性化、震災復興の重要性などが指摘された。

【政治社会本部】

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