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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年10月11日 No.3104 第2回「経団連 Power Up カレッジ」開催 -企業価値の向上に向けて~リーダーの役割とは?経営改革を振り返る
/資生堂の前田会長が講演

経団連事業サービス(米倉弘昌会長)は、経団連会員企業の若手・中堅社員を対象に、今後の人生航路の羅針盤となり得るような講話を企業経営者から聞く「経団連 Power Up カレッジ」を7月から開催している。9月11日、東京・大手町の経団連会館で開催された第2回は、資生堂の前田新造会長が「企業価値の向上に向けて-リーダーの役割とは?経営改革を振り返る」をテーマに講演した。講演の概要は次のとおり。

「100%お客様志向」の会社に生まれ変わる

資生堂が現在の地位を築いたのは、80年以上前に確立したチェーンストア、販売会社、美容部員、「花椿会」を核としたビジネスモデルに加え、再販制度によるところが大きかった。しかし、私が社長に就任した2005年には、そのビジネスモデルが強固ゆえに環境変化に対応できず、「多くのお客様に出会い、美しくする」という企業理念もおろそかに、売上至上主義に陥っていた。そこで私は任期中に成し遂げたい三つの夢を、全社員が目指すビジョンとして共有し、改革に取り組んだ。三つの夢とは、(1)100%お客様志向の会社に生まれ変わる(2)大切な経営資源であるブランドを磨き直す(3)魅力ある人で組織を埋め尽くす――である。

一例として、ビューティーコンサルタント(以下、BC)の売上ノルマの撤廃について紹介したい。BCは、お客様に美しくなっていただくお手伝いをすることがミッションであると、入社時に徹底的に教育されているが、現実は売上に縛られ、矛盾や葛藤を感じていた。彼女たちがお客様の美しさと満足を追求する活動に集中できる環境をつくる必要があった。そこで、全国1万人のBCとの直接対話を繰り返し、売上ノルマを撤廃して、接客したお客様に評価していただく新たな仕組みを構築した。お客様による評価は、日々私たちが見過ごしているものへの気付きを与えてくれる大切な活動として定着している。

国内社員の大部分を占めていたBCの価値観が一斉に変われば、改革は一気に進み後戻りできなくなる。次なるステップとして、営業担当の売上ノルマ撤廃にも着手したが、まだまだ道半ばである。どんな改革もいざ実行してみると、以前の慣れたやり方に戻ろうとする力や誘惑が働く。しかし、常に理念に戻って検証し続け、本当に必要な改革であれば、決して臆せず怯まない。行き過ぎた成果主義を改め、顧客満足を成果の指標として追求していくことが、結果として安定的な売上拡大、企業価値向上に結び付く。どんなに苦しくとも元に戻すことはしないと断言し、改革を進めている。

魅力ある人で組織を埋め尽くす

よく人件費はコストであると言われるが、私はキャピタルとして見るべきと考えている。数ある経営資源のなかで唯一、人だけが心を持ち、1の物を2にも3にも変えることができる。多くのステークホルダーからの信頼という資産を無限につくり出すのは、まさに社員である。社員一人ひとりが、それぞれの立場で100%お客様のことを考え、誰もが仕事に対してやりがいを感じ、会社に誇りを持ち、自分の持ち場で最大限に力を発揮できる人で会社を満たしていきたい。

そのため、人材育成に関する「資生堂『共育』宣言」を発表した。一人ひとりの社員が主体的に成長する意志を持ち、ともに育ちあい、育てあう会社になることを目指して始動させたのが、企業内大学「エコール資生堂」である。そこでは、業務に対応した7分野を学部と位置付け、各分野の執行役員が学部長として社員の人材育成を受け持つ。役員の役割は、伝承を通じた人材育成であり、自らの経験に裏付けられた専門知識やノウハウ、そして思いを伝える語り部となって、スキルとともに資生堂マインドを兼ね備えたスペシャリストを養成している。

私は、社内研修では、「よき上司であれ」と伝えている。苦しんでいる部下と一緒に考え、自分が納得してOKを出した提案であれば、失敗しても部下のせいにせず自分の責任と考えて取り組む。部下の成長を考え、時には厳しい態度で接する。部下に厳しく接する以上は、自分自身に最も厳しくあるべきで、役職が上に行けば行くほど厳しい会社が当たり前の姿である。リーダーは上から範を垂れることを常に心にとめて行動すべきだ。

揺るぎない信念に基づくビジョンを描く

リーダーの最大の役割はビジョンを描くこと。そして、それをわかりやすい言葉で繰り返し伝えること。ここで大切なのは、リーダーとして揺るぎない信念を持つことだ。考え抜いて正しいと思ったことに対しては、決してぶれない、逃げない、怯まない。私の場合、その信念とは、「すべてはお客様の信頼獲得のために」という価値軸である。

しかし、リーダーシップは所詮持論である。リーダーシップについてたくさんの本を読んで勉強する、優れた先人の事例に学ぶ、会って話を聞く、そして自ら貪欲にリーダーシップとは何かを追求していく。そして最後にはいったんそれらを全部捨てて、自分自身でつくり出すものである。指導者として多くの面で部下より劣っていたとしても、熱意と理想だけは誰にも負けない秀でたものを持たなければならない。それがリーダーたる最低限の資格ではないか。

【経団連事業サービス】

「経団連 Power UP カレッジ」講演録はこちら

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