経団連の観光委員会企画部会(生江隆之部会長)は10月10日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、リクルートのじゃらんリサーチセンター研究員の横山幸代氏から、国内旅行関連市場の動向と今後の展開について説明を聞き、意見交換を行った。同部会が現在取り組んでいる観光関連産業の生産性向上と競争力ある地域づくりに向けた検討の一環。横山氏の説明の概要は次のとおり。
■ 国内旅行市場のキーワードは「人口減少」「IT化」「国際化」
(1)人口減少
わが国は人口減少による国内市場の縮小を交流人口の拡大によって補おうとしている。ただし、定住人口1人分の消費額は現在、外国人旅行客7人分、宿泊を伴う国内旅行者22人分、日帰り国内旅行者77人分に相当する(観光庁試算)。観光で人口減少を補うためには、誘客に加え、観光客により多く消費してもらうための仕組みを構築する必要がある。(2)IT化
旅行検討時のインターネットの利用率は2000年あたりから順調に伸び、現在は60%近くに上る。宿泊だけでなく鉄道や飛行機でもネット予約が拡大しており、これにあわせて個人旅行の比率も伸びている。(3)国際化
増加傾向にある訪日旅行者は、人口減により縮小傾向の国内旅行市場の起爆剤になる可能性は高い。だが、国内旅行市場とは異なり、観光地間の競争は国内だけでなく、海外との競争も意識する必要がある。海外旅行者にとっては日本を足がかりに、アジアを周遊する人も少なくない。広域の移動を苦にしない旅行者に対しては、東京と関西を結ぶゴールデンルートに北海道を組み合わせた観光など、広域の旅を提案することも考えられる。
■ 震災後、旅行実施率は微増、若者の回復が早く、旅先は近場“西高東低”
「じゃらん旅行宿泊調査2012」(2011年4月~12年3月)によれば、東日本大震災後の1年間の国内旅行実施率は57.6%と、調査開始以来過去最低の56.7%だった前年から微増した。
月別旅行件数を見ていくと、20~34歳の若年層が5月には前年の旅行件数を上回り、35~49歳も6月以降には概ね回復した。若い人の方が震災後早く国内旅行の回復があったことがうかがえる。
大人1人1回当たりの消費額は5万円前後だが、リーマンショック以来減少傾向にある。経年で見ていくと交通費の減少幅が大きく、近場で楽しむ旅が増えている傾向がみてとれる。近隣地域からのリピーター誘客に力を入れるとともに、何度でも楽しめる観光地づくりを目指す必要がある。
全国的に延べ宿泊者数が最も伸びたのは九州、次いで東海、関西と「西高東低」の傾向がみられた。九州新幹線全線開通の効果も大きい。
■ 若者旅行の減少、増える一人旅、チェックアウト後の過ごし方
若者やファミリー層向けの旅行情報が目立つが、実際の旅行件数をみると50歳以上のシニアが半数以上を占め、若者旅行は減少傾向にある。
一人旅の比率が年々増加しており、属性別にみると35~49歳男性の一人旅比率が増加している。独身者の増加や結婚しても自分の好みに忠実な層が増えているのではないだろうか。
旅行者が地域で滞在する時間が延びるほど、観光地での消費額も増える。現在、観光地からの退出時間は平均で12時半なので、滞在時間を延ばすためには地域内に魅力的で手軽な体験を提供することが必要となる。例えば、昼食を食べてもらうためのご当地グルメの振興や、観光客が気軽に参加できる短時間の体験プログラム等の設定も効果的だろう。
■ 人口減少の局面で重要な観光地のリピート力
観光地にとっては、初めて来訪した人を再来訪させることも重要だ。
今年実施した「じゃらんリピーター追跡調査」では、再来訪に影響を与える因子を分析している。再来訪には「距離圏」が最も強い影響を与えるため、遠距離圏からの旅行を抽出して分析したところ、「初回訪問年齢18~24歳」の訪問地へのリピート率が高いことがわかった。若い時に訪れた場所には再訪する傾向がみられる。観光地側としては、若者にいかにして来てもらうかを考えることも重要だ。
■ 若者旅行者をリピートさせる取り組み
現在の市場におけるボリュームは小さいものの、今後の旅行市場を担う「若者」にできる限り旅行を体験してもらう必要がある。
じゃらんリサーチセンターでは、観光庁と「旅プロデュース部」という、大学生=消費者に商品開発と販売を行わせる企画を実施した。最近の若者はお金よりも社会に影響を及ぼすことに動機を感じる傾向にある。アルバイト料なしで3カ月がかりの企画だったが、真剣に若者にとっての旅行商品を議論する場となった。活動のなかでは「定員4名の部屋に6人で宿泊できるプラン」といったアイデアも出てきた。2部屋とっても結局1部屋に集まって部屋でお酒を飲むからというのがその理由。今後は商品づくりだけでなくPRや販売自体も消費者に委ねる時代になるのかもしれない。
そのほか、若者のスキーへのハードルを下げるため、19歳は無料でリフト乗り放題とする「雪マジ!19」や、関心を示す若者が増えている農業体験をセットにした宿泊商品を流通チャネルに乗せるといった取り組みも行っている。
今後もさまざまな業種の企業と連携し、新しい観光需要を創出していきたい。
【産業政策本部】