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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年11月15日 No.3109 日本企業の海外生産の実態と日本経済に与える影響聞く -産業問題委員会産業政策部会

経団連は10月30日、東京・大手町の経団連会館で産業問題委員会産業政策部会(伊東千秋部会長)を開催し、東京大学大学院経済学研究科の新宅純二郎教授から、日本企業の海外生産の実態と日本経済に与える影響について説明を受けた。概要は次のとおり。

1.海外生産と輸出の同時拡大

日本企業のグローバル戦略は、これまで「輸出・先進国市場モデル」から「海外生産・先進国市場モデル」へと進化してきたが、現在さらに新しい変化に迫られている。欧米市場が2008年秋の金融危機もあって急激に収縮する一方、中国、インドなど新興国市場は堅調な成長を続けている。こうしたなか、近年の日本企業の動きをみると、これらの市場をねらって「海外生産・新興国市場モデル」へと変貌している様子がうかがえる。

事実、03年以降の景気拡大期は、海外生産が増えたにもかかわらず日本の輸出も同時に急増している。この現象は、海外生産を輸出代替であると考えると十分な説明ができない。むしろ90年代後半に輸出が停滞したことが表すとおり、この間、製造業がもがき苦しんだ結果、新しいモデルを見いだして再成長を遂げたのが2000年代であると解釈できる。

また、日本の輸出先も80年代までとは様変わりしている。総輸出に占める米国の割合は09年には16%にまで激減し、EU向けも13%にまで減少した。一方、中国向けは24%へと急増し、韓国、台湾を合わせると約4割に達する。輸出先の変化は、輸出される財の変化ももたらしている。中国、韓国、台湾等東アジア全体への輸出品をみると、工業用原料や資本財といった産業財が85%程度を占めている。日本の産業財は、日本企業の海外生産(中国生産)を支えるとともに、韓国・台湾企業の成長の基礎となったといえる。

2.海外生産における現地調達の現状と日本の付加価値額

よりミクロ的な視点から、日本企業の海外生産におけるサプライチェーンや調達の状況をみると、例えば、自動車産業が生産拠点を海外に移転してサプライチェーンを構築する場合、1次サプライヤーも同時に進出、場合によっては2次サプライヤーも進出し、足りない部材は輸入か現地サプライヤーを使うこととなる。

一般に現地調達率の算出は、1次レベルの調達で簡易に行われるが、日系の現地サプライヤーも現地ローカルのサプライヤーも、その製造部品には日本から輸入した部材が使用されていることが多いため、現地調達率が過大に評価される。表面上は7割の現地調達が、実質付加価値では3割しか現地調達がないというのが現状であった。

現地生産で実際には大きな日本コストを負っていることとなれば、新興国市場でのコスト劣位の原因になり得る。日本の製造業が海外で売り上げを伸ばすには、実質的な現地化を進めることによって、コストダウンを図っていく必要がある。

こうした取り組みにより、これまで7割(見かけ上3割)の日本コストを3割にしたならば、日本の付加価値率は下がることになる。しかし、日本の付加価値率が下がることでトータルコストが減れば、価格が下がり、ターゲットとなる購買層が拡大し、ボリュームゾーンで売ることができる。その結果として市場が拡大すれば、日本の付加価値率は下がっても生産量は増えるので、トータルでみた日本の付加価値額は変わらない。これこそが海外生産と輸出が同時に増加するという2000年代における日本の製造業で起きた事態であり、今後も新興国市場の開拓に成功すれば同じパターンが見られるだろう。

3.海外生産が国内の製造活動に与える影響

国内で行われていた生産活動が海外に移転すると、その活動は縮小する。ただし、輸出代替ではなく海外新市場開拓に伴う海外移転の初期段階では、部材や製造装置など産業財の輸出を誘発するため、当てはまらない。もちろん、海外生産の長期化やコスト競争圧力などによって、本国から輸出される産業財の比率は徐々に低下する。しかし、新しい市場、新しい産業が開拓されることで同じサイクルが繰り返されるならば、本国の活動は維持・拡大していくであろう。

【産業政策本部】

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