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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年4月4日 No.3126 第5回「経団連 Power Up カレッジ」開催
/東レの日覺社長が講演
-現場主義の経営~素材革命による社会の変革

経団連事業サービス(米倉弘昌会長)は3月15日、東京・大手町の経団連会館で第5回「経団連 Power Up カレッジ」を開催し、東レの日覺昭廣社長から「現場主義の経営」をテーマとする講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

◆ 極限追求が生み出す素材革命

私は素材には社会を変える力があると考えている。1926年に創業した東レの事業拡大の歴史は、新製品開発の歴史と言っても過言ではない。組織は、マトリックス型を基本としており、技術センターを核とした「分断されていない研究・技術開発体制」が東レの強みとなっている。コア技術の極限追求は脈々と受け継がれてきた東レのDNAであり、ナノファイバー、ナノ積層フィルムなどの革新素材を創出してきた。

炭素繊維の場合、40年にわたる強度の極限追求の歴史であり、新型旅客機「ボーイング787」の構造材に全面採用されるという成果を生み、20%の軽量化、燃費節減、快適性の改善などに貢献している。また、海水淡水化や下排水再利用のための逆浸透膜は、造水量とホウ素除去率を同時に向上させることに成功し、世界各地のプラントで造水量換算1日当たり約1億人の生活用水に匹敵する量を生み出している。

さらに、東レは新たな価値を創造する「New Value Creator」への転換を目指しており、その代表例がユニクロとの戦略的提携である。ヒートテックは、四つの性質の異なる繊維を使って肌着の快適性を追求するため、1万回の試作を繰り返した。あわせて、多段階かつ複雑で非効率だった従来の繊維ビジネスの商流を革新した。東レのグローバルな生産拠点を連携させ、原糸・原綿から縫製品までの一貫した開発・供給ビジネスモデルをつくり上げ、市場変化に迅速に対応できる体制を構築している。

◆ 現場主義に基づくグローバル経営を実践

社長就任と同時に、グローバル経営の考え方を整理して明確に位置付けた。国内マザー工場で最先端の研究開発により高付加価値製品を創出し、革新的なプロセス開発で抜本的なコストダウンを図る。一方、コモディティー化した製品は、需要、コスト競争力などの観点から検討し、最適な海外拠点で生産し、さらなる事業拡大を図る。そして、グローバルな事業拡大で得た利益を、次なる先端材料、高付加価値製品の研究・開発・生産に再投資するというサイクルを回すことで、国内と海外でのモノづくりの両立を図り、持続的な成長を実現している。また、社長就任後1年半でほぼすべての海外拠点を回るとともに、2年9カ月で現場との懇談会を41回開催し延べ750名と率直な意見交換を行った。現場で社員が指示待ちになるか、一人ひとりが自発的に動くかで業績は大きく変わってくる。世界中の社員のやる気を向上させ、ベクトルあわせを行うことはグローバル経営に欠かせない。

◆ 経営改革のための意識改革

常に社員に語りかけているのは、「基本に忠実に、あるべき姿を目指し、やるべきことをやる」ということである。東レでは、あるべき姿として10年先を踏まえた長期経営ビジョンを策定し、3~5年で解決すべき中期経営課題を定めている。そのうえで、現実の課題解決を具体的なプロジェクトとして実践している。

リーマンショックに端を発した世界的な不況では営業利益が急落、早期回復は見込めない状況と判断して2009年4月から「聖域なき改革」を中期経営課題として、「トータルコスト競争力強化」「事業体制革新」「成長戦略推進」の三つのテーマで全社プロジェクトを推進した結果、11年3月期には営業利益が回復し、再度成長軌道に復帰するための基盤を築くことができた。

11年2月に策定した長期経営ビジョンでは、今後10年を見据えてグループのあるべき姿を見つめ直し、事業区分を再構築した。これに沿った「改革と攻めの経営」を目指す中期経営課題では、成長著しい分野、地域で事業を拡大させていくことと、コスト削減などを通じて事業基盤を一層強化することを基本とし、大きな効果が期待できる「グリーン・イノベーション事業拡大」「アジア・新興国事業拡大」「トータルコスト競争力強化」について全社プロジェクトを推進している。

◆ 現場主義と For The Company

改革を真に魂の入った活動にするには意識改革と人材育成が必須である。生産現場では常に、現場・現物・現実に立ち返り、基本に忠実に、ものごとの本質を追究して生産技術力革新と現場力強化に取り組むことを、生産現場の最前線に立つ一人ひとりにまで徹底することが重要である。

私の考える「現場主義」とは現状把握と現状分析の徹底であり、問題発生時には、事実を時系列に整理して「なぜなぜ」を繰り返し、本質原因を追究すれば「やるべき」ことが明確になる。また、相手の立場に立てば善悪は別にして必ず理由があるため、取り巻く環境を理解すると「やるべきこと」が明確になる。そのためには、現場に入り込んで獲得する生きた情報が不可欠である。

私の考える「基本に忠実」とは、コア技術の有無、市場の将来性、競合状況等を勘案して事業領域を設定し、できることではなく勝つ目標を決め、やるべきことをスピードアップして実行することである。さらに、「For The Company」という考え方を持ち、全責任を持ったオーナーだったらどう判断するのかを考える。組織の壁やメンツなどの本質原因は「個人の保身」でしかない。ミドルマネージャーの皆さんには、1回の人生、反省はあっても後悔はしないように思ったとおりにやりたいことをやってほしい。しかし、やりたいことをやるには、人の何倍もの努力が必要であることを忘れないでほしい。

【経団連事業サービス】

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