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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年9月5日 No.3144 「アベノミクスの評価と課題~今後の経済情勢とリスク要因を探る」 -昼食講演会シリーズ<第20回>/大和総研チーフエコノミスト・熊谷亮丸氏

経団連事業サービス(米倉弘昌会長)は7月19日、東京・大手町の経団連会館で第20回昼食講演会を開催し、大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏から「アベノミクスの評価と課題」をテーマとする講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ アベノミクスが抱える三つの課題

アベノミクスは、(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策(3)民間投資を喚起する成長戦略――で構成される。民主党政権は、子ども手当に代表されるディマンドサイド・内需に着目した分配政策中心でバランスを欠いていたが、プロビジネス志向へと転換した安倍政権の経済政策の方向性は正しいと考える。今後は、(1)財政規律の維持(2)中長期的な経済体質の改善・構造改革(3)雇用者所得の増加――が課題となる。

大胆な金融政策により、円安・株高・物価上昇が進み、景気回復への期待から個人消費が伸びるなど、その効果は着実に浸透している。物価上昇率2%の達成についても困難ではあるものの、期待インフレ率プラス4.2%、GDPギャップ0%となれば不可能とはいえない。これまで競争相手である韓国がウォン安を背景に躍進する一方、円高が日本企業の輸出収益力・シェアを悪化させてきたが、この是正が期待される。円安・株高によるGDPの押し上げ効果は、2014年第1四半期の時点でプラス6.2兆円(12年第4四半期比)と予測され、長期金利が4%以下であれば、当面はプラス効果が続くと試算される。ただし、中長期的にみれば長期金利は2~4%超と大きく上昇する可能性があり、財政再建になるべく早期に着手する必要がある。

財政政策をみると、現時点では国土強靭化の名目で公共投資が肥大化しつつあり、財政赤字の拡大から国債暴落・円安・株安のトリプル安が起こるというリスクが懸念されるため、今後は財政規律の維持が重要課題となる。公共投資による景気刺激は当面は仕方がないが、早急に財政収支悪化の主因である社会保障費に大胆に切り込まなければ、財政の持続可能性は維持できない。さらに成長戦略によって、中長期的な経済体質の改善や構造改革をいかに進めるかが課題であり、具体的にはTPPへの参加、規制緩和(労働市場の柔軟化、農業や医療・福祉分野の構造改革)、法人税の実効税率の引き下げ等の具体策の実行がカギとなる。特に環境関連、医療・介護等のサービス業、農業等の重点分野の改革を進め、ICTを活用し非製造業の労働生産性を高めると同時に、円安をばねに輸出関連企業の収益が改善すれば、安定的に賃金は増加していくと期待される。

■ 日本経済のメインシナリオとリスク要因

日本経済は、(1)米国などの海外経済の持ち直し(2)復興需要と大型補正予算による影響(3)日銀の「異次元の金融緩和」による円安・株高の進行――を好材料に、12年11月に景気は底入れしている。

今後のリスク要因としては、(1)欧州ソブリン危機の深刻化(2)日中関係の悪化(3)米国の財政赤字問題(4)原油価格の高騰(5)米国の出口戦略に伴う新興国の動揺――の五つである。なお中国は、「一人っ子政策」による少子高齢化、不動産バブル、設備の過剰、賃金インフレなど、さまざまなリスクを抱えている。リーマンショック後の政府による大規模な景気刺激策に対する調整圧力やシャドーバンキングに起因する問題など、動向を注視していく必要がある。

【経団連事業サービス】

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