1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2014年1月1日 No.3160
  5. 「アメリカの新中東政策―同盟関係の試練」/オバマ政権の中東政策転換からみた日米同盟への示唆

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年1月1日 No.3160 「アメリカの新中東政策―同盟関係の試練」/オバマ政権の中東政策転換からみた日米同盟への示唆 -昼食講演会シリーズ<第22回>/東京大学名誉教授 山内昌之氏

講演する山内名誉教授

経団連事業サービス(米倉弘昌会長)は11月29日、東京・大手町の経団連会館で第22回昼食講演会を開催し、東京大学の山内昌之名誉教授から「アメリカの新中東政策」をテーマとする講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 米国の戦略的利益と同盟国への厳しい対応

米国政府は、今般のシリア問題におけるロシアとの妥協、イランのウラン濃縮の事実上の承認と経済制裁の一部解除の合意などの動きについて、歴史的合意と自ら評価している。しかし、エジプトへの軍事援助の一部凍結をはじめ、シリアとイランへの一連の対応は、中東内部からは「同盟国の裏切り」とネガティブにとらえられ、オバマ大統領への不信という点で、イスラエル、エジプト、サウジアラビアが共通項を持つという、新たな戦略的状況が生まれた。

今年7月のエジプトの事実上のクーデターを契機に、米国は年間約13億ドルのエジプトへの軍事援助を一部凍結した。また、「市民の大量虐殺や化学兵器の使用があればシリアに軍事介入する」とのオバマ大統領の国際公約を前提に、サウジアラビアはシリアの反政府勢力を支援し、アサド政権の放逐を主要目標に掲げていたが、実際は、化学兵器の廃棄と搬出問題に論点がすり替わり、苛烈な内戦と人権弾圧が続いている。

ここに、米国の明確な中東政策の変更、すなわち同盟国の期待に背を向け、現実的な政策(レアルポリティーク)というよりも短期的利益を目当てに政策を実行する方向性が顕著になったことがみえる。

中国の海洋膨張戦略を受け、オバマ大統領は第1次政権末期に国防戦略の重点を中東からアジアへ移すと表明した。同時に中東政策の優先順位を(1)イスラエルの安全保障(2)イランの核開発阻止(3)石油天然ガスの流通保全――とし、これ以外は死活にかかわる問題ではないと言明している。この方針がシリア問題で最終的に示した不干渉政策やイランの制裁の一部解除で例証されたのである。

■ 同盟国のオバマ不信とロシア・イランの動き

政策変更の受益者は、イラン、シリア(アサド政権)、南レバノンである。被害者はサウジアラビアとエジプトであり、両国が中東地域秩序の安定と勢力均衡に果たしてきた役割をオバマ政権が無視し、イラン、トルコ、イスラエルといった非アラブ世界を重視する姿勢に怒りと不信感を持つに至っている。米国への信頼度の判断基準は、(1)サウジアラビアはシリアとイランへの対応(2)エジプトはムスリム同胞団や選挙結果への米国のこだわりの程度(3)イスラエルはイラン融和政策のあり方――であるが、いずれもオバマ政権に対する不信は大きい。ただし米国議会とイスラエルが、オバマ大統領のイラン政策の転換を阻害する可能性があり、今後の焦点は、米国が中東政治に対する歴史的な責任と影響力を維持するのか否か、同盟国への義務を果たすのかどうかに移るだろう。

一方ロシアは、シリア内戦やイランとの交渉妥結を梃子に、中東で失った影響力を着実に回復している。エジプト・ロシア間の2プラス2の閣僚会合など、エジプトが米国との同盟協力関係から戦略的転換を図る兆しもみられる。ただし、シリア問題に関するロシアとサウジアラビア、エジプトの姿勢は異なり、安全保障面での3国の連携はできない。中東情勢へのロシアの再参入と米国の消極姿勢に対して、エジプトとサウジアラビアは市民の反応を考慮に入れながら、短期的な対応策でなく、長期的な戦略的ビジョンを確立していく必要がある。

イランは、武力衝突を回避したい米英独の対応を見切っており、ロシア・中国を味方として、注意深い戦略的思考を進めながら忍耐強く対応している。今後、イランは、IAEA(国際原子力機関)による全面査察への同意などの重大な見返りを与えずに、ウランの20%濃縮化の推進を既成事実化するとみられる。この先にあるのは核武装の推進であろう。そうなると、サウジアラビア、エジプト、トルコが順次核武装していくというかたちで、中東における「核ドミノ現象」が引き起こされるおそれがある。

■ 日米同盟への教訓

オバマ大統領の中東政策の本質は、長期的戦略に基づく現実政治ではなく、米国の短期的利益を優先するプラグマティズムにあり、これが結果としてイランの核開発を認知しかねないような合意につながった。この対応から、エジプト、サウジアラビア、イスラエルは、三者三様にフレネミー(フレンドとエナミーの造語)という言葉を思い浮かべたのではないか。国際政治における国家間の関係性は、善悪で割りきれない。短期的にみれば、時に「悪人」めいた振る舞いにみえる同盟国が、長期的には「善人」を装う敵に勝るというのが同盟関係である。中東でも東アジアでも同盟関係の試練がしばらく続く。

【経団連事業サービス】

昼食講演会 講演録はこちら

「2014年1月1日 No.3160」一覧はこちら