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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年5月15日 No.3176 流通・取引慣行ガイドラインの問題点を聞く -越知・明治大学法科大学院教授から/経済法規委員会競争法部会

経団連は4月22日、東京・大手町の経団連会館で経済法規委員会競争法部会(川田順一部会長)を開催し、越知保見・明治大学法科大学院教授から流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(以下、ガイドライン)の問題点等について説明を受けるとともに、意見交換を行った。
説明の概要は次のとおり。

◇◇◇

現行ガイドラインは制定以来20年以上経過しており、この間に、流通構造は大きく変化している。このため現行ガイドラインは考え方の古さが際立っており、改訂されるべき時期に来ている。

1999年にEUが垂直的ガイドラインを発表しているが、EUのガイドラインと比べても、古色蒼然としており不明確で、規制範囲が前広に取られ過ぎているという問題が際立っている状況にあるといわざるを得ない。

垂直的制限についてはEUのように、総論部で競争促進効果と競争阻害効果の両方について説明したうえで、その考え方に従って各論を記述するというスタイルでなければならないが、わが国のガイドラインは総論部のポリシーが明確に書かれていないため、違法となる範囲がわかりづらく、企業行動に対する予測可能性の確保というガイドラインの本来の目的が達成されていない。

非価格制限に関しては、合理の原則(競争促進効果と競争阻害効果を比較考量し、マイナスの効果が上回る場合のみを違法とする考え方)が取られることが、資生堂事件最高裁判例によって示されているにもかかわらず、この点がガイドラインには反映されていない。同事件の「それなりの合理性」が、経営上の合理性、一応説明がつけばよいというようにも誤解されかねないので、最高裁判決を合理の原則として理解し、ガイドラインに組み込むべきである。

「価格維持のおそれ」はブランド間競争で考え、ブランド間競争が活発に機能している限り、ブランド内での価格維持の効果は問題ないと考えるべきである。しかしガイドラインでは、ブランド間もブランド内も考えるとされており、どちらで考えるか明らかにされていない。

ガイドラインでは、市場シェア10%以上が有力な事業者の基準とされている。これはEUの同種のガイドラインの30%基準と比べて著しく厳格であり、10%で市場に悪影響が出る場合はほとんど考えられない。事業者が並行して垂直的制限を実施し、その累積効果が生じる場合を懸念しているのであれば、原則は30~40%だが、累積効果が生じる場合には累積された市場シェアで考え、その場合には30%以下でも有力な事業者であると考えるという書き方がされるべきである。10%という閾値はむしろ、原則として競争への悪影響が生じないセーフハーバー的なものとして位置づけるべきである。

地域制限の規制は厳格過ぎる。地域外に販促活動をして顧客を引き込む能動的販売については、フリーライドの禁止という競争促進効果に鑑みれば、市場支配力がある事業者が実施する場合のみ違法とされるべきである。

転売禁止については、商品の特性から選別的流通が認められるか否かによって違法とされるべき範囲が異なる。選択的流通が認められる範囲をガイドラインにおいて明確化すべきである。

再販売価格維持についてはいろいろな意見があり、この点がガイドラインの改訂を難しくしていると思われる。当面は競争制限効果が生じない、あるいは競争促進的であることの反証が事業者よりなされれば違法とならないことをガイドラインに明記し(「正当な理由なく」はそのように解釈されている)、それに基づく実務の運用を見守るべきである。

なお、現行ガイドラインにおいて、実際の執行が過剰になっているわけではなく、むしろ過少であるとさえいえる。現行のガイドラインを、EUのスタンダードで考え、それと合致するように不明確なガイドラインをEUのスタンダードで解釈して、それを公正取引委員会(公取委)に確かめるというスタイルで助言する限り、公取委はそのような解釈を問題にすることはないといってよい。少なくとも、当職が実務上、競争促進効果がある行為を違法の疑いがあるといわれたことはない。

したがって、実務上は支障がないのだから、改訂する必要もないという意見も出てくる余地がある。しかし、実務上、問題がないとしても、それはガイドラインと実務が遊離しているからであって、決して好ましい姿ではない。そもそも、20年前の基準で実務が運用されるはずがないのだから、施行後、10~15年で改訂されるべきである。ガイドラインの英訳に従って外国人実務家が助言した場合、外国人事業者は日本の垂直的ガイドラインの規制範囲の広さに驚くことになる。これは公取委の国際的信用にも悪影響を及ぼしかねず、その観点からも改訂の時期にあると思われる。

【経済基盤本部】

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