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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年7月24日 No.3186 第110回経団連労働法フォーラム

経団連・経団連事業サービス主催、経営法曹会議協賛による「第110回経団連労働法フォーラム」が10、11の両日、都内で開催され(前号既報)、(1)メンタルヘルス不調者をめぐる法的留意点(2)多様な従業員をめぐる法的留意点――について報告・検討が行われた。弁護士報告の概要は次のとおり。

報告 I 「メンタルヘルス不調者をめぐる法的留意点」―弁護士・増田陳彦氏

■ 問題発生時の対応

最近の判例では、精神的な不調のために欠勤を続けている労働者に対する無断欠勤を理由とする諭旨退職処分は無効とした例がある。精神疾患が強く疑われ、病識のない労働者に対しては、精神科医による健康診断を実施し、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めたうえで休職等を検討し、その後の経過をみるなどの対応を採るべきである。

また労働者が受診勧告に応じない場合、会社指定医への受診命令は、就業規則に規定がないとしても合理的かつ相当な理由がある場合、可能となる。

■ 休職期間中の留意点

使用者は、休職中の労働者から診断書を受け取るだけでは休職期間中の病状経過がわからず、復職判断時点で対応に困る。裁判所の事実認定では産業医等の記録が重視されていることから、人事担当者または産業医による定期的な面談と記録等による適切な状況把握は非常に有意義である。

■ 復職場面における対応

復職にあたって、職務特定がない労働者は従前業務へ復帰させることが原則であるが、判例に照らすと、従前業務でなくとも配置できる現実的可能性のある他の業務があると使用者が判断し、かつ本人が就労意思を示している場合は、復職を認めざるを得ない。ただし、新たな業務を創設する必要はない。

業務特定がある場合は、当該業務に復職できなければ、休職期間満了による自動退職ないし解雇は有効とされる。ただし、比較的短期間で当該業務に復帰が可能であれば、信義則上、職場への復帰準備期間を提供せずに解雇はできないとする裁判例もある。

■ 復職後の対応

原職復帰の場合の賃金は休職前の水準が維持されるが、勤務評価における配慮は必要なく、ルールに従って相応の評価を行えばよい。

<質疑応答>

参加者からの質問に対する弁護士の回答・討論では、休職期間中の試し出社について「指揮命令下におかなければ労働時間にはあたらない」「危険を回避するための指示は、試し出社に必要な適切な指示であり、指揮命令にはあたらない」として、賃金を支払わないかたちでの対応を推奨する意見があった一方で、「実際の仕事をさせないで復職させても、現実の仕事と負荷の程度が違うので、休職と復職をくり返す。賃金を支払ったうえで実際の仕事をさせるという選択肢もある」等、多様な対応策が示された。

報告 II 「多様な従業員をめぐる法的留意点」―弁護士・伊藤隆史氏

■ 合理的期待が生じた後の雇止め

原則として有期契約は雇用期間満了により契約が終了するが、解雇権濫用法理が類推適用される場合がある。それは、反復更新してきた契約を更新しないことが無期契約労働者の解雇と社会通念上同視できるケース(実質無期型)と、反復更新や使用者の言動等により契約期間満了時に更新の合理的期待があるケース(期待保護型)である。このうち期待保護型については、更新への合理的期待の程度が高くなるほど、雇止めに必要な合理性(経済情勢の変化等)の程度も高くなる。

■ 不更新条項の追加と雇止め

有期労働者に契約更新への合理的期待が生じた後で契約書に不更新条項を追加することがある。労働者が合意すれば雇止めは有効であるが、外形上の合意では雇止めを認めない裁判例もある。そこで(1)例外の者をつくらず厳格に運用する(2)合意は書面で行う(3)不更新条項を追加した契約書を渡すだけでなく、当該内容を労働者が理解できるように説明する――等の点に留意する必要がある。

合意しない労働者に対しては、雇止めする選択肢もあるが、即時雇止めは権利濫用で無効とされる可能性がある。そこで労働者が異議を留めた状態で契約を更新し、毎年不更新条項を提案し、残りの更新回数を予告しながら徐々に更新への合理的期待を失わせるという対応が考えられる。

■ 派遣先都合の中途解約

派遣先が自らの都合で派遣契約を中途解約した場合、派遣元との間で締結されていた雇用契約が終了となり、派遣労働者から損害賠償を求められることがある。派遣契約を締結してすぐに中途解約した事案では、悪質性が高いと評価され損害賠償を認められた裁判例がある。逆にいえば、中途解約があっただけで派遣先に損害賠償請求が認められるわけではない。

<質疑応答>

弁護士による質問への回答・討論では、「有期契約から無期契約へ転換する際、有期契約の時と異なる労働条件を提示することは不合理でなければ問題ない。例えば所定労働時間を延長することや勤務地限定を無限定にすることも可能である」「能力不足を理由に雇止めを裁判所に認めてもらうことは難しく、立証するためには準備が必要である。具体的には、ミスをするたびに指導をくり返し、必要に応じて書面注意を行ったり、大きなミスに対し懲戒処分を行ったりすることが考えられる」等、実務的な対応策が議論された。

【労働法制本部】

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