1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2016年2月4日 No.3256
  5. 日韓産業協力の将来に関する論点《上》

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年2月4日 No.3256 日韓産業協力の将来に関する論点《上》 -閉塞感強まる韓国/新「胡桃割り論」にどう付き合うか/21世紀政策研究所研究主幹・深川由起子

日韓国交正常化50周年を記念する1年が終わり、新たな50年の最初の年を迎えた。そこで21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)「日韓関係に関する研究」の深川由起子研究主幹(早稲田大学教授)に、日韓産業協力の将来に関する論点をテーマに寄稿いただいた。

深川研究主幹

対外依存度の大きな韓国経済にとって、世界景気の長期低迷は痛い。輸出が0.4%の伸びに終わり、2015年の実質GDP成長率は2.6%(韓国銀行速報値)にとどまった。12年以降、成長率がわずかながら潜在成長率の3%を超えたのは14年だけで、16年の予想も民間経済研究所ではいずれも2%台だ。

家計のみならず、民間企業も含めた債務膨張や公企業の赤字、日米を上回る正規職の賃金水準、高い青年失業率等、構造改革の必要性は誰もが認めるところだ。しかし、より心理的な閉塞要因は日中との関係変化だ。昨年末の従軍慰安婦の政治合意履行さえ不安定だが、経済面では日本との協力を持ち出す気運がある。

かつて韓国には「技術力の日本と、価格競争力の中国に挟まれた韓国経済は胡桃のように脆い」という「胡桃割り論」があった。知日派のサムスングループ・李健煕会長が自国の思い上がりをいさめた言葉で、その後、当のサムスンなどの躍進で韓国ではすっかり忘れられていた。

しかし、12年以降、気がつけば足元ではアベノミクス以来の円安で日本の大企業は最高益更新を続け、モノのインターネット(IoT)など、新たな動きをみせる。他方、家電、携帯電話、造船などハードの製造業ではほぼ全分野で中国が台頭。今度は競争力を回復した日本と、技術力をつけた中国に韓国が挟撃される、というのが新「胡桃割り論」で、日本企業の事業転換を「ベンチマーク」する、という発想復活の背景となっている。

ただ日韓の産業構造はともにオープンなイノベーションを必要とする知識基盤型を志向しており、ハードの競争時代の日韓関係とはまったく違った発想が必要だ。

日本には、韓国との差別化戦略が必要である。韓国の大企業の関心は集中投資による優位確保が相変わらずで、当面の標的は炭素繊維などの新素材や、バイオシミラー(バイオ後続品)、水素自動車などである。日本は、構造改革の遅れで人の流出が技術流出を招き、集中的で速度のある設備投資を断行した韓国に追いつかれた失敗は繰り返せない。

ただ韓国の泣きどころは生産=輸出の体験しかなく、排他的垂直統合の歴史で自国のグループ外企業と事業協調が難しい点だ。日本は競合可能性のある分野では知財保護もさることながら、メーカーと関連顧客企業との協調や規制改革でビジネスモデルでの差別化を維持・拡大することが不可欠だ。

反面、戦略的協調を捨てるべきではあるまい。IoTやこれに連なる人工知能(AI)、ロボットなどでは韓国の基礎技術は日米に劣後するようだ。前述の排他性により、サムスンのIoTプラットフォームに現代やLGなどが参加するのも想像しにくい。だが、世界災害ロボット大会で優勝するなど製造力はあり、日常生活から企業の間接部門までIT化では日本の先を行く。応用潜在力は高い。

オープン・イノベーションに必要なコア・非コア領域の切り分けや、標準化協調、プラットフォーム共有が不得意なのは日本も同様だが、日本は日本機械学会を中心としたIoTプラットフォーム結成など危機意識は出てきた。先行のドイツはすでに中国と関係構築に踏み込む。日本国内の体制整備加速とともに、韓国とは明確な戦略を持って付き合うことが必要であろう。

【21世紀政策研究所】

「日韓産業協力の将来に関する論点《下》」はこちら

「2016年2月4日 No.3256」一覧はこちら