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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年4月7日 No.3265 第17回「経団連 Power UP カレッジ」 -「つなぐ経営」/帝人の大八木会長が講演

経団連事業サービス(榊原定征会長)は3月10日、東京・大手町の経団連会館で第17回「経団連 Power UP カレッジ」を開催し、帝人の大八木成男会長から講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 危機は事業構造を改革する機会

当社は、繊維から樹脂・フィルム・IT・ヘルスケアへ、次々に業態を変革し続けてきた。日本企業はアジア諸国に技術的に追随され市場を失うという厳しい構図もあり、創造と破壊を繰り返しながら、成長を目指さねばならない。

リーマンショックの際、当社は連続して大きな赤字を出し、私は社長として会社存続の意義と生き残りの方策を考え続けた。企業の目的は企業理念の実現にあり、生き残るには利益がいる。特に緊急対応ではキャッシュが必要であり、流動資産はすべて金に換えてでも凌ぐ必要がある。一方、危機に際すると不採算事業を整理することができる。「蛻変(ぜいへん)」、すなわち、幼虫から成虫になる時に苦痛を味わいながら、その古い皮を脱ぐことをいうが、危機は「蛻変」し、事業構造を改革する機会となる。

構造改革にあたっては、事業の廃止や売却、海外移転など、すべての手法を駆使して固定費の徹底削減を図り、大型の設備投資を凍結した。ただし、生産拠点の移転にはカスタマーへの対応を含め慎重かつ長期の視点が必要であるし、新たな成長戦略を描いても顧客や社員と共有できなければ人心は離れ、組織は活性化しない。そこで同時並行して30年後の顧客がどこで何を求めるか、人口動態や資源動向等のマクロトレンドをベースにニーズを抽出し、保有する基盤技術とマッチングさせて新たな事業分野を考えていった。

成長のフレームとして、(1)事業(戦略的重点事業、安定収益事業、整理対象事業に分類)(2)地域(先進国・新興国など対象の特性・ニーズに応じた事業戦略)(3)技術(例えば素材から裾野の加工品生産への技術転換)――の観点でポートフォリオを変革し、これに応じてグローバル人財の採用や育成、海外拠点の多極化、分社組織の再統合などの基盤改革を行った。これらは危機だからこそできた意思決定であったといえる。

■ リーダーシップ、企業のあり方とは

リーダーシップとは、組織の使命を考え、集団にビジョンを示して責任を持って推進するものである。また、「見えないものを見る旅」とも例えられ、明確なビジョンを示し、共感を得て、自分の夢とみんなの夢をシンクロさせていく。フォロワーの役割はリーダーに複数の選択肢を示して決心を準備させることであり、そのような熱意のある部下を育てなければならない。リーダーはビジョンを描き、それを説明する責任、未来を創造する責任、次代のリーダーを育成する責任を持つのである。経営陣は人財を育成し、公平かつ透明性をもって多角的視野で人選していくことが求められる。

当社ではグローバルで人財の発掘・選抜・育成を行い、アドバイザリーボードでCEO候補を数年にわたり多面的にレビューし、グローバルな評価視点で選出していく。トップにとって、次のCEOを育成し選択することが最も重要な仕事なのである。松下幸之助の言葉を引用すると、リーダーには、熱意、責任を取る覚悟、信念、素直な心、社員・顧客からの信頼などが求められ、白紙に価値を創造する仕事をつくっていかねばならない。

また、企業を単なる収益を生み出す装置として認識するか、社会の公器として認識するか、よく考えてほしい。企業は社会の持続的な成長を生み出す原動力であり、短期のROEに着目するだけでなく、ビジョンを持って経営にあたるべきである。企業は魚と同じで頭(トップ)から腐るといわれている。したがって外部からの助言・刺激・批判を受けることが重要である。またガバナンスの形式的な優劣論議より、公正・透明性・説明責任等を枠組みのなかで保証し、生きたものとすることが必要である。

■ バトンをつなぐ

企業組織で仕事をするということは、次代に経営のバトンをきちんとつなぐことである。リーダーとは時代をつなぐためのバトン走者であり、走るべき距離を自ら決めて、次の走者につないでいく。バトンの中身は、(1)企業理念とこれに基づく行動原則(2)人財を育成し財産とすること(3)基盤となる技術力(4)コーポレート・ガバナンス(5)CSR、企業ブランドの保持――といったことである。

バトンを持つためには、公平・公正に対処する素養を持ち、予測不能な未知の場所で自らを鍛え、挑戦し続けることが重要である。そして変化をマネージできるよう、自ら変化をつくりだすこと、楽観的であること、自らを律し、誰に対しても恥じることのない生き方を心がけてほしい。

【経団連事業サービス】

「経団連 Power UP カレッジ」講演録はこちら

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