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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年5月26日 No.3271 電気コスト・温暖化への対処・原子力に対する世論が課題 -日韓のエネルギー政策<上>/21世紀政策研究所研究副主幹 竹内純子

21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)では、日韓両国が抱える政策課題をめぐって、さまざまな分野の研究主幹と韓国の政府、産業界、研究者等との間で政策対話を行っている。

今年4月末、その第8回対話で韓国を訪問し、韓国全国経済人連合会(全経連)、産業通商資源部、国立外交院等とエネルギー環境問題について意見交換をした竹内純子研究副主幹(筑波大学客員教授)から、日本と韓国のエネルギー政策をテーマに寄稿いただいた。

◇◇◇

わが国と韓国はともに化石燃料資源に乏しい。日本は島国、韓国も陸続きは北朝鮮のみで他国との連携が難しい。エネルギー自給率向上には原子力発電と再生可能エネルギーの比率向上が必要であるが、広くない国土でエネルギー密度の低い太陽光や風力の拡大には限度がある。ともに製造業が国を支える構造でありながら、エネルギー政策の選択肢が非常に限られている。

その韓国のエネルギー政策が今直面する課題として、同国の産業通商資源部(わが国の経済産業省に相当)の担当者により指摘された3点を紹介したい。第1の課題は電気料金が安価に抑制されてきたことによる弊害、第2の課題は温暖化への対処、第3の課題は原子力発電に対する世論である。

韓国の送配電および小売り事業は国営企業である韓国電力公社が独占しており、電気料金の値上げは政府の了解を得なければならない。電気料金上昇は政権批判の火種となりやすいこと、また輸出産業支援策の観点から特に産業用の値上げを厳しく制限したこと、燃料費の上昇を電気料金に反映させる仕組みが十分でなかったことから、韓国電力公社は長く赤字の状態が続いた。

電気料金が低廉に抑制されてきたことで、国民の意識としても産業構造としても省エネ化が進んでいない。夏に冷房を強くかけながらドアを開け放し「冷気で客を誘う」韓国特有の商法は、電気料金を過度に抑制してきたことの弊害を表す逸話としてよく語られる。

政府は長期的目標として、エネルギー多消費構造の改善を掲げているが、今年4月に行われた総選挙で与党が大敗し、難しい国会運営を迫られるなかで効果的な手を繰り出すことは難しいだろうとのコメントとともに、日本の技術や産業界との連携に対する期待が聞かれた。

第2の課題は温暖化への対処である。韓国は2030年における温室効果ガスの排出量を現在のBAU(Business As Usual)比37%削減する目標を掲げており、今年4月22日のパリ協定署名式にも出席している。しかしその目標設定について、産業界とのコンサルテーションはまったく行われていないとのことであり、韓国産業界が強い懸念を示していることは、3月24日付本紙において、有馬純21世紀政策研究所研究主幹が紹介されたとおりである。

わが国の2030年目標は、各業界の生産量見通しや削減努力などを積み上げて算出されたが、前提となったエネルギーミックス達成にはさまざまな課題が指摘されている。

そして最後の課題が原子力に対する世論である。ある意識調査によれば、韓国国民の85.1%が原子力の必要性は認識しているものの、安全性については52%が否定的であるという。福島第1原子力発電所事故を経験したわが国の2030年のエネルギーミックスにおいて原子力発電の比率22―20%を達成するための国民理解活動について高い関心が示されたが、わが国も暗中模索の状態である。

共通する課題に悩む両国が、例えばLNG調達交渉力の向上、省エネや再エネ技術の普及拡大など、さまざまな局面で連携していくことへの期待も示された。エネルギー問題を地域的に解決するという視点が今後より重要になるだろう。

【21世紀政策研究所】


日韓のエネルギー政策

  1. 電気コスト・温暖化への対処・原子力に対する世論が課題
  2. 韓国における国際競争力維持に対する危機感

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