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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年7月27日 No.3325 第115回経団連労働法フォーラム -【報告Ⅰ】「多様な雇用形態の処遇改善のための法的実務対応」
/弁護士 高仲幸雄氏(中山・男澤法律事務所)

経団連および経団連事業サービスは7月13、14の両日、経営法曹会議の協賛により「第115回経団連労働法フォーラム」を東京・大手町の経団連会館で開催した。(7月20日号既報)13日に行われた弁護士報告Ⅰおよび質疑応答・討論の模様は次のとおり。
(14日の弁護士報告Ⅱの模様は次号掲載

■ 現状の法規制と予想される法改正の概要、今後の実務対応の全体像

近年、非正規社員が増加傾向にある。学生・主婦パートのような家計補助の役割だけでなく、単身・世帯主といった家計そのものを維持する層も増加しており、正社員との格差拡大が懸念される。また、企業においては人手不足が深刻化しており、労働力を確保するために非正規社員の処遇改善を行っていくことが求められる。

非正規社員の処遇を改善するために、2016年12月に同一労働同一賃金ガイドライン案が政府から公表された。企業としては今後の法改正を見据え、非正規社員の処遇改善に向けた取り組みを検討する必要がある。

■ 現状確認

企業が非正規社員の待遇を見直すにあたり、まず行うべきことは現状確認である。具体的には、(1)社内におけるさまざまな雇用形態の分類(2)雇用形態ごとの待遇差(3)雇用形態ごとの職務内容・人材活用の仕組みの相違――の3点について整理していくことが望ましい。

また、正社員と非正規社員に分類しての単純比較では不十分であり、社内の多様な雇用形態ごとに、労働条件、待遇差を洗い出し、根拠規定や適用範囲、関連規定に至るまで整理していくことが重要である。

■ 労働条件・待遇差の理由整理

次に、待遇差を設定している理由について整理することで、問題点の洗い出しを行う。

企業としては、基本給や各種手当等の趣旨(理由)を確認し、法定基準・ルールと照らし合わせたうえで、待遇差の理由について不合理性がないかを検討していく作業となる。

特に、各種手当のなかで趣旨・目的が不明確な制度や、職務に直接関係しない手当については、優先的に見直しを検討していくことが待遇改善において有効である。

■ 職務内容や人材活用の仕組みの見直し

問題点の洗い出し後は、企業の職務内容や人材活用の仕組みの見直しを進める。長澤運輸事件等の労働条件・待遇差が問題となった判例や、法改正内容を踏まえて検討を行う。

ポイントとしては、非正規社員の職務内容について担当する業務だけでなく担当しない業務についても明確化すること、人材活用の仕組みでは、職務・地域等の範囲を限定したうえで限定範囲を超えた業務命令は禁止すること等が重要である。また、就業規則等の書面により規則を明確化するだけでなく、運用実態についても十分検討し、必要に応じて見直しを行うべきである。

■ 労働条件・処遇の見直し

職務内容や人材活用の見直しが完了したら、最終的な企業側の対応として、就業規則等を改正して労働条件・処遇に関する見直しを行う。

賃金・各種手当については趣旨・支給要件・適用範囲等を明確化すること、正社員用の就業規則について支給要件を見直す場合は不利益変更に該当しないかを確認すること、変更時期については契約更新時期の違いによって非正規社員間での差異が発生しないように対応していくことが重要である。

■ 定年後再雇用・労働者派遣法

高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえ、非正規社員の定年退職規定や定年後再雇用時の労働条件についても、今後見直し・検討が必要である。

派遣労働者については、法改正の動向を注視するとともに、派遣元・派遣先それぞれの立場での実務対応が必要である。派遣先には、派遣先労働者の賃金待遇等の情報提供を行うことが求められる。一方、派遣元企業は、派遣先に対して均等・均衡待遇を行うことの意向確認、労使協定等待遇決定方法の選択、労働者派遣契約の見直し等への実務対応が求められる。

<質疑応答・討論>

午後の質疑応答・討論では、ガイドライン案を受けての就業規則変更の必要性や、労働条件・待遇の変更を行うにあたっての適用範囲など、企業実務上の質問が多数あった。

年次有給休暇・休職等の待遇差に関する質問に対して、ガイドライン案にのっとり同一条件とすることが原則であるとしたものの、病気休暇については、長期雇用を前提とした解雇猶予措置であるとも解釈できることから、労働時間等に応じて差異を設けた場合でも、内容によっては合理性が認められ得るとの見解が示された。加えて、パート労働者のなかでも労働時間に差がある場合もあり、単純にパート労働者をひとくくりにすべきでないとの議論もなされた。

また、介護事由等が発生し転勤ができなくなった正社員と地域限定社員との待遇差に関する質問では、地域限定のない正社員の転勤拒否は懲戒事由に該当し得るものの、実務上対応が難しい場合は、地域限定社員への変更や、地域以外の要因である職務等も含めて待遇について見直していくべきであるとの回答があった。

【労働法制本部】

「2017年7月27日 No.3325」一覧はこちら