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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年9月7日 No.3329 「家族の衰退と消費低迷」 -中央大学の山田教授から聞く/経済財政委員会経済政策部会

経団連の経済財政委員会経済政策部会(橋本法知部会長)は8月8日、中央大学文学部の山田昌弘教授から、「家族の衰退と消費低迷」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ 個人消費が低迷する理由

個人消費が低迷しているのは、1990年以降の家族の変化に経済が適応できておらず、同時に経済の変化に家族も対応できていないためである。これを「家族形成と経済変化のネガティブ・スパイラル」と呼ぶ。

90年以前の典型的な家族は、夫は仕事、妻は家事という性別に基づく役割分業のもと、豊かな生活を目指していた。このため、教育やレジャーへの支出を含め、家族に対する消費が活発に行われていた。しかし、90年以降、こうした典型的な中流家庭を形成することは容易ではなくなった。加えて、既存の中流家庭においても転落に対する不安が高まっている。

■ 変わりゆくわが国の家族形態

わが国の家族形態の変化を特徴づけるキーワードは、「共時的変化と通時的変化」である。前者は、一人暮らし、親同居未婚、夫婦世帯といったさまざまな家族形態が併存する変化を指す。後者は、ある個人が生涯でさまざまな家族形態を経験することを指す。このように、現在の若年層にとって、70代、80代の高齢者のほとんどがたどってきた「結婚し、子どもがいて、離婚を経験せずに済む」というライフコースは多様化しており、将来の家族形態の不確実性が増している。

今後、現在の30代より若い世代の生涯未婚率は25%、無子率は40%、離婚経験率は35%になると見込まれる。あわせて、従来の典型的な家族を形成できる層が縮小する一方、形成・維持がかなわない層は増加し、二極化がさらに進むであろう。

■ 1990年代を境とした家族と経済構造の変化

固定的役割分担意識が残存するなかで、家族形成の二極化の根底にあるのは、90年代以降の若年層の非正規雇用比率の高まりと硬直的な労働慣行のもとでの若年男性の収入の低下と不安定化である。既婚者については、夫の収入の伸びの鈍化を補うため、妻がパート労働に就くことで、中流生活を維持しようとしていた。他方、未婚者が増え、親との同居を続ける「パラサイト・シングル」もみられるようになった。

未婚化が進んだ原因は、1人の収入で妻子の豊かな生活を支える見通しが立たない男性が増えたことにあると考えている。

■ 今後のわが国の家族形態と消費について

若年男性の収入の二極化を背景として、現役世代においては、従来の消費産業が対象とした典型的な家族を形成・維持できる層とその消費額はともに減少すると思われる。消費意欲が旺盛なフルタイムで共働きの家庭は少数で、むしろ減少しており、この層全体での消費額も伸びない。さらに、典型的な家族を形成できない層は、雇用や所得をはじめとした将来不安も相まって、消費額の増加を見込むことはできない。未婚の若年層の消費に着目しても、バブル期のように、高級ブランド品を購入し、他者からの評価を得て自己承認欲求を満たす「顕示的消費」を期待することはできない。インターネット、そしてSNSの普及・浸透により、他者からの評価は多様化し、画一的な顕示的消費に意義が見いだされないためである。

次に、高齢者世帯については、妻が家計を管理する場合が多いことに加えて、自身や未婚の子どもの将来に対する不安を抱いている。このため、世帯数が増えても、消費の拡大を想定することは難しい。

現状のままでは、家族と個人消費の中長期的な展望は明るいということはできないのではないか。

【経済政策本部】

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