Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年9月28日 No.3332  「憲法改正の発議」 -保岡自民党憲法改正推進本部長が常任幹事会で講演

講演する保岡衆院議員

経団連は9月4日、東京・大手町の経団連会館で常任幹事会を開催し、自由民主党憲法改正推進本部長の保岡興治衆議院議員から「憲法改正の発議」と題する講演を聞き、意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。

自民党は結党以来、平和主義、民主主義および基本的人権尊重の三大原則を堅持したうえでの現行憲法の自主的改正を目指してきた。特に、平和主義の理念を守ることは民族としての矜持であると考えている。国民の理解を得るべくより具体的でわかりやすい説明を心がけたい。

■ 改正の4本柱

(1) 9条の改正

わが国は、国際紛争を解決する手段として二度と武力行使をしないことを2年前の総理談話でもあらためて明言しており、平和主義の大前提は揺らぐことはない。一方で、自衛隊を違憲とする学説も多く発表されている。実際に究極の実力組織たる自衛隊が憲法上の根拠を有しないことは、立憲主義の法治国家としてむしろ問題であるといえる。自民党が平成24年の改正草案で提案したような「自衛隊を軍隊とする」といった提案はせず、さまざまな解釈論に制約をかけずに「自衛隊が合憲の組織である」ことだけを明確にしたい。各党とも粘り強く調整を進める。

(2) 教育機会の拡大

高等教育に至るまで全面無償化という案も提唱されているところだが、財源の問題もあるし、大学に進学しない国民も多くいるなかで高等教育を無償化することが公平性の観点から妥当かという問題もある。憲法26条の改正について、理念を掲げるプログラム規定(注)にとどめるのか、義務化するのかということもしっかりと検討しなくてはいけない。リカレント教育などの人材養成も重要であるし、大学教育の質の向上も重要である。大学に限らず、教育全体の環境・質の充実や機会均等の実現を考えていく。

われわれは敗戦後、非常に厳しい状況のなかで義務教育を定め、教育立国として発展してきた。憲法に教育機会の保障を書き込むことは教育立国を内外に宣言することであり、教育を国の根幹に位置づけることになる。

(注)プログラム規定=国に対して政治的・道義的義務を課したにとどまり、個々の国民に対して具体的権利を保障したものではないと解釈される定め

(3) 緊急事態条項

首都直下型地震や南海トラフ地震等の国会の機能がまひするような大災害が生じたとき、必ず想定外のことが起こる。こうした危機にあっては、一定の枠組みのなかで、内閣が迅速かつ的確な初動対応ができるようにしなくてはいけない。

国会議員の任期の問題もある。阪神・淡路大震災や東日本大震災はいずれも地方選挙の直前だったが、国政選挙で同様の事態が起きた時には、憲法上の手当てをしなければ国民主権や参政権が棄損される可能性がある。災害時に一部の選挙区の選挙が実施できなければ、参議院の比例代表や衆議院のブロック代表選出の議員を確定することができない。これは少数政党にとって不利であるばかりか国民主権・参政権の観点からも問題がある。

(4) 1票の格差是正

憲法14条の要請する投票価値の平等が重要であるのは当然だが、一方で人口の一極集中が進んでいる。投票価値の平等を厳密に考え、人口に完全に比例させると、地方の扱いが軽視されることになりかねない。そうなると、国民の政治へのアプローチにおける質の劣化が生じる。地方に住む人の要望をすくい上げてこそ、日本全体の発展につながっていく。あるべきバランスを探りたい。

■ 今後の見通し

明治維新から150年を迎え、人や企業、社会のあり方そのものが劇的に変化している。足元の経済政策と安倍政権の基盤を磐石にすることが目下の課題ではあるものの、これからわが国がどのように生きていくか真剣に考える必要がある。国民全体が憲法の議論を続けるべきだ。

【総務本部】