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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年11月2日 No.3337 (地球温暖化対策)カーボンプライシングに関する諸論点<6> -大型炭素税を導入すべきか/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学教授) 有馬純

カーボンプライシングに関する議論が再浮上し、関係各方面で検討が行われていることから、本稿で7回にわたり論点を解説している。
今号では排出量取引と並ぶ明示的カーボンプライシングである炭素税について、導入効果や産業界への影響について解説する。

■ 炭素税導入の効果

炭素税については、カーボンプライシングのレベルが固定されており、排出量取引のような価格変動による予見困難性はなく、原則的には全セクターを対象にできるため、長期の効率性の達成が期待できるとの議論がある。しかし、課税により化石燃料価格を上昇させ、需要を抑制することによってCO2の排出抑制を進めるということは理論的には期待されるが、現実にはエネルギー消費の価格弾性値が小さい時にはその有効性は大きく減じてしまう。特に省エネの進んだわが国は、米国やEUに比して価格代替の余地は限られており、限界削減費用が高いため、50ドルまでの対策による削減効果はさらに小さくなる。わが国において近年の化石燃料消費に伴う炭素1トン当たりのコスト上昇局面においてもエネルギー起源CO2は増大しており、価格変化がミクロの行動変化をもたらし、マクロのCO2排出量抑制につながっているとの関係は看取されない。

このため、価格効果によってエネルギー消費量としての有意な削減を図るためには相当程度、税率を高くせざるを得なくなる。しかし日本だけで高率の炭素税を導入した場合、日本のエネルギー多消費産業の国際競争力喪失、収益大幅悪化を招き、これら産業の生産拠点の海外移転を招いてしまう。炭素税収を法人税減税に充てれば影響をオフセットできるという議論もあるが、企業収益が悪化し、赤字になってしまった場合、法人税減税のメリットは受けられない。

加えて、国際競争上、動向を注視すべき米国のトランプ政権は「いかなるかたちの炭素税も導入しない」と言明し、エネルギーコストのさらなる引き下げ、法人税の引き下げ等、ビジネス環境の改善をコミットしている。

こうした状況下において大型炭素税を導入することは、ただでさえ高コストに直面した日本の産業競争力に悪影響を与える可能性が極めて高く、慎重な検討が必要である。

■ 産業界への影響

諸外国の場合、産業競争力、雇用等への配慮から産業部門を炭素税、環境税の減免対象にしている(欧州の炭素税の場合、EU―ETSの対象企業は免税)。この考え方に従えば、自主行動計画に基づき、高い温暖化対策コストを負担している産業界を大型炭素税の対象とするのは不適切ということになる。

具体的な負担増のイメージを持つことも重要だ。電力部門において石油石炭税と地球温暖化対策税を排出量1トン当たり100ドル(100ドル/t-CO2)の炭素税に置き換えた場合、電力料金は約28%の上昇となる。仮に国際競争力への配慮からエネルギー多消費産業を炭素税の対象外としたとしても、電力料金がこれだけ上昇すれば、国際競争力に深刻な影響を与えることは確実だ。また、セクター横断的に100ドルの炭素税をかければ、1世帯当たりの年間光熱費および自動車燃料費は20%上昇することになり、特に低所得層に大きな打撃になる。この場合、日本全体の税負担は13.2兆円となり、消費税6.5%分の引き上げに相当する。

■ 炭素税は安定的な恒久財源にはなり得ず

大型炭素税を法人税減税や社会保障の財源に充てるという議論があるが、排出削減という本来の政策意図が実現すれば、税収が低下し、安定的な財源を必要とする社会保障に充当することは不可能になる。法人税減税と一体とするにしても、炭素税収入が減少すれば減税原資が目減りするため持続困難となる。安定財源を確保するのであれば、あくまで消費税増税が王道であろう。

税収を温暖化対策財源にという議論もあり得るが、現状レベルの地球温暖化対策税の税収使途ですら、費用対効果、省庁間重複等、種々の問題が指摘されている。特定財源目的の炭素税導入を議論する前に、既存税収が有効に活用されているのか、十分な検証が先決である。

次号(最終回)では、現実的な政策パッケージのあり方について解説する。

【21世紀政策研究所】

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