Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年11月9日 No.3338  (地球温暖化対策)カーボンプライシングに関する諸論点<最終回>

カーボンプライシングについてのさまざまな論点をこれまで6回にわたり解説してきた。
最終回となる今号では、温暖化対策に伴うコスト負担のあり方について、今後の議論の方向性を示唆する。

■ 均一のカーボンプライスの成立は非現実的

炭素税、排出量取引といった明示的カーボンプライシングが暗示的カーボンプライシングに比して優れているという議論の根拠としてしばしば語られるのが、「価格メカニズムによって費用対効果の高い排出削減をもたらす」という点である。これは均一のカーボンプライスの成立を前提としているが、現実的な想定とはいえない。

国際的に均一なカーボンプライスの実現可能性が極めて低いことはすでに述べたとおりであるが、国内でも容易ではない。各国ではエネルギー課税、車体課税、省エネ規制、再エネ推進策等々、温室効果ガス削減をもたらすさまざまな施策が講じられており、これらのなかには他の政策目的で導入されたものも多い。

この結果、暗示的カーボンプライシングを形成している各部門の既存施策は温室効果ガスの限界削減費用という点では大きなばらつきがある。かといって、温暖化対策の費用対効果のためだけに、それらを全廃して単一のカーボンプライシングを導入することは想定し難い。また諸外国の炭素税、排出量取引の導入事例をみても、現実には国際競争力への悪影響低減、雇用確保等を理由に産業部門に対するさまざまな減免、免除措置が講じられている。このため国内で単一のカーボンプライスが形成され、費用対効果の高い削減が実現する、というのは経済学の教科書のうえでの話である。

■ エネルギーコストを引き上げる状況にはない

以上、カーボンプライシングの種々の論点を紹介してきた。これまで日本の産業界には「カーボンプライシング」というと、それが炭素税や排出量取引を含意するものとの前提のもとに強く反対する傾向が看取されたが、これは温暖化対策に伴うコスト負担を否定しているとの誤解を生み、得策ではない。カーボンプライシングは炭素税、排出量取引に限らない広い概念であり、3E(経済効果、エネルギー安全保障、環境保全)のなかで総合的に検討すべきという発想が重要である。

わが国にはすでに地球温暖化対策税に基づく明示的カーボンプライシングが存在することに加え、エネルギー課税、省エネ規制、再エネ導入策、自主行動計画等、多くの既存施策による暗示的カーボンプライシングが存在する。日本のエネルギーコストの高さや米国等の動向をみる限り、現時点において明示的か暗示的かにかかわらず、カーボンプライシングを通じて人為的にエネルギーコストを引き上げる状況にあるものとは思われない。

他方、わが国のエネルギーコストが化石燃料価格の動向、技術進歩等によって大きく低下する、米国や中国等のAPEC諸国においてカーボンプライスが抜本的に引き上げられる等の大きな状況変化があるならば、それを踏まえた対応が必要になる。

■ 現実的な政策パッケージを

日本が経済成長と両立させながら長期にわたって温室効果ガスの大幅削減を目指していくためには原子力発電所の新増設と革新的技術開発が不可欠であり、これらはカーボンプライシングではなく、別途の政策を必要とする。日本が置かれたエネルギー面の課題は日本固有の要素も多く、日本にあった現実的政策パッケージが必要となる。

国内の排出削減に引き続き取り組む必要はあるが、日本として目指すべきは地球規模での大幅な排出削減である。日本一国のCO2排出量削減や炭素生産性向上という狭いスコープのなかでカーボンプライシング導入の是非を論ずるよりも、地球レベルでの排出削減に向け、わが国の優れた低炭素技術の海外展開によるグローバルな削減、わが国企業の海外展開やグローバル・バリューチェーン全体での排出削減、革新的技術開発を通じた長期の温室効果ガス削減という3つの柱の具体策を講ずることが日本のなすべき貢献である。

【21世紀政策研究所】

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