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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年11月30日 No.3341 「人口減少と日本経済」 -経団連昼食講演会シリーズ<第35回>/立正大学経済学部教授・東京大学名誉教授 吉川洋氏

経団連事業サービス(榊原定征会長)は11月7日、東京・大手町の経団連会館で第35回昼食講演会を開催し、立正大学経済学部教授・東京大学名誉教授の吉川洋氏から、「人口減少と日本経済」をテーマに講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 経済社会の閉塞感

日本の人口は、現在約1億2700万人であるが、少子高齢化の進行によって、およそ100年後の2115年には5050万人まで減少すると予想されている。人口動態の変化に伴って、国民の間で経済格差が広がっている。その原因を詳しくみると、(1)高齢化=もともと経済格差が大きい高齢者の人口比率が大きくなっている(2)家族の変容=経済力の乏しい若年者を中心とした単身世帯が増加している(3)経済の長期停滞=企業は賃金が相対的に低い非正規労働者を増やしてきた――が挙げられる。

■ 社会保障財政の現状

経済格差は洋の東西を問わず昔から存在する。経済格差を大きな社会問題と認識したヨーロッパ先進諸国は、19世紀後半から100年以上かけて社会保障制度をつくり上げてきた。日本も戦前から社会保障制度の整備に取り組み、1961年には国民皆保険・皆年金の制度ができ上がった。

現在の日本の社会保障費は118兆円で、57兆円を年金給付、38兆円を医療給付が占めている。財源は66兆円が保険料で賄われているが、13兆円を地方、32兆円を国が負担しており、国の負担分がそのまま財政赤字になっている。高齢化により年金支給者が増え続けており、社会保障制度を維持するには消費税率をヨーロッパ並み(20~25%)に引き上げる必要がある。経済成長は財政再建のための必要条件ではあるが十分条件ではない。経済成長と同時に財政再建も進めていくべきである。

■ 人口減少・少子高齢化のもとでの経済成長

明治初期から20世紀終わりまでの日本の人口と実質GDPの推移をみると、相関関係がないことがわかる。高度成長期には、実質GDPが年率10%伸びている一方、人口は年率1.2%の伸びにとどまっている。つまり、1人当たりGDPが年率9%伸びていたのである。先進国では、人口が経済成長に影響を与える部分は相対的には小さく、1人当たりのGDPの伸びが影響する部分の方がはるかに大きいということができる。人口減少は社会保障財政にとって大問題であるが、日本経済右肩下がり論は悲観的に過ぎる。

ドイツは日本と並ぶ人口減少・低出生率国であるが、少子化対策に関心がない。人口減少には移民の受け入れで対応する方針である。また、人口減少でドイツ経済が衰退してしまうとは考えられていない。こうした強気の背景には、テクノロジーは世界の最先端でイノベーションの力は衰えていないとの自信がある。日本もドイツの姿勢に学ぶべきである。

■ 経済成長の原動力としてのイノベーション

先進国では、1人当たりの所得・GDPを増やしていくことが経済成長につながるのであり、それを生み出すのがイノベーションである。

現在の日本では、企業部門が最大の貯蓄主体となっており、企業に剰余金や内部留保などがたまっているが、本来、資本主義経済では、家計が貯蓄をし、企業は金を借りてでも投資をするものである。ケインズは「もし企業が冷徹な利潤の計算結果のみを考慮して経営を行うのであれば、すぐに衰退してしまうだろう。企業経営とは、アムンセンが犬にそりを引かせて南極を目指すようなもの、すなわち、究極的にはアニマルスピリッツによるものである」と主張している。今日、日本の企業経営では、アニマルスピリッツが衰えているのではないだろうか。

【経団連事業サービス】

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