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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年3月22日 No.3355 「『未来社会』を見る視点と中長期知財戦略」 -東京大学の渡部教授から聞く/知的財産委員会

経団連は3月5日、東京・大手町の経団連会館で知的財産委員会 (日覺昭廣委員長、近藤史朗委員長)を開催し、東京大学政策ビジョン研究センターの渡部俊也教授から、内閣府知的財産戦略本部での「知的財産戦略ビジョン」の策定に向けた「『未来社会』を見る視点と中長期知的財産戦略」について説明を聞いた。
説明の概要は次のとおり。

内閣府の知的財産戦略本部では、2025~30年という向こう10年の経済社会をターゲットにして、「知的財産戦略ビジョン」(以下、ビジョン)を策定しており、私はビジョンづくりを担う専門調査会の委員を務めている。専門調査会では、まだ将来の社会像や価値のあり方を議論している段階で、具体的な「知財」のビジョンについては検討中である。東京大学政策ビジョン研究センターでは、知財やSDGs(持続可能な開発目標)、データ等についての研究を行っており、学会長を務める知財学会でも、将来の知財戦略について議論を行っている。こうした知見も踏まえ、ビジョン策定において考えるべき視点について説明する。

まず重要なのは、「データ」の扱いである。データは、広く利活用されてイノベーションが促進されるのが望ましく、組織や地域による過度の囲い込みは望ましくない。データのグローバルなアクセス確保と、データの地産地消(データ提供組織や地域に対する利益提供や雇用創出等の便益を伴うデータ利活用)を両立させる施策を行うことが望ましい。また、分散台帳技術等を用いて、薄く広くコストをかけずにデータを管理し、データ提供者に確実に利益を還元する仕組みをつくることも必要だ。

SDGsを知財戦略に取り込むという視点も重要である。知財への投資は中長期投資であり(特許で20年)、SDGsの考え方と親和性がある。SDGsに資する標準化やルールづくりを積極的に提案することで、市場のイニシアティブを獲得することが有効だ。また、SDGs関連市場の拡大を、関連する知財の開放等を通じて促進するといった知財戦略も考えられる。

「人生100年時代」では、「同時に多くの職業に就く」「複数回の転職」といったことが普通になるかもしれない。また、今後、ベンチャー企業や大学等とのオープン・イノベーションを進めるなかで、企業の一部事業を切り出すアウトバウンドオープンイノベーションの考え方が重要になるだろう。こうしたことも想定した知財の管理やライセンスのあり方も検討していく必要がある。

知財についての国際的な日本の立ち位置も考えておく必要がある。米国や中国は、プロパテントの方向を向いているが、日本は、知財の権利を強くする、特許の量で勝負するといった考え方に過度に同調すべきではない。知財の「所有」から「アクセス・利用」重視の流れをつくることが必要だ。帰属が不明確な「データ」の利活用を進め、SDGsを利用して、知財戦略・ビジネス戦略を構築する必要がある。

【産業技術本部】

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