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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年5月17日 No.3361 喝采のなか静かに苦悩する米国から何を学ぶか -ワシントン・リポート<40>

米朝会談の日程と場所が決まり、自信に満ちたトランプ大統領の演説は喝采を浴びている。その一方で、静かに苦悩する米国がある。

「今うかがったメッセージは、日々、われわれがトランプ政権に伝えているものだ」。ワシントンDCを訪問した経団連訪米ミッション一行が、キャピトル・ヒルで耳にした声に苦悩の一端が表れている。他方、政府幹部からは「いろいろな意見もあろうが、大統領の考えは揺るがない」との説明が続く。立場の違いはあっても、米国政治の現状が特殊との認識は共有されていると感じた。

問題は、この状況がいつまで続くのか、その後どうなるのかだが、景気動向、中間選挙の結果、大統領の性格などから論じるのは、表面的といわざるを得ない。現状と背景をどうとらえ、何を学び、どう対応するかが問われている。

シンクタンクでは「民主主義の危機」がセミナーのテーマとなり、Foreign Affairs誌の最新号は、「Is Democracy Dying?」と銘打っている。これに対して、「民主主義が機能しているからトランプ大統領が誕生したのではないか」との指摘が新鮮に響く。自分が支持できないリーダーが選ばれる制度はおかしいと考えるならば、問題の解決にはつながらず、その考え方こそ「民主主義の危機」ともいえる。

Foreign Affairs誌に寄稿しているウォルター・ラッセル・ミード氏が指摘しているように、米国の既存政党と政治家のほとんどが米国民の直面する問題に対処するビジョンとアイデアを欠いており、知的・政治的エリートたちのパラダイムがもはや通用しなくなっているが、他方、それに代わろうとするポピュリストたちも真の答えは持ちあわせていない。

政治的には、ビジョンやアイデアを求めて政治家を選ぶだけが民主主義ではなく、それらを自ら考え、責任をもって託す政治家を選ぶことこそ民主主義と肝に銘じる機会になっている。ミード氏は、南北戦争前後からの歴史を振り返り、米国は「特殊な」状況を幾度も乗り越えてきており、今回も、障害は多いが必ず乗り越えると結ぶが、具体的な動きはまだみえない。

経済的には、グローバリゼーションにあえぐ産業、地方の悲鳴に政治が引っ張られる一方で、シリコン・バレーやウォール・ストリートが、グローバリゼーションをリードしている。あわせて、各州が知事のリーダーシップのもと、ビジョンとアイデアを持って日本企業はじめ内外企業の投資促進により経済発展に取り組んでいる。経済のグローバリゼーションこそ揺るぎなく、「合州国」である米国の現場にあらためて注目する機会になっている。

社会的には、ピュー・リサーチ・センターの調査にも表れているように、トランプ政権に厳しいミレニアル世代がこれからの米国を創っていく。例えば、トランスジェンダー現象のもと性差別はどう扱われるのか。人間が、性別もさることながら、トランスジェネレーション的に年齢にもかかわらず、機能ベースで評価され活用され、人工知能(AI)と共存していく時代に、現下の経験をどう活かすかも問われている。

(米国事務所長 山越厚志)

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