1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2018年6月28日 No.3367
  5. 中間選挙に向け戦略を模索する共和・民主両党

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年6月28日 No.3367 中間選挙に向け戦略を模索する共和・民主両党 -ワシントン・リポート<42>

11月6日に実施される中間選挙まで残り5カ月を切り、各州で相次いで予備選が行われるなど本選に向けた動きがいよいよ本格化している。こうしたなか、2016年の大統領選挙を再検証し、有権者の思考を分析することの重要性が一層高まるとともに、各党とも採るべき戦略の模索が続いている。

■ トランプ支持者の取り込み

16年の大統領選挙期間中、メインストリーム・メディアは中西部の白人労働者階級有権者に関心を示さず、「消えゆく運命の人たち」とさげすんでいた。そんななか、ピッツバーグ地元紙の記者であったサリナ・ジトー氏は、この「忘れられた者たち」を密着取材し、彼らの考え方と長年支持してきた民主党を離れる可能性をいち早く指摘した。そのジトー氏がテネシー州出身の共和党系コンサルタントのブラッド・トッド氏と共著した「The Great Revolt」(18年5月)が話題となっている。

10年前の大不況からの回復が遅れている、いわゆるラストベルトにおいて、経済的不安が最大の懸念である労働者階級は、不法移民擁護や差別問題などの社会問題重視に走る民主党と、自分たちの経済的利益につながらない政策を追求する共和党の両方に愛想を尽かしていた。世論調査では、トランプ支持者の実に89%が民主・共和両党とも米国を誤った方向に導いていると考えている。彼らの間では自分たちに直接語りかけて理解してくれたうえで、そのような悪役たちと戦っているトランプ大統領への支持は、就任後離れるどころか強まっている。

中西部北部州において大統領選のキャスティングボートを握った彼らは、2度オバマ大統領を支持するなどの長年の民主党支持を捨て去り、トランプ氏個人を支持したわけだが、共和党支持に回ったわけではない。民主党が彼らの支持を取り戻すために動くのか、あるいは共和党がトランプ化を深めてつなぎ留めるのかによって、中間選挙の行方が決まる。

■ 民主党の方向性

トランプ政権の最初の全国審判となる中間選挙において、連邦議会の上下院過半数奪還とともに各州知事選や州議会選における躍進を期待する民主党では、16年の大統領選敗北の教訓が何であったかをめぐって党内が依然として割れている。トランプ支持へと転じた中西部北部の白人労働者階級の奪回を図るのか、あるいはオバマ大統領の2度の勝利を支えたミレニアル票・マイノリティー票・高学歴票の最大化を図るのか。予備選による公認候補の選出を通して、この党内議論の具体的結果が出始めている。

なかでも注目を浴びたのが5月22日に行われたジョージア州知事予備選における「2人のステーシー」の戦いであった。ステーシー・エイブラムズ前州議会下院民主党院内総務は、全米でも初めてとなる黒人女性知事を目指しており、黒人票やアトランタ市などの都市部におけるベース支持者票の最大限の引き出しを図った。一方のステーシー・エバンズ元州議会下院議員は、シングルマザーの母親に連れられて逃げるように転々とした少女時代を経て、州の奨学金を得て大学を卒業して成功した自らのストーリーを前面に出した。これは党派を問わず、白人労働者階級の心の琴線に触れるものであり、彼女が住んだ16カ所の家を紹介した選挙CMをみて、共和党関係者はエバンズ氏が本選に出て来たらこれにどう対抗できるのかと浮足立っていた 。

民主党ベース支持者の活性化を唱えるエイブラムズ氏と新たな民主党支持者を取り込もうとするエバンズ氏の戦いは、今後の民主党の姿を占うものとして位置づけられていたところ、結果はエイブラムズ氏の圧勝であった 。03年以来共和党知事が続いているジョージア州においても、民主党内の勢いはリベラル派ベースの方にあるようだ。

■ 共和党と政権の距離

5月31日にトランプ政権が、通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム関税の適用を免除していたカナダ・メキシコ・EUに対する賦課を決定したことは、議会共和党と大統領の間の溝を深めた。関税は中国を標的としたもので、同盟国の免除は続くとみていた共和党議員は仰天した。本来、関税賦課権限は議会が有しており、行政府に委任した実務が通例となっているが、共和党は関税が税制改革や規制緩和による好況に水を差し、中間選挙に悪影響が及ぶことを警戒していることから、再び議会に権限を取り返す動きが再燃している。

コーカー上院外交委員長(テネシー州)は、安全保障関連の関税賦課に議会の承認を要する法案を提出し、国防権限法案(NDAA)への修正条項としての成立を目指した。NDAAは、米軍人の給与増額も含めた国防費支出を承認するものであり、絶対に年度内に可決されなければならないmust-pass法案であることから、過去にも他の議員が自ら推進する法案をNDAAに修正法案として付け加えて成立させる手法が使われてきた。元来、国防法案と関税の関連は薄いものの、皮肉にもトランプ政権が安全保障懸念を関税賦課の理由として挙げていることが今回この手法を可能にしたのだが、結局挫折に終わった。中間選挙を前にして、自党の大統領との決定的な決裂は避けたいと考える共和党議員はまだ多いが、トランプ政権の常識破りな通商政策への不満は確実に表面化している。

【米国事務所】

「2018年6月28日 No.3367」一覧はこちら