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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年8月2日 No.3372 夏季フォーラム2018 -第5セッションで甘利衆議院議員が講演

経団連(中西宏明会長)は7月19、20の両日、長野県軽井沢町のホテルで夏季フォーラム2018を開催した。第5セッションでは、甘利明衆議院議員から講演を聞き、意見交換を行った。講演のポイントは次のとおり。

■ 第4次産業革命とSociety 5.0

現在、社会に起きつつある大変革を象徴する2つの言葉が、第4次産業革命とSociety 5.0である。第4次産業革命は、IoTでインターネットにつながった機器からデータがクラウドに集まりビッグデータとなる。これをニーズに従ってAIが解析し、ソリューションを生み出す。それをロボットを用いて社会に実装する。第4次産業革命を通じて、Society 5.0すなわち狩猟、農耕、工業、情報の次の第5次社会をつくる。例えば世界中の工場の機器等からデータを集め、解析し、ソリューションを出し、実装して最適化を図る。またi-Constructionでは、AI付きドローンが造成現場の3次元図面をつくり、自動走行重機がそれをもとに掘削する。人手不足といわれるなかで、人員を大幅に削減できる。

■ データ囲い込みへの対抗

第4次産業革命はよいデータをどれだけ大量に早く集められるかがカギとなり、世界はデータの囲い込み競争に入ってくる。米国は企業単位でデータを囲い込むが、中国は国家ぐるみでデータの囲い込みを始めている。サイバーセキュリティ法により、外国企業は中国国内で取得した現場データの国外持ち出しを禁止され、最適化を図ることができない。これに対し中国企業は国外で取得したデータを持ち帰ることができるという不均衡が生じている。さらに中国は経済関係をてこに外国政府に対し自国に不利な政策を変更させるエコノミック・ステートクラフトを展開している。一帯一路に沿った陸海の自動走行システムを中国に握られると、これをてこに内政干渉が行われるおそれがある。データを制するものは世界を制し、ルールを制するものが世界を制す。この競争にどう勝っていくか。まず米国、EU、日本が連携して、データの取り扱いに関する公正かつ透明なルールを早くつくらなくてはならない。また中国が行っている技術移転要求、サーバローカライゼーション、ソフトの設計図の公開要求は、TPPで明確に禁止されている。TPP11が来年2月に発効するが、早急に加盟国を広げていくべきである。

■ データ・プラットフォーマーが世界を席巻

現在、世界のデジタル・インフラは米国と中国の企業が独占している。かつて日本が独壇場だったゲーム分野もデジタル・インフラを握られたため、日本企業は登録料を払う側になった。それ以外の分野にも同様の変化が起こっている。これからは、デジタル・プラットフォーマーではなくデータ・プラットフォーマーが世界を席巻する時代になる。日本には世界一良質なリアル・データが集まっているといわれるが、この分野のデータ・プラットフォーマーになれるかが、周回遅れを取り戻してトップに立てるかの分かれ目である。

■ イノベーション・エコシステムの構築

そこで、イノベーションが常に生まれるようなエコシステムをつくることが重要になってくる。今、世界を席巻しているプラットフォームは米国の大学発が多い。大学がスタートアップに出資し、IPOの際に株を売却して回収、それを研究資金に回して新しい発見を生み、これをマネタイズしてまた投資する。その結果、日本と米国の大学の研究資金には二桁の差がある。日本の大学は補助金頼みをやめ、寄付や資産運用など基本資産の調達先を多様化すべきである。

経団連の会員企業には、大学は投資先だという感覚があるだろうか。総合科学技術・イノベーション会議の上山隆大議員が、日本の大学の研究シーズを全部データベース化する取り組みを進めている。大学の産学連携体制もファクトブックにして見える化することで、企業が連携を取れる体制を整えつつある。企業がブレイクスルーを図ろうとするときに、必要な基礎研究を探し、連携できるような体制をつくっている。

■ 変化に対応するのではなく変化を自ら起こす

ノーベル賞受賞者の田中耕一さんが先日、認知症の早期診断につながる手法をネイチャー誌に発表したところ、世界中から問い合わせが殺到したが、日本からはなかったという。企業には、生き残るためにもっとリスクを取って貪欲になってもらいたい。ダーウィンの進化論では、生き残るのは強い者でも大きい者でもなく、変化に対応できる者だとされている。そうではなく、変化を自ら起こすものが生き残る。

今、大学改革を進めている。日本の論文の引用率が下がり続けている。ノーベル賞発生率が最も高いのは30~40代前半に書かれた論文であるが、この世代の研究者が日本の大学では非正規雇用である。これではいけないので、大学教員の給与を評価に基づく年俸制にし、企業と大学の双方で働くクロスアポイントメントの活用も推進している。世界中から優秀な人材が集まりつつ、日本が常に半歩でも一歩でも前に立てるような外国との連携体制を打ち立てなければならない。

今は歴史的大転換のときである。国も思い切って踏み出すので、経済界もリスクを取って踏み出してもらいたい。

【ソーシャル・コミュニケーション本部】

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