21世紀政策研究所は10月3日、中国情勢に関する研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学大学院総合文化研究科教授)メンバーによる、中国の対外政策に関するセミナー「中国の国際社会におけるプレゼンス」を開催した。
発言の概要は次のとおり。
■ 秩序変容期の世界と中国(川島研究主幹)
歴史的にみれば、覇権国は世界の技術革新を主導し、国際公共財を提供してきた。英国は世界中に植民地を展開したことで、またそれに続く米国は植民地を持たず同盟関係を展開することで、帝国をつくり上げた。これに対し、経済大国でありながら西側先進国ではない中国は、どのような秩序を目指すのか。
欧米型民主主義を条件としない中国モデルは、問題ありとされながらも、世界各地で受け入れられている。その現状を理解し、拡大する中国が世界に与える影響を冷静に分析する必要がある。
■ 習近平政権の対外戦略と世界秩序
(青山瑠妙研究委員/早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)
中国は冷戦終結以降、さまざまな国・地域機構との関係構築を行ってきたが、その外交政策の根底には一定の方針が貫かれてきた。習近平政権の「一帯一路」構想もその延長上にある。この構想自体、固定されたものではなく、常に変化している。
台頭する中国が主導する国際秩序は、西側主導の自由民主主義を基盤とする国際秩序とは対立すると考えられているが、中国自身は「既存の秩序を覆すつもりはなく、時代に合致した改革を進めるなかで積極的な役割を果たす」としている。
■ 中国の対外援助・新型国際関係
(北野尚宏研究委員/早稲田大学理工学術院教授)
中国は二国間での対外援助のツールとして、無償援助、無利子借款、優遇借款、名目上対外援助にはカウントされない「優遇バイヤーズクレジット」、および中国輸出入銀行や国家開発銀行による融資や基金を用いている。また多国間の枠組みでは、AIIB(アジアインフラ投資銀行)などの国際機関を経由した援助を行っている。援助全体の7割は、インフラ開発を目的としている。
なお、低所得国の中国への債務額が急増したことによって、債務持続性の問題が顕在化しており、債務条件の緩和等の要求への対応を中国が迫られる可能性もある。
■ 安全保障面からみた中国の対外政策の現実
(香田洋二研究委員/ジャパンマリンユナイテッド顧問/元海上自衛隊自衛艦隊司令官)
人民解放軍の能力を評価した場合、強力な国土防衛軍ではあるものの、中国の非同盟主義や兵力構成上の制約から、現状では中国の世界戦略を支えるために世界規模で展開することは難しいと考えている。中国は当面、軍事力増強は続けつつも、米国との軍事対立を慎重に回避しながら、経済・外交を主軸とした対外政策に注力するのではないか。その場合、中国の経済力の先行きが、今後の動向を考えるカギとなる。
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21世紀政策研究所では、「中国の国際社会におけるプレゼンス」「中国経済・社会の展望と課題」「中国の産業競争力・Technology」の観点から、中国の研究を今年7月より開始しており、セミナー等を通じて情報発信を行っていく予定である。第2回セミナーは来年1月ごろを予定している。
【21世紀政策研究所】