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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年8月29日 No.3420 「欧州議会選挙後のEU情勢」 -21世紀政策研究所がセミナー開催

21世紀政策研究所(飯島彰己所長)は8月2日、セミナー「欧州議会選挙後のEU情勢」を開催した。同研究所欧州研究プロジェクト(研究主幹=須網隆夫早稲田大学大学院教授)の研究委員に加え外部有識者も招聘し、欧州議会内のパワーバランスの変化やEUと域内外各国との関係性の変化という切り口から、EUの将来像を議論した。発言の概要は次のとおり。

■ EUの将来像への視角(須網隆夫研究主幹)

EUの緊縮財政政策により、域内の少なからぬ国にとってEUが利益を与える存在から利益を奪う存在に変化した。各国でEU懐疑派が力を増すのはやむを得ない。EUの見直しに関する議論で注目すべきは、現在行われているEUとスイスの枠組み協定交渉だ。EU市場へのアクセスを得ようとするとEUの立法に従わざるを得ず、市場アクセスと国家主権のどちらを重視するのか、政治的な争点になっている。EUの周辺にあって域内市場に魅力を感じている国が必ず直面するジレンマだ。これは英国で問題となったことと本質的に同じであり、今後起きるであろうEUの変化を前に、日本企業は自社が域内市場からどのような利益を得ているのか、精査せざるを得ない状況に置かれる可能性が高い。

■ 2019欧州議会選挙後のEU情勢と統合の行方(福田耕治研究委員)

EUにおける共同立法機関であるEU理事会と欧州議会は、前者は加盟国の国益を表出し、後者は欧州市民の利益(民意)を表出する。今回の欧州議会選挙後のEU首脳人事、特に欧州委員長の人選では、筆頭候補制を採用するかどうかをめぐり調整が難航した。市民を単位とするデモクラシーを重視し各政党の筆頭候補から選出するのか、加盟国を主体とするデモクラシーを重視しEU理事会から選出するのかの対立だ。欧州議会選挙の結果、親EU派が議会の3分の2を占めたことで、欧州統合の方向性は大きくは変わらないだろう。ただし、イタリア、フランス等極右政党が政権党となっている国がEU理事会を通じて影響力を発揮してくる可能性もあり、留意する必要がある。

■ グローバル秩序~EU―中国関係(田中素香東北大学名誉教授)

一帯一路を進める中国の背景には、インフラ関連の過剰生産能力・在庫の海外放出、中・西部経済発展加速、比較劣位部門の海外移転というねらいがある。ギリシャは今年「16+1」への正式な参画について中国と覚書を交わしており、来年には「17+1」となる見込みだ。2016年以降、欧州は中国企業による直接投資に警戒感を強めている。20年10月には中国の直接投資を審査するFDIスクリーニング制度が施行される予定である。南欧諸国と中国の距離が近いのは、EUが緊縮財政政策をとった時に苦境に追いやられた南欧諸国を中国が支えた経緯があるためだ。日本とEUは民主主義、多角的貿易システム等の価値観、安保面での米国依存等共通点が多く、協力を進めていくことが重要である。

■ 加盟国間格差および国内格差の現状(太田瑞希子研究委員)

フォン・デア・ライエン新欧州委員長の政策目標の一部で、加盟国間、加盟国内格差へのアプローチが掲げられた。加盟国間格差については、対外債務、1人当たりGDP、最低賃金で比較してみると中東欧諸国がEU平均にいまだキャッチアップできていない状況が見て取れる。加盟国内格差については、ジニ係数、貧困危機率を見ると、中東欧諸国と主要国のなかでは英国が不平等社会であることがうかがえる。住宅価格指数を見ると、中東欧諸国の一部ではミニバブルの状態となっている。若年層が住宅を買えないということになると、格差に対する意識をかき立てる危険性がある。

■ ジョンソン新英首相とBrexitの行方(渡邊頼純研究委員)

ボリス・ジョンソン新英首相は「合意なき離脱も辞さず」という姿勢であるが、期日が近づけば党内から反発が出てくる可能性がある。英国の国内政治は、今後もBrexitをめぐって揺れるだろう。離脱後の英国通商戦略について、英米FTA交渉は難しい問題を抱えている。また、EUとのFTAは、ベルファスト合意の扱いについて留意が必要だ。日本への影響については、EU加盟国のなかで自由貿易推進派だった英国がEUから離脱することは、これから日EU EPAを自由貿易を促進するかたちで実現しようとしている日本にとって損失と考えられる。

【21世紀政策研究所】

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