経団連のサプライチェーン委員会企画部会(藪重洋部会長)は10月18日、都内で会合を開催し、「中小ものづくり現場の現状と課題」をテーマに大田区産業振興協会の石川里香ものづくり・イノベーション推進課長から説明を聞いた。概要は次のとおり。
(1)大田区の中小企業の概況
大田区のものづくり企業の数は、バブル崩壊やリーマンショック、経営者の高齢化による廃業等の影響で減少傾向にあるが、区内には現在も独自の加工技術を有し、高い競争力を誇る企業が多く集積している。企業規模は従業員19人以下の小規模企業が9割を占め、その半数が従業員3人以下の家族経営のような企業である。業種は機械・金属やプラスチック等の加工業が8割以上を占め、小規模企業ならではの柔軟性と機動力、高度な技術を活かし「多品種」「難加工」「小・中ロット」の案件に強みを発揮しながら、大企業や研究機関からの開発案件にも対応している。
(2)区内中小企業の傾向からみる課題
区内の中小企業を訪問するなかでみられる傾向が3点ある。1点目は経営者・社員の高齢化と後継者難である。企業規模が小さくても、その企業が廃業することによる高度な技術の消失は、地域の技術集積の密度を低下させることになるため非常に大きな課題である。2点目は人手不足。自社PRや販路開拓といった営業力の強化や、生産管理の見直し、社内環境改善に十分な人員を割けない。3点目はデジタル化・IT化の遅れ。特に従業員3人以下の企業で顕著であり、そうした企業ではPCを使用していないところも多い。
こうしたなか、インターネットを介した企業間のマッチングサービスの活用により、取引機会の拡大を図る企業も増加しているが、受注側の中小企業による利用が進んでいないことも課題である。新規顧客開拓の必要性を感じていなかったり、長年取引をしてきた親企業との関係維持を理由に導入をためらう経営者も多い。また、対面によるすり合わせを通じた試作や難加工、少量生産といった大田区が強みを発揮できる経営スタイルに、こうしたサービスがそぐわないといった声もある。
(3)地域特性も踏まえた協会支援
当協会では大田区の特殊な産業構造を踏まえた支援を行っている。具体的には、受発注相談を担うコーディネーターと呼ばれる人材が区内企業を巡回訪問し、訪問時の情報をデータベース化。当該データや経営者の方針なども考慮しながら、大手・中堅企業との引き合わせを行っている。そのほか、協会職員が国内外の大手企業や産業支援機関を訪問し、区内企業を積極的にPRしている。
多様な企業が一つの地域に混在し、それぞれを補完し合うという大田区産業の特性やデジタル化の趨勢を踏まえ、協会としては当面、迅速なビジネスマッチングを可能にするシステムの構築と、中立な立場で受発注双方をつなぐ人的サービスの両方を取り入れたハイブリッドな支援が適切だと考える。
【産業政策本部】