Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年11月21日 No.3432  「人権を尊重する経営の推進と我が国の行動計画(NAP)に対する意見」を公表 -企業の国際競争力、持続可能性の確保・向上に資するNAPを求める

経団連は11月11日、「人権を尊重する経営の推進と我が国の行動計画(NAP)に対する意見」を公表した。国連におけるSDGs(持続可能な開発目標)の採択やESG投資(環境・社会・ガバナンス対応を踏まえた投資)の拡大により、企業には持続可能性や人権に配慮した経営を行うことが求められるようになっている。政府の人権保護と企業による人権尊重に関するわが国の政策や目標を示すNAPは、今後の日本企業の国内外における事業活動にも大きな影響を与えるものであることから、経団連としてNAPへの要望を取りまとめた。

■ 「ビジネスと人権」に関する国際的な関心の高まり

1990年代後半に発生した多国籍企業のグローバル・サプライチェーンにおける人権問題を契機に、国連で人権に関する国家の義務と多国籍企業の責任に関する議論が高まり、2011年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則(指導原則)」が支持された。

■ 企業の人権尊重責任を定めた指導原則

指導原則は、「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」の3本柱で構成されている。指導原則に法的拘束力はないが、企業と人権に関する事実上の基準文書となっている。2つ目の「人権を尊重する企業の責任」として、企業には、自らの事業に関連して人権を侵害しないことが求められており、具体的には、方針の策定、人権デューデリジェンス(人権DD)(注1)の実施、人権への悪影響が発生した場合の救済が求められている。

■ 指導原則の運用・実施に関する政策文書としてのNAP

指導原則では各国政府に、指導原則を国内でどのように運用・実施するかに関するNAPの策定を求めている。日本政府は、今年4月から外務省に作業部会と諮問委員会を設置して策定作業を本格化しており、来年1月の原案公表を経て、同年6月に公表を予定している。

■ NAPへの要望

  1. (1)SDGsの達成に貢献するビジョンとすべき

    NAPでは、日本政府の人権保護・尊重に関するビジョンを掲げ、各省庁間・関係機関の政策の一貫性を担保することが求められる。その際、人権を尊重する企業行動の推進を通じて企業の国際競争力、持続可能性の確保・向上、世界の投資家から選ばれ投資される国となることを目指し、課題解決に向けたステークホルダー間の連携を促進するものとすべきである。さらに、NAP策定を通じて、SDGsの達成に貢献すべきである。

  2. (2)企業の自主的取り組みを最大限支援する内容とすべき

    経団連では、「Society 5.0 for SDGs」の実現に向けて、会員企業が企業行動憲章に基づき「人権を尊重する経営」を行うよう、さまざまな活動を実施している。日本政府のNAPが国内外のサプライチェーンにおける日本企業の自主的な取り組みを最大限支援するものとなるよう具体的な要望を行った。

  3. (3)人権DDの情報開示は自主的な取り組みが重要

    企業活力研究所が行ったアンケート結果(注2)によると、指導原則に即して人権DDに取り組む企業は3割にとどまっている。企業自らが人権への取り組みは事業リスクの回避のみならず企業価値の向上に資すると認識して自主的に取り組みを推進することや、サプライチェーンも含めて指導原則を周知すること、統合報告書などで自主的に情報開示を促すことが重要な段階であることから、人権DDやその情報開示を直ちに義務化することは適切ではない。

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経団連としては、NAP策定を機に、企業行動憲章が求める人権を尊重する経営が国内外で実践されるよう、企業の自主的取り組みを一層推進していく。

(注1)人権デューデリジェンス=人権への負の影響(人権リスク)を特定、防止、軽減し、そしてどのように対処するかという継続的なプロセス

(注2)企業活力研究所「新時代の『ビジネスと人権』のあり方に関するアンケート調査」(連携協力=日本取引所グループ、経団連、外務省、経済産業省)(18年11月~19年1月実施、調査対象4000社、回答率9.3%)

【SDGs本部】