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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年1月1日 No.3437 米中対立が深まるなか日本の戦略的な重要性が増大 -ファーガソン・スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェロー(歴史学者)と懇談/外交委員会

ファーガソン氏(中央)と片野坂副会長(左)、大林委員長(右)

経団連の外交委員会(片野坂真哉委員長、大林剛郎委員長)は12月6日、東京・大手町の経団連会館で、気鋭の歴史学者として世界的に注目を集めているスタンフォード大学フーバー研究所のニーアル・ファーガソン・シニアフェローとの懇談会を開催した。ファーガソン氏の説明の概要は次のとおり。

■ 米中による「冷戦2.0」の始まり

米中貿易交渉が短期的にどのように推移しようとも、中長期的に、米中両国が冷戦状態に向かっていることは間違いない。

2018年9月の制裁関税発動後、両国は12月にいったん休戦したが、合意に至ることはできず、19年5月に再び関税引き上げを実施した。このように、米中の貿易交渉は二転三転しており、先行きを見通すことは容易ではない。また、合意があると報道されても、強制的技術移転のような重要な分野については進展が見られない。将来の歴史家は、18年に「冷戦2.0」は始まったと振り返るかもしれない。

米中間の問題は関税にとどまらず、中国企業への機微技術輸出の厳格化、中国資本の対米投資の審査強化、米国政府年金基金の中国資産の購入の制限にまで広がっている。さらに米国議会は、中国の人権問題に対して態度を硬化させている。

米中間で実際の戦争が起きる可能性は低いにせよ、冷戦を構成するすべての要素がそろっていることに留意する必要がある。

■ 20年米大統領選

説明するファーガソン氏

では、この状態はどの程度続くと考えるべきだろうか。

下院では、トランプ大統領のウクライナ疑惑で弾劾訴追に向けた準備が進んでいるが(注)、共和党が過半数を占める上院の弾劾裁判で大統領が罷免される可能性は皆無である。裁判の影響を受け、来年の大統領選挙で無党派層の票が民主党に流れる可能性はあるが、激戦州の有権者の関心は低く、決定的な要素とはなるまい。

トランプ政権下では、家計賃金の伸びが医療費の増加分と貿易戦争のコストの合計を大きく上回っている。トランプ大統領の施策は平均的な米国民の生活を大きく改善させた。

対する民主党については、前年11月時点でトップの候補者が実際に指名を勝ち取ることは非常にまれであるため、現時点で指名候補を予測するのは難しい。ただし、同党が極端な左派の候補者を指名しない限り、大統領選挙が興味深い展開となることは必至である。

(注)12月18日、下院本会議にて弾劾訴追決議案が賛成多数で可決

■ 日本への期待

19年春に10年ぶりに日本を訪れ、日本の政治的・社会的な安定性に感嘆した。私が教鞭を執るハーバード大学で日本人留学生をめっきり見なくなったのも、日本が居心地よいからだろう。世界に類を見ない日本の安定性は過小評価されている。

米中が良好な関係を築いた日々は終わり、日本は再び、米国にとって最も重要な同盟国となった。中国の市場は大きいが、日本が経済的な損失を抱えることになっても、米国との安全保障上の関係を重視すべきである。安倍首相としては、トランプ大統領との良好な関係を活かし、米国一国のみで中国に対峙することの難しさを理解させることが重要ではないか。

【国際経済本部】

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