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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年10月1日 No.3469 ビッグデータと公的統計調査「作る・伝える・活かす」工夫 -経済財政委員会統計部会

経団連は9月3日、経済財政委員会統計部会(伊藤敦子部会長)をオンラインで開催し、経済産業研究所の小西葉子上席研究員(東北大学経済学研究科特任教授)から、公的統計におけるビッグデータの活用状況について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 経済産業省(METI)のビッグデータプロジェクト

METIは、令和元年度プロジェクトとして、「ビッグデータを活用した新指標開発事業(短期の販売・生産動向把握)」を掲げた。このプロジェクトの目標は、(1)作る=ビッグデータを活用した商業動態統計調査の基幹統計化(2)伝える=ビッグデータを活用した新指標を、広くユーザーに伝えるためのダッシュボードの公表(3)活かす=経済活動や暮らしに影響を与える事象を把握するための指標開発や分析――である。同プロジェクトでは、統計精度を向上させるとともに、報告者負担の軽減を行う観点から、調査票や提出方法、集計方法等のワークフローの見直しも行った。

■ 作る工夫

民間ビッグデータを公的統計の作成の一部に活用している事例は国内外で存在するが、国の統計調査を民間ビッグデータのみで作る取り組みは初となる。

同プロジェクトでは、基幹統計調査である商業動態統計調査のうち、家電量販店の販売動向をPOSデータで置き換えることを目指した。既存の商業動態統計調査との誤差を限りなく縮小させるため、POS保有事業者や報告者の協力を経て、品目の拡充や、POSデータにはないEC販売等の拡充を行った。こうした取り組みにより、2017年度の試験公開で基幹統計調査との乖離率が8.0%であったものが、18年度には0.3%まで縮小し、20年4月には基幹統計調査としてわが国初となる、POSデータを活用した「商業動態統計(丁2調査)」が実現した。

■ 伝える工夫

近年、統計調査の公表の際に、「BigData-STATSダッシュボード」を活用する事例が増えており、総務省や海外においても、指標をわかりやすく見せる工夫が施されている。

METIでは、19年11月からダッシュボードを開設し、POSデータを活用した各小売業態の商品別の販売動向(METI POS小売販売額指標[ミクロ])を週次で公表している。同指標は、12年から直近までのデータがすべて掲載されており、マクロの市場動向を把握可能である。

■ 活かす工夫

「POS小売販売額指標」は、消費税率引き上げや自然災害、新型コロナウイルス感染症による消費への影響等を把握するうえで、政府の月例経済報告やシンクタンクのレポート等で幅広く活用されている。

同指標は、月次で公表される商業動態統計調査に比べ、公表時期が早く、週次でデータが取得可能なことに加え、地域や詳細な品目ごとの分析が可能な点で優れている。各チャネルの販売動向(前年同週比)を見ると、例えば、消費税増税前後の家電の駆け込み需要やその反動減、台風発生時の食料品の買いだめ需要、新型コロナウイルス感染症拡大に伴うマスクの買いだめ需要等による動きも詳細に把握可能である。

POSデータ以外のビッグデータの活用事例として、Twitter、ブログなどのSNSとAIを活用した、「SNS×AI景況感指数」が開発されており、景気ウオッチャー調査の先行指標にもなっている。昨今のコロナショックにおいては、既存の統計だけでなく、新しい指標をいち早く活用し、足元の動向を把握することが重要である。

■ 今後の課題

公的統計調査をめぐる環境は、業態の変化等に伴う報告者の環境の変化に加え、統計作成現場の人員も不足し、ますます悪化している。経団連の提言(「公的統計の改善に向けた提言」16年4月)においても、データソースを家計や企業からの報告に依存した従来の方法だけでは、公的統計の質を維持することが困難だと指摘している。

今後、統計の質を担保していくためには、ビッグデータの活用等の先進的な取り組みにかかわる予算の確保等に加え、統計リテラシーを高める中長期的な教育も重要であり、産官学で公的統計の改善に取り組む必要がある。

【経済政策本部】

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