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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年1月14日 No.3483 ASEANの持続的な経済発展と産業協力の方向性について聴く

岩垂氏

経団連は12月22日、オンライン会合を開催し、桜美林大学の岩垂好彦准教授から、「ASEANの持続的な経済発展に向けての課題と、日ASEAN産業協力の方向性」をテーマに説明を聴くとともに意見交換を行った。概要は次のとおり。

■ 持続的成長に向けた諸課題

現在、ASEAN主要国は「中進国の罠」に陥っており、先進国入りする前に少子高齢化による人口ボーナス期(注)の終焉が懸念される。また、ASEAN諸国は、日本の経済発展の礎の一つである地方経済・産業の底力に乏しく、首都・大都市集中が進むなか、大きな地域間格差が生じている。質の高い通商ルールのもとで自国の産業技術力の向上を実現するのも容易なことではない。例えば、WTOルールにおけるローカルコンテンツ規制撤廃により、外資企業は現地企業の発掘・育成に対する動機付けを失い、グローバルサプライチェーンに参加できるような現地の中小企業が育ちにくくなっている。また、RCEPにおける技術移転の強要禁止等により、外資企業から現地産業界への技術移転が停滞する可能性も想定される。さらに、近年の経済成長の鈍化に伴う所得の伸び悩みは国内市場の停滞をもたらし、外需に活路を見いだそうにも厳しい状況が続く。

■ 産業発展のためのパラダイム・シフトの必要性

ASEAN諸国は外資依存が続く。例えば、一般財政の対GDP比が小さい国では国家主導の投資が難しく、引き続き外国からの投資やODAに頼らざるを得ない。一方で、為替や収益性を考慮すると、企業が工場を建設して操業する従来型の海外直接投資は期待できなくなりつつある。そこで、求められるのは「産業発展のパラダイム・シフト」である。現在、ASEAN諸国は、グローバル・バリューチェーンのなかで付加価値の低い工程を担うが、より付加価値の高い工程へ移行しなければならない。また、すでに製造業の多くの工程で進展する自動化やデジタル化を一層推進するため、人材育成を含む取り組みを強化する必要がある。

■ 日本はASEANと長期的発展シナリオを共有し、協力を

日本に対するASEAN諸国の信頼は、高い技術・品質や、約束の確実な履行、オペレーションからメンテナンスを含めた総合力に起因する。他方、遅い意思決定や高品質ゆえの高額な費用・価格など、不満や物足りなさもある。ASEAN各国の経済発展の段階や産業の特徴は多様であり、外資依存型の経済成長を続けてきたため、新しい産業発展に向けた科学技術・産業政策の策定に困難を生じる場合もある。日本には、相手国の経済政策の策定に協力し、SDGsの視点も踏まえつつ経済成長を支援し、同時に果実を得る取り組みの継続が求められる。わが国企業は、ASEANに抱く期待とASEAN自身の実態と志向にギャップがあることを正しく理解し、そのうえで、日本政府および現地の官民と相互に協力すれば、双方の企業の成長にもつながる。時代は、そのためのグランドデザインを描く構想力が求められる段階にある。

(注)人口ボーナス期=総人口に占める生産年齢(15歳以上65歳未満)人口の割合が増加する、または絶対的に多い時期。あるいは、総人口に占める従属年齢人口(15歳未満および65歳以上)が低下する、または絶対的に少ない時期を指す。一般に、これらの期間において経済成長が促される。

【国際協力本部】

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