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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年3月24日 No.3538 V4+日本~長い歴史と未来の科学研究協力への大きな可能性〈2〉 -ハンガリー~未来を牽引するバッテリー産業

中欧の地域経済枠組みV4(ヴィシェグラード・グループ)に参加するチェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキアと日本との間では、さまざまな分野での協力が進められている。V4諸国がイノベーション戦略に注力するなか、同分野における日本との協力強化が期待されている。そこで4カ国それぞれの科学技術政策の状況、日本企業との連携への期待等について、各在日大使館が紹介する。今回はハンガリー大使館より寄稿いただいた。

EUの排ガス規制強化が自動車産業に多大な影響を及ぼしている。とりわけハイブリッド車、電気自動車の市場が急速に拡大しているため、バッテリーの生産が追い付いていない。こうしたなか、ハンガリーは、投資優遇措置と優良な研究開発環境の提供を通じて、バッテリー分野での主役を目指す。

ハンガリーのバッテリー輸出量は現在世界約10位、2025年にはEU第3位になると予測されている。パルコビチ イノベーション担当大臣は「政府として将来的にEU第2位を目指す」と明言する。投資に対する支援策、研究開発体制も充実している。すでに同産業には企業等から総額2.8兆ハンガリーフォリント(HUF、約9800億円)が投じられている。また政府からも3080億HUF(約1078億円)の支援が追加された。同分野の投資増加率はハンガリー全体の産業のなかでも突出しており、さらなる投資も期待される。

同分野における日本からの最大の投資者は、GSユアサバッテリーである。同社は、初となる欧州工場を北部に建設するとともに、ハンガリー政府の支援を受けている。具体的には、20年12月末からミシュコルツ大学が主導する電動バスの試作品の研究開発に参画している。リチウムイオン電池を提供する一方、同社の技術者の要望に近隣大学のエンジニアが応えるかたちで進められているが、興味深いのは、必要なリチウムを温泉水から抽出することである。これは輸入依存度を軽減するだけでなく、持続可能な生産にも寄与することとなる。

グリーンフィールドで最大の投資を行っている東レの活動も際立っている。同社は、14年に米ゾルテック社の炭素繊維工場を買収したのち、18年には同工場での生産能力を倍増させる投資を行った。これによって、同工場は欧州最大の製造拠点となった。加えて同工場では、製品ラインアップの拡大後、リチウム電池の製造用セパレータフィルムを生産するために二度の投資が行われた。

バッテリー分野の投資について、政府の支援や投資環境に対する満足度も高い。同一投資者が再投資の際により多額の資金を投入したかどうか、より広範囲の建設がなされたかどうかが、その判断の指標となり得る。工場建設にはバッテリーの生産に不可欠な電解液、ホイル、部品工場など、各種の小規模な投資が伴うなか、こうした工場等の建設はもちろん、すでに使用済み電池の二次的材料としての活用、電池としての再利用工場の稼働が進められている。

このような部材を供給する中小企業にとって、特に重要なことは、イノベーションの創出につながる環境である。新しいエコシステムに革新的に対応できる企業こそが、産業のニーズに応えて成功していく。この点についても、政府の「大学イノベーションエコシステムプログラム」が、大学の知的財産の活用、企業との連携の支援を通じて、これを後押しする。大学との協力においては、独自に研究開発能力を持つ革新的なシステムインテグレーター企業が非常に重要な役割を果たし、産業界に複合的な解決策を提供することとなろう。

20年、イノベーション・テクノロジー省の主導により、ハンガリーバッテリー協会が設立された。21年には「国家バッテリー産業戦略」を策定した。この戦略の要は、新たな技術者教育研修により人材確保を安定させるとともに、技能と人件費の両面で競争力のある技術者を輩出することである。

欧州内でドイツのプレミアム自動車メーカー3社がそろって進出済みなのはハンガリーである。また、スズキ、ステランティスなどの自動車メーカーに加え、10億ユーロを投じて建設されるBMWの新工場や新規バッテリーメーカーも、日本のサプライヤーの進出を待ち望んでいる。ハンガリーとしても、前述のとおり、充実した政府支援、高いエンジニアリング技術、および協力的な研究開発環境を用意して待ち受けている。ノウハウと技術力を有し、付加価値の高いハイテク企業の積極的な投資をお願いしたい。


V4+日本~長い歴史と未来の科学研究協力への大きな可能性(全5回)
〈1〉V4諸国の科学技術政策の概要
〈2〉ハンガリー~未来を牽引するバッテリー産業
〈3〉スロバキアと日本の科学技術協力
〈4〉チェコ~活発化する日本との科学技術提携
〈5〉ポーランド~日本の戦略的研究プロジェクトを支える研究者たち

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