Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年6月2日 No.3546  D2C戦略による生活サービス産業の変革 -生活サービス委員会企画部会

森氏

経団連は4月25日、生活サービス委員会企画部会(河本宏子部会長)をオンラインで開催した。FABRIC TOKYOの森雄一郎CEOから、同社の事業の概要や、メーカーが消費者とダイレクトに取り引きする販売手法である「D2C (direct to consumer)」の特徴等について聴くとともに懇談した。概要は次のとおり。

■ 事業概要

当社は、2012年の創業以来一貫して「Lifestyle Design For ALL」をテーマに、誰もが自分らしいライフスタイルを自由にデザインできるオープンな社会を目指してきた。体型だけではなくライフスタイルにフィットしたカスタムウエアを提供する「D2C」アパレルブランドとして事業を展開している。

オンラインを主軸とした事業モデルであり、顧客の大半は店舗を採寸とデータ保存の場として活用し、ECサイト上でオーダースーツを購入している。中間流通がないことで価格面だけでなく、オーダー製品発注に対して時間的な制約やハードルの高さを感じる若年層の支持を得て、コロナ禍においても、前年比1.8倍の受注数を達成した。

■ ブランドの哲学

持続可能な社会の実現に向けて、環境に配慮した取り組みを進めている。購買データから、環境意識の高まりが把握できたことから、配送時のハンガー等のプラスチック製品の同梱を選択制に切り替えた。また、ボタンについても自然由来のものをデフォルトとした。

ダイバーシティ&インクルージョンにも注力している。生地から製品化まで関わる多様な社員の思いを知ってもらえるよう、ウェブサイト上に作り手の情報を掲載しているほか、知的障がいがあるアーティストとのコラボレーション、身体的な障がいがある方でも楽しめる店舗づくり、あらゆる性別の方がメンズスーツをオーダーできるイベントの開催などに取り組んでいる。

■ D2Cの特徴と今後の見通し

消費者の価値観や購買基準が多様化しているなかで、「D2C」は、顧客との直接的なコミュニケーションが可能となることから、変化に迅速に対応できるビジネスモデルとしての強みを有している。自らがメーカーであり、オリジナルブランドを持ちながら、デジタルマーケティングを駆使することで、顧客への直接的な魅力の訴求だけでなく、ニーズやサービスの課題等の即時把握、さらにはその改善も行える。D2C企業は小売業ではあるが、その実態はテックカンパニーである。

今後は、デジタルトランスフォーメーション(DX)によって小売業がサービス業となる「RaaS (Retail as a Service)」が話題になるだろう。これは、商品を販売した時点から顧客との関係が始まり、継続してサービスを提供していくモデルを指す。当社では、洋服の購入を起点に、お直しや保管、クリーニング、着こなしアドバイス等、着用に際して発生する課題解決のサービス化を進めている。短期的な売り上げの追求は価格競争にさらされることから、商品本来の価値を維持できなくなり、顧客が離れてしまう。中長期的な関係を築き、ブランドのコアなファンを増やすことが今後の事業の要点になるだろう。

【産業政策本部】