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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年6月30日 No.3550 報告書「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」 -21世紀政策研究所研究主幹(第一生命経済研究所首席エコノミスト) 永濱利廣

わが国経済は長きにわたり低迷している。政府は、幾度となく成長戦略を取りまとめ、その実行に努めてきたが、低成長から一向に抜け出せていない。長期低迷から脱し、経済を成長させ、国民生活を向上させていくためには、従来型の思考にとらわれず、抜本的な検討が必要ではないか――。

こうした問題意識から、21世紀政策研究所は「経済構造研究会」を立ち上げ、気鋭の若手エコノミスト・研究者が、経済財政政策や企業行動のあり方をめぐって自由闊達な議論を重ねてきた。6月2日、その成果を報告書「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」として取りまとめ、公表した。本稿では、報告書の要旨を紹介する。

■ 長期低迷の要因

図表1 現状分析のイメージ

わが国の長期低迷の背景には需要不足と中間層衰退の悪循環がある(図表1参照)。マクロ経済では所得が増えなければ支出は伸びず、支出が伸びなければ所得も増えない。日本の中間層は所得が伸びるどころか減少しており、消費を増やす余力はない。

悪循環の最大の原因は従来型の成長戦略が志向した緊縮的な財政運営にある。成長に必要な財政支出がなされず、マクロ経済が支出と所得(分配)の両面で下押しされ続けた。

他方、企業においては、需要不足による国内マーケットの縮小を受けて、設備投資を減らし海外進出を進めたが、それがさらなる需要不足を招いてしまい、賃金も低迷が続いた。また、各地域における財政支出を通じて供給される資金が、最終的に東京等の本社へと流出してしまい、その地域の発展に十分に寄与していないという問題もある。

■ 悪循環の打破

図表2 政策提言のイメージ

悪循環を打破するには、経済が正常化するまで積極財政を継続しなければならない(図表2参照)。これまで政府債務の拡大を理由に緊縮的な財政運営がなされてきた。しかし、政府債務(負債)の裏には必ず資産がある。事実、政府債務が拡大するなかで民間金融資産も増加を続けてきた。日本で財政危機が生じる可能性は極めて低い。政府支出の制約となるのはインフレであり、相対的に低インフレの続く日本では財政支出の余力は大きい。

必要なのは政府投資の活性化である。デジタルやグリーンによる社会革新を推進するほか、ウクライナ危機によって明らかとなったエネルギーや食料の安全保障などの課題解決に向け、政府は積極的に投資すべきである。こうした投資は、成長力を強化するとともに、足元のエネルギーや食料価格の高騰によるコストプッシュ型インフレの抑制にもつながる。

中間層復活のためには、財政支出による需要増加を賃上げにつなげる必要がある。高圧経済(経済の過熱状態をしばらく容認すること)を形成し、労働需要を積極的につくり出すほか、公共部門の賃上げや雇用拡大を進め、民間部門に賃金上昇圧力をかけることも有効だろう。さらに、日本各地で財政支出によって供給された資金を、それぞれの地域内で循環させる観点から、地域経済の活性化を進めることも重要である。

経済正常化まで積極財政を続けることでマクロ経済が好転すれば、日本企業も投資の拡大や賃上げを迫られる。消極的な企業は成長機会を逸し、人材確保もままならなくなる。

日本を成長軌道に戻し中間層を復活させるため、新たな経済財政運営へとかじを切らなければならない。

※ 報告書「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/220602.pdf

【21世紀政策研究所】

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