Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年7月14日 No.3552  宇宙安全保障をめぐる課題 -宇宙開発利用推進委員会企画部会・宇宙利用部会

片岡氏

経団連は6月23日、宇宙開発利用推進委員会の企画部会(原芳久部会長)と宇宙利用部会(山品正勝部会長)の合同会合を東京・大手町の経団連会館で開催した。IHI顧問で日本宇宙安全保障研究所副理事長・元防衛省航空幕僚長の片岡晴彦氏から、宇宙安全保障をめぐる課題について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ ロシアのウクライナ侵攻における宇宙利用

ロシアはウクライナ侵攻において、ウクライナ軍からの予想外の反撃に苦戦している。その要因の一つは、米国やNATO(北大西洋条約機構)諸国が、宇宙からウクライナを支援していることである。米国がリアルタイムの衛星情報を提供することで、ロシア軍の配備状況が把握できる。

宇宙からのデータを含めた情報戦が行われるなかで、安全保障領域における商業宇宙活動の重要性が明らかになった。例えば、米国企業のPlanet Labsの光学小型衛星の画像により、ロシアの戦闘機の配備が確認されている。

米国の情報機関は、ウクライナを支援するために商用衛星画像情報の調達量を急速に拡大している。米国家偵察局は2022年5月、衛星画像会社3社から10年間にわたり数千億円相当の光学衛星画像を調達する契約を締結した。

一方、ロシア軍はすでに米国のGPS(全地球測位システム)に対する電波妨害や、ウクライナの地上インフラに対するサイバー攻撃を実施している。安全保障分野で商業衛星を利用する際には、レジリエンス(注)の向上が必要になる。

今後、ロシアは中国との宇宙協力を強化していく見込みである。米国を中心に多国間協力を進めて宇宙での抑止力と対処力を強化し、装備の開発や導入のスピードを加速させる必要がある。

■ わが国の宇宙安全保障をめぐる重要課題

宇宙基本計画の工程表が21年12月に改訂され、22年末に策定される新たな国家安全保障戦略と整合性が図られる。わが国のみで宇宙領域に適切に対応することは困難であり、宇宙安全保障の確保に向けて解決すべき課題は多い。

わが国の宇宙戦略では、米国や西側諸国との協調を基本としている。宇宙安全保障戦略を新たに策定し、宇宙抑止の基本などを規定することが急務であり、宇宙領域における自衛権のあり方についても議論する必要がある。

特に、宇宙領域における日米防衛協力を進める必要がある。22年5月の日米首脳会談における共同声明では、宇宙領域における協力を加速させることが明記された。中国やロシアの脅威に対して、日米や多国間で効率的に対処するため、役割分担を定めることが必要になる。

最大の課題は、桁違いのスピードで進む技術革新への対応である。大型・高価で、機能が集中し過ぎた衛星を開発するより、小型・安価で機能を分散した衛星を3~4年のサイクルで開発して配備していくべきである。

政府は22年度に、小型衛星コンステレーションの構築に重点的に取り組む。衛星コンステレーションを活用して、海洋状況把握の強化と陸域への拡大、ミサイル防衛、日米間でデータを共有する衛星通信ネットワークやシステムの構築に挑戦すべきである。

(注)宇宙システムの機能を継続的かつ安定的に利用できる能力

【産業技術本部】