Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年7月21日 No.3553  ブレマー ユーラシア・グループ社長との懇談会を開催 -国際情勢について議論

ブレマー氏

経団連は6月29日、東京・大手町の経団連会館でユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長との懇談会を開催した。現在の国際情勢等に関する説明を聴くとともに意見交換した。ブレマー社長の説明の概要は次のとおり。

■ ロシアのウクライナ侵略

プーチン大統領は、ウクライナ侵略前の状況をチャンスととらえていた。この判断は誤りだったが、米仏独等のリーダーらも開戦前はウクライナを重視する姿勢はみせず、プーチン大統領に「Gゼロの世界(主導国なき世界)にいる」とのメッセージを与えていた。

ウクライナの状況は膠着し、来年はロシアとウクライナの関係よりも、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)・米国・G7の関係について議論しているだろう。ロシアはサイバー攻撃、ディスインフォメーション、スパイ活動を行ってくる。

欧州は、景気後退の可能性があるなかでも、ロシアとの経済的なつながりを断とうとしている。一度断てば、元に戻ることはないだろう。地政学的な状況は、ベルリンの壁が崩壊して以来の速さで劇的に変化している。

■ 米国の状況と米中関係

私がユーラシア・グループを立ち上げた1998年には、世界の国々は米国を民主主義国家のモデルとみなしていたが、今では違う。米国は一貫したリーダーシップを発揮できていない。

今年、米中関係について重要なニュースがあるとすれば、関税の撤廃だろう。インフレが発生し、政権への支持率が下がるなかで、バイデン大統領は、中国と戦うのではなく、関係を正常化させようとしている。中国も米国と戦おうとしていない。

台湾に関し、ウクライナ侵略による中国への教訓は「非常に慎重にならなければいけない」ということだ。台湾の今後5年における最大の懸念は、中国ではなく、米国が変容することである。2024年の米国の大統領選挙で選挙の正当性をめぐり対立が発生し、大統領が決まらないといった憲法上の危機に陥った場合、米国は国内問題にしか注目しなくなり、中国はこれをチャンスととらえるだろう。

■ Gゼロ後の世界

Gゼロの世界では、バランス・オブ・パワーが崩れ、大きな危機が発生する。ウクライナ戦争、気候変動、革新的な技術により発生した危機の結果、Gゼロ後の世界が生まれる。

日本は、Gゼロ後の世界でより大きな役割を担うことになるだろう。人口が減少し、経済力も下がるとみられているが、米国を頼れない世界のなかで、成長の源泉となるアジアで最も重要な民主主義国家である。

Gゼロ後の世界ではEUの重要性も高まる。さらに、政府のみならず、テック企業をはじめ産業界も重要な役割を担うだろう。新しい国際秩序のステークホルダーは政府だけではない。経団連も、経済団体にとどまらず、一層政策的な組織になるのではないか。

10年にわたりGゼロの世界について議論してきたが、ようやくGゼロ後の世界がみえるようになってきた。危険ではあるが有望な世界だ。

【国際経済本部】