Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年9月8日 No.3558  裁量労働制 好事例セミナーを開催<上>

藤田氏

経団連は8月5日、「裁量労働制 好事例セミナー」を開催した。四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎氏、川崎重工業人事本部人事労政部労政課長の鈴木健朗氏、トヨタ自動車人事部労政室長の鬼村洋平氏が登壇した。同セミナーの模様を2回にわたり報告する。今号では、藤田氏による裁量労働制の制度概要と課題に関する説明を紹介する。(2社の取り組みと、パネルディスカッションの模様は次号掲載)

■ 裁量労働制の基本事項

裁量労働制は労使で定めた時間労働したものとみなす制度であり、実労働時間数ではなく労働の質や成果による処遇を可能とする。

裁量労働制には専門業務型と企画業務型の2種類がある。専門業務型は、新商品・新技術の研究開発など省令に限定列挙された19の専門業務が対象となる。専門業務型を適用するためには、労使協定の締結が必要となる。一方、企画業務型は、自社の事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査および分析に常態として従事する業務が対象となる。適用するには労使の複数名ずつ、かつ労働者代表委員が半数以上を占める労使委員会での決議が必要となる。

また、使用者は、裁量労働制適用者に、業務の遂行方法や時間配分等に関する裁量権を与えなければならない。このため、適用者については、例えば大卒後3年から5年以上の職務経験を経て、対象業務を適切に遂行できる知識・経験等を有していることが適当である。また、業務量や納期が原因で時間配分の裁量が実質的に失われているような場合には、労働時間のみなし効果が発生しないことに注意を要する。

■ 裁量労働制における課題

わが国では、働き手の労働生産性の向上が喫緊の課題である。労働時間等の労働投入量の削減だけでなく、アウトプット(付加価値)の最大化が必要であり、その実現には「働きがい」や「働きやすさ」の向上が不可欠である。裁量労働制は、時間にとらわれない働き方を促進するとともに、労働時間と成果が比例しない業務に従事する労働者にとって、創造的な発想で大きな成果を生み出しやすい制度といえる。

2021年6月に厚生労働省が公表した「裁量労働制実態調査」では、裁量労働制適用者の8割以上が制度適用に満足またはやや満足と回答している。裁量労働制の適用により労働時間が著しく長くなるとか健康状態が悪化するといった影響があるともいえない。適切に適用、運用がなされれば、労使双方にとってメリットのある制度である。しかし、現状、適用労働者の割合は、専門業務型が1.2%、企画業務型が0.3%と非常に少ない。その主な原因は、対象業務の狭さにある。特に企画業務型は、企画・立案・調査および分析の業務に「常態として」従事することが必要だが、ホワイトカラー労働者の業務が多様化、複合化するなか、現行制度に合致する労働者は極めて限定的である。例えば、(1)事業の運営に関する企画・立案・調査および分析を主として行いつつ、実際の現場での運用やその結果の評価まで一体的に実施するような「裁量的にPDCAを回す業務」(2)法人顧客の事業の運営に関する企画・立案・調査および分析を主としつつ、当該顧客に商品または役務を開発・提案する「課題解決型開発提案業務」――を企画業務型の対象業務に追加する議論が加速することを強く期待する。

【労働法制本部】