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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年11月10日 No.3566 政府の新型コロナ対策に係る法的論点等 -危機管理・社会基盤強化委員会企画部会

磯部氏

経団連は10月24日、東京・大手町の経団連会館で危機管理・社会基盤強化委員会企画部会(工藤成生部会長)を開催した。慶應義塾大学大学院法務研究科の磯部哲教授から、政府がこれまで講じてきた新型コロナウイルス感染症対策や、感染症法等の改正に盛り込まれる措置に関する法的な論点について、説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。

■ 憲法を中心とする国内法の体系

近代の「立憲主義」的意味の憲法は、「基本的人権の保障」「権力分立と法治主義の保障」の二つがあって初めて機能する。基本的人権がしっかりと保障されているのか、行政の行き過ぎを立法府や司法がコントロールできているかが重要である。

このうち人権保障では、ロックダウンに関する議論の際に持ち上がった移動の自由のほかにも、予防接種に係る人体の不可侵、ワクチン接種記録等個人情報に関するプライバシーの保護、営業自粛・休校措置による職業活動の制約、学ぶ機会を奪われた人に対する救済など、多くの論点が立ちどころに挙がってこよう。措置や制約に対する補償、憲法との兼ね合いを本来は一緒に議論すべきだったが、十分ではなかった。

■ 法治主義と行政活動

法治主義の原則として、行政活動は法に従って行わなければならないが、コロナ禍で政府が講じてきた感染症対策において、この考え方が軽視されていると思われる事例がみられた。

例えば、感染症発生時と緊急事態宣言時の中間段階であるはずのまん延防止等重点措置時において、緊急事態宣言下でなければとれない措置とほぼ同様のものが、政令から委任された厚生労働省の告示によって実施できるようになった。具体的には、一部都道府県で発動された「酒類提供停止要請」のように、緊急事態宣言下でのみ発動し得る「休業」要請と事実上同様の効果を得る措置が講じられた。まん延防止等重点措置については、法律上その内容、期間、範囲等に関する限定はほとんどない。措置の必要性や内容の相当性を担保する仕組みを早急に整備する必要があると考える。

また、入院が必要な患者等に自宅やホテルで宿泊療養をさせたり、医師や看護師が業務独占しているはずのワクチン接種を歯科医師や救急救命士等に認めたりするなど、さまざまな措置が法律の委任なしに、通知の発出により実行された。予見し得ない例外的な事態に対し、これらは現実問題として妥当であったとしても、あらかじめ法令上許容されていない措置は法治主義に反する。本来、例外時の措置をとる根拠を事前に与え、明示しておく必要があり、平時からの備えがなっていなかったといえる。

目的の達成に対する制約の手段が大きすぎてはならないという「比例原則」の観点から、罰則等の要否についても考える余地がある。例えば、昨年の感染症法改正では入院の勧告・措置や積極的疫学調査に応じない場合に過料を科すこととした。今般の感染症法改正でも、政府は平時から病院との間で病床や発熱外来等に関する協定を結び、感染症発生・まん延時に協定に沿った措置を講じるように勧告、指示をしたうえで、指示に応じない場合は病院名を公表するという方針である。罰則による威嚇で、患者の入院を促すことにつながるのか。公表という措置は、信用第一の医療機関にとって、社会的制裁として重い部分もある。政策的合理性と実効性とを担保するために、罰則や補償の要否、新たな実効性確保手法の検討等、代替案を含めて議論する必要があろう。

◇◇◇

講演後、業界別ガイドラインのあり方や国と地方の責任分担等について活発に議論した。

【ソーシャル・コミュニケーション本部】

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