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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年12月1日 No.3569 わが国の危機管理体制のあり方 -尾身結核予防会理事長から聴く/危機管理・社会基盤強化委員会

尾身氏

経団連は11月10日、東京・大手町の経団連会館で危機管理・社会基盤強化委員会(永野毅委員長、相川善郎委員長、安川健司委員長、渡邉健二委員長)を開催した。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会長を務める尾身茂結核予防会理事長が、わが国の新型コロナウイルス対策の評価や、今後求められる司令塔機能等についてビデオ講演した。概要は次のとおり。

■ わが国における新型コロナ対策の評価

わが国の人口当たりの死亡者数は諸外国のなかで最低水準である。要因として、医療従事者の献身的な努力、一般市民による協力、政府・自治体が繰り返したハンマー&ダンス(対策強化と緩和の繰り返し)によるところが大きい。

一方で、多くの課題も浮き彫りになった。その一つが準備不足である。「新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議報告書」(2010年6月)では、リスクコミュニケーションのあり方や保健所の機能強化、国と専門家の役割の明確化等、現在問題になっているさまざまな課題に対する提言がなされていた。しかし残念なことに、ほとんどの教訓が活かされずに今般のコロナ禍を迎えてしまった。また、数度にわたって実施された行動制限を伴う措置により、人々の生活や社会経済活動、若い世代を中心に多くの人々のメンタルに大きな負担がかかったことも紛れもない事実である。今後の感染症対策においてこれらをいかに防ぐかも課題である。

■ 政府と専門家助言組織との関係

今回のコロナ禍において、われわれが出した提言の多くが採用された一方、政府と専門家の意見が異なり、採用されなかったこともある。もちろん、専門家の意見を踏まえたうえで最終的な判断をすべきは政府である。専門家と意見が異なることは当然あり得るが、政府は提言採否の最終判断に至った理由をしっかりと説明する責任があったと思う。今回、それがなかなかうまくいかなかった。また、専門家との連携がないままに政府の対策が決定されたケースもある。専門家と政府の関係に一貫性がなかったこと、提言の結論にばかり関心が集まり、われわれが出した提言の根拠として示している考え方やデータについてはあまり議論がなされなかったことが残念である。

■ 今後求められる司令塔機能

感染症対策立案に関わるプレーヤーは、(1)司令塔(2)調整役(3)分析・立案部隊――の三つである。(1)については、今後設立される「内閣感染症危機管理統括庁(仮称)」が主体となり、有事において政策の最終決定、リスクコミュニケーション、進行中の調査・研究開発の全体像を把握すべきである。(3)については、政府への助言組織として、(a)設立予定の「日本版CDC(仮称、疾病予防管理センター)」を中心に、感染症対策に実績のある医療機関・組織、災害医療の専門家に加え、自治体で対策の実行に携わっている専門家や社会経済、工学、IT等さまざまな分野の専門家等によるネットワークを構築する(b)有事の際に、対策の立案・修正に必要な調査・研究、リスクの評価、ワクチン・治療薬・診断キットなどの研究開発を行う――こととすべきである。そのうえで、厚生労働省の感染症対策部(仮称)を(1)と(3)の調整役と位置付けるべきである。

これらが有効に機能するには、普段から関係者間で「有事のあるべき姿」「専門家ネットワーク」および「R&D関係ネットワーク」について、合意・構築しておく必要がある。さらに、リスクコミュニケーションを推進し、研究開発での成果を感染症対策・政策決定に活かせるような、感染症、疫学、公衆衛生に関わる人材、研究者を常時、育成しておくことが肝要である。

◇◇◇

懇談後、提言「司令塔機能を強化し、新たな感染症に備える」11月24日号既報)を採択した。

【ソーシャル・コミュニケーション本部】

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