1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2023年3月2日 No.3581
  5. わが国の長期停滞と今後のマクロ経済政策

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年3月2日 No.3581 わが国の長期停滞と今後のマクロ経済政策 -福田東京大学大学院教授から聴く/経済財政委員会企画部会

福田氏

経団連は2月10日、経済財政委員会企画部会(中島達部会長)をオンラインで開催した。東京大学大学院経済学研究科の福田慎一教授から、「わが国の長期停滞と今後のマクロ経済政策」について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 日本経済の長期停滞と資金フローのあり方

日本経済は、1990年代初頭のバブル崩壊後から長らく停滞が続いた。2000年代には金融セクターの改革が進んだ半面、非金融セクターの改革は不十分であり、デフレや賃金の問題も顕著になった。12年以降、アベノミクス効果で多くの経済指標が改善したが、成長戦略の実行は道半ばとなり、潜在成長力は停滞した。

資金フローのあり方にも問題がある。望ましい資金フローは、家計セクターから金融機関へ、そして成長を支える民間非金融法人へと流すことである。しかし、この流れはバブル崩壊後に途絶えた。現在も、家計セクターは多額の金融資産を保有し、資産の半分を金融機関に預けている。その多くは政府セクターに向かっており、政府の赤字を支える構図となっている。

資金フローを改善し、経済成長の源泉となる民間の非金融法人に資金が流れるようにするためには、民間の資金需要増加と家計の資金運用活性化、政府の財政赤字解消が必要である。日本の政府債務(対GDP比、ネット)は、ギリシャやイタリアと同程度である。加えて、日本では、貯蓄超過と金融緩和により、国債残高が増加する一方で利回りは低下しているが、それによって資金フローが大きく歪んでいる。

■ 足元でのマクロ環境の転機

足元のマクロ経済環境は、22年の為替変動や賃金引き上げの動き、物価上昇、23年の日銀総裁の交代など、大きな変化がみられる。今後も物価と賃金の上昇が続くと、国債の利回り上昇が想定される。可能性は低いものの、国債の利回りが急騰するリスクにも常に備える必要がある。

国際通貨基金(IMF)が1月に発表した「対日経済審査に関する声明」のなかに、日本の金融政策に対する提言がある。そのうち、「長短金利操作(イールド・カーブ・コントロール)における長期金利の変動幅拡大」と「金利操作対象の変更(年限の短期化)」に賛同する。仮に金利操作の対象を5年債までの期間に短縮したとしても、設備投資を促す効果はさほど変わらないと考える。ただし、実施にあたっては金融市場への影響に留意が必要である。

日本も物価上昇に直面しているが、欧米のインフレと比較して限定的である。輸入価格の上昇を国内販売価格に十分転嫁できておらず、賃金も物価上昇に追い付いていない。当面2%のインフレ目標は堅持されるだろうが、金融政策だけではデフレマインドを変えることはできない。

■ 今後求められる構造改革

デフレマインドを転換するためには、構造改革による将来不安の払拭が重要となる。特に求められる構造改革は、急速な少子高齢化と財政赤字の累積への対応である。前者については、これまで高齢者・女性の労働参加が生産年齢人口の減少を補ってきたが、出生率の改善、外国人労働者の活用などが一層求められる。後者については、社会保障制度を「中福祉・低負担」から「中福祉・中負担」へと改革する必要がある。

構造改革を進めるうえでは、中長期的な視点を持ち、ワイズスペンディングを徹底することがポイントとなる。新陳代謝がなければ経済は成り立たない。今こそ、将来を見据えて、優秀な企業と人材を伸ばす改革を行う必要がある。適切な経済政策を講じることで、潜在成長率1%への上昇は実現可能である。

【経済政策本部】

「2023年3月2日 No.3581」一覧はこちら