1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2025年6月5日 No.3685
  5. 十倉会長総会あいさつ

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年6月5日 No.3685 十倉会長総会あいさつ

定時総会の開催に当たり、ひと言ごあいさつ申し上げます。

今から4年前の2021年6月に経団連会長に就任し、一貫して強調してきたキーワードは、from the social point of view(社会性の視座)です。より良き社会なくして経済は成り立ち得ない。この基本的な考え方のもと、行き過ぎた市場原理主義がもたらす大きな二つの弊害、一つは地球温暖化に代表される「生態系の崩壊」、いま一つは「格差の拡大・固定化・再生産」、この二つの是正に取り組んでまいりました。

「生態系の崩壊」に対し、経団連は22年5月に提言「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」を取りまとめました。政府はこの提言を全面的に取り入れ、官邸会議「GX実行会議」を設置するなどGX推進に向けた数々の政策を、矢継ぎ早に具体化していただきました。

いま一つ「格差の問題」には、23年4月に報告書「サステイナブルな資本主義に向けた好循環の実現」をまとめ、「分厚い中間層の形成」を提言しました。

そして24年12月、経団連の議長、副会長、副議長の皆さまとのかんかんがくがくの議論を経て、日本のあるべき経済社会の姿を描く「FUTURE DESIGN 2040」(FD2040)を公表しました。

わが国は克服すべき二つの課題、すなわち「少子高齢化・人口減少」と「資源を持たない島国」に直面しています。FD2040では、これらの課題克服を前提とした経済社会の姿、いわば、わが国が避けては通れないパスウエーとして「科学技術立国」と「貿易・投資立国」を掲げました。その基盤となるのは「公正・公平」で「持続可能」な社会であり、その実現には「成長と分配の好循環」の実現が不可欠であると強調しています。

成長には、国内投資と個人消費の拡大が必要です。経団連は国内投資の拡大に向けて、GX、デジタルトランスフォーメーション(DX)、スタートアップ、科学技術・イノベーション、地域活性化等に取り組んでまいりました。

なかでも、GXの推進は、単に温暖化対策にとどまらず、国内投資を促すわが国成長戦略の要です。ゼロエミッション電源の確保に向けて、再生可能エネルギーを最大限活用しつつ、原子力を含む核エネルギーの利活用が必須であり、そのためには既存原子力発電所の再稼働や、原発の新増設・リプレースはもちろんのこと、核燃料サイクルの確立、最終処分場の確保などバックエンドの問題にも取り組まなければなりません。さらには、高温ガス炉・高速炉など次世代革新炉の開発や、核融合の開発も急がれます。

また、個人消費の拡大に向けて、経団連は「構造的な賃金引き上げ」を目指し、23年を「起点」、24年を「加速」、そして、25年を「定着」の年とすべく、全力で取り組んでまいりました。その結果、3年続けて約30年ぶりの高水準の賃金引き上げが実現しているところです。

しかしながら、個人消費の拡大には、単に賃金を引き上げれば良いというわけではありません。賃金引き上げが、貯蓄ではなく、消費に回る必要があります。そのためには、「公正・公平」で「持続可能」な全世代型社会保障改革を通じた、国民の漠とした将来不安の解消が不可欠です。しかも、社会保障改革は「分配」政策であり、少子化対策でもあり、労働参加を促す政策でもあります。さらに言えば、社会保障の財源論は「財政の問題」そのものであります。したがって、全世代型社会保障改革に向けた「税と社会保障の一体改革」に早急に取り組まなければなりません。

一方、世界に目を転じれば、米国の関税措置など国際情勢は混迷を深めています。「資源を持たない島国」であり、欧米や中国のように巨大なホームマーケットを持たないわが国は「貿易・投資立国」で生きていかなければならず、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を訴える必要があります。同志国と連携し、自由貿易体制の維持に向けて、日本が主導的な役割を果たしていくことが重要です。

こうしたなか、経団連は民間経済外交に注力してまいりました。お隣り韓国との関係では、未来志向の日韓関係構築に向け、23年に日韓・韓日未来パートナーシップ基金を設立するなど両国関係のさらなる深化に貢献してまいりました。また、米国、欧州、中国も訪問し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を強調してきたところです。

こうした「貿易・投資立国」も、その基盤として「科学技術立国」なくして成り立ち得ません。わが国の研究力の抜本的な強化が急務です。厳しい状況にある若い研究者に対して「金と時間で苦労をさせない」。この考えのもと、政府は、科学研究費助成事業、いわゆる科研費の早期倍増などに果敢に取り組むべきと考えます。

さらに、「人口減少・少子高齢化」が進むなかにあって、既存の地方自治体での取り組みには限界があります。都道府県の枠組みを超えた広域ブロック、いわゆる道州圏域ごとに、その特性を生かしながら独自の施策を展開し、切磋琢磨していくことが肝要です。まずは、この道州圏域において、経済・産業や大学改革、防災・減災など具体的な分野で連携を進める必要があります。

そして、私が博覧会協会の会長を務めております、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が、幾多の困難を乗り越え、無事に開幕を迎えることができました。皆さまには、会場建設費の寄付、前売り入場券の購入、全国的な機運醸成など、多大なご協力とご貢献をいただき、心よりお礼申し上げます。開幕以来、私もたびたび会場に足を運んでおりますが、一度ではとても回り切れません。ぜひ、皆さまも会場にお越しいただき、世界を、そして未来を体感していただきたく存じます。

私は、本日、経団連会長を退任いたします。世の中を見渡せば、分断・対立が一層深刻化し、混迷の時代を迎えています。なぜ、このような状況になっているのか。その根底には「格差の問題」に対する、人々の怒り、不安があるように思えてなりません。では、われわれは何をすべきなのか。キーワードは「成長と分配の好循環」の実現です。持続的な成長なくして、われわれの経済社会は成り立ち得ません。しかし、「成長」だけで全てが解決するわけではありません。同時に「分配」の議論なくして、持続的な成長は実現しないと考えます。その意味でわが国は、「税と社会保障の一体改革」、これに真正面から取り組まなければなりません。

最後に、会員の皆さまのご支援・ご協力に心から感謝を申し上げ、そして、筒井新会長への変わらぬご支援・ご協力をお願い申し上げまして、私からのごあいさつとさせていただきます。

「2025年6月5日 No.3685」一覧はこちら