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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー 提言「ポスト京都議定書の新たな国際枠組の構築に向けて」

2011年9月15日
(社)日本経済団体連合会

1.はじめに

気候変動は人類の生存基盤に関わる地球規模の課題である。わが国はこれまで温室効果ガスの排出削減に真剣に努力し、着実に成果を上げてきた。しかし、一部の限られた国の努力には限界がある。1997年12月に採択された京都議定書は気候変動対策の具体的一歩としての意義はあるものの、削減義務を負う国が限られ、議定書発効後も世界の温室効果ガス排出量は増加している。

今こそ北海道洞爺湖サミットで合意された「2050年世界半減」目標#1の実現を目指し、全ての先進国と経済成長著しい新興国・途上国を含む、あらゆる主要排出国が参加する、単一で公平な国際枠組を構築しなければならない。気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)におけるカンクン合意#2は、その重要な礎として高く評価できる。

しかし、各国間の意見対立が先鋭化し、その後の国際交渉が行き詰まる中、新たな国際枠組の合意の目途は立っていない。こうした状況下、経団連として、ポスト京都議定書における削減行動の空白が回避されることを期待し、以下の提言を行う。

2.合意すべき国際枠組の在り方
-全ての主要排出国が参加する単一の国際枠組-

全ての主要排出国が参加する公平かつ真に実効ある国際枠組を構築する上で現実的かつ有効なアプローチは、カンクン合意に基づくボトムアップ型のプレッジ・アンド・レビュー#3方式である。これは、各国が自ら取り組む目標を国際的に約束し、その達成度合いを国際社会が評価、検証する仕組みである。

京都議定書の第一約束期間(2008~2012年)において温室効果ガスの削減義務を負う国は、日欧など現在の世界全体の排出量の27%しかカバーしておらず、2050年には2割を下回ると見込まれている。このまま第二約束期間の設定という形で京都議定書がひとたび延長されれば、削減義務を負う国が固定化し、義務を負わない国々からの排出を抑制する手立てがなくなり、地球温暖化の防止に逆行する。また、経済がグローバル化する中で、一部の国だけに削減義務を課せば、削減義務を負わない、より非効率な国に生産が移転し、かえって世界全体の排出が増加する、いわゆる「炭素リーケージ」が生じる。従って、京都議定書に代わる新たな枠組が不可欠である。

加えて、主要排出国における政治経済情勢に鑑みれば、京都議定書のようにトップダウン型で削減義務を課し、目標未達の場合に罰則を伴うような法的枠組に全ての主要排出国が合意することは困難と思われる。これを無理に追求すれば、結果的に、各国の削減行動に長期の空白を生むことになりかねない。

カンクンでCOP決定に至ったコペンハーゲン合意には、米中を含め、世界の排出量の8割以上をカバーする国々が参加し、各々の削減目標・行動が国連に提出されている。こうして各国により行われたプレッジ(削減目標・行動)を国際社会がレビュー(評価)するプレッジ・アンド・レビューの仕組みこそ、地球温暖化対策として極めて現実的で、かつ即効性が期待できる。

その際、先進国・途上国の削減努力の透明性および実効性を確保するため、適切なMRV(測定・報告・検証)#4の仕組みを確立し、実践する必要がある。

3.地球規模の低炭素社会実現策

(1)BAT(既存の最先端の技術)の普及と革新的技術の開発・実用化

環境と経済を両立させつつ、2050年世界半減目標の鍵を握るのは技術である。世界各国が経済発展を目指しながら、温室効果ガスを大幅に削減するためには、既存の低炭素型の技術、製品・サービスの普及、ならびに、温室効果ガス排出量の大幅削減を可能とする革新的技術の開発・実用化が不可欠である。

とりわけ日本をはじめ先進国は、最先端の技術(BAT:Best Available Technologies)の不断の改善を図りながら、その最大限の普及に取り組む必要がある。同時に、意欲ある途上国への技術移転が円滑に実施される環境の整備が重要である。

日本の主要産業のエネルギー効率は世界最高水準を維持しており、わが国のBATが世界に普及した場合、2020年時点で世界のCO2排出削減量は約63億トンとの推計もある#5。この削減ポテンシャルの顕在化に向けて官民が協力していく必要がある。その際、エネルギー需要管理の観点から、省エネラベリング制度やエネルギー管理士制度、トップランナー方式など日本独自の省エネ制度を、日本企業の持つ低炭素技術とともに、途上国に展開していくことが望まれる。

併せて、ブレークスルーとなる革新的技術の開発を、長期的観点から着実に推進すべきである。こうした技術の中には、基礎研究から開発・実用化までに長い期間と巨額の費用を要し、一国で行うには限界があるものが多く、先進国のみならず、新興国等も含めた国際的な共同研究を行うことが望ましい。そこで、2050年半減に必要な基盤的技術の開発のロードマップを国際的に共有し、連携を図りながら、産学官共同の研究開発を推進することが重要である。

以上の観点から、カンクン合意で設立が決定された技術メカニズム(技術執行委員会と気候技術センター・ネットワークで構成)#6は、排出削減や適応のための技術の開発と移転を促進するものであり、早期の具体化を期待する。

(2)資金面・技術面での二国間・多国間協力の推進

1. CDM(クリーン開発メカニズム)を補完する二国間オフセット・メカニズムの推進

現行のCDMは、途上国側の要望が強い省エネ技術がプロジェクトの対象として認められにくいなど、途上国のニーズに即した温暖化対策を支援する上で、様々な障害がある。加えて、審査に膨大な時間を要するなどの問題もあり、CDMを通じた先進国から途上国への技術移転は、期待通りに進んでいない。

この点、二国間協議のもとで途上国側のニーズを十分勘案しながら省エネ・低炭素化プロジェクトを形成し、技術移転の結果として実現した排出削減の一部をわが国の貢献分として評価する二国間オフセット・メカニズムは、CDMを補完し得る仕組みとして有効である。同メカニズムと、省エネ基準の設定等の途上国における政策策定・制度設計、さらにはJICA(国際協力機構)やJBIC(国際協力銀行)などのファイナンス支援策などをパッケージ化することにより、さらなる実効性の向上が期待される。

同メカニズムについては現在、アジア諸国を中心に、プロジェクトの組成に向けたフィージビリティ・スタディ(事業可能性検証)事業や二国間交渉が着実に進展している。今後、インドネシアにおける気候変動プログラムローン#7の成果なども踏まえ、現地企業のニーズを勘案したツーステップローン#8実施などを通じて、わが国企業の技術・ノウハウ移転を促進していくことが重要である。

2. 実効ある資金支援
  1. (ア) わが国は、気候変動対策を積極的に進める途上国等に対する支援として、官民合わせて150億ドルの短期支援を表明し、既に97億ドルの支援を実施している(2011年3月末現在)。排出削減などの気候変動対策に取り組む途上国、ならびに気候変動の影響に対して脆弱な途上国を支援する観点から、今後とも、官民協力して、できる限りの協力を行っていくべきである。
    その際、とりわけ多国間ベースの資金協力は、「日本の顔が見えない」、「納税者への説明責任を果たしていない」などの指摘が後を絶たないことにも考慮し、日本政府は、その意義や効果などを国民に明確に説明していく必要がある。

  2. (イ) 多国間資金支援の枠組については、カンクン合意で「緑の気候基金」(GCF:Green Climate Fund)#9の具体化が決定され、現在、制度設計に向けた議論が行われている。GCFは、排出削減に取り組む途上国や気候変動に脆弱な途上国が必要な資金を確保する上で、今後、重要な役割を果たすことが期待されている。
    具体的な制度設計にあたっては、GCFによる支援が受取国の環境改善に果たした効果を客観的に評価できるとともに、GCFを触媒に先進国からの投融資が促されるような仕組みとなることが重要である。そのためにも、温室効果ガス削減量を定量化し、透明性を確保するためのMRVと資金援助とを一体化した仕組みを、技術を有する産業界の意見も踏まえ検討すべきである。

(3)キャパシティ・ビルディングの促進

以上の技術・資金協力を実効あるものとするためには、途上国における気候変動対策の促進に向けた政策・制度の改善、人材育成・能力開発、社会・経済インフラの整備など、キャパシティ・ビルディングが極めて重要である。

わが国はこれまで、アジアをはじめとする途上国において、日本の経験や技術を活用しながら、様々なキャパシティ・ビルディングを支援し、持続可能な開発に寄与してきた。今後、アジア地域での経験を他の地域にも展開し、自助努力を支援、促進していくことが肝要である。

経団連としても今後、産業界が有する技術・ノウハウ・人材などをフル活用し、途上国の取組みを支援していく。具体的には、官民連携の下、途上国との対話を通じ、(1)国別低炭素開発計画・戦略の策定支援、(2)途上国の技術ニーズと日本企業が持つシーズのマッチング、などを積極的に進めていく所存である。

(4)3L("Lighting Africa、Linking Africa、Lifting Africa")の推進

アフリカについては、本年5月、日本政府がアフリカ開発会議(TICAD)閣僚級フォローアップ会合#10において「低炭素成長・持続可能な開発戦略」に関するイニシアティブを公表した。現在、"Lighting Africa、Linking Africa、Lifting Africa" の「3L」をコンセプトに、アフリカ支援プロジェクト(地熱、太陽光、無電化地域対策、通信、インフラ、水、食料など)の積極実施を提唱している。

当面の具体的な協力プログラムとして、(1)東アフリカの地熱資源の開拓と最新技術の適用、(2)太陽光発電の活用によるグリーン電源の開発促進、(3)無電化地域における電化促進とCO2排出削減、(4)鉄鋼産業における省エネ促進支援、(5)セメント産業におけるグリーン投資の促進、などの採択が企図されている。これらは、アフリカ地域の貧困削減、持続可能な発展等にとって非常に有意義であり、着実に具体化していく必要がある。

日本産業界としても、3Lプロジェクトにできる限り協力していく。

(5)環境技術プラットフォーム(WIPO-Green)を通じた低炭素技術移転

民間活力を最大限活用しつつ、低炭素技術の開発と地球規模での普及を促進するためには、知的財産の創造、保護、活用という「知的創造サイクル」が加速する環境を整備することが重要である。

その一環として、日本産業界では、途上国に移転可能な環境関連技術のデータベース化、通称“WIPO-Green(ワイポグリーン)#11を発案し、国際社会に提案している。今後、WIPO-Greenを推進力として、知的財産の保護を図りつつ、低炭素技術を中心とした環境関連技術の移転をビジネスベースで進めていく所存である。

他方、国際交渉においては、低炭素技術を世界に普及させるため知的財産権の強制的な実施許諾や買取を行うべきとの提案が多くの途上国から出されている。しかし、低炭素技術の開発の促進や移転の円滑化には知的財産権の適切な保護が不可欠であり、強制的な実施許諾や買取は行うべきではない。

(6)セクター別アプローチの推進

以上の様々な取組みを進める上で、セクター別に具体的な提案を重ねていくことが重要である。鉄鋼・電力・セメントなどのセクターは、これまでAPP(クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ)#12を通じて、各国官民と緊密に連携し、技術・ノウハウを主体的に新興国・途上国に移転するとともに、人材育成プログラムを実施してきたところである。

本年9月、アジア太平洋から地域を拡大し、APPを発展的に改組する形でGSEP(ジーセップ:エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ)#13が設立された。日本の産業界としては、今後とも、GSEPを通じてボトムアップ型のセクター別の取組みを積極的に推進していく。

4.わが国の中期目標について

今般の大震災を踏まえ、日本のエネルギー政策は抜本的な見直しが進められている。これに合わせて、わが国の温室効果ガス削減に関する中期目標も当然見直されるべきである。

その際、国際的公平性、実現可能性、国民負担の妥当性という観点から、改めて、透明で開かれた国民的な議論を行う必要がある。国際的公平性に関しては、適切な指標の在り方を含め、科学的かつ客観的な比較検証が求められる。また、実現可能性等については、各施策の費用対効果を冷静に分析した上で、経済的、社会的に実行可能な対策を一つ一つ積み上げながら検証していく必要がある。

そして、何よりもエネルギー政策や中期目標の見直しにあたっては、わが国の成長戦略、ならびに、この戦略実現のために必要なエネルギー需要との整合性を取ることが大前提である。

5.終わりに

経団連は、わが国がこれまで多様な分野で培ってきた世界最高水準の低炭素技術を土台とし、2050年の世界の温室効果ガスの半減に日本の産業界が技術で中核的役割を果たすことを目標に、「低炭素社会実行計画」を今後とも推進していく。

同計画の下で、(1)企業活動におけるBATの最大限導入、(2)消費者に対する世界最高水準の製品・サービスの開発・実用化、(3)海外への技術・ノウハウの移転、(4)革新的技術の開発を通じて、地球規模の低炭素社会の構築に主体的かつ積極的に取り組む決意である。

以上

  1. 2008年7月のG8北海道洞爺湖サミットでは、G8は、2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%削減を達成する目標を、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の全ての締約国と共有し、採択することを求めることで合意。
  2. COP16(2010年11月29日~12月10日 於メキシコ・カンクン)では、前年のCOP15で採択に至らなかった「コペンハーゲン合意」に基づき、2013年以降の国際的な法的枠組の基礎になり得る、包括的でバランスの取れた決定が採択。その一部として、同合意の下に先進国および途上国が提出した排出削減目標等を国連の文書としてまとめた上で、これらの目標等をCOPとして留意することに。これにより、わが国が目指す、全ての主要排出国が参加する公平かつ実効的な国際枠組の構築に向けて交渉を前進させることに。
  3. 参加各国が自発的に削減目標・行動計画を提出、誓約(pledge)し、目標達成に向けた取組みの状況を国際的に検証(review)する仕組み。
  4. 温室効果ガス排出削減の実施状況を測定(Measurement)、国際的に報告(Reporting)、その削減状況を検証(Verification)する仕組み。これにより各国の排出削減行動の透明性・正確性の確保が可能。COP16で採択されたカンクン合意において、先進国は、削減目標の達成状況について強化された指針に沿って排出削減量等を報告し、比較可能性の促進と信頼性の向上のために国際的な評価プロセスを行うこと、発展途上国は、国際的な支援を受けずに行った削減行動に関し一般的な指針に沿った国内でのMRVを経て、国際的な協議および分析(ICA:International Consultation and Analysis)を行うとともに、国際的な支援を受けた削減行動に関しては指針に沿って国際的なMRVを行うこととされている。
  5. 秋元圭吾・山口光恒「ポスト京都の枠組みとしてのセクトラル・アプローチ-具体的内容と評価」、経済産業省平成19年度研究報告書「地球温暖化防止のための政策の効果に関する調査」第2章第1節 2008年3月。
  6. 技術執行委員会は、温暖化対策技術の開発と移転の促進策の提言、阻害要因の指摘等、また、気候技術センター・ネットワークは、途上国の支援、国際機関・各国機関のネットワーク化等を行う。
  7. インドネシアの「気候変動に関する国家行動計画」に基づく気候変動対策を推進する目的で供与する財政支援型借款。
  8. 貸し付け相手国の開発金融機関を通じた二段階借款。
  9. カンクン合意で設立が決定された資金メカニズム。現在、移行委員会において、ガバナンス、制度的枠組、民間資金の動員方策を含む運営形態などにつき、議論が行われているところ。
  10. 2011年5月1日~2日、セネガル・ダカールにおいて、第3回TICAD閣僚級フォローアップ会合が開催。68か国、42の地域・国際機関、NGO16団体、民間セクターなど計約500名が参加する中、経団連からは土橋昭夫サブサハラ地域委員長が産業界代表として出席。アフリカにおける持続可能な低炭素成長を促進するための中長期的な共通ビジョンを構築する価値を認識するとともに、「アフリカ低炭素成長・持続可能な開発戦略」の策定に向けた作業を開始することを決定。
  11. 現在、日本知的財産協会がWIPO(世界知的所有権機関)とともに、国際的に提案中。
  12. Asia-Pacific Partnership on Clean Development and Climate。2005年7月に立ち上げられた地域協力のパートナーシップ。参加7カ国(日本、豪州、カナダ、中国、インド、韓国、米国)が占めるエネルギー起源CO2は、世界全体の半分以上。APPでは、クリーンで効率的な技術の開発、普及、移転を行うことによって温室効果ガス排出削減等を効果的に実施するため、官民による8つの部門別タスクフォースを通じた様々な協力を推進。
  13. Global Superior Energy Performance Partnership。日米が提案し、APPの後継となる官民協力の枠組み。GSEPでは、世界のエネルギー使用の約6割を占める建物や産業分野を対象とした国際認証制度の策定などを目指す予定。

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