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Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資 OECDが強化すべき3つの機能(具体例)

グローバル化時代のOECDのあり方に関する提言(別紙)

1.OECDルールの履行確保とルール非参加国との公平な競争条件の確保

ア)OECD多国籍企業行動指針

  • 2011年に改訂された多国籍企業行動指針#1については、公平な事業環境を確保する上で46の参加国以外の新興国をはじめとする諸国へのアウトリーチなど実施と普及が最も優先度の高い課題である#2
  • 一方、行動指針に沿った責任ある企業活動の展開を後押しするための支援策として、OECDにおいては、いくつかのセクターに関する行動指針のガイダンス作成作業が進められている。そのような作業は、多様なステークホルダーの意見を集約して改訂され、注釈も付された行動指針の新たな解釈を生み、行動指針が想定する以上の負担を企業に求めることにつながる惧れもある。今後、そのようなガイダンスの作成は、当該セクターから明確な要請がある場合に厳に限って行うべきである。
  • ガイダンス作成作業が行動指針の実施と普及にマイナスの影響が及ぶことのないよう、引き続き動向を注視していく必要がある。

イ)OECD紛争鉱物ガイダンス

  • 2011年に採択された紛争鉱物ガイダンス#3は、紛争地域から調達される鉱物を供給または利用する全ての企業が対象となる、サプライチェーン全体に渡るリスク管理を求めている。
  • 米国ではOECDガイダンスと同様のリスク管理を求める紛争鉱物条項を含む法律が成立している。EU等においても同種の規制導入の動きがある。これら規制は、OECDガイダンスがベースとなって実施される可能性が高いことから、わが国企業への一層の周知と同時に、わが国企業との取引が多い国へのアウトリーチを実施する必要がある。

ウ)OECD公的輸出信用アレンジメント

  • 1978年に合意された公的輸出信用アレンジメント#4では、輸出を目的とした公的支持の条件を規律し、8か国1地域のアレンジメント参加国間の公平な競争条件を確保している。
  • 他方、受入国の利益も勘案しつつ、アレンジメントに参加していない新興国との公平な競争条件を確保することが課題となっている。
  • そのような中、アレンジメントに非参加の新興国を含む9か国およびアレンジメント参加国・地域で構成する「輸出信用に関する国際作業部会」において、国際的な輸出金融ルールの策定に向け、OECDルールを基礎に議論が進められており、その動向を注視していく必要がある。

エ)OECD外国公務員贈賄防止条約

  • 1999年に発効した外国公務員贈賄防止条約#5は、OECD加盟34か国を含む40か国が締約国となっている。また、条約の完全な実施を監視・促進するため、OECD贈賄作業部会において、第3次各国審査(ピアレビュー)を実施中である。
  • 非締約国の企業との公正な競争条件を確保するためには、条約締約国の拡大が課題の一つである。そのような中、国際標準化機構(ISO)において贈収賄防止のためのマネジメントシステムの規格化の動きがある。
  • 規格化された場合、条約非締約国の企業が条約を遵守するための体制を実際に整備したか否かにかかわらず、同規格の取得をもって条約が求める内部統制は実施済みとの主張がなされ、条約締約国の拡大の妨げとなる惧れがある#6。今後、作業の本格化が予想されるISO規格化の動向を注視していく必要がある。

オ)税源浸食と利益移転(BEPS)

  • OECDは、国境を越えた租税回避スキームについて戦略的かつ分野横断的に問題解決を図るため、2012年より「税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクト」を開始した。2013年に行動計画を公表、行動計画の各項目について、1~2年半の間に新たに国際的な税制の調和を図る方策を勧告する予定である。
  • 行動計画の実施に関し、OECD非加盟のG20メンバー8か国がOECD加盟国と同様に意見を述べ、意思決定に参加し得る枠組みとして「OECD/G20 BEPSプロジェクト」が設置されており、非加盟国がルール策定段階から参加する事例としても注目されている。
  • グローバル化やデジタル化が進展する中で、現行の国際課税制度が経済実態に追いついていない面があるのは事実であり、その意味では、モデル租税条約や移転価格ガイドラインの改定、各国国内法制の整備を図ることは基本的に意義のあることである。わが国経済界としても、OECD非加盟国も含めた、共通の枠組み作りが進展することに期待している。
  • 他方、行動計画は、多国籍企業に対し、関係する全ての政府に必要な税務情報を開示することを求めている(行動13)。過度なタックス・プランニングとは無縁な企業も含め、一律にこうした義務が課されれば、事務負担が過剰となるばかりか、各国の課税当局がこれらの情報を調整なく自国に有利な方向で利用した場合には、かえって二重課税が発生する惧れもある。また、過度な租税回避防止規定の導入は企業の事業活動を阻害する。わが国企業の競争力の低下につながることのないよう、慎重な議論を行う必要がある#7

カ)サイバー空間の規律

  • サイバー空間の規律については、イノベーションの源泉であり、また、経済社会活動の不可欠なインフラであるインターネットの開放性・透明性を堅持しつつ、今後も利用人口の急増が見込まれるインターネットの平和的利用に向けたルールづくりがますます重要となっている。
  • しかしながら、政治・安全保障上の観点から、データの流通や越境サービスを制限しようとする国もあり、国際電気通信連合(ITU)の国際電気通信規則の対象にインターネット上の通信を含めるべきかどうかについて、先進国と一部の新興国との間に立場の相違があるのが現状である。
  • このような中、インターネット政策に関して基本的考えを共有する国の間の合意形成の場としてOECDに期待する動きがある#8。グローバルな経済社会の発展と課題の解決にインターネットを利活用すべく、自由で安定的かつ統一した技術的基盤を持ったインターネット環境の維持を最優先課題として議論が進展することを期待する。

2.客観的データに基づく政策決定・実行の支援

ア)貿易の自由化

  • グローバル・バリュー・チェーン(GVC:生産段階に加えて、商品の企画・研究開発・デザインといった生産段階以前の活動や物流管理・販売・顧客サービスといった生産段階以降の活動を含めた国をまたがる一連の活動のつながり)上で生産拠点が複数国に分散する国際分業体制が拡大し、中間財貿易が増加する中、国家間で取引される物品やサービスの総額を示す従来の貿易統計では、各国毎の付加価値の配分などGVCの実態を把握することは困難である。
  • そのような中、2013年、OECDはWTOと共同で付加価値貿易統計(TiVA)の最初の成果を公表した。従来の貿易統計と付加価値貿易統計とを比較すれば、GVCの実態等の類推が可能である。また、例えば、中間財の輸入障壁は輸出に悪影響を及ぼす可能性があること、輸出においてサービスが重要な役割を果たしていることなどを示唆している#9
  • 今後、TiVAの対象国・業種・期間が拡大され、例えば貿易と雇用の関係#10等に係る分析が深化すれば、貿易の一層の自由化措置の決定・実行を促すことも可能と期待される#11

イ)投資の自由化・保護

  • 国際投資に関する包括的なルールの策定については、1990年代後半のOECDにおける多数国間投資協定(MAI)交渉が挫折する一方、OECDにおいては、国際投資に関する分野横断的な作業を継続してきた。
  • 最近では、投資協定が途上国の政策上の裁量を不当に制約するものとの批判に対し、OECDでは投資協定や国家対投資家紛争処理(ISDS)条項の重要性を改めて訴えている。
  • このような中、OECDにおいて、投資協定が投資受入国の経済に与えるプラスの影響等について改めて分析し、投資協定のネットワーク拡大を促していくことは有益である#12。そうすることは、将来における国際投資に関するグローバルなルールづくりにも寄与する。

ウ)非公開情報(営業秘密)の保護

  • グローバル競争の激化に伴い、営業秘密に対する侵害のリスクが高まっており、各国においては、対策の強化(具体的には、不正取得について、差止請求・損害賠償請求を通じた被害回復手続の整備、刑事罰の導入、国外犯に対する重罰規定の導入等)が行われてきた。
  • しかしながら、営業秘密の侵害リスクは引き続き増大しており、企業における情報管理体制の強化のみならず、国の競争力を守る観点から、政府による更なる保護対策の強化が求められている。
  • OECDにおいては、各国における営業秘密の保護のための法制度を調査し、保護の程度の評価作業を進めており、第2段階では、保護の程度がイノベーションにもたらす影響等について評価・分析を行う予定である。その結果が広く共有されることになれば、各国において効果的な保護制度が整備されるとともに、新興国においても知的財産を尊重するという規範が定着することが期待される。

エ)規制・制度の調和

  • 特に先進国間では、関税の撤廃・引下げに伴い、国内の規制・制度が貿易に重要な影響を与えるようになっている。
  • そのような背景の下、環太平洋経済連携協定(TPP)、環大西洋貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)、日EU経済連携協定においては、規制・制度の調和が重要な交渉課題となっている。
  • 一方、OECDにおいては、(1)サービス貿易について、規制がどの程度貿易制限的であるかを把握する指標を開発するとともに、(2)各国が種々の政策目的から採用する国内措置(例えば安全に関する規制や環境に関する規制等)について、貿易にできる限り悪影響を及ぼさない形で、それらの政策目的を達成する方法を探るため、手続面での透明性確保の重要性、非関税措置のあり方等について、分析作業等を行っている。
  • OECDにおけるこれまでの作業を活用しながら、各国間の規制・制度の違いがもたらすコストを試算、公表することなどは規制・制度の調和を促す上で有益である。
  • また、例えば、APECを中心に進められている新規化学物質の届出手続の共通化等をOECDと連携してグローバル化していくことも考えられる。

3.各国・地域のベストプラクティスの共有

ア)地域貿易協定の各種ルール

  • WTOドーハ・ラウンドが行き詰まり、また、地域貿易協定の動きが活発化する中で、貿易投資ルールのスパゲッティ・ボウル化の惧れがある。
  • バリューチェーンをグローバルに張りめぐらしている企業にとっては、同一のルールができるだけ広い範囲で適用されることが重要である。そのためには、各協定に盛り込まれる貿易投資ルールの調和が必要であり、最終的にはWTOにおいて統一的なルールを策定し、グローバルに適用すべきである。
  • そこで、OECDにおいて、各協定内容を調査・分析し、貿易投資の拡大にとってベストプラクティスと考えられるルールを共有するとともに、将来的に、それらをWTOにおけるグローバルなルール作りにつなげることは有益と考えられる。

イ)データ越境移転ルール

  • インターネット上に展開されるデータサービスが国境を越えて自由かつ円滑に提供されるためには、自由・公正・透明な市場を形成するための取組みとともに、データの活用とプライバシーの保護とのバランスおよび情報セキュリティを確保するためのルールの国際的な調和が必要である。
  • データ越境移転をめぐっては、厳格な法規制による統治を目指すEUデータ保護規則案、日本も参加して策定されたAPECの越境プライバシー・ルール・システムがあり、さらには各国・地域において現行の政策・規制が改訂されつつある。
  • このような中、企業に過度な負担が課され、データサービスの提供を妨げることにならないよう、OECDの「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドライン」(1980年策定、2013年改訂)#13に盛り込まれた施策を軸に国際的な調和を推進すべきである。具体的には、例えばガイドラインに盛り込まれた施策の実施状況について、各国・地域に報告を求めることによって状況を把握し、ベストプラクティスを提示することは有益である。
以上

  1. OECDホームページ http://www.oecd.org/daf/inv/mne/48004323.pdf
    外務省ホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/housin.html
  2. 2014年1月20日開催のBIACとOECDリエゾン委員会(各国OECD大使)とのコンサルテーションに提出されたBIAC Discussion Paper "Reinforcing the Case for Private Sector-led Growth, Investment and Jobs"(次のBIACホームページ12頁参照)
    http://www.biac.org/statements/high_level/BIAC_Statement_to_LCM_2014_ENG.pdf
  3. OECDホームページ http://www.oecd.org/daf/inv/mne/GuidanceEdition2.pdf
    経済産業省ホームページ http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/oecd/html/guidance.html
  4. OECDホームページ http://www.oecd.org/tad/xcred/theexportcreditsarrangementtext.htm
  5. OECDホームページ http://www.oecd.org/daf/anti-bribery/ConvCombatBribery_ENG.pdf
    経済産業省ホームページ http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/zouwai/index.html
  6. BIAC Message "The Impact of the OECD Anti-Bribery Convention 15 Years on" も同様の問題を指摘。
    http://www.biac.org/members/brib/mtgs/2013-12-brib/FIN_13_11_Anti_Bribery_Convention_15_years_on.pdf
  7. 経団連「平成26年度税制改正に関する提言」(2013年9月9日)。BIAC Discussion Paper "Reinforcing the Case for Private Sector-led Growth, Investment and Jobs" も成長と雇用の創出を妨げないよう提言(次のBIACホームページ8頁参照)
    http://www.biac.org/statements/high_level/BIAC_Statement_to_LCM_2014_ENG.pdf
    なお、わが国経済界は行動13に多大な懸念を抱いており、先般、OECDから公表されたディスカッション・ドラフトに対し、近々コメントを取りまとめる予定。
  8. 2013年6月開催のOECD情報コンピュータ通信政策委員会(ICCP)のインターネット経済作業部会(WPIE)において、米国国務省の提案によりOECDのウェブサイト内にインターネット政策立案原則(IPMP)のための電子会議システムを作成し、同様の考えを持つ国(like-minded countries)の間の合意形成を行う拠点とする動きあり。
  9. 玉木林太郎OECD事務次長「経済教室:貿易の付加価値分析を」『日本経済新聞』(2013年6月26日)
  10. 同上
  11. BIAC Discussion Paper "Reinforcing the Case for Private Sector-led Growth, Investment and Jobs" もOECDによるGVC分析の継続・拡充を提言(次のBIACホームページ11頁参照)
    http://www.biac.org/statements/high_level/BIAC_Statement_to_LCM_2014_ENG.pdf
  12. BIAC Discussion Paper "Reinforcing the Case for Private Sector-led Growth, Investment and Jobs" もOECDによるISDS条項、投資協定の役割に関する分析を提言(次のBIACホームページ11頁参照)
    http://www.biac.org/statements/high_level/BIAC_Statement_to_LCM_2014_ENG.pdf
  13. http://www.oecd.org/sti/ieconomy/2013-oecd-privacy-guidelines.pdf

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