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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 公正取引委員会による審査手続の適正化を再び求める

2014年6月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会

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I.はじめに

我が国における独占禁止法及びその運用をめぐっては、公正取引委員会(以下、公取委)による審査手続の適正化に対する強い期待が、かねてより国内外から寄せられている。経団連もこれまでに「独占禁止法の抜本改正に向けた提言-審査・不服申立ての国際的イコールフッティングの実現を-」(2007年11月20日)、「公正取引委員会による審判制度の廃止及び審査手続の適正化に向けて」(2009年10月20日)、「公正取引委員会審判制度の早期廃止を再び求める」(2011年10月18日)、「独占禁止法改正法案(審判廃止)の早期再提出・成立を求める」(2013年4月10日)の提言等において公取委による審査手続の適正化を繰り返し求めてきた。

こうした中、平成25年独占禁止法改正法附則第16条は、「政府は、公正取引委員会が事件について必要な調査を行う手続について、我が国における他の行政手続との整合性を確保しつつ、事件関係人が十分な防御を行うことを確保する観点から検討を行い、この法律の公布後一年を目途に結論を得て、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずるものとする」と規定し、また、同法に係る衆議院経済産業委員会の附帯決議においては、「公正取引委員会が行う審尋や任意の事情聴取等において、事業者側の十分な防御権の行使を可能とするため、諸外国の事例を参考にしつつ、代理人の立会いや供述調書の写しの交付等の実施について、我が国における刑事手続や他の行政手続との整合性を確保しつつ前向きに検討すること」と明記され、これを受けて今年2月から「独占禁止法審査手続についての懇談会」が開催され、現在議論が進められている。

経団連として、これを機に改めて、公取委による審査手続の適正化の確実かつ早期の実現に向けて、そのあるべき姿を以下のとおり提言する。

II.見直しの必要性

1.公取委の執行力強化に応じた防御権の確保

公取委による審査手続において、適正手続が十分に確保され、事業者に正当な防御権が保障されるようにすることは、被調査者に与えられるべき基本的な権利である。すでに課徴金の性格は違反行為の抑止を目的とする行政上の「制裁」であるとされ、刑罰に準ずる強力なものとなっている。また、我が国独占禁止法の審査手続は刑事手続につながる可能性があるという特殊性を有しており、ごく例外的に個人が刑事告発される場合には、会社と役員・従業員との間での利益相反の問題が出てくることに鑑みれば、審査手続の段階から弁護士の立会い等の適正手続が保障される必要性は極めて高い。

平成17年及び平成21年の独占禁止法改正により、課徴金減免制度の導入や課徴金の算定割合の引き上げ、排除型私的独占及び不公正な取引方法に対する課徴金制度の導入など公取委の執行力は飛躍的に強化されるに至っている。厳しい制裁を課す以上、その当然の前提として法適用における適正手続が十分に確保され、その運用の公正性・透明性が制度的に担保され、事業者はもとより国民から見ても予見可能性の高い競争環境を整備することが不可欠である。公取委の執行力の強化に見合うだけの適正手続の保障は喫緊の課題である。

他の行政手続との比較で考えても、独占禁止法は他の行政手続に先んじて課徴金減免制度を取り入れるなど、突出した仕組みを有している。また、公取委には、行政調査において、「事件関係人又は参考人に出頭を命じて審尋」することができる(独占禁止法第47条)など、刑事手続における身柄拘束による取調べに匹敵する権限が与えられており、より一層被調査者の権利に配慮した適正手続が求められることは明らかである。これらの実態を踏まえれば、公取委による審査手続において、弁護士の立会いなどの他の行政手続にはない制度を導入することは、手続間の実質的な整合性を確保するためにはむしろ必要なことであるといえる。

2.国際的なイコールフッティング

企業は競争政策の重要性を十分に認識してコンプライアンスに努めるとともに、グローバル競争を勝ち抜くために創意工夫を凝らしながら積極的に国内外で事業活動を展開している。また、外国企業による日本市場への参入も活発化しており、我が国の独占禁止法の運用をめぐっては、適正手続の保障や運用の透明性、予見可能性の向上に対する強い期待が国内外から寄せられている。これらが十分に確保されないままに、当局による恣意的な運用がなされるならば、被調査者の基本的権利である防御権を侵害することになるばかりか、誤った事実認定を招き、調査を受ける事業者の自由な事業活動を阻害したり、事業活動に萎縮効果を生じさせたりするなどの不利益が及ぶおそれもある。とりわけ、国際的な水準に合致する手続や制度が確保されていないことにより、日本企業が外国企業に比べて不利な取り扱いを受けるおそれがあることは、日本経済の発展にとっての大きなマイナスであるといえる。

経済のボーダーレス化が進展し、グローバルな市場が形成されている現在の経済環境においては、国内外の企業が安心して我が国で事業活動を行えるよう、競争環境基盤についての国際的なイコールフッティングを確立することが喫緊の課題である。

なお、適正手続の保障により、公取委の調査による実態解明機能に支障をきたすことを懸念する声もあるが、むしろ、実態解明に資する側面もある。たとえば、後述の弁護士顧客秘匿特権が我が国においても欧米のごとく保障されれば、企業内での相談・コミュニケーションが進み、コンプライアンスが強化され、課徴金減免申請の促進にもつながり、事件の早期解決に資することになる。また、適正手続が確保されることによって公取委による法執行への信頼性が向上すれば、企業による審査への協力やコンプライアンスへの取組みが今以上に促進され、結果的に公取委による実態解明機能が一層向上することになる。

公取委による審査手続の適正化をこれ以上いたずらに先延ばしにすることは、事業者による公正で自由な競争に対する弊害や萎縮効果の発生、ひいては健全な競争を通じた消費者利益が損なわれることになりかねず、もはや許されるものではない。

以上のようなことから、以下に具体的に示したような、国際水準に適う新たな審査制度の構築を早急に進めるべきであるが、新たな審査制度の構築にあたっては、基本的には法律ないし最低でも規則レベルで明確に規定し、その実効性を確実に担保すべきである。

III.具体的な見直し内容

1.立入検査に関する手続の適正化

(1) 法的根拠の明示

公取委による立入検査は、間接強制の調査であるが、被調査者は必ずしもその性質を理解しているわけではなく、強制の調査であると誤認している場合もある。立入検査を行うにあたっては、被調査者に対し、立入検査は間接強制の調査であること及び調査に協力しない場合に受ける不利益の具体的内容、審査官の権限の範囲を明らかにするなど立入検査に関する説明や根拠の提示を徹底し、被調査者にとっての受忍限度の範囲が明らかになるようにすべきである。

また、立入検査時に被疑事実等告知書が交付されている(審査規則第20条)が、被疑事実についての記載が具体的に限定されていないために、立入検査の対象及び提出命令の範囲が不明確であり特定されない。同告知書における被疑事実の記載は、被調査者が課徴金減額の事後申請を早急に検討するためにも重要であり、被調査者の防御権や正当な権利行使を確保する観点から、具体的に特定して記載すべきである。

(2) 弁護士の立会い

また、立入検査にあたっては、被調査者の防御権を保護する観点から、弁護士の立会いが認められることを明らかにすべきである。たとえば、立入検査によって留置される物件の範囲は、当然「被疑事実に関連するもの」に限られるべきであるところ、この判断は弁護士でなければ困難であり、弁護士が立ち会って、必要以上の物件が留置されることがないよう確認することが望ましい。また、立入検査の範囲は、被疑事実と合理的に関係のある部署に限られるべきであるところ、およそ無関係の部署にまで立入検査が及ぶことのないよう弁護士のアドバイスを得て防御できることが望ましい。

欧米諸国においては、立入検査の際に、被調査者に弁護士の立会いが認められている。我が国においては、弁護士の立会いは実務上拒否されてはいないものの、そもそも弁護士を呼べる旨の告知がなされないために、実際には弁護士のアドバイスを受ける機会が十分に確保されていないのが現状である。我が国においても弁護士の立会いを実効的に認めるべく、被調査者に対して弁護士の選任・立会いができることを告知することを義務づけるとともに、弁護士が検査場所に到着するまでは立入検査の実施を待たなければならないことを明確に規定すべきである。弁護士の到着を待っている間に証拠隠滅が行われる可能性があるとの指摘もあるが、そのような例外的事態に対しては別途制裁が用意されており、そちらで対応すべき問題である。

少なくとも弁護士を選任できることの告知義務や被調査者の求めに応じて、弁護士にタイムリーに相談する権利が保障されていることを法律上明確に規定すべきである。

(3) 資料の謄写

立入検査時に提出される提出証拠については、立入検査日の謄写を事実上制限する運用が行われている場合がある。被調査者としては、どのような資料が提出されたのか、その全体像すら把握できず、その後の手続における防御権の行使にも支障を来たしているほか、通常の業務も滞ってしまう。特に、課徴金減免申請の検討の余地が残っている場合に、必要な書類が手元になく、事実関係が正確に把握できないことにより申請が遅れ、減額の機会を失うことによる不利益はきわめて大きい。提出後に公取委に出向いて謄写をするにしても、公取委にコピー機を搬入しなければならないうえ、そもそも提出命令目録の記載が概括的であるため謄写したい資料がどこにあるかわからなかったり、当日の謄写を制限されたりする等の不都合が指摘されており、実質的な問題の解消にはつながっていない。

提出証拠については、被調査者の申し出により、立入検査当日、提出前に謄写できること、または、謄写資料により提出できることを法律上明らかにすべきである。

(4) 立入検査当日の事情聴取

公取委が、立入検査の当日、事実関係に詳しい従業員等の関係者を別室に隔離し、任意であることが明確にならないまま事情聴取が行われてしまう例がある。しかし、立入検査を受けた段階において、当該事案に関して課徴金減免申請をしている企業が5社未満であれば、事後申請により課徴金の30%減額を受けられる場合があり(独占禁止法第7条の2第12項)、立入検査を受けた企業としては早急に事実関係を確認し、もし違法行為が発覚すれば、速やかに課徴金減免申請を検討する必要がある。そもそも立入検査当日の事情聴取はほとんどが任意であることから、円滑に課徴金減免申請を行うことができるよう、立入検査当日の関係者への事情聴取においては、企業による社内調査の必要性を優先させるべきである。

2.供述録取過程の適正化

(1) 供述録取過程の公正化・透明化の必要性

公取委の供述聴取においては、審査官が準備したストーリーに沿うように誘導尋問がなされたり、取調べを受けている者の真意を反映しない調書が作成され、そのことについて弁護士など専門家への確認が阻害されたり、署名を事実上強いられたりするなど、被調査者の基本的権利を無視した形で手続が進められている例がある。このような運用が続けば、被調査者の基本的権利である防御権を不当に侵害することになるばかりか、誤った事実認定を招くおそれがある。

供述録取過程の公正化・透明化のための手段として、欧米諸国では認められている、供述聴取への弁護士の立会いを、我が国においても早急に認めるべきである。被調査者は、供述聴取において自らが有する権利や供述内容の法的効果の確認、誘導的な質問への防御、法的な疑問に対する的確な対応等のために弁護士にアドバイスを求めることが必要である。また、供述聴取に弁護士が立ち会い、専門的な観点から取調べを監視することにより、供述聴取の公正性・任意性が担保されることにつながる。

弁護士は弁護士法第1条の規定に従い、被調査者の基本的人権の擁護と社会正義の実現及び社会秩序の維持に努めるのであり、立ち会った弁護士が、いたずらに事実関係の否定を行うよう指導をしたり、虚偽の説明を行うよう指導をしたりするということは到底あり得ないし、あってはならない。万一そのようなことが行われた場合には、弁護士懲戒制度により、厳正に処理されることになる。

供述聴取に会社の弁護士が立ち会うことにより、従業員等が供述をしづらくなり、その結果、実態解明機能が損なわれるとの指摘があるが、我が国においては、独占禁止法に関するほとんどの案件は行政手続によって処理されており、企業と従業員等との間で利益相反は生じず、従業員等が供述する際に、弁護士が立ち会うことによって、萎縮するおそれはない。

また、供述聴取をめぐっては、過去に供述調書の信用性・任意性が争われた事例が多数存在するが、現状では、密室で行われている供述聴取の適正さを事後的・客観的に検証する手段が全く存在せず、その意味での透明性を著しく欠いているということが一番の問題である。現在、法制審「新時代の刑事司法制度特別部会」において刑事手続における取調べの可視化に向けた議論が進められているところであるが、審査手続についても、欧米の制度に倣い、供述聴取の全過程の録音・録画の導入につき、早急に検討を進めるべきである。特に、録音については導入のために必要なコストや実務上の手間が少なく、最低限、録音だけでも早急に導入すべきである。

なお、供述録取過程の公正化・透明化は、裁判所において違反事実の有無を効率的に審理するためにも必要であり、一刻も早い環境の整備を求める。

(2) 供述調書等交付請求権

欧米の制度に倣い、供述調書及び審尋調書(以下、供述調書等)の写しを、供述者の求めに応じて交付するよう、法律上明確にすべきである。供述者は、長時間にわたって慣れない取調べを受け、場合によっては膨大な量の調書が作成されることもある中、供述調書にどのようなことがどのように記載されているのかをはっきりと記憶していなかったり、そもそも理解していなかったりする場合が多い。供述聴取の内容を供述聴取とほぼ同時的に検証し、弁護士に効果的なアドバイス等を求めるためには、供述調書等の写しが交付されることが必要である。また、これはひるがえって供述録取過程の公正さの担保にもつながる。そもそも供述調書は供述者が供述した内容を記載し、署名・押印が求められる文書であり、これを交付しないことについて到底合理的な理由は見当たらない。

供述調書等の交付を認めても、これによって従業員が供述内容を会社に知られることを恐れて真実を語らなくなるといった萎縮効果が生じるとはおよそ考えがたい。不服申立て段階になって供述調書が公取委から提出される可能性は従前から存在したうえ、平成25年の独占禁止法改正法第52条により、処分前手続段階においても会社が従業員の供述調書を閲覧及び謄写することが認められている。

なお、供述者が取調べ中に記録を作成することについても、現状の運用では認められていないようであるが、これについても供述調書等の写しの交付と同様拒否される理由はなく、認められるべきである。

(3) 黙秘権・自己負罪拒否特権

供述者に対して、黙秘権・自己負罪拒否特権を与えることを法律上明記するとともに、取調べにあたり、当該調査が任意であるのか、間接強制であるのかを示したうえで、供述者に対し、これらの権利があることを十分に説明すべきである。

3.弁護士顧客秘匿特権

弁護士・顧客間の秘匿特権を認め、弁護士と依頼者間の通信や調査内容を含むワークプロダクトについては、提出命令を拒否する権利を保障することを法律に明記すべきである。

調査を受けた事業者においては、コンプライアンスの観点から、自浄作用の一環として、自ら社内調査委員会を設ける等して事実関係を調査し、弁護士との相談結果等も踏まえつつ、改善策や事後申請による課徴金減額などの対策を講じていくのが通例である。また、調査が開始される以前であっても、一般的なコンプライアンスの向上のために独占禁止法に抵触するおそれがある事項については、弁護士に前もって詳細な相談を行うことが多い。このような過程における事業者と弁護士との間の会話・通信内容には、企業側が弁護士に行った法的相談を含めて機密情報が含まれることが多い。これらが適切に保護されず、自らが行った調査結果及び法的評価が無制限に公取委に収集され、むしろ不利な証拠として取り扱われれば、企業や事件以外の関係者にも多大な損害を与える可能性があるとともに、このような事業者の自主的な取り組みに対するインセンティブを損ないかねない。企業内での率直な相談・コミュニケーションが進めば、コンプライアンスは強化され、リニエンシーの申請促進にもつながり、事件の早期解決に資することになるが、現状では秘匿特権がないために、企業のこのような前向きな取り組みが阻害されてしまっている。

また、我が国において弁護士顧客秘匿特権が保障されず、本来であれば秘匿特権によって保護されるべき文書が公取委によって押収されると、欧米競争当局や裁判所からは秘匿特権を放棄したものと評価されてしまい、当該文書を提出せざるを得ないことになるおそれがある。このように日本企業が外国企業に比べて不利な取り扱いを受けることを防ぐためにも弁護士顧客秘匿特権を認める必要性は極めて高い。弁護士顧客秘匿特権は、欧米諸国においては当然に認められており、これが認められていない我が国の法制度は世界的に見ても極めて異例である。

我が国においても、刑事手続においては、刑事訴訟法第105条の押収拒絶権や同法第149条の証言拒絶権、同法第39条の接見交通権など弁護士顧客秘匿特権と同じ考え方に基づく権利が保障されている。人の生命身体等を保護法益とし、真実発見の要請が極めて強い刑事手続においてすらこれらの権利が認められているのであるから、独占禁止法においても、弁護士顧客秘匿特権が当然認められるべきである。

弁護士顧客秘匿特権が保障されたとしても、その対象となるのは弁護士と依頼者との間の法的助言に関する交信のみであり、違反行為に関するメールや書類などについては従前どおり提出を拒むことはできず、公取委の調査に支障が生じるおそれはない。

4.意見聴取手続についての課題

(1) 証拠開示の更なる拡大

公取委が保有する証拠の開示請求権については、平成25年独占禁止法改正法第52条において、一定の手当てがなされたが、未だに不十分である。

同条においては、他社提出物件と他社従業員の供述調書については閲覧のみが認められるにとどまっているが、カルテルなど多くの事案においては、他社従業員の供述が重要になることが多く、事業者の防御の観点からは他社従業員の供述調書についても謄写まで認められる必要性は高い。そもそも閲覧が認められているにもかかわらず、謄写が制限される合理的な根拠はない。

また、同条では、公取委が認定した事実を否定しうる証拠の閲覧と謄写は明示的には認められていないが、これらの証拠は公取委が認定した事実を立証する証拠の証明力を判断するために必要であり、同じく事業者の防御の観点から、閲覧及び謄写を法律で明示的に認めるべきである。

(2) 調書・報告書の内容の正確性確保

平成25年独占禁止法改正法第58条は、指定職員は、意見聴取の期日における当事者の意見陳述等の経過を記載した調書を作成し(第1項)、意見聴取の終結後速やかに、当該意見聴取に係る事件の論点を整理して記載した報告書を作成しなければならない(第2項)と規定している。

これらの書面の内容は、公取委が処分を行うか否かを決める際の重要なポイントになると思われるところ、記載内容の正確性が担保されるような運用を確実なものとするとともに、記載内容に不服がある場合の異議申立て手続等を法律で整備すべきである。

5.マニュアルの公表

公取委は、審査手続のマニュアルを公開し、手続の透明性と予測可能性を向上させるべきである。

欧米においては既に同様のマニュアルが公開されており、我が国において行政調査権限を有する他の省庁も指針等を公開している。

6.その他の防御に関する適正手続の確保

上述の他にも、事業者の防御に関する適正手続の確保に関しては、警告手続の更なる改善等についてもかねてから求めているところである。

警告はあくまでも行政指導であり、公表を含めた不利益処分を行うことは、警告の内容に従うという事業者側の意思表示があって初めて認められることを明記するとともに、警告そのものに対して事後的な不服申立て手段を設けることにより、当該警告が不適法と評価される場合には撤回を求めることができるようにすべきである。

また、警告の事前通知を受けた者は、意見申述及び証拠提出の機会を与えられる(審査規則第31条)が、その準備期間が短く設定されてしまうと、実質的な防御の機会を奪われることになる。意見申述及び証拠提出までの「相当な期間」について、「30日を下回らない期間」など下限を定めるべきである。

IV.結語

以上のとおり、公取委の執行力が飛躍的に強化された現在においても、我が国の審査手続の水準は諸外国と比べて極めて低く、このことは企業がグローバルな事業活動を行ううえでの大きな足かせとなっている。

適正手続の保障は、実態解明機能と対立するものではなく、むしろこれに貢献するものである。企業のコンプライアンスをより一層促進させ、国内外の企業の公取委の法執行に対する信頼性を向上させるためにも、早急に公取委による審査手続の適正化を実現し、国際水準を満たす公正な競争法の執行・運用体制を整備することを強く求める。

以上

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