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Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策 スタートアップ躍進ビジョン ~10X10Xを目指して~

2022年3月15
一般社団法人 日本経済団体連合会

Ⅰ. はじめに

本提言は、わが国でスタートアップの裾野が飛躍的に広がり、同時に世界的な成功を収めるスタートアップが数多く生まれ出るためのエコシステムの実現を目指し、企業の規模・歴史、産学官といった立場を超越した視点で取りまとめたものである。

この30年、どの企業がわたしたちの生活を劇的に進歩させたかを振り返るだけで明らかな通り、社会課題の解決やイノベーションを生む仕組みとしてスタートアップは最も優れたスキームのひとつである。ベンチャーキャピタル(VC)による支援を受けた企業は平均よりも1.6倍生産性が高いことや#1、R&Dのイノベーション波及効果が一般企業の9倍である#2など、多くの研究がスタートアップの価値を示している。そして実際、現在の世界の企業価値トップ10のうち8社がVCによる支援を受けた企業であり、起業家のエネルギーをうまく活用し、成功するスタートアップを多く生み出してきた国々が世界経済を牽引している。

わが国においてもキャピタリストや起業家の先駆者が道を切り拓き、10年前と比較すると起業数も総投資額も大幅に増大している。制度面の整備も一歩一歩進んできた。しかし残念ながら各国との差は拡大している。

スタートアップエコシステムもまた、グローバル競争である。相手は米国であり、中国であり、インドであり、英国、イスラエル、韓国である。比較的保守的と言われていたEU諸国も近年の進化はめざましい。各国の政府はパンデミック後の復興の鍵はスタートアップであると認識し、どの国も一足先に力強いスタートアップ施策を打ち立てて前に進む「Fast-moving target」、正確には「Faster-moving target」となっている。

スタートアップエコシステムの活性化は景気変動にかかわらず、普遍的なテーマとして推し進める必要がある。現在、世界的にスタートアップブームといえる。その追い風を活かしつつ、仮にブームが去った場合でも、どれだけしぶとく継続してスタートアップを支え切れるかが重要である。リーマンショックの際も、ベンチャー投資が極端に減少した日本に対し、米国では良いスタートアップへの支援を続け、Airbnb、Uber、Squareなど世界を代表するスタートアップを生み出している。この時期に創業されたスタートアップで時価総額1,000億円を超えるユニコーンは米国が120社以上なのに対し、日本では1社だけだ。今後、退行局面こそ差が出ることを肝に銘じ、腰の据わった態度で挑まなければならない。

日本経済全体を浮揚させ、再度競争力を取り戻すための最も重要な課題として、スタートアップエコシステムの抜本的強化を提言する。本提言の個別内容は、これまでも様々な主体により指摘・提案されてきたものが多い。これまでと同様の、一歩ずつ、できることから進めていくアプローチでは到底追いつけない状況にあることを認識し、官民を挙げて必要な施策を一斉に、迅速に、力強く推進すべきであることを強調したい。

Ⅱ. 5年後の目標 10X10Xの世界へ

Ⅰ章に示した課題認識を踏まえ、本提言は、わが国の持続的成長の新たな牽引役として、グローバル級のスタートアップを継続的に創出することを目標とする。GAFAM#3のように既存産業にとって代わりグローバル市場を席巻するスタートアップは、全体の中のほんの一部であることから、母数すなわち起業の数自体を格段に増やすとともに、成長のレベルも引き上げる必要がある。

具体的には、5年後(2027年)までにスタートアップの裾野、起業の数を10倍にするとともに、最も成功するスタートアップのレベルも10倍に高める。目標を確実に達成するために、それぞれについて以下のKPIを設定し、実現状況をモニタリングする。

■ 裾野=起業の数を10倍にする

  • スタートアップの数を10倍=約10万社に#4
  • スタートアップへの年間投資額を10倍=約10兆円に

■ 高さ=レベルを10倍にする

  • ユニコーン企業数を10倍=約100社に
  • ユニコーンから更に飛躍したデカコーン#5企業数を2社以上に

Ⅲ. 5年後に起こすべき7つの変化

Ⅱ章で掲げた野心的な目標を達成するためには、スタートアップが生まれ成長するために必要な資金と人材が国内外から潤沢に供給されるエコシステムの構築、そうしたエコシステムを社会全体で支える土壌など、経済や社会のあり方そのものの抜本的な変化が求められる。5年後までに起こっていてほしい、否、わたしたちが起こすべき、スタートアップを取り巻く7つの変化を描いてみた。

1. 世界最高水準のスタートアップフレンドリーな制度

「制度的にはシリコンバレーに劣る部分はほぼなくなった。起業のしやすさ、スタートアップの運営のしやすさ、スタートアップへの投資のしやすさにおいて、世界最高水準を達成し、起業家はプロダクトと市場に向かう時間を最大化できている。」

2. 世界で勝負するスタートアップが続出

「政府系ファンド、国内外の大手機関投資家から潤沢な資金がスタートアップに投じられ、より深い死の谷を支える体制が整い、早期上場よりも大きい試合をすることが投資家からも推奨されるようになった。実際グローバル市場を制し時価総額1兆円を超えるスタートアップも現れ始めている。」

3. 日本を世界有数のスタートアップ集積地に

「熱心な誘致活動も奏功し、今や東京が、アジアの起業家と欧米のVCや機関投資家の結節点として機能している。アジア展開拠点やR&D拠点を構えるグローバル企業も増え、スタートアップへの人材の供給源ともなっている。シリコンバレーに匹敵する賑わいが実現し、そこに混ざる多数の日本人起業家の視野をグローバルマーケットへと開いている。」

4. 大学を核としたスタートアップエコシステム

「世界でもトップレベルを誇る研究分野を有する大学に、海外からも研究者、資金が集まり、周辺に国内外の関連企業が集積するテックシティが地方を含め出現してきた。そこにはディープテックを目利きできるキャピタリストも集まり、研究者・学生の起業も盛んだ。」

5. 人材の流動化、優秀人材をスタートアップエコシステムへ

「卒業時の起業やスタートアップ参加も当たり前になり、また大企業で勤務したのちに起業やスタートアップに転職する人も珍しくなくなった。大企業も中途採用からの幹部登用を格段に増やし、とりわけスタートアップ経験者をハングリーに採用し、社内で躍動させている。」

6. 起業を楽しみ、身近に感じられる社会へ

「起業家との接点も増え、起業に人生を賭したリスクなどないことや、その魅力が広く一般に認識されている。起業やスタートアップ参加は、若者にとっても中高年にとっても、やればできるし面白そうな『普通の選択肢』となった。」

7. スタートアップ振興を国の最重要課題に

「国のトップの明確なコミットメントのもと、強力な司令塔組織が整備され施策が一元的に実施されるようになった。官民を挙げた努力により5年で日本も様変わりしたと言われている。」

Ⅳ. Strategy & Actions

本章では、Ⅲ章で描いた7つの変化を5年後までに実現するための、具体的な戦略とアクションを提言する。各アクションの主体は政府、地方公共団体、経済界、大企業、スタートアップ、大学、小中学校等多岐にわたり、相互に関連するものも多い。スタートアップエコシステムにかかわる多様な主体が、10X10Xの目標や、起こすべき7つの変化のビジョンを共有し、連携しながら各々に課せられたアクションを実行していくことが求められる。

1.世界最高水準のスタートアップフレンドリーな制度

<5年後のあるべき姿>

制度的にはシリコンバレーに劣る部分はほぼなくなった。起業のしやすさ、スタートアップの運営のしやすさ、スタートアップへの投資のしやすさにおいて、世界最高水準を達成し、起業家はプロダクトと市場に向かう時間を最大化できている。

わが国から世界で勝負する優れたスタートアップを多数生み出すためには、スタートアップに携わる人々が自社のプロダクト・サービスの磨き上げや市場開拓といった自社のビジネス拡大に没頭できるよう、まずは世界最高水準のスタートアップフレンドリーな制度を整えなくてはならない。

政府においては、「Beyond Limits. Unlock Our Potential.」#6(2019年6月)の策定をはじめ、すでに様々な施策に着手してきた。しかしながら、ターゲットとなる諸外国は、我々以上の速度で様々な大胆な施策を講じるため、残念ながら引き離される一方である。今こそ、アクセルを全開に踏み込んで、本気で世界最高水準のスタートアップフレンドリーな事業環境を実現しなくてはならない時である。

No. 1. エクイティの柔軟な活用が可能な制度の整備

スタートアップが事業を拡大し、成長していくプロセスにおいて、エクイティは有効な資金調達手法であるとともに、優秀な人材を獲得するための最大の武器でもある。柔軟にエクイティを活用できる制度の構築が不可欠である。しかしながら、諸外国と比較すると、そもそも制度や基準の整備が遅れていたり、制度があっても手続きが煩雑で創業間もないスタートアップには活用が難しかったりするほか、スタートアップに制度に関する情報が届いておらず、活用が進まない事例も見られる。

政府には、世界最高水準のスタートアップフレンドリーな制度の実現に向けて、以下の施策の実現を求めるとともに、経済界もより良い制度のあり方(役員給与税制含む)について今後も検討を深めていく。

(1)ストックオプションプール#7の活用

原則としてストックオプションは役員・従業員に対して付与する度に発行手続きが必要であるが、米国では、手続きコストの削減、柔軟なストックオプションの活用の観点から、ストックオプションプールの活用が一般的になっている。わが国では信託型ストックオプションを活用することにより、米国のストックオプションプールに類似した制度設計が可能ではあるものの、手続きが複雑であることから専門家(弁護士、コンサルティング会社等)によるサポートが不可欠であり、資金力の乏しいスタートアップが気軽に活用できるとは言い難い。政府は、わが国においても米国と同等以上にストックオプションプールを活用しやすくなるよう、法整備等を進めるべきである。見直しが実現した暁には、スタートアップが本制度を積極的に活用することを望む

(2)創業者ベスティングが円滑に機能する環境の整備

近年スタートアップでは創業時に創業株主間契約を締結することが一般的であり、当該契約においては創業株主が会社を辞する場合には保有株式を投資簿価にて他の創業者もしくは会社に売却するとしているケースが多い(会社在籍期間に応じて、他の創業者か会社が買取請求できる割合が逓減する方式をとるのが一般的。ここではこれをベスティングという)。会社を辞する創業者の保有株式の買取にあたっては、買取価格をめぐる税務上の取り扱いが不明確といった問題に加え、会社が買い取る場合には、自社株買いの財源規制の問題(剰余金がない場合、自社株買いができない。また、減資も一般的には困難)があり、容易に株式を買い取ることができないという課題がある。
スタートアップにおいては、共同創業者が会社を離れるといった事態は一般的に発生するが、そういう事態が起こるごとに大きな割合の株式の買取に多大な労力を割くことは避けなければならない。したがって、政府においては、多様なステークホルダーの意見も踏まえつつ、退職する創業者の保有株式買取に係る制度上の問題(財源規制や税務上の課題)の解決策を検討すべきである。

(3)海外投資家による投資の円滑な受け入れ

安全保障上重要な技術の流出防止などわが国の安全保障に重大な影響を及ぼす事態が生じることを適切に防止する観点から、2019年5月に外国為替及び外国貿易法が改正された。その結果、わが国のスタートアップの大勢を占めるIT系・SaaS系企業の多くが対内直接投資#8の事前届出対象業種に該当することとなり、外国投資家または外国投資家を含む投資ファンドからのスピーディーな資金調達が阻害されている。政府は、わが国の安全保障への影響には十分留意しつつも、一度審査が下りた投資家、ファンド等については、一定期間、審査を免除する等、スピーディーな資金調達環境の実現に向け手続きの簡略化を講ずべきである。

(4)種類株式#9の柔軟な活用

スタートアップは、資金調達を行う手段として種類株式を発行することが一般的である。現行の会社法では種類株発行会社が一定の行為#10を実施する場合、「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」は、当該種類株式ごとに株主の特別決議による承認がなければ、その行為の効力は生じないと定められている#11。スタートアップは、何をもって種類株主に損害を及ぼす恐れがあるかの判断が困難なため、大事を取って常に種類株主総会を開かざるを得ず、煩雑な手続きを強いられている。政府は、特別決議を要する該当行為をガイドライン等により明確化すべきである。

(5)既存の取り組み、制度の周知

上述した課題の解決に加え、すでに実施されている取り組みや制度の周知も不可欠である。代表的なものとして、 迅速な資金調達の手段であるコンバーティブルエクイティ#12が挙げられる。米国では一般的な資金調達手法であるものの、日本では依然として、特に地方において認知度が低い。すでに普及に向けた取り組みとして、経済産業省がガイドラインを策定#13したほか、民間企業もひな形を公表している。より活用が進むよう、官民が連携して制度の周知に努めるとともに、民間においては、契約書雛型の変更など、円滑かつ迅速な資金調達の妨げとなる行為については、関係者の理解のもと、極力避けることが望ましい。
なお、コンバーティブルエクイティについては、海外実務が先行している部分でもあり、シンガポール、米国(デラウエア州)、カナダと同等の海外VCからの出資のしやすさを実現するために、必要な施策を継続して検討すべきである。

No. 2. 各種行政手続の簡便化・コスト削減

人的・金銭的リソースが限られるスタートアップが会社を設立・運営するうえで、登記#14、許認可・届出手続、公証人による認証はじめ各種手続きにかかる時間・コストは大きな負担となっている#15。これを可能な限り圧縮し、その分を事業に費やすことができれば、生産性の向上が期待できる。

政府はデジタルガバメントの一環として、オンライン化されていない行政手続の約98%を2025年までにオンライン化する方針を掲げている。また産業競争力強化法のもとで、事業再編計画に認定された場合には登録免許税を軽減する等の措置を導入してきた。

しかし、足許でスタートアップが改善の成果を実感できているとは言い難い。世界一スタートアップにやさしい環境の整備を目指して、以下の通り各種行政手続を改めて検証し、簡素化・負担軽減等の取り組みを加速することが求められる。

(1)法人設立手続の簡素化

政府は、まず法人設立について手続きの完全なワンストップ化を目指し、公証人の定款認証を撤廃すべきである#16。また、世界から有望な人材を誘致し、起業を促す観点から、法人設立ワンストップサービスを早期に英語対応可能とする必要がある。

(2)登録免許税等の行政手続・支払費用の見直し

政府は、スタートアップの経営に際して必要な各種行政手続・支払費用について、社会的な影響が比較的少ない一定規模以下の会社における負担軽減を検討すべきである。とりわけ登録免許税については、スタートアップが更なる成長のために調達した資金の一部を納めなくてはならない制度設計となっていることから、創業から一定期間のスタートアップについては減免する等の支援策を講ずるべきである。
このほか必要な措置を検討するため、政府は、スタートアップにとって特に負担が過重な手続きについて広く意見を募集して取りまとめ、産業競争力強化法等のもと特例措置を設けるべきである。

No. 3. 規制改革関連制度の強化と周知、支援体制の確立

スタートアップが新たな技術・サービスを展開するうえで障壁となる既存規制・制度の改革が不可欠である。しかし日本においては、そもそも海外で活用可能な技術や実行されているビジネスモデルが、規制により禁止されている、または、可否が不明確であることも多い。

政府においても内閣府の規制改革推進会議・規制改革ホットライン、規制のサンドボックス制度、国家戦略特別区域制度、経済産業省のグレーゾーン解消制度、新事業特例制度等、様々な規制改革措置を打ち出してきた#17

しかし、制度の増加により情報が分散化し、スタートアップにとって制度の選択が困難となっている。政府は内閣官房において一元的に窓口を担うこととし、事前相談機能の強化に努めているものの、真に規制改革を必要とするスタートアップが十分に活用できていないのが現状である。

そこで政府は、各制度について「スタートアップに使ってもらうもの」へと発想の転換をしたうえで、以下の施策を講ずべきである。

(1) 窓口・申請書類等の一元化

各制度の役割を整理・統合したうえで、申請受付から申請事項のステータス、規制改革の実現状況まで、ワンストップで把握可能な窓口を設置すべきである。法規制の専門家を擁しないスタートアップでも容易に申請できるよう、選択式でどの制度を活用すべきかを誘導しうる仕組みとする、申請フォーマットは可能な限り統一するなど、UI/UX#18を大幅に改善することを求める。

(2) 支援体制の確立

スタートアップが各種制度を積極的に活用できるようにするために、一元的窓口における事前相談機能の拡充に加え、政府に委託された弁護士がスタートアップの相談に応じる制度を新たに設けるべきである。これにより、スタートアップの技術・サービスが直面する具体的な規制上の課題および根拠法令の整理を円滑化し、規制改革までのスピードを向上させる効果が見込まれる。
とりわけ事業規模の小さい初期のスタートアップにとって、致命的な規制に直面することは存亡の危機に直結するものであり、そのような事態を回避するために丁寧な支援が必要となる。

(3) プロセスの迅速化

スタートアップにとっては迅速なビジネス展開が生き残りの鍵であり、スタートアップ振興に向けて、このスピード感に合った規制改革が求められている。規制のサンドボックスや国家戦略特区における認定プロセス、規制改革ホットラインやグレーゾーン解消制度における回答の公表等、既存のプロセスを一層前倒しし、規制改革の動きを加速することを求める。

(4) スキーム間の情報連携

事前相談や申請の内容について組織間でデータ連携し、利用制度の誘導・変更や複数制度の利用による相乗効果によって改革を加速するなど、有機的な連携が不可欠である。例えばグレーゾーン解消制度に申請した結果、規制に「抵触する」との回答があった場合に、必要に応じてそのまま規制改革推進会議等につなぐ道筋を作ることも重要となる。

(5) 情報発信の強化

上記のワンストップ窓口や支援策について、多くのスタートアップは存在を知らないことが多い。そのため、スタートアップ振興施策の司令塔施策35にて詳述)ならびにスタートアップとの接点が多い大企業が中心となり、積極的な情報発信を行い、スタートアップに周知することが欠かせない。
スタートアップが制度を知っていても、規制当局に委縮して相談できない事例も少なからず存在する。これまでスタートアップの声を積極的に拾えなかったことも踏まえ、2021年12月に発足した規制改革推進会議のスタートアップ・イノベーションWG等でスタートアップ振興を見据えた規制改革を行う姿勢・体制への変革が急務である。同時に、スタートアップにも、自らの事業環境の改善に向けて、関連規制に関する情報を収集し、他のスタートアップや経団連等とも連携しながら、制度を有効に活用する姿勢が求められる。

No. 4. 公共調達におけるスタートアップの更なる活用

スタートアップの成長にとって、売上高を拡大し、最終的には補助金等に頼ることなく自立していくことが極めて重要である。政府がスタートアップにできる最大の貢献は、公共調達を通じてスタートアップの顧客となり、売上面での支援やスタートアップへの信用を付与することである。しかし、日本の公共調達(官公需)総額8兆2,664億円(2020年度)のうち、創業10年未満のスタートアップの活用は発注額の約1.3%#19と低水準に留まり、政府目標の3%に達していない。

例えば米国では、ソフトウェア企業であるPalantir Technologiesは、2019年時点で公共調達が売上の47%(349百万ドル)を占め、成長を牽引している。また米国政府は、SBIR制度を通じて、iRobotの技術的・商業的プラットフォーム構築、Qualcommの消費者向けアプリケーション開発等を支援し、これらスタートアップの後の成長につなげている。

とりわけDXはスタートアップが得意とする分野であり、わが国社会のDXにスタートアップの更なる活用は不可欠である。まずは公共調達においてその範を示すべく、政府に以下の施策の実行を求めたい。

(1) KPIの見直しとフォローアップ

例年設定している公共調達に係るKPIについて、創業10年未満の新規中小企業者の契約目標シェアを現在の3%から10%に引き上げるべきである。スタートアップ振興の司令塔組織(設立前は経済産業省)は実現状況をフォローアップするとともに、未達成の場合に是正措置を講ずべきである。

(2) 入札参加資格の見直しとスタートアップの参入促進

既存の入札参加資格を見直し、スタートアップが参加しやすい環境を構築することが重要である。現在、J-Startup企業は、入札参加資格の等級にかかわらず、全ての政府調達において入札が可能となっている。これに加えて、スタートアップの成長を牽引する観点から、創業10年未満のスタートアップに対して「えるぼし認定」や「くるみん認定」のような加点制度を適用するとともに、J-Startup企業に対しては追加的な加点措置を講ずべきである。また、国や国立研究開発法人等が行う大規模研究開発においても、同様にスタートアップに対する加点措置を講ずべきである。

(3) 手続きの改善

現状、公共調達は、特に地方公共団体において、一部を除き書面・押印前提の手続きとなっている。また入札参加資格申請の手続きは地方公共団体毎に様式が異なり、応札企業は情報収集や書類作成に多くの手間を要している。これらは人員に余裕のないスタートアップにとって大きな参入障壁となっていることから、スタートアップが有する技術・サービスを行政サービスに活かす観点からも、手続きの完全オンライン化と様式統一、データ連携等による添付書類や入力情報の削減が不可欠である。

(4) 制度の改善

入札に関する制度自体がスタートアップの参入を阻む設計となっている面もあり、改善に向けた早期の検討が必要である。システム開発においては、1週間から1か月の反復期間を設けて、計画→設計→実装→テストを繰り返すアジャイル手法が注目されているが、公共調達においては落札後の予算・期間の柔軟な見直しが困難であり、複数年度予算にも対応していないことから、実態としてアジャイル手法の導入が阻害されている。
また、民間で使用されているシステムと異なる規格、水準への対応コストも参入障壁として挙げられる。政府では、情報システムのクラウド化を進めるに際し、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)が創設されたが、監査法人による審査を経なくてはならず、クラウドサービスリストに登録されている事業者は国内外の大手企業が中心となっている。加えて地方公共団体では、情報セキュリティ対策としてネットワークを、「マイナンバー利用事務系」「LGWAN接続系」「インターネット接続系」の3つに分離したうえで、二要素認証や情報の持ち出し不可設定によって情報流出を防ぐ仕組みを適用している。このうち「LGWAN接続系」にかかわる入札に参加する場合、専用のシステムが必要であり、スタートアップにとって参入障壁となっている。
こうした課題の一部は、「デジタル庁における入札制限等の在り方に関する検討会」報告書#20(2021年8月公表)においても指摘されているが、その後の検討や省庁横断的な見直しは十分に進んでいない。デジタル時代にふさわしい公共調達を実現し、スタートアップの参画を促すためにも、今こそ財政法・会計法の見直しを含めた検討に着手すべきである。

(5)トライアル発注制度の創設

地方自治法施行令上、正規の手続きとして位置づけられたトライアル発注制度を活用し、新事業分野の開拓に貢献するスタートアップからの調達を拡大する取り組みを進めている地方公共団体も多い。他方、国の政府調達手続きにおいては、こうした制度がないため、各省庁が新事業分野開拓に貢献するスタートアップからの調達において、調達の可否や手続きが不明確な状況にある。政府は、スタートアップからの調達を促進する制度を整備するとともに、手続きを明確化すべきである。

(6)SBIR#21の活用と抜本拡充

2021年度にSBIRの新制度がスタートし、スタートアップを明確にプログラムの対象に位置付けるとともに、プログラムマネージャー(PM)のもと省庁横断的な運営、初期段階の支援重点化、段階的選抜の導入等が実施されることになった。各省の予算要求発ではなく、テーマ主導型で、かつ起業に直接的に資するプロジェクトの始動に期待する。ただし、米国に比してSBIR補助金の予算規模が不十分であるため、抜本的に拡充すべきである。
また、新制度においても、審査基準や選定対象に対する支援策が各省で異なり、応募窓口が一本化されていない等の課題が依然として残っており、改善を図るべきである。また、SBIRを通じて育成したプロジェクトについては、更なる成長に向けて、公共調達につなげていく仕組みが不可欠であり、切れ目のない支援と先行事例の確立を急ぐ必要がある。

No. 5. 共通知見横断ライブラリーの整備

起業が容易な環境を構築するうえで、適切な情報の整備・発信は不可欠である。米国では、Y Combinatorが提供するスタートアップ創業者向けの情報ライブラリー等、信頼性の高い情報プラットフォームがすでに整備されており、初めて起業を志す人々に対して、ステージごとの資金調達の方法やパートナーの探し方といったきめ細かい情報を提供し、欲しい答えに容易に辿り着けるようになっている。

日本においては、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21#22が、一般的な起業マニュアルや業種ごとの開業準備手引書を提供している。また、東京大学のアクセラレータプログラムFound X#23による情報発信等の動きも広がりつつあるが、革新的な技術やビジネスモデルによる急速な成長を目指すスタートアップに特化した情報プラットフォームがわが国に存在しないことは、未だ大きな課題である。

特に地方において、スタートアップ創業者が希望する規模・期間・種類に合致した出資候補者に適切にアクセスできないケースや、必要な人材を一般的な採用サイトで公募して獲得できずに苦しむケース等、情報が成長のボトルネックとなる事例が実際に生じている。

そこで、スタートアップに特化した形で、資金調達やビジネスを円滑に進められるようにするための共通知見に関するライブラリーを、政府が主要なVCやアクセラレータと連携のうえ、整備・公開することを求める。そこでは、スタートアップの創業・経営の観点から、定款の作り方から資金調達の手順、グローバル展開の方法、また政府の各種支援メニューや関係法制度の概要まで、創業・経営時に直面するQAを網羅することが重要である。

共通知見ライブラリーが整備された暁には、経団連や大企業もその内容の充実に協力するとともに、接点のあるスタートアップに対し、その周知に努めていく。同時にスタートアップ側にも、これを有効に活用し、自らの成長につなげていく姿勢が求められる。

No. 6. スタートアップとの契約の適正化

公正取引委員会と経済産業省は、スタートアップと出資者との契約の適正化に向けて、「スタートアップとの事業連携に関する指針#24」を改訂し、「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針#25」を策定することとなった。本指針の遵守は、スタートアップと大企業が適切な関係にて連携し、イノベーションを創出するうえでも不可欠なものである。VC、事業会社(CVC#26も含む)等の全てのスタートアップへの出資者が、本指針の趣旨を十分に認識のうえ、遵守することにより、優越的な地位を利用した株式の買取請求権の濫用等出資契約に係る諸問題#27を回避し、スタートアップにとってより良い事業環境が構築されることを望む。

また、創業間もないスタートアップは、人的・資金的リソースも限られている。社内に法務チームがなく、弁護士等の専門家に相談する余裕もない状況で契約を締結することにより、本指針に記載されている諸問題が発生していることも考えられる。政府には指針の策定とともに、スタートアップを契約実務面において支援する専門家を公費負担により派遣するといった支援策を講ずることを求める。

No. 7. 個人投資家の参入を促す環境整備
(1) エンジェル税制の利便性向上及び更なる措置の検討

エンジェル投資を促す施策としてエンジェル税制が挙げられる。当該税制の適用を受けた投資実績額は年間40億円超(2018年度)にのぼるものの、エンジェル投資自体は米国、欧州との比較において、依然として低水準に留まっている#28。この差が生じている要因のひとつとしては、欧米はわが国に比して主たるエンジェル投資家となる起業経験者の数が多いことが挙げられるが、税制面での支援の差も考えられる。更なるエンジェル投資を促す施策として、政府が諸外国の税制も参考としつつ、エンジェル投資家が投資を行うことによるメリットをより実感できる形で、当該税制の認知度の更なる向上とともに所要の拡充等を図ることが考えられる。

【個人投資家への税制優遇(エンジェル税制)の各国比較#29

※VCT:Venture Capital Trustの略。個人投資家から資金を集め、主に未上場スタートアップへの投資を行うことで、
投資リターンを獲得する役割を担っている。

(図表のクリックで拡大表示)

また、エンジェル投資の受け手であるスタートアップからは、エンジェル税制の課題として、エンジェル投資家が税制優遇を受けるために必要な「確認書」の発行手続きが煩雑であるとの声も聞かれる。政府は申請に必要な書類の削減・簡素化、手続きのオンライン化を進めるべきである。さらに、欧米では、個人投資家のみならず、スタートアップの株式を保有する創業者や従業員が当該株式を売却した際のキャピタルゲインに対する非課税措置が一定の場合、講じられており、起業家などへのインセンティブを高めるとともにエンジェル投資家となる好循環を生み出しているとの指摘もある。政府は更なる調査・研究を進め、エンジェル税制とは別の制度とすることも含め、一定の条件のもと所要の措置を講じることを検討すべきである。
なお、金融所得課税のあり方については、税負担の公平性もさることながら、金融資本市場への影響、一般投資家の投資しやすい環境の整備、スタートアップ振興も視野に入れた慎重な検討が必要である。

(2) 株式投資型クラウドファンディングの更なる活用

近年、わが国においてもスタートアップの資金調達手段として株式投資型クラウドファンディングが普及してきた一方、諸外国と比較すると依然として低い水準にある#30。活用が進まない理由としては、少額投資の個人投資家が増加することにより、株主管理が煩雑になること等が挙げられている。わが国においても、特定投資家の投資上限額の撤廃、発行総額の算定方法の見直しといった政府による施策に加え、株主管理のソリューションを提供するスタートアップも登場している。今後、令和2年度税制改正におけるクラウドファンディングに係るエンジェル税制の改正を踏まえつつ、政府が不断に課題を検証し、必要な対応を講じることで、個人投資家、スタートアップ双方にとってより良い環境を整備し、スタートアップによる株式投資型クラウドファンディングの更なる活用が進むことを期待する。

No. 8. ベンチャーデット産業の整備・促進

スタートアップの資金調達手段は、返済期限のないエクイティファイナンスが基本である。近年、米国をはじめとした諸外国では、次のエクイティファイナンスを実施するまでのつなぎ資金の調達やエクイティ調達による持ち分の希薄化を避ける等の目的で、デットファイナンスを実施する機会が増加し、ベンチャーデット産業が発達してきた#31。日本においても、スタートアップの多様な資金調達ニーズに対応すべく、金融機関によるベンチャーデット産業の整備・促進が急務である。

金融庁では2020年11月に「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」を設置し、2021年11月には論点整理2.0#32を公表した。本資料においては、不動産・有価証券をはじめとした現金化が比較的容易な担保を供することが難しいスタートアップがデットファイナンスを円滑に行うための施策として、事業成長担保権(仮称)の創設が検討されている。多様な資金調達手段の確保のためにも、政府には同担保権の早期の制度化を期待する。金融機関がスタートアップへの融資を行う際に、同担保権等も活用し、創業者・経営者に過度な個人保証を求めないこととすべきである。

金融機関がベンチャーデットを強力に推し進めるためには、政府による債務保証の量・質の両面支援も重要である。量的補完については、2021年8月に改正された産業競争力強化法により、事業計画の認定を受けたディープテック系スタートアップへの融資について、中小基盤整備機構が50%の債務保証をする制度が創設された。金融機関が本制度を積極的に活用し、スタートアップへの融資の実績を蓄積することで、ベンチャーデットがさらに普及、発展することを期待するとともに、更なるベンチャーデット産業の発展に向け、政府には劣後保証のような融資の質的補完策を新たに講じることが望まれる。

2.世界で勝負するスタートアップが続出

<5年後のあるべき姿>

政府系ファンド、国内外の大手機関投資家から潤沢な資金がスタートアップに投じられ、より深い死の谷を支える体制が整い、早期上場よりも大きい試合をすることが投資家からも推奨されるようになった。実際グローバル市場を制し時価総額1兆円を超えるスタートアップも現れ始めている。

スタートアップがわが国経済を牽引する存在となるためには、グローバルマーケットに打って出て勝利を収めなくてはならない。しかしながら、わが国のスタートアップは、起業してある程度成功すると、比較的小規模なままで上場(IPO)を果たし成長を止めてしまうケースが多く、グローバルに成功するケースは極めて少ない。今後は、世界で大勝ちするGAFAM級の企業をわが国から生み出し、ロールモデルとして打ち立てることで、わが国スタートアップの競争力・成長力を高めていく必要がある。

そのためには、スタートアップが早期のIPOにいざなわれることなく世界で勝負できるよう、グロース・レイター期を支える潤沢な成長資金の供給が欠かせない。米国や世界を席巻する時価総額トップ企業の多くは、VCによる支援を背景に急成長を遂げた企業である。国、VC(CVC含む)、機関投資家、エンジェル投資家、銀行等多様なプレイヤーが、スタートアップが成長段階に応じて途切れることなく資金面での支援を受けられるよう体制を構築することが急務である。

併せて、スタートアップ自身がグローバルな視座を持つとともに、英語力をはじめ世界で勝負できる能力を備える必要があり、教育の段階からのテコ入れが求められる。

No. 9. 政府系ファンド、機関投資家をはじめとした多様なプレイヤーによるスタートアップ投資の促進

スタートアップへの投資は、世界的にも年々増加しており、年金基金や政府系ファンドを含めた多様なプレイヤーが参入している。

わが国でもスタートアップへの投資は増加傾向にある#33。わが国の特徴として、事業会社及び銀行や保険会社等の民間金融機関によるスタートアップ投資の割合が多い#34。他方、VCに対する出資者の比率を欧米と比較した際に、出資者の多様性が乏しい。今後、さらにスタートアップ投資に資金を振り向けるためには、民間主体による投資を増やすとともに、年金基金等の機関投資家といった新たな主体の参入や株式会社産業革新投資機構をはじめとした政府系ファンドによる更なる成長資金の投入が求められる。

その鍵を握るのが、公的な性格を持ち、世界最大の機関投資家(ユニバーサル・オーナー#35)である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の存在である。GPIFによるスタートアップへの投資が進めば、市場に対する強力なメッセージとなり、民間金融機関などすでに投資を行っている民間主体による投資を促進することが期待できる。同時に、他の公的年金等によるスタートアップ投資の呼び水ともなり、スタートアップ投資の市場全体の厚みが増すことにつながるだろう。

この点、GPIFは、現在、株式及び債券への投資に加えて、投資資産全体の5%を上限に、オルタナティブ投資#36の枠を設けており、時価総額は1兆3000億円を超えている(2021年3月時点)。このうち、プライベート・エクイティ#37(PE)に対しても、先進国を中心とした分散投資を徐々に進めており、PEへの投資は、600億円程度となっている。本年1月に、PEについての日本特化型のファンド・オブ・ファンズを初めて選定#38するなど、わが国のPEへの投資についても進展が見られるところである。

GPIFは、公的年金の管理・運用、それによる年金財政の安定という、重要な社会的使命を担っている。それと同時に、ユニバーサル・オーナーとして、投資対象のリスク・リターンを見極めた、適正な水準の投資を市場においてリードし、社会の持続的な発展に寄与するという役割も重要である。GPIFには、公的年金の安定的な運用という社会的使命を果たすことを大前提に、将来有望な投資先を育てる観点も踏まえ、設定された投資枠の範囲で、今後もわが国PEへの投資を検討するよう、期待したい。併せて、VCが国内外の機関投資家から投資を受け入れられるよう、ファンドにおける国際標準評価基準の採用や監査等を実施することが必要であり、VC業界はこのための取り組みを更に進めるとともに、政府はこれを促進すべきである。

No. 10. 大企業によるスタートアップのM&Aの活性化

日本においては、スタートアップのイグジットの多くがIPOであり、大企業によるM&Aが非常に少ない。そのため、出口の選択肢が限られているスタートアップはIPOできるときにしておこうという動機が働き、それが小さいIPOにつながっていると言われている。世界で勝負するスタートアップを増やすためにも、大企業によるスタートアップのM&Aを増やし、イグジットの選択肢を多様化させていくことが不可欠である。

わが国の多くの大企業において M&Aの経験そのものやスキルを有する人材が不足していることもあり、米国に比べてスタートアップのM&A は件数・規模両面で劣る。わが国の大企業がM&Aを本格化し、スタートアップのイグジット手法の多様化に貢献することが期待される。そのために、買収候補先のスタートアップが持つ価値を適正に評価する能力およびスピード感を持って買収判断を行うことができる経営人材を備えることが必要である。さらに、買収後の統合(PMI:Post Merger Integration)も重要となる。被買収企業の幹部等に対して思い切った権限委譲を行い、被買収企業を既存の組織や文化に無理に合わせることで活力を失わせるのではなく、新規事業部門を丸ごと買ってきて大きく成長させる、スタートアップのエネルギーを自社のトランスフォーメーションに活かすという意識を経営者以下、組織全体に醸成する必要がある。

スタートアップ側にも、「会社を興す」ことにこだわりIPOだけを目指すのではなく、「事業を興し、社会に実装する」志を持ち、M&Aによる更なる成長を視野に入れて将来戦略を描く姿勢が求められる。そのためには、M&Aにより大成功を収めるスタートアップの事例を輩出するとともに、そうした起業家の姿をロールモデルとして示すことも必要である。

No. 11. 事業のカーブアウト・スピンオフの加速

カーブアウトならびにスピンオフ#39は、大企業から有力なスタートアップを生み出すために有効な手法であるとともに、経営資源をコア事業に集中させ、企業価値を高める効果も見込まれる。経済産業省の事業再編研究会#40における分析では、わが国の上場企業によるM&A(合併、買収、事業取得)の件数は近年増加傾向にある一方で、事業の切り出し(事業売却、子会社売却)の件数はそれを下回りかつ横ばいの状況が続いている。また、上場企業1社あたりの事業切り出し件数(上場企業による子会社及び事業の売却、スピンオフ、スプリットオフの件数を集計したもの)についても、日本は米国の3分の1の水準に留まっており、事業の選択と集中が十分に進んでいない状況となっている。こうした中、事例とともに、事業のスピンオフならびにカーブアウトが収益性を高め企業価値の向上に寄与することが述べられている。

昨今では、オープンイノベーションの広がりとともに、カーブアウトや産学によるジョイントベンチャー(共同設立)を支援するファンド#41の設立や、事業提案制度により設立された社内ベンチャーに発案した社員が社長に就任し、社員自らが出資し、新規事業に取り組む動きも見られる。大企業がこうした取り組みを加速することで、その人的リソース、テクノロジーを最大限活用して、成長力のある新たなスタートアップを生み出すことを期待する。経団連としても、大企業によるカーブアウトやスピンオフの好事例を共有し、横展開を促していく。

併せて、今後更なる機動的な事業再編を通じたイノベーションを生み出す観点から、政府はスピンオフ税制について、スピンオフを行う企業に持ち分を一部残す場合(完全スピンオフに至る段階的スピンオフを含む)等の類型にも譲渡損益の繰延を可能とする等、拡充すべきである。この他、組織・人材を成長産業に移していく大胆な事業再編を促進するため、組織再編税制における適格要件の緩和等の所要の措置を講ずべきである。

No. 12. 未上場株セカンダリーマーケットの整備

わが国のスタートアップのイグジットの多くがIPOであることは先述した通りであるが、米国では未上場株式の流動性を確保することを目的に、未上場株セカンダリーマーケットが発達してきた。未上場株セカンダリーマーケットは、VCをはじめとした投資家に対し、投資回収の手段としてIPO以外の選択肢を提供する点で有効である。他方、スタートアップにとっては、IPOまでの期間を延ばすことで、更なる成長に向け積極的な資金調達、投資が可能となる。また、創業者にとっても、保有株式の一部を売却する手段がIPO以外に存在することで、早期のIPOを防ぐ効果が期待される。さらに、VCのファンドの期限にかかわらない、スタートアップの成長段階に応じた適切な規模の資金の継続的な供給にも、セカンダリーマーケットの整備が大きな効果を発揮することが期待される。

未上場株セカンダリーマーケットを整備し、株式の流動性を高めることは、海外投資家を誘致するうえでも不可欠である。韓国では政府が2017年に未上場株セカンダリーマーケットとしてK-OTC Proを設立し、場の整備を進めるとともに、未上場セカンダリー株式の買い手を整備すべく、ファンドへ出資支援を行い、マーケットの活性化に取り組んでいる。

日本では、金融庁の金融審議会市場制度ワーキング・グループにて既存市場の活性化も含めた検討が昨年度よりなされており、セカンダリーマーケットのあり方についても、具体的な検討が進むことを期待する。経団連としても、諸外国の取り組みや金融庁の検討状況も踏まえつつ、スタートアップの成長に資する環境整備に向け、今後検討を深めていく。

No. 13. グローバル展開を後押しする環境の整備

世界で大勝するスタートアップの創出のためには、まずスタートアップ自身が目指すゴールの視座を高める必要がある。加えて、政府による支援が不可欠である。例えば、韓国では大韓貿易投資振興公社(KOTRA)を中心としたスタートアップの海外展開支援に加え、国のトップが「世界四大ベンチャー強国」を目指すべく全面支援を表明した。わが国においても国のトップによるコミットメントやトップセールス(施策34にて詳述)により、起業家の海外進出を後押しすることが重要である。

政府は独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)を通じてスタートアップの海外進出サポート#42を行っている。こうした取り組みについて、他国のサポート体制との比較、施策の棚卸しを行い、真に効果的な支援のあり方について検証し、取り組みの拡充、更なる活用を促進すべきである。また、世界に挑むスタートアップ創業者の国境を越えた活躍を一層後押しする観点から、例えば国外転出時課税制度における納税猶予に係る手続き面においても、適正課税に配慮しつつ簡素化等の所要の見直しを行うべきである。

また、スタートアップにおいては、海外投資家からの資金調達も含めたグローバル展開のために必須な対応として、必要なドキュメンテーションの英語化に努めるべきである。

No. 14. グローバルアクセラレーションプログラム#43の更なる活用

アクセラレータは人材や資金面で十分なリソースを有さないスタートアップをサポートし、成長を加速させるために重要な存在である。日本国内にも優れたアクセラレータが存在するが、加えてグローバルなアクセラレータによるプログラムは、スタートアップにグローバルな視座を持たせると同時に、そうしたスタートアップにグローバルなVCが目を向ける契機となる効果も期待される。

わが国においては、すでにJETROがスタートアップエコシステム拠点都市#44のスタートアップを対象とした世界トップレベルのアクセラレーションプログラム#45を提供しているほか、地方公共団体においても様々なプログラム#46の提供がなされている。また、Y combinatorをはじめとした世界各国の著名なアクセラレータによる最先端のアクセラレーションプログラムは、新型コロナウイルス感染症の影響によりオンラインでの開催となっており、スタートアップはわが国にいながら世界最高水準のアクセラレーションプログラムに参加できるまたとない好機を逃すべきでない。また、政府・地方公共団体においては、ポスト・コロナを見据え、グローバルアクセラレーションプログラムの誘致拡大を図るため、これらのプログラムを継続的かつ抜本的に拡充すべきである。

No. 15. 国家レベルでの英語力強化

日本人は、中学校から長期間英語教育を受けているにもかかわらず、国際的に見てもその英語力は低水準である#47。最先端の情報は英語で流れてきており、英語力が低水準であることで、日本人は最先端の情報にアクセスするチャンスを逸している。インターネット等で最先端の情報にすぐにアクセスできる今こそ、ますます英語の重要性が増してきており、産業競争力強化の観点からも、スタートアップに限らず、全ての民間企業にとっても英語力の強化は喫緊に取り組むべき課題となっている。

2023年度の実現を目指していたGIGAスクール構想#48は、コロナの影響を受けて前倒しされ、2020年度中に公立小中学校で一人一台端末の整備がほぼ完了した。これらの端末を活用した、ネイティブスピーカーによる動画教材、オンライン学習に加え、外国語指導助手(ALT)の配置増員等を行うことで、日本にいながらにして、特に日本人が苦手とする英語を聴く力や話す力を効率的かつ効果的に伸ばすことが期待される。小学校で英語教育が始まり、英語教育の改革が進む今、政府および教育界には英語力強化に向けた更なる取り組みが求められる。

No. 16. 留学の促進

留学は外国人留学生が日本で学ぶインバウンドと日本人留学生が海外で学ぶアウトバウンドに大別される。日本の著名な起業家の多くが海外留学経験を有していることからも、留学が起業の契機あるいは成功要因として大きな役割を果たすことは明らかである。留学をインバウンド、アウトバウンド問わず増加させるべく、政府による支援が求められる。例えば、2014年から始まった官民協働による海外留学支援制度「トビタテ!留学 JAPAN」は、高校生と大学生の海外留学者数拡大に大きく寄与してきた。現在、今後のあり方が検討されているところだが、引き続き官民協働で、後継事業を着実に実施することが求められる。また、各大学においては、グローバルに活躍できる人材の育成・獲得やわが国大学の国際化・グローバル化の観点から、入学・卒業時期を海外大学と整合性がとれるよう、入学・卒業時期の多様化に取り組むことが求められる。

アウトバウンドについては、経済がますますグローバル化するなか、企業派遣の留学を含め長期留学生が増加していない。今後、政府が中学生、高校生といった可能な限り早期の段階での留学や理系・研究者等多様な人材の留学を支援することにより、英語力の向上はもとより、グローバルな視野を早期に身に付けることが期待される。経団連では、多くの国の学生が2年間国際バカロレア(IB)教育を受ける国内外の「ユナイテッド・ワールド・カレッジ」に奨学金を支給して高校生を派遣するとともに、将来グローバルな事業領域で活躍することを目指す大学生・大学院生の海外留学に奨学金(経団連グローバル人材育成スカラーシップ)を支給するなど、グローバル人材の育成に努めている#49。経団連グローバル人材育成スカラーシップ事業では、近年、将来の進路希望に「起業」を挙げる応募者が増えており、グローバルな視野を持つ学生の起業支援にもつながっている。今後も、会員企業等からの寄付を得ながら、同事業を通じて、グローバルな視野とアントレプレナーシップを有する人材の育成に努めていく。

また、大学生の留学を増加させる施策として、大学は単位取得を伴う海外留学、インターンシップ(施策32にて詳述)ならびに海外大学との教育連携(ジョイント・ディグリー・プログラム#50、ダブル・ディグリー・プログラム#51)を大幅に推進するとともに、オンラインと実留学を組み合わせた多様な留学機会を提供すべきである。海外での留学・インターンシップを通じ、海外と日本の差異や課題等も理解することが、グローバル市場で勝負するスタートアップをわが国から生み出す土壌となる。

外国人が日本で学ぶインバウンドを増やすことも重要である。日本への留学を契機とし、日本で起業したりスタートアップに参画したりする事例も生まれ始めている#52。日本からグローバルを目指す外国人起業家の一層の増加とそこからのユニコーンの誕生は、わが国のスタートアップエコシステムの強化にも資する。政府は、外国人留学生による起業促進策として、国費外国人留学生制度や留学生受入れ促進プログラムにおいて、日本語能力、学業成績といった従来型の指標だけではなく、将来的な起業意欲を選考要件に取り入れた特別枠を設けるべきである。また企業も、日本で学んだ外国人留学生を積極的に採用し、彼らの将来の起業を支援するとともに、社内における起業マインドの醸成・拡大を図るべきである。

3.日本を世界有数のスタートアップ集積地に

<5年後のあるべき姿>

熱心な誘致活動も奏功し、今や東京が、アジアの起業家と欧米のVCや機関投資家の結節点として機能している。アジア展開拠点やR&D拠点を構えるグローバル企業も増え、スタートアップへの人材の供給源ともなっている。シリコンバレーに匹敵する賑わいが実現し、そこに混ざる多数の日本人起業家の視野をグローバルマーケットへと開いている。

わが国発のスタートアップがグローバルな視野を持つために最も必要なことは、チームの多国籍性を高めることである。また世界トップレベルの起業家やVCと接して刺激を受け、切磋琢磨して能力を高めることも重要である。そのために、欧米の潤沢な資金やノウハウと、アジアの勢いのある起業家やエンジニアを日本に呼び込み、世界有数のスタートアップ集積地を創り上げることが、10X10X達成の早道と考えられる。

そこで、世界各国から起業家やスタートアップチーム、世界トップレベルのVC、グローバル企業のR&D拠点やアジア本社・地域統括拠点を誘致することが重要となる。ここでは、世界各国からやって来た人材、知見、資金が日本のスタートアップ関係者たちと混ざり合い、高め合うことで、わが国から絶えず新しい価値とビジネスが生み出されている状態を目指す。

そのためには、戦略的な誘致活動とともに、外国人材が働きやすく、家族を含めて暮らしやすい環境を整備することが不可欠である。

【スタートアップ集積地のイメージ】

No. 17. 世界有数のベンチャーキャピタルの誘致

世界有数のスタートアップ集積地としての地位をわが国が確立するためには、スタートアップがVCにとって魅力的な投資先となるよう自社のプロダクトを磨き上げることはもちろんであるが、スタートアップの成長を支える世界有数のVCや専門領域への深い知識を有する領域特化型のVCの拠点を担い手であるキャピタリストと共に日本へ誘致することが不可欠である。これまで金融庁を中心に国際金融センターの実現に向け施策が打たれてきたものの、世界有数のVCの多くは香港、上海、シンガポール等に拠点を構えており、わが国には依然として拠点が設けられていない状況である。

最先端の知見を有するベンチャーキャピタルの拠点、人材を誘致することによってもたらされる効果は成長資金の流入に留まらず、投資ノウハウの吸収、国内投資家・起業家の視座の上昇に加え、わが国の強みでありながら、これまで目利き力が不足していたディープテック領域のスタートアップへの貢献も見込まれる。政府は海外のVCの呼び込みに成功している諸外国の例や海外VCの実際のニーズも踏まえつつ、公的機関に海外VCへのLP出資#53を行う専門ファンドを設置してグローバル展開を目指す日本のスタートアップへの投資を促進するプログラムを創設するなど、これまでの取り組みの延長線上ではない、大胆かつ本格的な取り組みを行うべきである。同時に、誘致した拠点で働く高度外国人材が安心して日本で生活を始められるよう、万全の受け入れ態勢を整備することも求められる(施策20にて詳述)。

No. 18. アジアの起業家・エンジニアの誘致

ベンチャーキャピタルに加え、アジアから優秀な起業家やエンジニアをはじめとした高度人材を呼び込むべく、政府がターゲットを明確化し、徹底的なプロモーションや優遇策を駆使し、戦略的かつ集中的な人材誘致を進めることが不可欠である。その際、JETROが運営する「高度人材活躍推進プラットフォーム」等も活用しながら、関係する大学・企業・国際会議等において、日本の強みや優遇措置について積極的に発信することが有効である。また、JETROに民間を含めた専門チームを組成して、「グローバル・アクセラレーション・ハブ#54」も活用しつつ、KPIを定めて一気通貫した起業家誘致プログラムを立ち上げるべきである。本プログラムにおいては、2年間の自由な起業準備期間が認められるスタートアップビザ(在留資格「特定活動」を想定)の提供、スタートアップエコシステム拠点における事業所の提供等を行うことが考えられる。

来日した外国人が円滑に起業できるよう、国家戦略特区では、在留資格「経営・管理」の取得に必要な事業所要件についてコワーキングスペースでも可能とする特例措置を導入している。政府は特区の事例を精査したうえで、早期に全国展開すべきである。また、起業準備期間について、本邦大学等を卒業した後、外国人起業活動促進事業または国家戦略特区外国人創業活動促進事業により地方公共団体から起業支援を受ける外国人起業家に対しては、在留資格「特定活動」によって最長2年間の起業準備期間が認められている#55政府は同制度の活用促進に向けた要件緩和も検討すべきである。

併せて政府が2021年より開始した法人設立のオンライン化・ワンストップ化について、英語で完結できるようにするとともに、英語対応可能な相談窓口を設置すべきである。また、日本で活躍するうえで、快適な生活を営むことができるようソフト・ハード両面での環境整備も不可欠である(施策20にて詳述)。

No. 19. グローバルトップ企業のアジア拠点の誘致

集積地の形成にあたっては、世界中から人・技術・資金、そしてビジネスチャンスを集積することが重要である。この点で、グローバルトップ企業のR&D拠点やアジア本社・地域統括拠点を誘致することは、スタートアップ振興の観点からも不可欠な取り組みといえる。

政府の調査では、アジアにおける日本のR&D拠点としての魅力度は1位、地域統括拠点としての魅力度は3位となっている一方、すでに設けられているR&D拠点数はインドの半数以下となっており、英語への対応力の低さや市場規模が縮小傾向にあること等により国際的な誘致競争に劣後しているのが実情である#56

政府は、「対日直接投資促進戦略」(2021年6月対日直接投資推進会議決定)のなかで、対日直接投資残高を2020年末の39.7兆円から、2030年に80兆円へ倍増させる目標を掲げている。スタートアップ振興に向けて、とりわけR&D拠点およびアジア本社・地域統括拠点の誘致に注力する必要がある。

【アジアにおける国別・拠点別立地競争力の推移(外国企業へのヒアリングベース)】

(図表のクリックで拡大表示)

まずはJETROが有する海外拠点・ネットワークをフル活用して、世界トップ企業に対する直接的な営業を行う体制の構築が重要である。特にR&D拠点については、地方大学との連携のもと、各大学が強みを持つ研究開発分野の企業を選定し、日系企業のR&D拠点とともに産業クラスターの形成を図ることが有効となる(施策23にて詳述)。なかでも特に重要なターゲットについては、政府のトップレベルも活用した集中的なアプローチを行い、確実に誘致を成功させるべきである。

並行して、特許取得に関する制度整備(施策21にて詳述)、研究開発税制の維持およびスタートアップ振興に資する形での措置拡充等を行い(例えば試験研究費の範囲のアップデート、オープンイノベーション型におけるスタートアップの定義拡大、監査手続の更なる緩和等)、民間においてもこれら措置拡充を活用することで、魅力的な受入環境を整備することも重要である。これら施策や高度人材ポイント制度、産業競争力強化法に基づく優遇措置等、わが国における制度の改善については、国際会議や学会、メディア等を活用して、積極的に海外に情報発信する必要がある。

No. 20. 言語・教育・医療等スタートアップ外国人材向けの生活基盤の整備

外国人材に日本で長く活躍してもらうには、そのライフサイクルを通じて暮らしやすい生活基盤の整備が不可欠である#57

現在、主に言語上・文化慣習上の課題から、来日した外国人材が必要な行政・民間手続を実施することは極めて困難となっている。重要なターゲット人材・企業に対しては、政府と地方公共団体が一体となって、住居やオフィスの手配、電力、ガス等の生活インフラの契約から会計士等専門家の紹介等のビジネスインフラ面の支援まで、ホスピタリティを持って徹底的に支援することが重要である。

また、優秀な外国人材がわが国に定着・活躍するためには、就労者本人に留まらず、配偶者、子女も含めた包括的な支援をすべきである。例えば、来日した外国人子女の多くはインターナショナルスクールに通うものの、その多くは高等学校相当に指定されておらず#58、卒業しても大学入学資格が得られない場合が多い。また、大学の入学試験も、基本的には全て日本語による受験を求められるため、外国人子女の多くは本国の大学に進学する。このような現状を踏まえ、政府はわが国のインターナショナルスクールを卒業した外国人子女に対し、日本の大学への入学資格の付与を検討するとともに、各大学においても、外国人が母国語だけで入学試験を受験可能にする等の施策を講ずべきである。

地方公共団体は、窓口におけるオンラインおよび対面での各種手続き、暮らしに必要な生活・防災情報の発信、公共交通機関や公共施設、病院の案内表示等について、デジタル技術を最大限活用して、多言語や「やさしい日本語」の活用等、必要な言語対応を早期に進めるべきである。こうした努力を怠った場合に、スタートアップエコシステムの形成は困難との認識のもと、特にスタートアップエコシステム拠点都市においては、行政・病院窓口の多言語対応タブレット設置を必須化するなど、率先して取り組み、横展開することを求める。

併せて政府は、課題が生じた際に活用できるワンストップ相談窓口「外国人在留支援センター(FRESC)」の機能強化と全国展開や、オンラインでの日本語・文化教育コンテンツの提供にも注力すべきである。

No. 21. 優れた研究者を呼び込む知的財産権制度の確立

スタートアップエコシステムに携わる者は、起業家、投資家に留まらない。新たなビジネスの種を生み出す研究者にとっても、わが国は世界有数の魅力的な環境を整備することが求められる。

わが国の強みとして先端技術の研究開発力のポテンシャルの高さが挙げられる。高い研究開発力により生み出された成果物はイノベーションの源泉であるとともに、わが国の競争力の基盤を成すものである。これらの研究開発を安心して行うために、迅速かつ安定した権利取得が可能な知的財産権制度は必須であり、この役割を担う特許庁の役割はますます重要となっている。

特許庁は、スタートアップの支援を重要施策と捉え、すでにベンチャー支援班を通じ、情報発信、面接活用早期審査・スーパー早期審査、料金の減免等に取り組んでいる。これらの取り組みを歓迎するとともに、世界有数のスタートアップ集積地としての地位を確立すべく、国内外のスタートアップが第三国に進出する際に進出先の知的財産権を侵害していないか事前に審査するサービス等、更なるスタートアップ支援策の拡充を求める。また諸外国からも優れた研究者を呼び込むべく、世界で最も迅速かつ確実な特許の取得を可能とする環境の整備、英語での対応、情報発信等を期待する。

4.大学を核としたスタートアップエコシステム

<5年後のあるべき姿>

世界でもトップレベルを誇る研究分野を有する大学に、海外からも研究者、資金が集まり、周辺に国内外の関連企業が集積するテックシティが地方を含め出現してきた。そこにはディープテックを目利きできるキャピタリストも集まり、研究者・学生の起業も盛んだ。

各地の大学の多くは特定の分野において、世界に通用する技術を有している。こうしたシーズを見逃すことなく、ビジネスに結びつけることができれば、地域の成長を牽引することが期待できる。経団連は2020年に公表した「。新成長戦略」において、こうした大学のシーズを核として、大学発スタートアップ、大企業、地方銀行、地方公共団体等が連携し価値を協創するエコシステムの構築を提唱した。

このエコシステムに海外からトップレベルの研究者や資金が集まれば、世界に打って出るユニコーンの創出も期待できる。それは、地域や大学の知名度を引き上げ、さらに優秀な人材や企業を惹きつけ、地域の持続的な成長に貢献するであろう。各地域のプレイヤー、そして政府には、全力で以下の施策に取り組むことを求める。

No. 22. 各大学が有する強みの特定・更なる強化

少子化の進行により大学生の更なる減少が避けられない昨今の状況において、各大学は地域のニーズに応える人材育成・研究を推進しつつも、強みを有する研究分野に対し選択と集中を進め、効率的な経営を進める必要がある。国立大学法人法の改正により、一法人複数大学制度が可能となった現在、例えば岐阜大学、名古屋大学による東海国立大学機構においては、両大学の強みである医療、航空宇宙、農学分野において連携強化、集積が進められている。大学間の連携強化、集積の動きは国立大学のみに留まらない。各地域の国公私立大学の連携による特色のある教育研究の推進に向け、大学等連携推進法人制度#59も新たに2021年2月に創設された。

こうした集積はスタートアップエコシステム拠点の要となる。各大学が戦略的に自ら強みを有する分野を特定し集中を進めるとともに、政府は国立大学法人運営費交付金ならびに大学ファンド等を活用することで取り組みを加速させるべきである。

各大学が有する強みの更なる強化にあたっては、文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)#60」や「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)#61」の活用も考えられる。WPIに採択されている大学は現在限定的#62であり、COI-NEXTは2020年度より開始したばかりであるが、当該取り組みが他の大学にも拡大することを望む。

No. 23. 各地の強みに応じた世界トップレベルの産業クラスターの形成

各大学の強みを核としたスタートアップエコシステムを形成するためには、強みの特定・強化(施策22にて詳述)に加え、強みのある分野への造詣が深い研究者、学生、関連分野の企業、研究所を国外からも強力に誘致することが不可欠である。

例えば、人口約20万人の都市であるデンマークのオーデンセ市の主要産業はかつて造船業であったが、他国との熾烈な競争により、造船業に替わる新たな産業の創出が不可欠となった。そこで、ロボット産業を新たな成長のエンジンと位置づけ、地方公共団体を挙げて、世界有数の企業とも連携しつつ、基礎研究から市場参入までの一気通貫型支援を行った結果、協働ロボット世界最大手のUNIVERSAL ROBOTSをはじめとした企業を創出し、国内外のロボティクス関連企業100社以上が集結した世界有数のロボットクラスターの形成に成功した。

また、フランスのボルドー市でも次世代産業としてドローン産業の誘致、強化に取り組んでおり、ヨーロッパ最大のドローン試験飛行場を整備する等、行政主導での産業クラスター形成を進めている。

【図表:オーデンセ市の取り組み事例】

出典:経済産業省ロボットによる社会変革推進会議 ロボットを取り巻く環境変化と今後の施策の方向性より抜粋(2019年7月)

各地の強みに応じた産業クラスターの形成は、地方創生やデジタル田園都市国家構想実現の観点からも有効である。わが国においても各地にローカルスタートアップエコシステムが形成され、その間で地域を超えた連携が進むよう、上記の事例等も参考としつつ、産学官が一体で取り組むべきである。

No. 24. 大学による研究者・学生のスタートアップ起業支援

大学を核としたスタートアップエコシステムの主役は、研究者および学生である。研究者・学生が研究成果を基に新たなビジネスを興し、ビジネスで得たフィードバックを新たな研究に活かす、こうしたサイクルが実現すれば、大学を拠点とするスタートアップの飛躍的増加が期待できる。

各大学においては、すでに様々な取り組みが始まっている。九州大学を主幹とする教職員、修士・博士課程の学生向けのGAPファンドNEXTプログラム#63設立(2016年)、東北大学の学生アクセラファンドをはじめとしたベンチャー創出支援パッケージの創設#64(2020年)、北海道大学を主幹として研究成果の社会実装を目指すスタートアップ育成プラットフォームの設立(2021年)等、地域横断でのアントレプレナーシップ教育の導入や起業希望者向けの資金・ノウハウの提供により、すでに大学発スタートアップが増加していることは心強い。

こうした動きを一層加速するため、大学が以下の事項に取り組むとともに、政府が全面的に後押しすることを求める。

(1)大学発スタートアップの飛躍的増加

一部の突出した大学を除き、研究者・学生にとっては未だ起業は縁遠く、選択肢に入らない状況にある。東京大学の松尾豊教授が率いる松尾研究室では、6つのミッションのひとつにベンチャー創出を掲げ、先輩起業家が牽引する形で「研究室所属の学生は全員起業する」という環境を創り出している。こうした例も参考に、各大学においては、研究者・学生が実際の起業家に接する機会やコミュニティの構築を大胆に展開し、大学発スタートアップの創出まで見据えた真のアントレプレナーシップ教育の拡充に努めるべきである。そのなかで、施策5で示した共通知見横断ライブラリーの活用に加え、基本的な財務・会計に関する知識や株式会社に関する法令等、企業経営上不可欠な知識の習得については、産学が連携した教育プログラムを実施・提供し、起業を志す学生の支援を推し進めるべきである。

(2)ギャップファンド#65の拡充

研究を社会実装につなげるためのギャップファンドは、大学発スタートアップに不可欠である。各大学・大学間連携によるギャップファンドは増加傾向にあるものの、未だ導入していない大学もあるとともに、その規模は十分とはいえない。政府が象徴的な額の大学発スタートアップ支援予算をスタートアップ振興の司令塔組織につけることにより、ギャップファンド創設の推進および一層の予算拡充を図るべきである。
また、政府は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)に4.5兆円の大学ファンドを設置し、早期に10兆円規模として、大学の将来の研究基盤に長期・安定的投資を図ることとしている。事業運営にあたっては、こうした研究を基とする社会実装・ビジネス化に向けた取り組みについても拠出の対象とすることで、大学発の起業を増やすためのメカニズムとしていくべきである。

(3)研究者と経営者のマッチング機会の創設

大学発スタートアップは、必ずしも研究者自身が起業する必要はなく、外部から経営を担う人材を招聘することも有効であり、実際、大企業の人材が転職して経営を担うケースは増加している。
今後の課題は、経営人材となりうる大企業にいる優秀な人材をいかにスタートアップエコシステムに流入させ、研究者と適切にマッチングさせるかである。前者は施策27~29にて詳述するが、後者のマッチングについては、例えばBeyond Next Ventures株式会社では、医療・ヘルスケア分野を中心に、事業化を見据えた研究者とビジネスパーソンをつなぐため、ヘッドハンティングと育成システムを活用したマッチングプラットフォームを運用している。こうした取り組みが他分野に広がることを期待する。
併せて、内閣府は、関係省庁や国立大学・研究開発法人等の関係機関に対して分析機能・データを共有するプラットフォーム「e-CSTI(Evidence data platform constructed by Council for Science, Technology and Innovation)」を構築している。しかし、現状は政府内での活用に止まっており、スタートアップでの活躍を希望する経営人材がこれを活用して、研究者にアプローチすることは難しい。政府はe-CSTIにおける研究データの官民連携を促進すべきである。

No. 25. ディープテック系スタートアップへの助成

差別化された科学的な発見や革新的な技術に基づいて、社会に大きな変化をもたらすディープテックは、製造業を中心に発展を遂げてきたわが国の産業構造と親和性が高く、ローカルスタートアップエコシステムを構築するうえでも不可欠な要素である。

ディープテック系スタートアップの課題としては、設備投資をはじめとした多額の研究開発費が必要である一方、事業化までに長い期間を要する点が挙げられる。政府はこれまでも研究開発型スタートアップ支援事業、大学発新産業創出プログラム等のプログラムを通じて、ディープテック系スタートアップへの支援を行ってきたが、英国(SMART Grant)、フィンランド(Young Innovative Company Funding)にて提供されている類似のプログラムと比較すると低い水準に留まっている。政府においては研究開発プロジェクトにおけるスタートアップ採択枠の設定等、更なる支援を講ずべきである。

ディープテック系スタートアップへの投資には、当該領域の技術にかかわる専門知識に基づく目利き力が求められる。官民連携による、領域の専門知識と金融知識を併せ持つキャピタリストの養成が急がれる。また、評価能力を持つ海外のVCとの接点を増やすサポートも有効であり、積極的な取り組みが必要である。

スタートアップは社会課題の解決やわが国が非連続的な成長を遂げるための重要なピースである。政府は「2050年カーボンニュートラル」実現とともに、日本の新たな成長戦略の核として、2兆円規模のグリーンイノベーション基金を創設した。また2023年から実施予定の第3期戦略的イノベーション創出プログラム(SIP)においては、目指すべき社会の将来像Society 5.0からバックキャストして課題候補を選定し、スタートアップを含む幅広い主体から研究開発テーマを募っている。既存の発想にとらわれることなく社会課題の解決に挑むスタートアップがこうした基金やプログラムを活用することで、わが国の更なる発展、社会課題の解決が進むことを望む。

No. 26. 地方銀行による積極的支援

各地の大学が有する強みをビジネスへとつなげ、飛躍的成長を遂げるための成長資金供給の担い手として、その地域に根差して活動を行っている地方銀行に期待が寄せられている。

2020年11月に施行された銀行法等の改正に伴い、銀行は子会社の投資専門会社を通じたスタートアップへの出資要件が緩和された。本改正により、各地方銀行では続々と投資専門会社設立の動きが見られている#66。また、中小企業基盤整備機構は本取り組みを支援すべく、投資ファンドへのマッチング出資を行っている#67地方銀行がこれらの取り組みを継続し、地元のスタートアップへの支援が拡大することを期待する。

地方銀行による支援は出資に留まらない。政府の施策(施策8にて詳述)も活用し、融資等も含めた多様な支援策を講じるべきである。また、政府には地方銀行の積極的な取り組みが成功するよう、人材面からも支援をすべく、金融庁が昨年立ち上げた大企業と地域の企業の人材マッチングシステムである「REVICareer#68」が有効に機能するよう求めるとともに、大企業にも本システムの積極的な活用を期待する。

5.人材の流動化、優秀人材をスタートアップエコシステムへ

<5年後のあるべき姿>

卒業時の起業やスタートアップ参加も当たり前になり、また大企業で勤務したのちに起業やスタートアップに転職する人も珍しくなくなった。大企業も中途採用からの幹部登用を格段に増やし、とりわけスタートアップ経験者をハングリーに採用し、社内で躍動させている。

スタートアップを創るのは「人」である。優秀な人材なくしてスタートアップの誕生・成長は成し得ない。大企業が採用を多様化し、国全体でシームレスな労働移動の促進により人材を流動化することで、優れた才能をスタートアップに向けることができれば、魅力的なビジネスが溢れ出す。

就職・転職・進学と同じように、誰もが「起業」という選択肢を持つようになれば、個人のライフスタイルはもっと多様になる。そこでは、人々は個々の生き方、専門性、ライフステージ等に応じて、スタートアップ、大企業・中小企業、大学、政府等、様々な場を自由に行き来して活躍することができる。今の仕事を続けながら副業・兼業でスタートアップに参画しても良いし、複数起業したあとに学生に戻ってもいい。我々の選択は本来もっと自由で多様であるべきだ。

しかし、それを阻む壁が存在する。わが国社会の多様性を高めることよってエコシステム全体のイノベーション創出力を強化するため、以下の施策を講ずることを求める。

No. 27. 大企業の採用から経営層まであらゆるレイヤーの多様化
(1)採用の多様化

わが国では、大企業を中心に、「長期・終身雇用」や「年功型賃金」等を特徴とするいわゆる日本型雇用システムが導入されている。このシステムは、社員の高い定着率やロイヤリティ醸成に寄与する等一定のメリットを有する一方、同質的な組織を生んでいる可能性も否定できない。わが国が本格的な人口減少社会に突入し、これから到来するDX、GXの進展等に伴う産業構造の変化を見据えれば、企業が様々なバックグラウンドを有する人材とのコラボレーションを通じ、不断にイノベーションを生み出していく重要性はますます高まっている。
他方、各個人は自らのキャリアパス・ビジョンを主体的に考え、キャリアを形成していく必要があるが、わが国の多くの大企業において、新卒一括採用を重視した結果、企業採用に占める経験者採用枠は相対的に抑制され、転職市場が十分に発達してこなかった。こうした構造は、学生を含めた若者にとって、スタートアップに参画する、あるいは起業するといったリスクをとりにくい要因のひとつになっている。今後、大企業が中途・経験者採用を含め採用方法の多様化を進めることで、社会全体の人材流動性が高まることを期待する。
中途・経験者採用は、多様な人材の確保においても有効な手段である。足許では、多くの企業で中途・経験者採用枠の拡大を進めており、企業の採用活動においても、大きな変化が生じている。転職市場の活性化と相まって、大企業・スタートアップ・官公庁等の間での人の行き来が活発になることで、社会課題を解決すべく、その経験で培ったノウハウ等を活用し、起業をすることが自ずと有力な選択肢となっていくことが期待される。

(2)カムバック・アルムナイ採用の導入

企業が退職した元社員を再び雇用する「カムバック・アルムナイ採用」の導入は、スタートアップの世界に挑戦する優秀な人材が「一度辞めても復帰できる」という安心感を得ることができ、スタートアップへの転職や起業にチャレンジする心理的・経済的ハードルを引き下げる効果が期待できる。また、送り出した企業にとっても、社外で様々な経験を積んで戻ってきた社員は、自社の事情を知りつつ、多様性も生み出す効果が見込まれるため、活躍の場を与えることが重要である。

(3)新卒採用における多様性の評価

多様性の観点は、新卒採用においてもひとつの評価項目となりうる。採用する企業側が、起業、留学、ボランティアといった学業以外の活動・経験をより高く評価することで、学生の挑戦意欲を喚起することが望まれる。

(4)アクハイアの活用

人材獲得を主目的として、スタートアップ等をM&Aにより買収する「アクハイア」も多様性確保の有力な選択肢となる。その際、買収側の企業は、単に子会社にして終わりとするのでなく、アクハイアを通じて得た人材とその企業とのシナジーが最大限に発揮され、次なる成長エンジンとして機能するよう、企業風土の違い等も踏まえつつ、人事・経営戦略を検討することが肝要である。

企業は、イノベーションを創出し、成長し続ける組織を作り上げるためにも、こうした重層的な施策の実施を通じて、執行役員層を含めたあらゆるレイヤーにおいて、多様性を確保することが望ましい。

No. 28. 副業・兼業の推進、同業転職・起業の過度な制限の防止

副業・兼業は、働き手自身のキャリアの幅を広げるために有効であるほか、副業・兼業者を受け入れるスタートアップをはじめとした企業にとっては、貴重な人材確保策となりうる。また、副業・兼業を認める側の企業にとっても、社内では得がたい知見の還元等が期待できる。

厚生労働省は「モデル就業規則」の内容を、原則として副業・兼業を認める方向に改定し、2020 年9月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定版を公表した。しかしながら、今なお副業・兼業を認めている企業は少ない#69

経団連は、組織の多様性を高めるためにも、報告書「副業・兼業の促進」#70等を通じ、施策導入のメリットや企業の好事例の紹介・周知を図り、副業・兼業を推進していく。

また、起業の多くのケースは、社会人経験によって得た経験や技能を活用している#71。ところが、会社によっては、同業他社等への転職や起業を一定期間、禁じている場合#72がある。同業転職や起業を過度に制限することは、働き手の成長やキャリアの芽を摘むことに加え、新たなユニコーンの創出を阻害しかねない。企業は、営業秘密や知的財産の保護を前提としつつも、同業転職や起業を過度に制限・禁止しないことが望ましい。

No. 29. スタートアップへの人材派遣・交流の促進

大企業とスタートアップとをつなぎ、人材の交流を図るため、現在、社員をスタートアップに出向させる大企業が増加している#73。大企業の社員にとっては、今までと全く異なるビジネス環境のもと、0から1を作り出すという大企業では経験しにくい仕事を通じて、帰任後は変革を担う人材として活躍することが期待される。他方、受け入れるスタートアップにとっても、大企業の社員が有する高い能力やノウハウ、コネクション等の活用に加え、人的リソースの制約により後手に回りがちである内部統制の構築への寄与も見込まれるため、更なる拡大が望まれる。

そうした中、現時点では、出向の場合は派遣先であるスタートアップに給与の負担が求められるケースもあり、追加的人材を雇う資金的余裕がない多くのスタートアップにとって、出向を受け入れにくい一因となっている。

経済産業省では、今年度(2021年度)の補正予算にて新たな学び直し・キャリアパス促進事業の一環として、スタートアップが出向者の給与を負担せざるを得ない場合に、人件費等を一定割合補助する事業を開始した。企業が本事業を積極的に活用することで、次年度以降も拡大し、大企業とスタートアップとの交流の更なる拡充が進むことを期待する。

また、上記事業に加え、出向起業等創出事業として、出向起業#74を補助金交付により促進する取り組みも始められている。こうした起業の形は、大企業で働く社員にとって、低リスクで起業できる貴重なチャンスとなりうる。政府にはこうした施策の更なる拡大を期待#75するとともに、経団連も政府施策の周知や好事例の共有などにより支援していく。

No. 30. シームレスな労働移動を支える税制・法制度

起業する、あるいは創業間もないスタートアップに転職することは、事業が軌道に乗っている既存企業で働くことに比べ、廃業をはじめとした高いリスクを伴うものである。これらのリスクを承知したうえで、未開拓の分野に果敢に挑戦する人材を後押しすべく、政府は所要の税制上の措置を講ずべきである。

例えば、ストックオプション税制をより魅力的なものとすべく、税制適格ストックオプションの行使期間(付与決議から10年以内)の延長や、権利行使価額(年間合計額1,200万円)の引き上げ等を行うべきである。

また、シームレスな労働移動を実現するに際して、税制や社会保障制度が、働き手の労働移動の意向に影響する要因となることは望ましくない。政府には、税制や社会保障制度が、働き方やキャリア形成に中立な制度となっているか検討することが望まれる。例えば、退職所得控除について、業種・業界の雇用慣行や、雇用者の権利関係(労働条件)、雇用者の勤続年数の選択に対する影響等を検証しつつ、見直しを進めるべきである。私的年金制度のあり方についても、ワークスタイルへの中立性の観点から引き続き検討を行うべきである。

なお、スタートアップへの転職、起業に伴い、所得が既存企業での勤務時から減少する場合を念頭に置いて、個人住民税の翌年度課税方式のあり方について検討すべきである。

6.起業を楽しみ、身近に感じられる社会へ

<5年後のあるべき姿>

起業家との接点も増え、起業に人生を賭したリスクなどないことや、その魅力が広く一般に認識されている。起業やスタートアップ参加は、若者にとっても中高年にとっても、やればできるし面白そうな「普通の選択肢」となった。

「ベンチャー白書2020」によれば、日本で起業が少ない大きな要因は、「身近に起業家がいない(起業という道を知らない等)」「失敗への恐怖」である。起業家の数を増やすためにも、教育に加え、幼少期から起業家を身近に感じ、大きな心配なく起業を楽しむ、キャリアプランの選択肢に「起業」があることが当たり前となっている社会、そして起業家を心から応援する社会を我々は目指さなくてはならない。

Society 5.0の実現のためには、多様な人々の想像力・創造力とデジタル革新の融合によって、社会課題を解決し、新たな価値を協創していく必要があり、ビジョンドリブンで課題解決や価値創造に挑戦するスタートアップを生み出すことが欠かせない。そして、そのようなスタートアップを創出する起業家を生み出すべく、我々はこれまでの学校教育のあり方を見直し、中長期的な視野で起業家としての素養を備えた人材の育成も推し進める必要がある。

No. 31. 体系的なアントレプレナーシップ教育の実施
(1)起業家教育のカリキュラム導入・スーパーアントレプレナーシップハイスクールの指定

わが国では、起業家教育を受講した大学生・大学院生の割合は全体の1%のみと非常に少なく、高校以下では、起業家教育を実施している学校はさらにごく一部に限られる。その一方、EU加盟国では、初等教育から高等教育にかけて、起業家教育を心構え・能力・知識の区分で整理して、早期から一貫した体系的な教育が実施されている。わが国は起業家のポテンシャルを有する人材育成において、後塵を拝する状況となっている。
そこで政府は、初等・中等教育段階から、前向きにアントレプレナーシップ教育を実施すべきである。GIGAスクール構想による学習の個別最適化、効率化の結果として生み出される時間も活用し、プログラミング教育必修化に続いて、体系的なアントレプレナーシップ教育を必修とし、カリキュラムに組み込むべきである。その際には、配布された端末も活用し、一流の人材から学べる環境を整備することが不可欠である。オンライン授業も活用することで、国内外の起業家から学べる機会やコンテンツを企業とともに整備し、すでに実施されている学生向けの起業体験プログラム#76等とも連携することが望ましい。さらに、かつてSGH#77 、SSH#78 がわが国におけるグローバル人材、理系人材の育成に貢献した経験を踏まえ、起業家育成の重要性をメッセージとして打ち出すためにも、アントレプレナーシップ教育に重きを置いたSEH(Super Entrepreneurship Highschool)を創設し、プログラムの開発・実施をはじめとした取り組みを産学官一体で支援することを求める。

(2)金融教育の拡充

日本の金融リテラシーは世界的に見ても低い水準にある#79。金融リテラシーを高めることにより、家計金融資産の分散・長期投資が促進され、中長期視点ではわが国のスタートアップエコシステムに貢献する効果が見込まれる。
金融教育の充実に向け、教育委員会および学校においては、金融に携わる専門家(投資家・金融機関・起業家等)と連携し、教員のリテラシー強化や出張授業、体験型副教材の活用#80等を積極的に行うことを期待する。

(3)教員のダイバーシティの確保

アントレプレナーシップ教育といった、従来の教員養成課程では取り扱ってこなかった領域を指導できる人材の確保に加え、児童・生徒が多様な価値観を醸成し、社会とのつながりを認識するためにも、様々なバックグラウンドや経験を持つ教員を採用し、教員の多様性を確保することが欠かせない。社会人が教育現場に携わるルートとして、兼業・副業等で参画する特別非常勤講師や特別免許・臨時免許等が制度上確保されているものの、特別免許の授与件数は年間200件前後と非常に少ない。2021年5月に文部科学省より公表された「特別免許状の授与に係る教育職員検定等に関する指針」では、各都道府県において、普通免許状との同等性が過度に重視されていることにより、活用が進んでいない点が指摘されている。
教育委員会および学校が、同指針に沿って、特別免許状制度を積極的に活用することを望む。さらに、政府は、初等中等教育課程でも民間企業と学校間の人材交流を促進するため、民間企業等と学校の双方と雇用契約を結ぶことができるクロスアポイントメント制度#81の導入を検討するとともに、民間企業においても、副業・兼業等で教育現場に携わりたいと思っている人材を後押しできる環境を整備すべきである。

No. 32. 多様なキャリア・才能を育む教育・大学入試
(1)多様なキャリア形成を推進する大学教育

学生のキャリア形成の多様化を推進するうえで、早い段階で起業やスタートアップに触れることが有効である。その代表的な手段として、インターンシップが挙げられる。2021年4月、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」において、インターンシップの定義が見直され、職場での実際の業務等、企業の実務を体験する、より実践的なものとすることが合意された#82。この種のインターンシップが増えることは、学生のキャリア形成に資するため歓迎される。
インターン先は国内のスタートアップや大企業に限らず、海外スタートアップも含まれる。海外にて多様な価値観や最先端のスタートアップエコシステムに触れることで、グローバルな視点での起業がキャリアの選択肢に入ることは、わが国の成長力にも寄与する。例えばシンガポール国立大学では、シリコンバレーをはじめとする世界トップクラスのスタートアップ拠点都市でのインターンシップと各国の大学での講義を組み合わせたプログラム「NUS Overseas College」を実施しており、受講者は海外でのインターンシップを経験しながら単位を取得できる。わが国でも、単位とセットで海外インターンシップを実施するプログラムを各大学が進めるべきである。
学生時代の起業は徐々に増えてはいるものの、さらにその数を増やしていく必要がある。起業教育で有名な米国のバブソン大学では、大学1年生の必修講座として、実際に学生が起業する授業がある#83。授業の一環として起業を体験し単位も取得できるのであれば、起業を身近に感じ、興味を持つ学生が増えるだろう。
大学による起業家支援は、現状、コワーキングスペースをはじめとした場の提供ならびに、メンタリングが中心となっている。一部の大学では、すでにファンドを組成し、大学発スタートアップへの投資を進めているが、政府による金銭的支援も含め、取り組みをさらに加速させるとともに、企業においては、大学発スタートアップへの研究人材の派遣等の参画に加え、起業に挑戦した学生を積極的に評価し、採用において高く評価することが望まれる。参考となる事例として、台湾の科技部#84においてビジネスコンテスト的要素とアクセラレータ的要素を併せ持ったFITI(From IP to IPO Program)と呼ばれる学生起業家支援政策を行っており、奨励金や創業資金の援助を行っていることが挙げられる。

(2)多様性を重視した自律的な学びの実現

従来の学校教育は、教師が一律のペースで一斉に指導する画一的な教育が中心であった。経団連は、EdTech#85の活用により、多様性を重視した自律的な学びを実現することを提唱している。GIGAスクール構想により小中学生一人一台端末の整備がほぼ完了した今、学校が個別最適な学びにより、各領域で抜きん出た才能を有するトップ人材やエリートを育成することや、各人が関心のある領域を突き詰め、尖った才能を伸ばすことが、イノベーションの創出の観点からも重要である。同時に、東京大学の「LEARN」プロジェクト#86やJSTの「ジュニアドクター育成塾」#87のように、企業や研究機関をはじめとした多様な主体が連携しつつ、既存の教育課程の枠にとらわれない育成の仕組みも拡充すべきである。

(3)大学入試の多様化

初等教育から高校教育における教育を抜本的に変えるためには、知識習得の成果を重点的に問う現在の大学入試制度を見直すことも重要である。今後、トップ人材の育成が重要になることに加え、複雑化する社会問題の解決への糸口を発見し、それを解決する能力がより重視されることから、従来のような知識習得の成果だけでなく、総合型選抜(旧AO入試)のように、受験者の特定の分野に特化した才能やそれまでに行った起業も含めた社会的な活動等も評価する入試制度の採用を、各大学が対象人数を拡大するなどして、さらに進めていくべきである。東京大学では、2016年度から学校推薦型選抜#88を導入しており、特定の分野に秀でた個性豊かな学生を選抜し、その才能をさらに伸ばすため早期専門教育を実施している。また、筑波大学では、自分で課題を見つけ、解決する能力を評価する「AC(アドミッションセンター)入試」が2000年より導入されており、起業家の創出に一定程度の貢献を果たしている。これら大学の取り組みを拡大し、より社会的にインパクトのある規模感で推進すべきである。

No. 33. 起業を身近なものとする文化の醸成

日本のスタートアップの数・レベルをともに10倍にまで高めるためには、アントレプレナーシップ教育等により、起業が身近なものであると若年層を中心に捉えてもらうことに加え、リカレント教育等を通じ、起業への理解を深める必要がある。リスクを取り社会課題の解決等に取り組む起業家に敬意を表し、失敗を許容し社会全体で応援する文化・風土を醸成することが不可欠である。

しかしながら、わが国において、起業は依然としてどこか縁遠いものとなっている。Global Entrepreneurship Monitor Report#89による起業に関する意識調査では、日本はいずれの項目においても残念ながら国際的に低い水準に留まっている。

韓国では国によるスタートアップの積極的な支援に加え、起業を題材としたドラマが放映され、起業がより一層身近なものとなっている。日本においても、制度面や政府による支援はもちろんであるが、社会が抱える課題を解決し、新たな時代の主役となるスタートアップの世界に飛び込む人が増加し、社会課題の解決に挑む人々を社会全体で応援する文化を醸成していくことが重要である。経団連としても起業家がより身近な存在となるよう、会員スタートアップの創業者等の教育現場への派遣等を行うことで、文化の醸成に向けた取り組みを進めていく。

【「起業に関する意識調査」における日本の順位(2021年)】

出所:GEM Global Entrepreneurship Monitor 2021/2022 Global Reportより和訳

7.スタートアップ振興を国の最重要課題に

<5年後のあるべき姿>

国のトップの明確なコミットメントのもと、強力な司令塔組織が整備され施策が一元的に実施されるようになった。官民を挙げた努力により5年で日本も様変わりしたと言われている。

以上、スタートアップ振興に必要な施策を縷々述べてきたが、わが国に決定的に不足しているのは、ビジョンの共有である。「成長と分配」の「成長」を持続させるために、新たな牽引役としてグローバル級のスタートアップを継続的に創出するというビジョンを、社会全体で共有しなくてはらならない。

まずは国のトップによる明確なコミットメントを国内外に継続的に発信し、スタートアップ振興を政策の中枢に据える必要がある。そのうえで、実際のスタートアップ振興策を一元的に担う司令塔を打ち立て、官民を挙げ、スタートアップ振興においてターゲットとなる国々に追いつき、追い越せるよう、不断の努力が求められる。

No. 34. 国のトップによる明確なコミットメント

まず、国のトップがこのビジョンの実現へのコミットメントを明確に打ち出すことにより、政府・経済界がスタートアップ振興を最優先課題として取り組み、社会全体でこれを支える大きなうねりを創り出す必要がある。

フランス、インド、韓国等、近年スタートアップ振興に力を入れている国々では、大統領や首相をはじめとした国のトップによるコミットメントが明確であり、スタートアップ振興を国家戦略の中核に据え、重要性について発信を行っている。また、トップによるコミットメントが明確となることで、スタートアップエコシステムへ人材、資金の流入が加速し、ユニコーンが続々と誕生する好循環が生まれている。

本年の内閣総理大臣年頭記者会見において、本年をスタートアップ創出元年として「スタートアップ5か年計画」を設定し、スタートアップ創出に強力に取り組む旨の発言があったことを歓迎する#90。スタートアップ立国宣言をはじめとした国のトップによる更なるコミットメント、対外的な発信強化に期待するとともに、経済界としても本提言をもとに「スタートアップ5か年計画」の策定に協力し、一丸となってスタートアップ立国実現に取り組む。

No. 35. スタートアップ振興政策の司令塔(スタートアップ庁等)の創設

国のトップによる「スタートアップ立国」へのコミットメントに基づき、政府にスタートアップ振興政策を遂行する司令塔としての機能を果たす組織(スタートアップ庁等)を創設することを提言する。司令塔の役割としては、①「スタートアップ立国」への継続的なコミットメント、②国のスタートアップ振興関連施策の一元的な遂行、③スタートアップに対する国の一元的な窓口が挙げられる。

(1)「スタートアップ立国」への継続的なコミットメント

これまで政府内の様々な省庁、部局でスタートアップ振興策の検討が行われてきたが、一過性の取り組みや類似した検討を繰り返した挙句、十分な成果を上げられずに現在に至る。こうしたことを繰り返さぬよう、「スタートアップ立国5か年計画」に推進すべき施策を体系的に定め、KPIを置いて司令塔組織にて実施状況をモニタリングすべきである。また、SBIRや公共調達におけるスタートアップの活用目標の設定機能、さらにその実現状況が芳しくない省庁への勧告権を司令塔組織へ付与する等、実効性の担保を図るべきである。

(2)国のスタートアップ関連施策の一元的な遂行

本提言に記載の各施策は非常に幅広く、所管する部局も各省庁にまたがっていることから、効果的な実行にあたっては、施策を一元的に方向付けし、推進する体制の構築が不可欠である。しかしながら、現在は、スタートアップに関する政策が経済産業省・文部科学省・内閣府はじめ各省庁に分かれ、予算・人材・情報発信面で分断・分散が生じており、一元的な施策実施が可能であるとは言い難い状況にある。司令塔組織に以下の施策を統合し、重複を廃し施策間の有機的な連携を図ることで予算・人材を有効に活用し、情報発信力も強化すべきである。

【機能統合すべき既存施策の例】

  • 内閣府:スタートアップエコシステム拠点形成事業、規制のサンドボックス制度
  • 文部科学省 次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)
  • 経済産業省 グローバル起業家等育成プログラム、オープンイノベーション促進税制、エンジェル税制、J-Startupプログラム、新事業特例制度
  • 総務省:起業家甲子園・起業家万博
  • スタートアップ支援機関連携協定(Plus "Platform for unified support for startups")#91
(3)スタートアップに対する国の一元的な窓口

現状、スタートアップの側からは、各省庁が提供する支援策や規制制度に関する相談窓口が分散しているために、必要な支援や相談をどこで受けられるかがきわめてわかりにくい。結果として必要な支援が必要なところに届かない。司令塔組織において、スタートアップ振興に関する政府の全ての支援策を一元的にわかりやすく発信するとともに、スタートアップが何か困ったことがあればまず駆け込み、相談から申請、回答まで一気通貫して行えるワンストップ窓口を、オンラインも含めUI/UXにも配慮して設置すべきである。

No. 36. デジタル規制緩和の推進

スタートアップは、破壊的なイノベーションによる非連続的な成長を志向する企業であり、近年のイノベーションの主役はデジタル分野である。こうしたスタートアップの成長を加速する観点からも、政府はとりわけデジタル分野の規制緩和を徹底的に推進する必要がある。折りしも2021年11月にデジタル改革・規制改革・行政改革を横断的に検討・実行するデジタル臨調が発足し、今後3年間を集中取組期間としている。経団連は、デジタル臨調に参画して、デジタル分野の徹底的な規制緩和を具体的かつ迅速に推進していく。

規制・制度の立案プロセス自体も見直しを迫られている。デジタル技術の開発・実装・普及にあたっては、技術の進歩に柔軟かつ迅速に対応し、イノベーションの促進に資する柔軟な運用が可能な規制制度が欠かせない。しかし現状では、規制・制度改革がグローバルな技術革新に追い付いておらず、オンライン診療から自動走行ロボットに至るまで、その実装・普及のスピードは世界に後れを取ってきたのが現状である。

(1)足許の規制改革

まずは足許で、新技術・サービスに対応した制度の整備が不十分であったり、デジタル技術があっても代替が認められなかったりする分野についての徹底的な見直しが必要となる。例えば、ローカル5GやRFID等の電波法に基づく許認可基準・手続きの明確化・迅速化、資格制限のある行為(医療、業務独占等)におけるデジタル代替可能な範囲の明確化、保安・検査・点検業務や自動車・船舶等の交通手段の自動化・無人化技術に関するルール設計、実現に必要なルールの整備等である#92。デジタル臨調による一括見直しのもと、加速的な改革に期待する。

(2)プロセス改革

規制・制度の立案プロセスについて、政府はデジタル5原則のひとつに「アジャイルガバナンス原則」を打ち出し、「一律かつ硬直的な事前規制ではなく、リスクベースで性能等を規定して達成に向けた民間の創意工夫を尊重する」旨を掲げた。デジタル技術の革新はあらゆる分野で進展しており、この原則に合致しない事例について恒常的に検証する機関が必要である。併せて検討中のデジタル法制局(仮称)を実現し、デジタル時代にふさわしくない規制はつくらない仕組みを早期に構築すべきである。

(3)行政改革

上記の推進にあたり、データに基づくEBPM#93の推進はもちろん、わが国の経済成長を支えるイノベーションを起こすうえで、規制・制度がその妨げになってはならないという認識共有を図るため、公務員研修等も活用した行政側のマインドの変革を図るべきである。

No. 37. イノベーションフレンドリー企業への変容

わが国経済の持続的成長には、社会全体で絶え間なくイノベーションを起こし、新たなビジネスを生み育てるスタートアップエコシステムが不可欠だが、確立できていない現状を、大企業は認識する必要がある。そのうえで、自らが既存ビジネスに安住せず非連続的なイノベーションにより新規ビジネスを生み出し、環境の変化に応じてビジネスの軸足を移すとともに、スタートアップの芽を摘むことなく社会全体で大きく伸ばし、その活力を取り込んでともに成長していくことを真剣に目指すべきである。そのためには、自らのマインドセットや組織のあり方、行動原理を抜本的に改め、本気で生まれ変わる覚悟が求められる。

(1)組織の多様性

非連続的なイノベーションの源泉は多様性である。従来のわが国企業の均質性の高い組織は、質の高い製品・サービスを大量に生産・提供することには向いていたが、変化をいち早く察知し新たな製品・サービスを生み出すには不向きである。
非連続的なイノベーションを生み出すためには、性別や年齢、国籍等の属性の多様性のみならず、学習歴・職歴や専門分野等のキャリアの多様性を備えた組織に生まれ変わる必要がある。人材の流動化により、こうした多様性を一般社員のみならず管理職、意思決定層に至るまで確保することが、自社の成長可能性を高めるとともに、わが国のスタートアップエコシステムの発展にも貢献する。

(2)スタートアップへの投資姿勢

とはいえ、既存の組織の多様性を一朝一夕に高めることは困難である。そこで、外部の多様性を取り込むべく、スタートアップを含む多様な主体とのオープンイノベーションを志向することとなる。実際、多くの企業がCVCを設立し、スタートアップへの投資を積極的に行っており、わが国のスタートアップへの主要な資金供給源となっている。
CVCによるスタートアップへの投資を成功させるためには、既存事業における投資の目的や判断基準にとらわれないことが重要である。過度に既存事業とのシナジーや協業にこだわることなく、当該スタートアップ自体の成長を目指すべきである。また、スタートアップ投資の減損を過度に恐れず正しく評価し、各事業部門がP/Lを気にせずスタートアップ投資を行える環境を整える必要がある。

(3)M&Aによる新規事業獲得

わが国のスタートアップの主要なイグジット先はIPOであるが、諸外国ではM&Aの比率がより高い。M&Aは、GoogleによるAndroidやYouTubeの買収が示すように、企業が自らにない技術や事業をいち早く手に入れる有効な手段である。同時に、買収されるスタートアップにとっても、大企業の資金力を背景に更なる成長を目指すことができるメリットがある。
大企業によるスタートアップのM&Aを成功させるためには、大企業の組織の論理に買収したスタートアップを従わせることでその強みを失わせることは避けなければならない。
事業の執行を担う幹部が生え抜きばかりでは、組織のトランスフォーメーションを実現し、イノベーションを生み出すことはどうしても難しくなる。スタートアップの経営陣を、知見とエネルギーを有するトランスフォーメーションのリーダーとして迎え、組織をアップデートし、新規の事業部門として大きく成長させていく視点も重要である。

このように生まれ変わった企業は、イノベーションフレンドリーな企業となり、スタートアップエコシステムの一員として発展することが期待される。

No. 38. 企業変革の支援

経団連は、以上に掲げた施策の着実な実施を、以下のような取り組みを通じて確保していく。

(1)イノベーションフレンドリー企業への変革支援

希望する企業に対し、施策37のような観点からのイノベーションフレンドリー度を診断しフィードバックする仕組みを検討する。併せて、イノベーションフレンドリーな企業による先進的な取り組みをシンポジウムやセミナーを通じて他の企業に共有し、こうした企業の変容を後押ししていく。

(2)スタートアップフレンドリーな制度に向けた具体的な改善策の検討

本提言で提起した資金調達や行政手続、規制、公共調達、税制等をめぐる課題を解決するために、関係企業や専門家によるタスクフォースを設置し、より具体的な改善策を検討する。検討の結果を政府と共有し、改善策の実現を図る。

(3)スタートアップに対する情報提供・意見収集

会員スタートアップおよびKeidanren Innovation Crossing(KIX)等で接点のできたスタートアップに対し、施策36の政府の司令塔組織とも連携し、有用な情報を提供していく。併せて、これらのスタートアップの直面する課題等について意見を収集し、政府と連携して解決を図る。

Ⅴ. おわりに

わが国がこれまで世界有数の経済大国の地位にて、安心安全な暮らしやわが国独自の文化を日々享受できているのは、まさに先人たちの絶え間ない努力の賜物である。我々はこれをより良い形で後世に引き継ぐ責務を負っており、そのためには日本経済全体を浮揚させ、競争力を取り戻すことが不可欠である。そのために重要なピースのひとつが、新たなわが国の成長エンジンを生み出すためのスタートアップエコシステムの強化といえよう。

本提言では5年後のわが国のスタートアップエコシステムの目標を定めるとともに、目標実現に向けて起こすべき7つの変化と、その変化を起こすために必要な38の施策について述べてきた。

「Faster-moving target」であるスタートアップエコシステム先進国の国々は我々が講ずべき施策を論じている間にも新たな策を講じ、より一層スタートアップエコシステムの強化を図っている。我々には、これ以上、立ち止まって考える猶予はない。できることから少しずつ取り組んでいては間に合わない。今、企業の規模・歴史、産学官といった立場の違いに囚われることなく、一体となって、本提言に掲げた施策をひとつ残らず一気呵成に実行しなければ、二度と挽回のチャンスは訪れないであろう。

経団連は本提言に掲げたKPIや、具体的なアクションについて、関係する委員会で横断的に取り組むとともに実現状況を定期的にモニタリングし、進捗が思わしくない場合はさらに必要な対策の検討、関係主体への働きかけを行う。民間のスタートアップ振興の旗振り役として、全施策の実現に向け、全力で取り組むことをここに宣言する。

以上

  1. British Private Equity & Venture Capital Association "Quarterly Review May 2021"
    https://www.bvca.co.uk/Portals/0/Documents/Research/2021%20Reports/BVCA%20Quarterly%20Review%20-%20May%202021.pdf
  2. VOX EU Centre for Economic Policy Research "Spillovers from venture capital investment"
    https://voxeu.org/article/measuring-spillovers-venture-capital
  3. Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの略
  4. 有限責任監査法人トーマツ「令和元年度スタートアップ・エコシステム調査」(2020年3月)
  5. 時価評価額が100億ドル超の上場後1年以内の企業を指す
  6. https://www8.cao.go.jp/cstp/openinnovation/ecosystem/beyondlimits_jp.pdf
  7. 企業が将来、役員、従業員、またはその他関係者に配布するストックオプションを事前に発行し、蓄えるスキームを指す
  8. 外国為替及び外国貿易法(外為法)第26条第2項各号で規定する行為。非上場会社の株式または持ち分の取得等が該当する。
  9. 会社法108条に基づき、株式会社が剰余金の配当、株主総会において議決権を行使できる事項等、権利の内容が異なる株式を発行した場合の各株式を指す
  10. 会社法322条1項に列挙する行為(一定の定款変更、株式の併合・分割、合併など)を指す
  11. 会社法322条1項、324条2項4号にて規定
  12. 投資家が株式取得に先立って資金供給を行い、企業価値評価の正確性が高まったタイミングで、株式転換を行う手法
  13. https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/open_innovation/convertible_guideline/guideline_vF.pdf
  14. 株式・新株予約権(ストックオプション等)発行、資本金の増加、組織変更、本店の移転等の際に、所定の登録免許税を支払い、登記を行う必要がある
  15. そのほか、株式・新株予約権(ストックオプション)発行等の登記、資本金の増加・組織変更・本店の移転等での登録免許税の支払、会社分割・株式交換・株式移転・株式交付等の組織再編にあたっては、組織再編契約の締結または組織再編計画の策定、株主総会の承認(特別決議)等が必要となる
  16. 早期撤廃が難しい場合、公証人の定款認証にあたって運用上求められている発起人企業の全株主が載った株主名簿の簡素化、公証人の定款認証日よりも前の払込の容認等を検討すべき
  17. なお、2021年11月に発足したデジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)については、施策36で後述
  18. UIはUser Interfaceの略称で、ユーザーが直接接するWebページ等を指す。UXはUser Experienceの略称で、ユーザーが製品やサービスを通じて得られる体験を指す。双方の改善により、ユーザーにとって快適に利用可能な環境の整備につながる。
  19. 中小企業庁「官公需法に基づく『令和2年度中小企業者に関する国等の契約の基本方針』について」
  20. https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/210825_02_doc01.pdf
  21. Small Business Innovation Researchの略称で、スタートアップ等による研究開発を補助金等により促進し、わが国のイノベーションを促進するための制度
  22. https://j-net21.smrj.go.jp/index.html
  23. FoundX Startup Resources - 起業家とスタートアップのための情報まとめサイト
  24. https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210329004/20210329004.html
  25. 公正取引委員会と経済産業省にて2022年1月まで意見募集がなされ、現在策定に向け検討が進められている
  26. Corporate Venture Capitalの略
  27. 新たな指針では、出資契約に係る問題として、営業秘密の開示、NDA違反、無償作業、出資者が第三者に委託した業務の費用負担、不要な商品・役務の購入、株式の買取請求権、研究開発活動の制限、取引先の資源、最恵待遇条件が挙げられており、各問題について独占禁止法上の考え方、解決の方向性について述べられている
  28. https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000639.pdf
  29. 中小企業庁ホームページ、「ベンチャー企業に対する資金供給の円滑化に関する調査」(PwCあらた有限責任監査法人:2017年2月)、「イノベーションを促進する「税制」に関する調査分析」(三菱総合研究所:2015年3月)、「海外の研究開発型スタートアップ支援」(科学技術振興機構:2017年)、「英国で普及するベンチャー企業投資形態について」(月刊資本市場:2021年2月)の情報を基に経団連事務局にて作成
  30. わが国の株式投資型クラウドファンディングは2021年実績で総額約37億円(日本証券業協会統計情報)であるのに対し、英国では2020年実績で約846億円(Statista "Annual market value of equity based crowdfunding in the UK from 2013 to 2020")となっている
  31. 代表的な金融機関として、米国のシリコンバレー銀行や欧州投資銀行が挙げられる
  32. https://www.fsa.go.jp/singi/arikataken/rontenseiri2.pdf
  33. わが国におけるスタートアップへの投資は、2011年は1,108億円程度であったが、2020年には4,832億円となっている(出典:第12回金融審議会市場制度WG(2021年10月15日)資料)
  34. わが国は、事業会社によるスタートアップへの投資が多い。加えて、VCへの投資の7割程度を事業会社・銀行・保険会社等が占める(出典:一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター、ベンチャー白書2020)
  35. 運用資産の規模が大きく、中長期的視点で幅広い分散投資を行っている機関投資家を指す
  36. 上場株式、債券以外の新しい投資対象を指す
  37. 未公開株式を指す
  38. https://www.gpif.go.jp/investment/private_equity20220112.html
  39. 企業が有するテクノロジーをもとに、社外の資本やノウハウ等も得つつ事業開発を加速させる手法
  40. https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jigyo_saihen/pdf/001_05_00.pdf
  41. 東京大学ではカーブアウト、ジョイントベンチャーへの投資を目的としたAOI1号ファンドが2020年に設立された https://www.utokyo-ipc.co.jp/investment/
  42. https://www.jetro.go.jp/services/j_startup.html
  43. 革新的な技術やビジネスモデルを持つスタートアップに対して、その成長を加速(accelerate)するための短期集中型のプログラムである。それを提供する専門組織をアクセラレータと呼び、米国の Y Combinator、500 Startups、Techstars、Plug and Play が代表的存在である。
  44. https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20200714.html
  45. https://www.jetro.go.jp/news/releases/2021/90e6874bc9f8d245.html
  46. 代表的な取り組みとして、神戸市の「500 Founder Academy」等が挙げられる
    http://jp.500kobe.com/
  47. 国際語学教育機関「EFエデュケーション・ファースト」の2021年調査によると、英語を母語としない112か国および地域のうち、日本人の英語力は78位とされている
  48. https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm
  49. グローバル人材育成推進事業の進捗状況
    https://www.keidanren.or.jp/policy/kyoiku/global_jinzai2019.pdf
  50. 連携する海外大学との間で教育プログラムを共同開設し、修了者に共同で学位を授与するプログラム
  51. 連携する海外大学との間で教育課程の実施や単位互換等について協議し、双方の大学が修了者にそれぞれ学位を授与するプログラム
  52. 外国人が日本での留学を契機として設立・参画したスタートアップの例として、バイオシーズ株式会社のビヤニ・マニシュ代表取締役社長や株式会社MujinのRosen Diankov CTOが挙げられる
  53. Limited Partnerの略称で、出資額を限度として責任を負う出資形態を指す
  54. JETROが世界各国のスタートアップエコシステム先進地域において、現地の有力なアクセラレータ等と連携し、日系スタートアップのグローバル展開を支援する拠点の名称
  55. このほか「留学生就職促進プログラム」の採択校若しくは参画校または「スーパーグローバル大学創成支援事業」の採択校を卒業した場合等にも最長2年間の在留が可能
  56. 経済産業省委託調査「令和元年度欧米アジアの外国企業の対日投資関心度調査 報告書」(2020年3月)
    https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000027.pdf
  57. 詳細は経団連提言「Innovating Migration Policies ―2030年に向けた外国人政策のあり方―」(2022年2月)参照
  58. https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111314/003.htm
  59. https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigakurenkei/index.html
  60. https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/toplevel/
  61. https://www.jst.go.jp/pf/platform/outline.html
  62. WPI拠点となっている大学は東京大学、東北大学、京都大学、大阪大学、九州大学、筑波大学、東京工業大学、名古屋大学、金沢大学、北海道大学である(2022年1月時点)
  63. https://qrec.kyushu-u.ac.jp/gap-next/
  64. https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20201029_03web_startup.pdf
  65. 大学における基礎研究と事業化との間に存在するギャップを埋め、大学内から大学外へ技術移転を促す基金
  66. 銀行法の改正により、銀行は投資専門会社を通じて、創業10年未満の非上場企業に対し、100%の株式取得(議決権ベース)が可能となり、最大15年間の株式保有が可能となった
  67. https://www.smrj.go.jp/doc/supporter/supportter_fund_investment_01.pdf
  68. http://www.revic.co.jp/revicareer/index.html
  69. パーソル総合研究所「第二回副業の実態・意識に関する定量調査(2021年8月)」によると、企業の正社員の副業容認状況は、「全面的に容認している:23.7%」、「条件付きで容認している:31.3%」、「全面的に禁止している:45.1%」となっている
  70. 経団連報告書「副業・兼業の促進 働き方改革フェーズⅡとエンゲージメント向上を目指して」(2021年10月)では、副業・兼業の重要性や目的を改めて整理するとともに、先進的に取り組んでいる15社の企業事例を紹介している
    https://www.keidanren.or.jp/policy/2021/090.html
  71. 日本政策金融公庫 総合研究所「2021年度新規開業実態調査」によると、(開業した)現在の事業に決めた理由としては、第1位が「これまでの仕事の経験や技能を生かせるから:43.8%」、第2位が「身につけた資格や知識を生かせるから:19.4%」となっている
  72. 経済産業省「人材を通じた技術流出に関する調査研究報告書(2013年3月)」における判例を参照
  73. 大企業の人材が12か月程度ベンチャー企業で働く「レンタル移籍」を行う株式会社ローンディールでは、大手企業58社・ベンチャー企業110社、計178名のマッチングを行った(2022年2月時点)
  74. 大企業の中では立ち上げにくい新事業について、大企業社員が、退職せずにVCをはじめとした外部機関からの資金や個人の資産の投下により起業し、そのスタートアップに自ら出向・研修派遣を通じて新事業を開発すること
  75. すでに2021年、2022年を通して24社の出向起業スタートアップが誕生した
  76. 日本取引所グループでは2014年より「JPX起業体験プログラム」が中学生や高校生を対象に提供されている
    https://www.jpx.co.jp/learning/education/entrepreneur/program/index.html
  77. Super Global Highschool の略
  78. Super Science Highschool の略
  79. 金融広報中央委員会「『金融リテラシー調査』(2019年)」(2019年7月)の調査結果によると、日本は米国、英国、ドイツ、フランスいずれの国よりも金融知識についての正誤問題の正答率が低い
  80. 日本証券業協会や全国銀行協会等において、中高生向けの金融経済教育体験教材を無償提供している
  81. 研究者等が複数の大学や公的研究機関、民間企業等の間で、それぞれと雇用契約を結び、業務を行うことを可能とする制度
  82. 採用と大学教育の未来に関する産学協議会 2020年度報告書「ポスト・コロナを見据えた新たな大学教育と産学連携の推進」(2021年4月)。同報告書では、学生のキャリア形成支援における産学協働の取り組みとして、4類型(タイプ1:オープン・カンパニー、タイプ2:キャリア教育、タイプ3:汎用的能力・専門活用型インターンシップ、タイプ4(試行):高度専門型インターンシップ)に分けて、それぞれ推進することの重要性を訴えている。
  83. バブソン大学の授業「Foundations of Management and Entrepreneurship(FME)」では、大学1年生全員に起業を経験させる。1社あたり30~40万円の運営資金を大学から提供する。学期末には必ず会社をクロージングさせ、学生はエントリーからエグジットまでのビジネスサイクル全てを経験する。
  84. Ministry of Science and Technology(MOST)
  85. EducationとTechnologyを組み合わせた造語。本提言では「デジタル技術を活用した教育技法」と広く定義する
  86. 意欲的で突き抜けた才能を持つ子どものプログラムや、今は勉強嫌いや無気力である子どものプログラム等様々なアクティビティプログラムと、成績・障害不問のスカラーシッププログラムを展開
  87. 理数・情報分野の学習を通じて、高い意欲や傑出した能力を有する小中学生を発掘し、さらに能力を伸長する体系的育成プランの開発・実施を支援
  88. 開始当初の名称は「推薦入試」
  89. https://www.gemconsortium.org/report/gem-2019-2020-global-report
  90. https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0104nentou.html
  91. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、独立行政法人国際協力機構(JICA)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)及び独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)の9機関が参画
  92. 経団連「デジタル社会の実現に向けたアンケート」(2021年12月~2022年1月実施)における会員回答より一部抜粋
  93. EBPM(Evidence Based Policy Making)とは、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること

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