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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 第1の柱 利益B 公開諮問文書への意見

2023年9月1
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済基盤本部

0.はじめに

意見提出の機会に感謝する。本意見は「経団連21世紀政策研究所国際租税研究会」#1におけるこれまでの検討を基礎に経団連経済基盤本部として提出するものである。

1 日本企業の税務担当者、アカデミア、実務家等によって構成される研究会。

1.総論

利益Bの詳細に関する新たな公開諮問文書の提示を歓迎する。移転価格のルールを簡素化・合理化し、紛争の予防・解決に資するものという利益Bの目的についてビジネスも支持する。

しかしながら、今回の公開市中協議で提示された内容には取引の実態から離れた課税がなされるのではないかという懸念が残る内容や追加的な事務負担につながる内容も引き続き見られる。このため、下記の3(5)の「実施に係る考慮」でも記載したとおり、利益Bについては基本的にセーフハーバーとして企業が選択できるかたちで適用すべきと考える。もっとも、以下の対象取引や価格マトリックスの記載については、利益Bが強制適用となりうることも前提に、予備的・予防的に記載した内容となる。

これらの点を踏まえ、以下のとおり、意見を述べる。

2.対象取引

(1) 代替案Aおよび代替案Bについて

税務の安定性と管理可能な仕組みとのバランスを図りつつ、信頼性ある結果にもつながるという意味で、基本的に定量的な基準である代替案Aが望ましい。もっとも、独立企業原則との乖離を防ぐ観点から、仮に利益Bが強制適用となるのであれば、例外的に、現地販社の活動がbaseline contributionに満たない場合について、納税者の選択により適用できる代替案Bのような定性的な適用除外要件を設け、納税者がその要件を疎明した場合には、利益Bの対象から外すことができるという取扱いを認めることが適当かもしれない。

(2) デジタル製品の販売およびデジタルサービスについて

デジタル製品の販売およびデジタルサービスについては、その販売形態やサービスの違いにより、様々なあり方が考えられるため、デジタル製品およびサービスのスコープの明確化が必要である。

デジタルコンテンツの配信は、利益Bがそのカバー範囲とする「卸売取引(電子配信事業者等を介する取引)」において、その配信形態によって「販売」にも「(サブスクリプションを含む)サービス」にも分類されうる。移転価格上におけるbaseline contributorsたる卸売事業者として、両取引上で果たす機能・リスクは実質的に同等であり、双方の形態が一体化し混在しているケースにおいて、移転価格目的で取引を分解し、財務諸表を無理やり切り分ける事は現実的でない。このため、デジタルコンテンツの配信において「卸売取引」の範疇におけるデジタル事業は全体として利益Bの対象取引と位置付けるべきである。

デジタル事業全体を対象取引と位置付ける場合には、価格マトリックスにおいて当該デジタル事業がどのindustry groupに位置付けられるのかについても、明確化が必要である。

なお、以下(3)のセグメンテーションとも関係するが、デジタル製品の販売であるソフトウェアの販売および、サービスの提供である当該ソフトウェアの保守サービスをセットで提供している場合、当該セットの販売促進のためにデジタル製品に係る部分については価格を抑えている場合があるため、これらを切り分けてデジタル製品の販売にのみ強制的に利益Bを適用した場合、損失が出ているデジタル製品の販売活動に課税することとなり、望ましくない。また、このような保守サービスとセットになった販売について、セットで利益Bが適用できるのか、不明瞭となることは望ましくない。

(3) セグメンテーション(Box 2.3.等)

公開市中協議で提案されているセグメンテーション・アプローチは、セグメンテーションが可能で、利益Bの適用範囲を適正化することができる企業にとっては、有用である。しかしながら、製造機能と販売機能が一体となっている現地企業や、販社が商品の販売とメンテナンス等のアフターサービスを行っている場合など様々なラインのビジネスが密接不可分に存在している場合、ビジネスライン別の損益計算書も存在せず、また、Asset Densityの算定のための貸借対照表も存在しない場合がある。このような場合に、損益計算を分離することや、とりわけ、資産についてはセグメント分けを行っていないことが通常であるため、実施が非常に困難であり、仮に課税当局からセグメント分けを求められれば、恣意的な運用がなされる危険性が非常に高いと考える。

このため、たとえ利益Bが強制適用とされる場合であっても、セグメンテーションを行うかどうかについて企業が選択して申告でき、また、セグメンテーションに関する企業の処理を尊重すべきである。課税当局からセグメンテーションの強制や、恣意的な区分を求められるべきではない。

また、Non-baseline activitiesとして、製造や研究開発等に関連する費用の計上がある場合でセグメント不能な場合は利益Bの対象外とするパラ9cおよび脚注13の記載に同意する。

なお、納税者がセグメンテーションを行える場合に、関係する売上・費用等の配賦や算定ステップも含め、どのようなセグメンテーションが適格なものとして扱われるのか、明確化すべきである。セグメンテーションにあたっては、課税当局による主観的な判断を排除することが必要である。

(4) その他

ユニークかつ貴重な貢献を行うことに関連した脚注15におけるマーケティング活動の対象範囲はあまりにも広範囲である。実務の観点から、脚注15に規定されている活動や機能リスクの全てが利益分割法に代表される両側検証の対象になることは、取引や機能リスクの実態から離れるおそれがあり、現実的ではない。解釈をめぐって争いが生じうるような主観的な定義はできる限り最小限にすべきである。

スタートアップで事業が本格稼働する前の企業や、正当な理由により連年赤字が出ている法人など、個別事情がある現地販社については、何らかの除外基準を設けることが適当である。また、利益Bの適用に関する実務負担や新制度への対応に係る時間等を考慮し、中小企業に対する適用については、取引規模等の閾値を設けるなど、慎重に検討すべきである。

グループ全体もしくは対象取引全体の利益率が、赤字となる場合や利益Bの利益率を下回る場合、インカムクリエーションとなるため適用対象外となることを明記し、各国で明示的に合意すべきである。なお、世界的な経済危機の発生やCOVID-19等の天災が発生している場合についてもOECD/IFにおいて考え方を公表するなどして、利益Bの適用において配慮すべきである。

3.利益Bの下での移転価格の算定

(1) 価格マトリックス

価格算定方法について、具体的な利益水準およびレンジの提示を評価する。具体的な利益水準について、ベースラインの販売活動という利益Bの実態も踏まえれば、利益水準として1%台も含めた数字とすることは不可欠である。これ以上高い水準となる場合、実態から乖離した課税がなされる可能性が高く、不適切である。また、低い水準のOAS(Net operating asset intensity)、OES(Operating expense intensity)に対応すべく、「[E]Low OAS/low OES OAS<15% / OES<10%」の欄を維持すべきである。仮にこの欄がなくなれば、実態から離れた課税がなされる可能性が高い。

なお、資産についてはその定義・対象や取引に応じた配賦に課題があるため、利益Bの対象がbaseline distributorsであることに鑑みOASに基づくintensity基準の採用の妥当性も再検証すべきである。複雑性を排除し、かつ利益B対象法人の機能・リスクに照らし、必要以上に高い利益率の適用を避けるため、OES単独でのintensity判定とすべきである。

(2) レンジ

レンジについては固定値ではなく、幅のある記載となったことを評価する。ビジネス上の要因で決定した販売価格を税制上の理由で修正することは望ましくない。また、レンジが狭い場合、企業は期中の価格調整等の努力によっても期末に確実にレンジ幅の中に入れられるか期末直前まで分からず実務的な負担が大きい。このため、レンジについてはある程度幅を持たせることが不可欠である。現在の表4.1で提示されている+/-0.5%という水準を広げていくことが望ましく、少なくとも+/-1~2%以上の幅とすることが適切である。+/-0.5%よりも狭い水準では、企業の取引の実態から離れた課税が行われ、また、価格調整による事務負担が多く発生する可能性が高く、受け入れられない。なお、価格マトリックスの利益率等の情報は、ベリー比に関する情報を含め、期中における取引価格の改定等によるレンジ内の利益率の実現や期末の価格調整金による対応等を考慮し、事業年度が開始される前の適時に更新・公表される必要がある。

対象会社が利益Bのレンジ外となった場合、期末、あるいは、翌期に、価格調整金等により必要な所得調整を行うことが想定される。このような価格調整金等による対応が許容されることを、ガイドラインで明記することが不可欠である。また、この価格調整金に関し、基本的に送金国側での損金性を認めるべきであり、また、価格調整金に寄付金課税や源泉税等が課されることは許容すべきではない。各国でそのような課税を行わない旨を国際的に合意すべきである。

また、簡素性・合理性という利益Bの目的の観点から、期末又は翌期に行われる所得調整および価格調整金等の対応は、あくまで移転価格税制に基づく法人税上の措置であり、関税・付加価値税にかかる輸入価額とは切り離して位置付けるべきである。

(3) 地理的な違いに対応するメカニズム

地理的な違いを利益率に反映させることに関し、4.2.1の修正価格マトリックスについては、各国による取り扱いの違いを設ければ、利益Bの簡素化・合理化という目的に反することになるため、賛成できない。また、上方修正だけ認められるようなあり方は、実態から離れた課税がなされる可能性が高く、不適切である。

4.2.2の適格法域におけるデータ利用メカニズムに関しても、現状の実務においても、クレジットリスクに応じて上方修正等を行うことはなく、実態からも乖離しているため、賛成できない。単純な卸売のみを行っている場合には、在庫リスクや運転資金リスク、為替リスク等をほとんど負わないため、リスク等を踏まえた上方修正の根拠がそもそも不明瞭であると考える。仮に、修正がありうるとしても、ウクライナのように、現在紛争中であり、現地でのビジネスの遂行に差し迫った危険がある国や、ハイパーインフレ等で現地での借入コストが極めて高いなど、非常に限定されたケースのみとすべきである。その際、事業再構築関連費用等、移転価格とは直接関係のない現地法人固有の損失等については確実に対象損益から除いた上で、適正利益の検証を行うべきである。

また、4.2.3における適格ローカルデータセットの使用については、法域固有の比較対象企業データによる運用は透明性を欠くだけでなく、対象企業選定プロセスにおいてcherry pickが行われる可能性を高めることにもつながるため、基本的に賛成できない。包摂的枠組みによる追加レビューのプロセスを経た場合でも、事業特性や実態を踏まえたかたちでの適切な比較可能分析、経済分析が確保できない可能性が残る。相手側当局がローカルデータセットの利用を否定する懸念もあり、二重課税のおそれが大きくなる。また、利益Bの簡素性・合理性の確保の観点にも逆行するものと考える。

(4) 裏付けメカニズム(corroborative mechanism)

ベリー比がcap and collarとともに適用可能とされたことを評価する。ビジネスの実態に近づいた数字となり、コミッショネアや代理人等の低機能のみの拠点に焦点を当てた場合はベリー比による調整には合理性がある。もっとも、ベリー比の裏付けメカニズムにより、利益Bの判定が複雑になることは望ましくない。現在提示されている1.05~1.5倍のレンジについては少なくとも現在のレンジは維持し、幅を縮小すべきではない。

なお、グロスの売上高が把握困難な取引については、納税者側からの申告により、ベリー比実績値により検証することを許容することが望ましい。また、製薬業の水準については、ビジネスの特性を考慮する余地があるかもしれない。

(5) 実施に係る考慮(セクション4.5および脚注36)

利益Bの目的である簡素性および合理性の観点から、利益Bは納税者にとってのセーフハーバーとして位置づけられるべきである。納税者が充分な比較対象企業が確保できている等ALPに基づくより最適な手法が正当化できる状況にあると考えられるのであれば、税務当局からチャレンジされるリスクは認識した上で、利益Bの採用を行わない事も選択可能とすべきである。また、企業が利益Bの適用が自社の取引実態に適合していないと考える場合にはAPAを申請し得ることをガイドライン等で明記すべきである。

税務当局が利益Bを採用する場合、それは納税者にとって "rebuttable presumption" であることを明確化すべきである。また、納税者が利益Bを適用したにも関わらず、当局側がより高い利益率を適用するために、税務当局がスコーピングルールの解釈について、事後的にチャレンジすることは制限されることが望ましい。

利益Bの実施において、OECD移転価格ガイドラインによる規定のみでは、利益Bに基づく利益率を確保したとしても税務当局からのチャレンジを回避できないリスクが残る。このため、少なくとも各国・地域の税法等において利益Bに係る規定を明確化すべきである。

利益Bが納税者にとってのセーフハーバーではなく、強制適用となった場合は、レンジ外になった時の調整が必要となる。二重課税回避のため、後述する税の安定性を確保するための方策とセットで利益Bを導入することが不可欠である。

利益Bの導入のスケジュールに関しては、利益Bの対象取引と対象拠点の特定、商流の確認とインパクト計算、価格調整金の導入と契約書等の修正・整備等を考慮し、各国の制度が固まったのち、2~3年程度の準備期間を設け、少なくとも2027~2028年以降の適用とすべきである。

また、利益Aとの相互作用の関係では、利益Bは利益Aの進捗とは切り離して検討することも一案かもしれない。なお、利益Aの設計の際には利益Bの枠組みを利益Aのマーケティング販売利益セーフハーバー(MDSH)に組み込み、複雑で追加的な当該国・地域の減価償却および給与に対するリターン(RODP)による計算式に基づく運用を回避することも検討すべきである。

なお、利益Bの適用の一貫性や比較対象企業との財務データの整合性の担保、定義の統一等の観点から、IFRS等グローバルな会計基準で統一して利益Bを計算できるとすることも有用かもしれない。もっとも、ローカルな基準を用いる中小企業等にも利益Bの適用を広げる場合には、一定の配慮が必要となる。

(6) その他

既に合意済みのAPA・MAPについて、二国間合意を優先する旨が明記されたことを歓迎する。

加えて、将来のAPA・MAPに関しても利益Bで示された価格マトリックスに両当局は必ずしも縛られない旨を明記すべきである。利益Bは執行の簡素化のため、本来ベンチマーク分析を行ってカスタマイズされた利益レンジを算出する過程を省略したものである。他方、APA/MAPにおいては二国間で協議対象となる取引を精査し、対象取引を検証する正確なレンジを算出することが可能であり、APA/MAPによるレンジの方が取引の正確な描写により的確である。

4.文書化

文書化要件について、基本的に、ローカルファイルの情報で十分とされたことは評価できる。各国が国内法において追加的な文書化要件が求めることがないよう、国際的に拘束力を持ったかたちで合意すべきである。

また、ローカルファイルについて一定規模未満の企業は文書化を免除されているため、利益Bの対象となる取引についても、同様にすべて企業が文書化を求められるべきではなく、同様の文書免除の基準を設けることが望ましい。

5.過渡期における課題

事業再編過程の法人における一過性の特別損益の取扱いに関しては、このような損益は利益Bの対象ではないことを移転価格ガイドライン等で明確化すべきである。この場合、一過性の損益を除外する調整を行ったうえで、当該法人が利益Bの適用対象となることは認められるべきである。

6.税の安定性

利益Bの対象となった場合に発生する二重課税解決のためのルール(紛争解決ルール)を明確化すべきである。依然として公開市中協議で提示されている既存のAPAやMAPのみでは、有効な解決策として機能しない可能性があり、また、租税条約が結ばれていない国で利益Bが適用された場合、救済策が存在しないことになる。

利益Bの適用に特化した追加的な安定性確保プロセス(例えば、利益Aにおける紛争解決パネルのようなプロセス)を含むかたちで、多国間協定を締結すべきである。多国間協定の導入が難しい場合、代替策として、導入時期の違いによる二重課税を防止するため、世界で同時に適用されるよう、一律の適用開始日時を国際的に合意することが不可欠である。

利益Bの主目的である簡素化と安定性の確保という観点から、本来利益Bに関して紛争が生じることを一定程度制限する仕組みを設けることが適当である。利益Bを適用する国の間で、販社所在地国がレンジに入れるための調整を行った場合、減算調整が必要になる側の当局は、当該調整が実施された年度に係わらず、原則相互協議等の手続きなしで対応的調整を認めるルールを、MLCなどを通じたグローバルで拘束的な仕組みとして導入すべきである。また、課税前に両当局との協議プロセスを設けることも一案である。利益Aのような早期かつ簡易なかたちでの事前確認制度を設けることも有用かもしれない。

以上

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