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Policy(提言・報告書)  産業政策、行革、運輸流通、農業 2025年度規制改革要望

2025年9月16
一般社団法人 日本経済団体連合会

Ⅰ. 基本的考え方

経団連は、2024年12月、日本の2040年を展望する「FUTURE DESIGN 2040」を取りまとめた。その中では、日本が、少子高齢化・人口減少と、資源・エネルギー制約をはじめとした構造的かつ複雑な課題を乗り越え、公正・公平で持続可能な社会、そして、課題解決を持続的な成長の源泉とする「科学技術立国」を実現することを掲げている。

こうした国家像の実現にあたっては、急速な技術進歩や経済社会の変化に応じて、規制を不断に見直し、持続可能性を高めるとともに、日本の国力を最大限に引き出す必要がある。とりわけ、生産年齢人口が減り続ける現状にあっては、新技術の実装を通じた人手不足への対応が不可欠であるところ、規制がイノベーションの創出を阻害する要因になってはならない。

そこで、経団連は、会員企業・団体からの要望を踏まえ、「FUTURE DESIGN 2040」に示した次の4つの国内施策について、目指すべき未来社会を実現するために必要な規制改革要望を取りまとめた。

第1に、「人の活躍」である。経済社会の支え手は人であり、限られた人材が適材適所で活躍できる環境を整えるべく、労働・教育に係る規制改革をまとめている。

第2に、「地域経済社会」である。少子高齢化・人口減少の影響を真っ先に受けるのは地方であり、その対応は待ったなしの課題となっている。地方を含む地域経済を活性化するために必要なインフラ整備や防災・減災に係る改革、そして、農業や観光といった地域資源を生かした産業の育成に資する規制改革を要望している。

第3に、「イノベーション・デジタル」である。人手不足が顕在化する中にあっては、デジタル技術を活用して生産性の向上を図るとともに、新技術の実装を通じて社会課題の解決につなげていく必要があり、イノベーションを生み出す環境を規制改革で実現すべきである。

第4に、「環境」である。環境問題への対応が待ったなしの課題である今、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーといった脱炭素電源の活用、そして、サーキュラーエコノミーの促進のために必要な規制改革を求めている。

混迷を極める時代にあって、目指すべき未来社会を実現するためには、政府、企業を含むステークホルダーが、全体最適の視点に基づいて問題意識を共有し、国民の理解を得ながら、連携して規制改革を遂行すべきである。

政府には、本提言を踏まえて、規制改革に全力で取り組むように求める。特に、日進月歩の技術進歩に適切に対応する観点から、改革は迅速かつ着実に進めるべきであり、検討の期限を明確に切って結論を出すことも重要である。政治の強いリーダーシップを期待する。

Ⅱ. 更新・再提出する規制改革要望

No. 1. 研究開発目的での技適未取得機器の利用に関する手続のさらなる緩和
<要望内容・要望理由>

特定無線設備が電波法令で定めている技術基準に適合していることを証明する制度として技術基準適合証明(技適)があるが、実験等のみを目的とする場合には、届出を行うことで180日以内に限り、技適未取得機器の利用を可能とる特例制度が設けられている。

しかし、180日以内に実験等を終えられるケースは少なく、また、同一目的での届出は認められていない。例えば、ある企業では全届出の7~8割は180日以内に完了せず、特に量産開発の一環としての実験等を180日以内で完了することは困難である。180日を超過した場合は電波暗室等の適切な場所を確保して実験等を行うか、技適を取得することになるが、レンタル可能な電波暗室の数は限られており、移動工数も発生するため、実験スケジュールの長期化やコストの増加につながっている。技適の取得には平均2カ月の期間を要し、申請費用として約100万円/件がかかるなど、産業全体として相当の費用が生じている。

一方、欧州(EU加盟国:CE)、米国(FCC)等の諸外国においては、実験等を目的とした場合には許可制・届出制を採っておらず、グローバルな研究開発競争で不利な状況に置かれている。

そこで、電波に関する外国の認証(FCC ID、CEマーク等)を取得済みの場合、あるいは、無線従事者が電波法の技術基準に適合することを確認している場合については、特例制度の届出を不要とすることを要望する。

なお、2024年度の「規制改革・行政改革ホットライン」回答で総務省は「我が国の技術基準適合証明を取得していない場合において、実態として無線従事者が電波法の技術基準に適合することを確認している場合であっても、機器の不良や不正な改造により、予期せぬ電力増加や他の帯域の電波を発射することによる混信の可能性は否定できないため、開設の事実や無線設備の情報等を国において適切に把握し監理できるよう届出は必要」との見解を示している。

しかしながら、企業の研究開発施設等における実験での混信のリスクは極めて限定的であると推測される。また、実験に係る特例制度導入の背景のひとつでもある、訪日観光客等による無線機器の持ち込み・使用が広がる中で、そのリスクを適切に評価・低減する観点からも、技適未取得機器を用いた研究開発を十分に行っておく必要がある。

さらに、現行制度における「180日」という期間上限は、混信リスク抑制との因果関係が不明であり、制度的な合理性を欠く。このため、恒久的な制度見直しが実現するまでの暫定的な措置として、届出による有効期間を「最長2年程度」へと延長し、更新を可能とすること、ならびに管理体制の整った企業・施設を対象とした包括的な届出制度等の導入も選択肢の一つとして検討に値する。

これにより、無線機器の利用のさらなる拡大が見込まれる中、研究開発における時間・費用の負担軽減・イコールフッティングの確保、ひいては、わが国の経済活性化・国際競争力強化につながり、全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、社会課題の解決につながる社会の実現に資することが期待できる。

<根拠法令等>
  • 電波法第4条の2第2項、第3項
  • 電波法施行規則第6条の3第2項
No. 2. 育児・介護の両立支援等に資する深夜労働の割増賃金規制の見直し
<要望内容・要望理由>

在宅勤務の普及により、日中に育児・介護等のために中抜けをするなど柔軟な働き方が定着してきている。そうした中、育児・介護が落ち着いた夜間も含め、業務に集中できる就労時間帯を主体的に決めたいという在宅勤務者のニーズがある。企業側としても、個人の自律的で柔軟な働き方を後押しする観点から、上記のような個々人のニーズに応じた働き方を認めていきたいと考えるところ、現行法では、深夜労働規制が適用されており、深夜残業を認めにくい状況にある。

そこで、真に自発的な本人の同意があり、かつ労働者の自律的・主体的な働き方が認められるフレックスタイム制や裁量労働制の適用者等で、在宅勤務を実施し労働時間終了後通勤を要せず即時に休息ができる場合には、本人の希望に応じ、深夜労働を行った労働者に対する健康診断又は産業医による面接指導などの健康管理措置を行うことを前提として、以下のいずれかを認めるべきである。

  1. ① 各月ごとに回数制限を設けた上で、その回数の範囲内で深夜労働に対する割増賃金規制を適用しない(ただし、深夜の勤務時間をあわせて1日の労働時間が8時間を超えた場合は深夜時間に対し通常通りの深夜割増賃金を支払うこと、また、深夜労働の法定回数を超えた場合には、回数内の深夜労働も含めて通常どおりの深夜割増賃金を払うこととする)

  2. ② 現行法で厚生労働大臣が必要と認める場合はその定める地域又は期間について深夜割増賃金規制の対象時間を午後11時から午前6時までとすることが認められているところ、就業規則等により割増賃金規制の対象時間を数時間後ろ倒しする

これにより、労働者の健康に十分配慮しつつ、育児・介護等との両立をはじめとする、個々人の就労ニーズにあわせた柔軟な働き方が広がると期待される。

なお、2024年度の「規制改革・行政改革ホットライン」の厚生労働省の回答では、深夜労働に対する割増賃金規制は、労働強度に対する補償であり、かつ、健康確保のための長時間労働抑制効果も一定あると考えられるとある。しかし、本要望は、自律的・主体的な働き方が可能である労働者が自発的に同意した場合に限定しており、通常の割増賃金と前提が異なることを踏まえて検討すべきである。また、例えば深夜労働に入る前の時間を含め1日8時間を超えた場合は深夜割増賃金を支払うこと、適切な健康管理措置の実施を前提としていることから、長時間労働になるとの指摘もあたらず、かつ健康確保の観点からも問題ないものと考えられる。あくまでも上記の様々な要件を課した上での緩和を求めており、当然ながら、全面的な深夜割増賃金規制廃止を求めたり、健康確保を蔑ろにしたりする主旨では全くない。厚生労働省には、労働者のニーズを的確にとらえた上で、柔軟な検討を求める。

<根拠法令等>
  • 労働基準法第37条第4項

Ⅲ. 2025年度規制改革要望【新規】

1. 人の活躍

No. 3. インターナショナルスクールに通う日本人生徒の就学義務違反からの除外
<要望内容・要望理由>

日本でインターナショナルスクールに通う日本人生徒は、現行制度上、IB認定、A-Level認定、またはWASC等の国際認証を得ているインターナショナルスクールを卒業すれば日本の大学入学資格が与えられるが、一条校以外は就学義務違反を問われるという矛盾がある。

各種学校の認可では就学義務違反を問われることから、日本において各種学校形態のインターナショナルスクール誘致・新設は地元の自治体に応援されにくい現実がある。一方、インターナショナルスクールが一条校認可を得ることの難しさは周知の事実であり、海外トップインターナショナルスクールの日本進出や新設開校はハードルが高い。

実態として多くの日本人生徒がインターナショナルスクールに通学しているにも関わらず、その実態を踏まえた制度設計がなされておらず、既存の法令に基づき就学義務違反を問う現状を見直すべきである。

そこで、日本国内において、日本の大学入学資格を得られることとされているIB認定、A-Level認定、またはWASC等の国際認証を得ているインターナショナルスクールに通学する日本人生徒が就学義務違反を問われないように学校教育法を改正すべきである。

これにより、国際教育が実施されているインターナショナルスクールに通学したいと思う日本人生徒が増え、今後、より多くの日本人生徒が世界で活躍できる人材として成長することが期待される。

また、日本におけるインターナショナルスクール運営は、外国人生徒だけでは収益の安定化を図ることが難しく、経営上成り立たないという現状がある。本制度改革によるインターナショナルスクールの収益安定化見通しにより、海外トップインターナショナルスクールの日本への進出検討増加も予想されることから、ひいては日本全体で国際教育の浸透と良質な教育環境の整備を推進させることができる。

高度外国人材は赴任先を判断する上で豊かな教育環境の整備を重視することから、良質なインターナショナルスクールの誘致・新設により、高度外国人材の受け入れ増加にも寄与する。

<根拠法令等>
  • 学校教育法第1条(「一条校」規定)
  • 学校教育法第16条・第17条(保護者の就学義務)
  • 学校教育法第144条(罰則規定)
No. 4. 職業紹介時における求職者の国籍・在留資格に係る確認ルールの明確化
<要望内容・要望理由>

指針(平成11年労働省告示第141号)第5では、求人者において、差別禁止の観点から職業紹介事業者は、採用選考時に求職者に対し、人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれがある個人情報については収集してはならないとされている。他方、職業紹介事業の業務運営要領 第9 5(9)ロでは、 職業紹介事業者においては不法就労防止の観点から求職者の申込時に可能な範囲で在留カード等の提示を求め、在留資格や在留期間を確認する等、不法就労をあっせんすることがないよう留意することが求められている。

在留資格の確認にあたり、職業紹介事業者が登録時の氏名等の基準により求職者へ確認を行うことが認められているが、現状、個社が独自運用で日本国籍か外国籍か判然としない求職者に対して適宜確認を行っている。本過程において、求職者から見ると外国人であると疑いその素性(身元)を探る印象を伴うことから、重大な人権侵害と受け止められ深刻なクレームに至る例も発生している。こうした事業者と求職者間のトラブルが多発することにより、民間職業紹介事業者の需給調整機能が低下する懸念がある。

そこで、社会的差別が行われないよう十分配慮しつつ、民間職業紹介事業者の需給調整機能を維持するため、職業紹介時における国籍・在留資格の確認ルールについて整理すべきである。

政府方針においても今後外国人留学生や労働者の受け入れが打ち出され、国内の労働市場における外国人就労者・転職者数も増加すると見込まれる。また多様な民族的バックグラウンドを有する日本国籍者も増加することが見込まれる。そのため、本見直しにより、人口減少・少子高齢化が進み、深刻な人手不足の直面するわが国において、外国人就労・転職者を含む多様な労働者の円滑な労働移動・活躍が推進され、ひいてはわが国の生産性向上に資する。

<根拠法令等>
  • 職業安定法第5条の5、第33条の5
  • 指針(平成11年労働省告示第141号)第5 1(2)イ
  • 職業紹介事業の業務運営要領 第9 5(9)ロ
  • 入国管理法第73条の2
No. 5. 職業紹介事業における建設業務に一部触れる求人の規制緩和
<要望内容・要望理由>

職業紹介事業者は、職業安定法第32条の11において建設業務の求人の取扱いを禁止されている。これは、建設業務が重労働・危険を伴う業務であることや、重層的な下請け関係の下で作業が行われている実態があり、職業紹介や労働者派遣が行われる場合には、労働者に対する不当な支配や中間搾取等の弊害、また雇用関係の不明確化が生じるおそれがあり、労働者保護を十分に行うことができないためとされている。

他方、施工管理業務やビル管理業務では、建設業務に該当しない業務であるものの、研修等や主たる業務に付随する業務として建設業務に一部携わる場合がある。これらは、重層的な下請け関係の下で実施される業務ではなく、労働者に対する不当な支配や中間搾取等の弊害が生じるおそれがある業務と解されないため、職業安定法における取扱い禁止職種に該当しないと考えるべきである。しかし、このような求人を有料職業紹介事業者が取り扱うことが法令に違反しないことが明確にされていないため、有料職業紹介事業者においては、施工管理業務やビル管理業務の求人の取扱いを控えている実態があり、人材不足が特に著しい関連職種への人材流動化を阻害する要因ともなっている(参考例:令和5年度有効求人倍率において、施工管理は全国9.09倍、福井県21.05倍、電気工事士は全国3.75倍、福井9.33倍)。

そこで、施工管理・ビル管理等の建設業務に該当しない業務を主たる業務とするものの、研修等や主たる業務に付随する業務として建設業務に一部携わる職種の求人について、取扱い禁止職業に該当しないものであることを、「職業紹介事業の業務運営要領」において明確化すべきである。

これにより、特に、未経験者を対象とした施工管理の求人においては、研修の一環として建設業務に従事するケースが多く、当該求人の取扱いを明確化することで、高齢化・人材不足が著しい当該業界への労働移動を支援することにつながる。

また、現下の職種内容の変遷や労働需給から現実的な規制の整備・調和を図ることで、円滑な労働マッチングを通じた事業サービスの早期確実な実施を通じ、産業・経済の発展と消費者の利益に資することができる。

<根拠法令等>
  • 職業安定法第32条の11 1項
  • 職業紹介事業の業務運営要領 第2 3(4)
No. 6. RPO(Recruitment Process Outsourcing、採用代行)の職業安定法上の整理
<要望内容・要望理由>

人手不足が深刻化する中、デジタル技術を駆使しながら、労働力の需給調整機能強化に資するために、新たなサービス、例えば、AIを使ってスカウトメッセージを作成するなど、新たな採用代行サービスや採用支援ツールの展開が検討されている。他方、このようなサービスの職業安定法上の位置付けが曖昧なため、各事業者が手探りでのサービスの開発を行っている。

職業安定法(四条一項)において、「『職業紹介』とは、求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあつせんすることをいう」とされ、また、「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号)においては、「求職者と求人者との間の意思疎通を当該者を介して中継する場合、当該者の判断により当該意思疎通に加工を行う」行為は職業紹介事業の許可が必要とされているところ、デジタル技術活用の進展等の環境変化にあわせてこの解釈が明確化されていないため、指針を厳密に適用する事業者とそうではない事業者との間で不公正な競争が起きている状況にある。

具体的なケースとして、

  1. ① 求人企業から指示を受け、求人者が選定した特定の求職者に対し会社案内やスカウトメッセージの作成・送付を委託する

  2. ② AIを実装したソフトウェアを展開する事業者が、採用選考のプロセスにおける求人企業から求職者に対して行われる質問事項のとりまとめについて求人企業から受託し、(a)当該事業者がAIを用いてヒアリングを求人企業から行い、(b)ヒアリング結果に基づき、求人企業が指定した求職者に対しAIを用いて会話形式などで質問を行うサービスを求人企業に提供する

行為などが挙げられる。

そこで、指針にある「求職者と求人者との間の意思疎通を当該者を介して中継する場合に、当該者の判断により当該意思疎通に加工を行うこと」の解釈を職業安定法4条1項の趣旨に照らし合わせて、ガイドライン等で明確化し、公正な競争環境の整備を図るべきである。

これにより、求人・求職サービスに関わる事業者の迅速かつ適正な事業遂行の推進につながり、事業者と求人企業が明確化されたルールの下で当該事業を行うことで、求人企業の選択肢を増やすことになり、ひいては企業の人材募集コスト等が減少することにより、わが国の産業全体の競争力向上・維持につながる。

<根拠法令等>
  • 職業安定法四条一項
  • 職業安定法三十三条の五
  • 職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針(職業安定法三十三の五に関わる職業紹介事業に係る適正な許可の取得の部分)
No. 7. 離職後1年の派遣禁止の見直し
<要望内容・要望理由>

短期・単発の雇用が増える中で、現行の労働者派遣法では1日でも直接雇用で就労すると、同一企業先で派遣労働者として働けず、とりわけ、副業や短期就労を経て派遣で継続的に働きたい労働者にとっては選択肢が限定される結果となっている。

本規制は、本来は賃金切り下げを防ぐ目的で導入された制度であるところ、現在は同一労働同一賃金法制が整備され、派遣労働においても、派遣先に雇用される通常の労働者との間において不合理と認められる待遇の相違を設けてはならないとされている現状に照らすと、規制する目的は失われている。

そこで、労働者派遣法を改正し、離職後1年の派遣禁止を撤廃すべきである。

これにより、厚生労働省令で定められている例外要件の60歳以上の定年退職後に限らず、就業中に培ったスキルや経験を活かした再就職が可能となり、働き手にとっても企業にとっても合理的な選択ができるようになる。また、わが国では年間約7,981万人が離職しており、その一定数が退職前の企業に再就職している中、制度的制限の見直しにより、必要な人材を必要な場所に供給することができる。さらに、労働者派遣制度は、公正な待遇の下で労働者へ安心・安全な就業環境の用意と同一労働同一賃金法制に基づく適正な待遇を提供できる。本規制の撤廃は、「成長分野への労働移動」や「人的資本投資の強化」に加え、構造的な労働力不足対策にも資することになる。

<根拠法令等>
  • 労働者派遣法 第35条の5
  • 労働者派遣法 第40条の9第1項
No. 8. 年次有給休暇の取得義務要件の緩和
<要望内容・要望理由>

年次有給休暇(年休)は原則として業務上の傷病や産前産後、育児・介護休業中にも付与する必要がある。しかし、こうした休業等の実績に関わらず、基準日から1年間において5日間取得させることが使用者の義務とされている。使用者の時季指定義務は、働き方改革関連法の制定当時、いわゆる正社員の約 16%が年次有給休暇を1日も取得しておらず、また、年次有給休暇をほとんど取得していない労働者については長時間労働者の比率が高い実態にあることを踏まえて導入されたものであり、過重労働防止を目的とする。一方で、例えば休業した労働者が事業年度の終了間際に復帰した後、年度内に5日間の年休を取得することは、実質的な労働日に占める休暇日の割合が過大となり、使用者の時季指定義務の立法目的にはそぐわない。また、復帰して、働く意欲が高い労働者の意欲を阻害することになる。

また、急な休業者や退職者については、発生時期を事前に予期できず、休業開始・退職前に5日間の年休を取得させることが困難な場合がある。特に計画的付与制度を活用する企業においては、一斉付与時期の前に休業・退職する社員の年休の取得への対応が難しい。例えば、退職日の2週間前に退職を申し出た社員に対して時季指定して5日間の年休を取得させることは、使用者の時季指定義務を課す趣旨に鑑みると罰則付きで履行を求めるまでの必要性はなく、必要な引継ぎの阻害要因や過大な管理負荷要因となる。

そこで、上記のような休業から復帰する労働者や、基準日から1年間の途中において突然休業を開始する労働者や退職する労働者については、基準日から1年間における勤務可能日数に応じて按分した日数での年次有給休暇の取得で足りることとすべきである。

なお、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」報告書において、「付与期間の残りの労働日が著しく少なくなっている労働者に対してまで、他の労働者と同じ日数の時季指定義務を課すことは、使用者や労働者にとって不合理な制約になる場合があることからも、取扱いを検討することが必要」と記載されているが、勤務可能日数が5日未満で物理的に取得不可能といった極端なケースが想定されており、実態に即した見直しにはならない。勤務可能日が著しく少なくなっている労働者に限らずに見直しを行うには按分した日数付与とすることが適当である。

これにより、労働者の希望に応じた柔軟な働き方の実現につながることが期待される。

<根拠法令等>
  • 労働基準法第39条第1項~第3項、第7項
No. 9. 民間職業紹介事業における求職全件受理の見直し(スポットワーク業界における不正対策強化)
<要望内容・要望理由>

職業安定法では、求人の全件受理義務を規定しているところ、暴力団その他の利用は排除され、同義務が解除される事由が明記されている。一方で、求職の全件受理義務に関しては、こうした例外が全く存在していない。現実に、スポットワークを悪用し、給与の立替払い分を詐取したことで検挙された事件が発生しているが、こうした利用を行った者の求職受理を排除することができない制度となっている。

ハローワーク(公共職業安定所)の存在によって全ての国民に対する職業紹介サービスの利用については制度的に担保されていると考えられるため、民間職業紹介事業の犯罪利用を排除するための例外規定を設けることによる影響は限定的であり、メリットが上回るものと考える。

また、職業紹介事業者に求職申込みがなされた場合、求職者側から登録削除等が行われない限り、当該アカウントは保有され続けることとなるが、民間職業紹介事業者の情報管理コストは不必要に大きくなる。こうしたアカウントの乗っ取りその他のリスクも高まり、不正利用・犯罪利用のリスクも高まる。

そこで、職業安定法が定める「求職の全件受理義務」に関し、民間職業紹介事業者については「違法な利用を目的としている疑いがあるときその他真に職業紹介を受けようとしていると認められないとき」は、当該全件受理義務の適用除外とすべきである。

これにより、明確に不正利用を意図している疑いがある場合のほか、真に職業紹介を受けようとしていると認められない場合について、求職者として削除することが可能になれば、不正利用の防止が可能になる。それとともに、民間職業紹介事業の効率的な運営にも資すると考えられることから、わが国全体の労働力需給調整機能の強化も期待できる。

<根拠法令等>
  • 職業安定法第5条の7第1項
No. 10. 裁量労働制や高度プロフェッショナル制度の対象業務に関する法定基準の調整・代替の拡大
<要望内容・要望理由>

現在、産業構造は戦後の労働基準法制定当時から大きく変化しており、同時に、労働者が求める働き方も多様化している。そのなかで、働き手のエンゲージメントを高め付加価値の最大化を図るには、仕事の特性や就労ニーズに適った処遇にする必要がある。処遇のあり方を見直すにあたっては、現行の労働基準法が前提とする①「労働時間をベースとする処遇」だけではなく、②「労働時間をベースとしない処遇(仕事・役割・貢献度を基軸とする処遇)」との組み合わせが可能な労働時間法制も導入・強化し、労働時間法制の原則を①と②に複線化することが求められる。これを可能とする制度として、裁量労働制と高度プロフェッショナル制度がある。いずれも、働き手が時間配分と仕事の遂行方法の両方において裁量をもって自律的に仕事を遂行し、時に集中的に働くことを可能とし、能力の最大発揮と成長意欲の一層の喚起を促すことが期待される。また、厚生労働省の調査によると、裁量労働制は適用労働者の約8割、高度プロフェッショナル制度では適用労働者の約9割が制度の適用に満足している。さらに、適用労働者の健康状態については、裁量労働制では適用労働者の方が非適用労働者より「健康状態がよい」と答える傾向にあるとの分析があるほか、高度プロフェッショナル制度では適用前の健康状態と「変わらない」という回答が約8割となっている。

しかし、裁量労働制の対象業務は、企画業務型では常態として企画、立案、調査、分析を行う業務、専門業務型では法令で定める20業務に厳格に限定されている。また、高度プロフェッショナル制度の対象業務については5業務に限定されている。技術やビジネスの変化のスピードが著しい昨今、法の対象外の業務でも労働者の裁量が大きい業務が出てきており、それらの業務に対し上記の制度を適用することが制度趣旨に適っている場合もある。それにも関わらず、法令が定める業務に該当しないために制度が適用できず、働き方の柔軟化、生産性の向上を阻害している。

そこで、過半数労働組合との間での十分な協議を経た労使の合意、十分な健康確保措置等を条件に、各企業の労使が、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度の対象業務を決定できる仕組みを創設すべきである。

これにより、業務実態に適った形で制度を活用することができ、労働者にとっては働き方の柔軟化に繋がると同時に、企業にとっては、労働生産性の向上に資することが期待できる。

<根拠法令>
  • 労働基準法第38条の3、第38条の4、第41条の2
No. 11. 労働条件の明示方法の見直し
<要望内容・要望理由>

労働基準法では、労働契約の締結に際し、使用者から労働者に対して賃金や労働時間等の労働条件の明示義務を規定している。明示の方法については、書面の交付を原則としつつ、2019年4月1日より、ファクシミリや電子メール、SNS等の方法による明示も認められた。しかしながら、書面交付以外の方法を用いるには、労働者による希望が前提となる。このため、使用者は、労働者の希望を個別に確認することが求められるほか、紛争防止の観点から確認の記録を保存する場合もある。結果的に電子的な明示方法の採用が対応工数の増加を招いている。法令が書面の手続を原則とすることは、電子化・ペーパーレス化、さらにはDXを進める今日の事業活動の実態から乖離している。

そこで、労働条件の明示方法について、電子化を柔軟に活用できるための見直しを図るべきである。具体的には、次のような方法を可能とすべきである。

  1. ① 使用者が労働者(始期付解約権留保付労働契約が成立する者を含む)に対し、電子メール等の送信の方法による労働条件の明示を行った上で、使用者が定める期限までに労働者から申し出があった場合には、書面交付に対応する。

  2. ② 労使協定の締結を条件に、事業場の全部または一部の労働者(始期付解約権留保付労働契約が成立する者を含む)に対して電子メール等の送信の方法による労働条件の明示を可能とする。

電子メール等の送信の方法による労働条件の明示を容易に実施できるようになれば、e-文書法により既に認められている電磁的記録による労働条件通知書の保存と併せて、一連の手続を電子的に完結させることができる。これにより、企業における書面交付の工数が削減され、生産性向上やコスト削減、環境負荷の低減に寄与するとともに、労働者の利便性向上にも資する。

<根拠法令>
  • 労働基準法第15条第1項、労働基準法施行規則第5条第4項
No. 12. 育児・介護に関する個別周知方法の見直し
<要望内容・要望理由>

育児・介護休業法において、事業主は、妊娠・出産(本人または配偶者)や介護に直面した旨の申出をした労働者等に対して、育児休業や介護両立支援制度等に関する情報を面談または書面の交付により個別に周知することが求められている。例外的に電子メール等を利用する方法が認められているものの、労働者が当該方法を希望する場合に限られている。このため、事業主は、労働者の希望を個別に確認することが求められるほか、紛争防止の観点から確認の記録を保存する場合もある。結果的に、電子的な明示方法の採用が対応工数の増加を招いている。法令が書面の手続を原則とすることは、電子化・ペーパーレス化、さらにはDXを進める今日の事業活動の実態から乖離している。

そこで、育児・介護休業法に定められた育児・介護に関する個別周知(以下、「個別周知」)の方法等について、電子メール等を活用できるよう見直しを図るべきである。具体的には、次のような方法を可能とすべきである。

  1. ① 事業主が対象の労働者に対し、電子メール等の送信の方法による個別周知を行った上で、事業主が定める期限までに労働者から申し出があった場合には、書面交付に対応する。

  2. ② 労使協定の締結を条件に、事業場の全部または一部の対象の労働者に対して電子メール等の送信の方法による個別周知を可能とする。

これにより、企業における書面交付の工数が削減され、生産性向上やコスト削減、環境負荷の低減に寄与するとともに、労働者の利便性向上にも資する。

<根拠法令等>
  • 育児・介護休業法 第21条第1項、第2項、第3項、第4項、第23の3第5項等
  • 同法施行規則 第69条の3、5、6、10、第71条、第75条の7等
No. 13. 暦日休日規制の緩和
<要望内容・要望理由>

休日を付与する場合、現行法では継続した24時間ではなく暦日で与える必要がある。しかしながら、鉄道のメンテナンス工事は、列車が運行しない夜間時間帯に実施することが原則であり、車両の移動や機材の運搬など事前準備を含めると数時間では作業が終了しないため、当該工事に従事する労働者は、突発的な事故対応等を除き、日をまたぐ夜間(22時~6時頃など)に勤務している。その結果、1日の暦日休日を付与すると、2回分の作業ができないことになる。

鉄道メンテナンス事業に従事する労働者の場合、十分な運転保安の知識や理解のほか、列車運行の安全性を確保しながら作業を遂行する高い専門性が求められる。営業線に関わる作業を行うために必要な資格取得にあたって、知識・理解だけでなく十分な従事経験も求められることから、他の一般的な工事よりも人材確保が困難といえる。こうした事情から、①魅力ある労働条件の確保のための休日数の増加と、②限られた時間・人材で鉄道の安全・安定輸送を確保し続けるため、可能な限り人手不足を理由とした作業中止のないようにメンテナンス作業を実施することを同時に実現する必要がある。

そこで、鉄道のメンテナンス事業に従事する労働者に与える休日は、暦日でなく継続した33時間以上の休息でも認められるとすべきである。現行法でも、旅館業や自動車運転業には暦日休日でない休日が認められている。特に自動車運転業では、通常勤務の場合、継続33時間の休息時間で休日と認められるところ、鉄道メンテナンス事業では同等以上の時間を確保できると見込まれる。さらに、鉄道メンテナンス事業では1回の勤務の拘束時間が8時間程度であり、自動車運転業の1日の拘束時間の上限である13時間よりはるかに短い。こうした点を踏まえると、鉄道メンテナンス事業でも継続した33時間以上の休息でも休日と認めるべきである。

これにより、鉄道メンテナンス事業を継続しやすくなるとともに、労働者の4週8休を実現しやすくなることが期待される。

<根拠法令等>
  • 労働基準法第35条、昭和23年4月5日基発第535号、昭和57年6月30日基発446号、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)
No. 14. 労使協創協議制の創設
<要望内容・要望理由>

労働者の就労ニーズが多様化するなか、労使で情報共有や協議をして、適宜就労環境を整え、必要な労働条件の見直しを図っていくことが求められる。

労働者の意見集約や協議・団体交渉という観点からは、憲法で認められた団体交渉や労働協約締結などの権限をもつ企業内労働組合が果たす役割は従来にまして大きくなっている。一方で、推定組織率は低下傾向にあり、加えて、現在ある労働組合には有期雇用等労働者が参加していないところも少なからずあるため、有期雇用等労働者も含め雇用している全ての労働者の意見を丁寧に集約し労使で十分な協議を行うことが課題となっている。

そこで、過半数組合がない企業の労使における意見集約や協議を促すため、新しい集団的労使交渉の場の選択肢として、「労使協創協議制」を創設すべきである。具体的には、過半数労働組合がない企業に限り、有期雇用等労働者も含め雇用している全ての労働者の中から民主的な手続により複数人の代表を選出、行政機関による認証を取得、必要十分な情報提供と定期的な協議を実施、活動に必要な範囲での便宜供与を行うなどを条件に、例えば、同一労働同一賃金法制対応のため有期雇用等労働者の労働条件を改善する合意内容などについて、労働者代表者と会社代表者との間で個々の労働者を規律する契約を締結する権限を付与することが適当である。また、より厳格な条件の下、就業規則の合理性推定や労働時間制度のデロゲーションを認めることが考えられる。

これにより、過半数労働組合がない企業において、すでに恒常的かつ実質的に交渉・協議を行っている労使に対してインセンティブを与えることができ、労使コミュニケーションのさらなる活発化につながるとともに、安定的な労使関係の構築につながることが期待される。

<根拠法令等>
  • 労働契約法第8条、労働基準法第38条の3、第38条の4等
No. 15. 労働契約承継手続の電子化
<要望内容・要望理由>

労働契約承継法では、分割会社から労働者等への承継通知(2条通知)および労働者からの異議申出を書面で行うよう規定している。このため、情報通信技術(ICT)が進展し、それを活用したテレワークも普及する現代にあって、分割会社は事業場の労働者等に書面を配付したり、労働者の自宅に書面を郵送したりする必要がある。労働者も書面を受け取るためだけに出社する事例があるなど、書面形式は労使双方で負担となっている。

厚生労働省は、書面交付の必要性について「個別の労働者に対して確実に送達する方法で提供するとともに、事後にトラブルが生じて労働者の地位が不安定になることを防止するため」としている。制度の趣旨は理解するが、個人認証やセキュリティ確保、バックアップ等の措置を講じることで、電子的な方法を用いても労働者保護を図ることは可能である。

また、労働者はスマートフォン等の情報通信機器を用いて通知内容を適時に確認できるほか、仮に労働者が電子データを紛失した場合も、分割会社からの再送は容易である。書面を希望する労働者は印刷すれば足りる。このように、電子化は労働者にもメリットをもたらす。

そこで、労働契約承継手続の電子化を可能とすべきである。

これにより、労働者保護を図りながら、会社分割の手続を円滑に進められるようになる。

本件は、2021年6月18日に政府が閣議決定した「規制改革実施計画」において、「電子化を可能とすることに向けた検討を行い、必要な措置を講ずる」とされ、同計画に基づき、厚生労働省は、2022年度に企業労務担当者と労働組合担当者にヒアリングを行い、その結果を2023年8月1日の労働政策審議会労働条件分科会に報告した。同分科会から2年以上経過したが、未だ進展はみられない。デジタル社会の実現がわが国の重要課題となる中、書面による手続に拘泥する合理的理由は乏しく、早期の見直しに着手すべきである。

<根拠法令>
  • 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第2条、第4条、第5条

2. 地域経済社会

No. 16. 災害対応拠点における事業系一般廃棄物の処理の迅速化
<要望内容・要望理由>

コンビニエンスストア等の施設は、災害時には指定公共機関としてトイレや水の提供等を行い、帰宅困難者の受け入れをはじめとする地域の災害対応の重要拠点となっている。こうした災害時の店舗運営により生じたし尿等の廃棄物は、事業系ごみのうち事業系一般廃棄物に含まれ、平時の事業活動に伴い生じる廃棄物と同様に事業者の責任の下で処理することが定められている。したがって、コンビニエンスストア等の店舗運営に係る廃棄物は、平時・災害時を問わず、事業者が契約する委託業者により回収・処理されている。

しかし、災害時には「委託業者が被災して対応できない」「交通規制等が原因で委託業者による回収が滞る」「平時をはるかに上回る量の廃棄物が短期間で発生するため、市民生活の確保の観点から家庭系ごみの回収が事業系ごみよりも優先される」といった状況に陥りやすい。そのため、例えば、店舗に災害用トイレを設置しても迅速なし尿処理が行われずに当該トイレを短期間しか利用できない等といった問題が生じている。このように、廃棄物の回収がスムーズに行われないことにより、災害時に、店舗の継続的な運営や被災者への支援活動の実施に支障を来す事態に陥っている。

そこで、コンビニエンスストアをはじめ、災害対応の拠点となる施設において生じるし尿や食品廃棄物を含む事業系一般廃棄物については、災害時に限り、家庭系ごみと合わせて行政による回収を可能とすべきである。

これにより、災害対応の拠点における廃棄物の回収が迅速化され、災害時の円滑な店舗運営が容易になるとともに、帰宅困難者の受け入れ体制の強化等にも寄与すると考えられる。さらに、食品廃棄物の回収が適切に行われることにより、トイレや水の提供に加え、店内調理設備がある店舗や施設では炊き出しに代わる温かい食事の提供も可能となり、被災者や帰宅困難者への支援の充実に取り組める等、指定公共機関としての機能強化も期待できる。

<根拠法令等>
  • 廃棄物処理法第2条の3、第3条
No. 17. 災害時における緊急通行(輸送)車両の申請手続の電子化・統一化・簡素化
<要望内容・要望理由>

災害応急対策に従事する車両は、緊急通行(輸送)車両確認標章および緊急通行(輸送)車両確認証明書の交付を受けることにより、災害時にも緊急交通路を通行することができる。当該車両については、災害発生前において、同標章と証明書(以下、「標章等」という。)の交付を受けることができる。

災害発生前に標章等の交付を受けるためには、緊急通行(輸送)車両確認申出書をはじめとする必要書類を、車両の使用の本拠の位置を管轄する警察署へ提出する必要がある。しかし、現行制度下では、一部の自治体を除き、オンライン上での申出や交付が認められておらず、災害発生前の交付を希望する事業者は、当該警察署の窓口にて必要書類等を書面で提出する必要がある。このため、災害がいつ起きてもおかしくない中で迅速な交付が求められているにもかかわらず、申出や交付のために当該警察署に実際に出向く手間が生じているなど、事業者にとって過大な負担となっている。

加えて、申出にあたっては、警察庁が「緊急通行車両の確認等に係る事務手続要領」を公表しているものの、書類等の確認自体は各自治体の公安委員会が行う。このため、災害対策基本法施行規則にて緊急通行(輸送)車両確認申出書の書式は統一されているが、自治体によって記載方法が異なっている。例えば、車両の使用目的に関する「車両の用途」の項目では、記載方法が選択式または記述式と統一されていないケースや、「車両の用途」欄と異なる欄に記述させるケースもあり、分かりづらく非効率な運用が見受けられる。また、自治体によっては「押印を求められることがある」「確認申出先となる警察署の窓口が異なる(例:都道府県警本部が提出先窓口に含まれている場合もあれば、そうでない場合もある)」等、解釈や運用方針が異なっており、申出の手続が全国的に統一されていない。そのため、申出者は、自治体ごとに申出方法を確認して都度対応せざるを得ず、特に申出者が全国規模の事業者である場合には、必要な手続が一層煩雑化することから、制度が十分に活用されているとは言い難い。

さらに、現行制度下では、車両の用途や活動地域が同じであれば、複数台の車両の確認申出を一括して行うことが可能とされている。そのためには、緊急通行(輸送)車両確認申出書の提出に加え、対象車両の車検証の写し等を添付して提出する必要がある。しかし、一括での申出にあたっては、「申出に必要な緊急通行(輸送)車両確認申出書の部数が自治体ごとに異なる」「提出する添付書類につき、電子車検証のみで受理可能な自治体もあれば、電子車検証に加え自動車検査証記録事項の提出を求める自治体もある」等、提出書類が統一されていない。また、一括での確認申出後も、車検証の更新時や対象車両の交換が行われた時など、標章等の記載事項が変更された場合においては、その都度、「緊急通行(輸送)車両確認標章・証明書記載事項変更届出書」を提出することが求められる等、結局は車両単位で申出の手続を行う必要が生じる。このため、申出者が多数の車両を保有する場合には、申出手続に係る負担が過大となっている。

加えて、複数台の車両の一括での申出を含め、申出を行う際、申出書の添付書類として「指定行政機関等の車両であることを確かめるに足りる書類」等の作成・提出が求められているものの、委託先企業にとっては作成に要する労力やコストの面で負担が大きい。

そこで、緊急通行(輸送)車両の確認申出手続と標章等の交付については、地域を問わず、警察署窓口に加え、オンライン上で行うことを可能とすべきである。なお、現在、関係省庁において当該手続のオンライン化に向けた検討が実施されているが、オンライン化を実現する時期等を早期に明示すべきである。

また、提出が求められている書類の部数・種類・書式・記載内容等について、法令解釈や運用方針に関する自治体間の差異を是正し、可能な限り簡素なものとなるよう、手続の統一化を図るべきである。その際、例えば、「原則押印不要とする方針や申出先を『緊急通行車両の確認等に係る事務手続要領』に明示する」「緊急通行(輸送)車両確認申出書についてはできるだけ多くの記載項目において選択式で入力可能とする」等により統一化を図ることも肝要である。

これにより、事業者が効率的に標章等を取得できるようになり、発災前の交付が一層推進されることで、災害時における支援物資の供給体制が強化される等、より実効的な災害応急対策の展開が可能となる。さらに、指定公共機関をはじめとする申出者の負担軽減に加え、自治体による正確かつ迅速な交付も期待される。

<根拠法令等>
  • 災害対策基本法施行規則 第6条
  • 緊急通行車両の確認等に係る事務手続要領(令和5年7月18日通達)
No. 18. 災害時における貨物自動車運送事業の運転者選任の緩和
<要望内容・要望理由>

貨物自動車運送事業において、運行管理者は運転者として選任された者以外の者を運行の業務に従事させてはならず、事業者にはこれらに対する適切な指導・監督が求められている。

上述の事情から、災害等の有事の際、被災地の貨物自動車運送事業者に対し貨物輸送支援業務を依頼しようとしても、登録事業者の従業員以外の者が、被災地域内における貨物輸送応援業務の運転者として従事することが認められていない。仮に、被災地域の事業所に登録している運転者を手配できたとしても、運転者自身が被災者となり、心身ともに疲弊していることが予想されることから、被災地域内での運転者の確保は大きな課題となっている。

加えて、現行制度下で当該事業者に選任されていない運転者が貨物輸送応援業務に従事するには、自らが運転者として登録されている地域内の事業所の配送応援車両を運転しながら被災地に向かうことを余儀なくされ、運転者のみが飛行機等で急ぎ被災地に向かい応援する対応が叶わない。その結果、通行規制や渋滞等により現地入りするまでに相当な時間を要し、迅速な配送応援に支障を来している。

そこで、災害等の有事の際には、短期間(例えば1か月程度)に限って、被災地域にある事業者の車両を当該車両の登録事業者以外の従業員が運転する行為については、運転者の常時選任義務の対象外とすること、あるいは、少なくとも簡素な手続で運転可能とする仕組みを設けることを求める。

これにより、被災地域内で輸送支援業務を行う貨物自動車運送事業者のトラック等の車両を、遠方から駆けつける別事業者の応援運転者が使用できるようになることから、有事に発生する膨大な緊急物資輸送ニーズに応え、より迅速な配送応援業務の展開が可能となる。

<根拠法令等>
  • 貨物自動車運送事業輸送安全規則 第3条、9条の5、20条、22条
  • 貨物自動車運送事業に係る営業所間における運転者及び車両の移動の弾力化実施要領
No. 19. デジタル技術の活用による罹災証明書発行業務のさらなる円滑化・迅速化
<要望内容・要望理由>

災害により被害を受けた住宅等の被害程度の判定調査を実施する際、現行の「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」においては、第1次調査にて外観の損傷状況を目視により確認することが定められている。その上で、第1次調査を実施した住家の被災者から申請があった場合に実施される第2次調査においては、外観目視調査および内部立入調査により損傷状況の把握を行う。

また、同運用指針では、目視調査だけでなく、発災前後の航空写真等が入手でき、これらの活用が調査の効率化・迅速化に資すると判断される場合には、当該航空写真等を活用して住家の被害程度を判定することも可能とされている。しかし、「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「準半壊に至らない(一部損壊)」の6区分で規定された住家の被害程度のうち、当該航空写真等により判定した結果をもって「全壊」の被害認定を行うことは可能とされている一方で、「大規模半壊」以下の被害認定への活用は認められていない。

このため、災害時には迅速な被害程度の判定の実施が求められているにも関わらず、「全壊」以外の被害程度の判定のためには、調査員が住宅等の損傷状況を1軒ずつ目視で確認する必要があり、罹災証明書の発行までに多大な時間を要している。

そこで、同運用指針に定める住家の被害程度の判定方法として、目視確認のほか、センサー機器から地震の揺れ等を検知し被害状況を把握できる「構造ヘルスモニタリング(SHM)」をはじめとするセンシング技術を活用した被害程度の判定も可能とすべきである。

これにより、遠隔地から損傷状況等を検知し、被災前のデータを踏まえ被害程度の判定を実施できるようになるため、より安全で正確かつ迅速な被害程度の判定が可能となる。また、住宅等の被害程度を含む災害の被害状況をデジタルデータとして把握できるようになるため、被災地域の市町村内部および市町村間の情報連携が容易となり、迅速に災害規模を把握できる。これらを通じて当該市町村による被害認定調査業務の効率化・省力化を図ることで、罹災証明書発行業務の一層の円滑化・迅速化が期待される。

<根拠法令等>
  • 災害に係る住家の被害認定基準運用指針 総則「5.調査方法」「6.判定方法」
No. 20. 災害時の物資支援における費用清算の特例措置の適用
<要望内容・要望理由>

災害時に事業者が物資支援を行う場合、内閣府や各省庁等の支援要請先から必要な物資が発注され、事業者から当該物資が納品された後に、支援要請先宛ての請求書が発行される。請求書の発行後、支援要請先と事業者との間で物資に係る契約書を作成し、漸く事業者へ納品した物資の代金が支払われる。

当該契約書については、予算決算及び会計令にて、契約金額が250万円を超える場合に、その作成が義務付けられている。しかし、契約書を作成する際、事業者は、支援実施日(物資納品日)を契約締結日とするバックデートを求められ、かつ請求先が未確定のまま支援を実施せざるを得ない場合がある。このため、契約書の作成が、物資支援を行う際の事業者の会計処理上の負担となっており、災害時における迅速な物資支援体制構築の妨げとなっている。

そこで、災害時における特例措置として、物資支援に係る契約書については、契約金額に関わらず契約書の作成を省略可能とすべきである。ただし、契約書の作成を省略した場合においても、支援内容の基本事項を記録・把握するために、一定期間内の商品納品書の提出をもって契約書作成の代替とすることも一案である。

これにより、災害時の支援活動に協力する事業者の事務負担の軽減、支援物資の調達や被災地への物資提供の迅速化等が図られることから、災害応急対策の円滑な実施が期待される。

<根拠法令等>
  • 予算決算及び会計令 第百条の二
No. 21. 柔軟な航空運賃の設定・変更を可能にする認可・届出制度の見直し
<要望内容・要望理由>

燃料費や人件費の高騰により、航空事業、特に国内線事業の維持・確保が経済的に一層困難となる中、国内線・国際線の航空運賃を柔軟に設定する必要性は高まっている。加えて、デジタル技術の発展に伴い、利用者の多様なニーズへの対応が容易になったこともあり、柔軟性の高い航空サービスが求められている。

しかし現状は、航空運賃およびその運賃規定の設定・変更には国土交通大臣への認可取得のための申請・届出が必要となっており、企業がサービス内容に応じて迅速に航空運賃を設定・変更することが困難な状況にある。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、カナダ、シンガポールなどの諸外国には航空運賃の認可制度自体が存在せず、柔軟かつ機動的な運賃設定・変更が可能であるため、本邦航空会社は海外市場において競争上不利な立場に置かれており、改善が急務である。

そこで、航空法に定める運賃の認可・届出制度を見直し、運賃の上限を届け出る制度に変更すべきである。

これにより、本邦航空会社は柔軟かつ機動的に航空運賃を設定・変更(割引)できるようになり、海外市場において競争力を維持することが可能となる。加えて、提供する付帯サービスに応じたより詳細な運賃規定の設定が容易となるため、より利用者のニーズに合致した運賃・サービスの提供が可能となる。

<根拠法令等>
  • 航空法 第105条第1項、第3項、第129条の2
  • 航空法施行規則第215条、第216条
No. 22. 歩行者利便増進道路(ほこみち)制度の改善を通じた魅力ある都市空間の形成
<要望内容・要望理由>

歩行者利便増進道路(ほこみち)制度は、賑わいのある道路を構築するための道路の指定制度であり、「道路空間を街の活性化に活用したい」「歩道にカフェやベンチを置いてゆっくり滞在できる空間にしたい」など、道路への新しいニーズに対応することを目的に創設された。政府としても同制度のさらなる活用を図るとしており、例えば、「観光立国推進基本計画」(2023年3月観光庁)においても、「ほこみち制度等によるオープンカフェの設置等、観光振興に資する道路空間の有効活用を図る」ことが明記されている。

一方、同制度をめぐっては、事業者から以下の課題が指摘されている。

  1. ① 利便増進誘導区域の柔軟かつ効果的な活用:現行制度下では、道路管理者が指定する、歩行者の賑わいの空間「利便増進誘導区域」は、歩道を固定的に確保した上で、歩道部分を除いた箇所が設定される。そのため、例えば、夏季のみオープンテラスを設置するために歩道の場所を適切に変更するなど、賑わい創出のための取り組み内容に合わせた柔軟なレイアウト変更ができない。

  2. ② 限定的な占用期間の見直し:現行制度下では、歩行者利便増進施設等の整備を行う民間事業者等を公募によって定めない場合、占用許可の有効期間は、通常の道路占用許可と同様、5年に留まる。地域の活力創出に向け、中長期的な観点から、周辺エリアと一体的に開発を進める事業者にとっては、5年という限定的な占用期間が、効果的な賑わいを創出する上での弊害となっている。

  3. ③ 占用物件の明確化:アートやモビリティポート(電動キックボードのポート等)が、ほこみち制度下で設置が可能な占用物件に含まれるかどうか、位置づけが不明確である。

そこで、上述の各課題に対応すべく、ほこみち制度について、次の規制改革を実施すべきである。

  1. ① 歩道と賑わいを目的とした空間を含む全域を利便増進誘導区域として設定し、当該区域内のどこに歩道を確保するかについては、賑わい創出のための取り組み内容に応じて、占用者が柔軟に設定できるような措置を講じる。ただし、歩道の設定にあたっては、道路構造令第11条第3項に規定する幅員を満たすなど、法令に即して適切に設定することを前提とする。

  2. ② 歩行者利便増進施設等の整備を行う民間事業者等を公募によって定めない場合であっても、当該民間事業者が、周辺エリアを一体的に開発している場合には、公募によって定める場合と同様、最長20年の占用許可を認める。

  3. ③ アートやモビリティポート等が設置可能となるよう、占用物件を明確化するとともに更なる拡充を図る。

これにより、ほこみち制度を通じた道路空間の利活用が促進され、歩行者の利便の増進、地域社会の活性化や、魅力ある都市空間の形成に繋がることが期待される。なお、ほこみち制度の活用を促進するためには、道路占用許可申請手続のさらなる簡素化が不可欠であり、「規制改革実施計画」(2023年6月閣議決定)に記載された「道路占用に係る手続のワンストップ化」の迅速かつ着実な実現も引き続き重要である。

<根拠法令等>
  1. ① 「歩行者利便増進道路における利便増進誘導区域の指定等について」第1 利便増進誘導区域の指定
  2. ② 道路法第48条23
  3. ③ 道路法施行令 第十六条の二
No. 23. 過疎地等におけるドローンの道路沿い目視外飛行の促進
<要望内容・要望理由>

2023年12月にドローンのレベル3.5飛行制度が新設されたことに伴い、操縦ライセンスを保有する者が機上のカメラで歩行者等の有無を確認すれば、補助者・看板の設置や道路横断前の一時停止といった立入管理措置が不要となり、ドローンの道路の横断が容易となった。一方、道路に沿った飛行は、レベル3.5飛行制度で想定されていないため、道路の歩行者や交通量の多寡に関わらず、一律にレベル4の許可取得が必要となっている。

レベル4飛行を実施するにあたっては、機体認証と技能証明を得た上で、国土交通大臣の許可・承認を取得する必要があり、同大臣の許可・承認のみで飛行可能となるレベル3や3.5(無人地帯での目視外飛行)よりも規制が厳しい。特に、レベル4相当である第一種型式認証の取得は、費用・時間の両面で事業者の負担が大きく、同認証を取得している無人航空機は、2022年12月の認証制度開始以降、1機のみに留まる(25年5月現在)。加えて、国土交通大臣の許可・承認にあたっては、運航リスクに応じた運行体制を構築し、飛行マニュアルに反映する等の詳細なリスク評価を実施する必要があり、レベル4飛行の実施は事業者にとって非常にハードルが高い。結果として、ドローンを利用した道路インフラの維持・管理やドローン物流・配送の事業化にあたっての弊害となっている。

そこで、道路沿いのドローン飛行について、過疎地のように歩行者や交通量が非常に少ない道路である場合には、歩行者等に危害を及ぼすおそれが低いことから、道路を横断するドローン飛行と同様、レベル3.5の適用範囲とすべきである。

これにより、道路巡視や物流・配送、道路・送電線等のインフラの維持・管理にあたり、ドローンの一層の活用が期待できる。

<根拠法令等>
  • 「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーⅡ飛行)」5-4(3)
No. 24. ウォーターPPPの広域化に向けたガイドラインの改定と周知
<要望内容・要望理由>

地域のインフラを支える自治体の技術系職員の不足が深刻化する中、日本各地の上下水道事業体は施設の老朽化や厳しい財政状況に起因する課題を抱えている。このような課題を解決するために、国は民間の経営手法や創意工夫を活用した官民連携(ウォータ-PPP)とともに、市町村の区域を超えた広域的な連携によって事業の効率化と住民サービスの向上を図ることを推進している。

実際、国が策定・公表しているPPP/PFI推進アクションプラン(令和7年改定版)においても、ウォーターPPPなどの案件増加に伴う民間事業者のマンパワー不足に対し課題整理と支援を行うことや、事業規模を確保するための広域化・共同化を促進する方針が示されている。

しかし、一部自治体におけるPPP契約においては、下水道法第22条2項に定める配置技術者(例:技術士 上下水道部門)を法令上の要件を超えて「専任」することを求める独自のローカルルールが存在し、兼任が認められていない。これらの配置技術者は、法令により実務経験などの要件が定められており、民間事業者は自治体ごとに確保することが容易ではなく、広域での業務受託を困難にしている。

さらに、国が策定・公開している「下水道分野におけるウォーターPPPガイドライン第2.0版(以下、ガイドライン)」の添付契約書の22条(業務主任技術者)、24条(事業の実施体制等)には、適宜修正して活用する旨の記載はあるものの、専任配置を前提にした文言となっており、自治体がそのまま活用してしまうことが懸念される。

そこで、①ガイドラインの添付契約書を専任要件を前提としない内容に改定した上で、②ガイドラインの改定も含めて自治体に対して下水道法第22条2項に基づく配置技術者について、必要以上の専任要件を課さないよう全国の自治体に対して通知を行うべきである。

これにより、民間事業者は、一定規模以上の業務を広域で受注しやすくなることで政府が目指すウォーターPPPの広域化につながり、老朽化対策が効率的に進むことで住民サービスの向上に寄与する。

<根拠法令等>
  • 下水道法第22条2項(維持管理の資格)
  • 下水道分野におけるウォーターPPPガイドライン第2.0版
No. 25. 森林法施行規則における開発行為の許可を要しない事業範囲の拡大
<要望内容・要望理由>

AIの活用拡大や量子コンピューター技術の発展等に伴い、データセンターを含む情報通信インフラの整備・高度化の早期実現に対する社会的な要請が一層高まっている。

この点、公益事業特権を持つ一部の公共事業(電気事業法上規定される送配電事業、放送法における放送網整備等)は森林法施行規則第5条の下、開発許可申請の対象外とされている一方で、同じく公益事業特権を有する電気通信事業法上の通信網整備は対象に含まれている。このため、通信用建物を建築する過程で土地造成や防災工事を行う際には、森林法に基づき開発許可申請が必要とされ、計画変更の都度、変更申請と許可取得を行わなければ、工事を継続できない。

当該規制によって、通信事業者は時間・費用・労力の面で極めて重い負担を負っている。とりわけ大規模なデータセンターを建築する際には、森林法に係る行政協議だけでも、行政機関と20回以上もの協議を実施する必要があり、数か月(期間)、百数十万円(人件費)を要する事例が確認されている。同事例では、さらに森林法に基づく提出資料の作成に数千万円もの外注が必要であり、今後の変更申請にも同様の時間や人件費、資料作成費がかかることが懸念される。

そこで、電気通信事業法に基づく電気通信事業の用に供する電気通信設備に関する事業についても、森林法施行規則第5条に記載される「開発行為の許可を要しない事業」の対象として認めるべきである。

これにより、申請・変更申請に必要な書面の準備から認可に至るまでの時間を短縮でき、わが国の情報通信インフラの整備・高度化の早期実現に寄与することが期待される。デジタル社会形成基本法の理念・法目的はもとより、新しい地方経済や生活環境を創生する観点からも、情報通信インフラの整備とSociety 5.0 for SDGsの実現に資する規制改革を実現すべきである。

<根拠法令等>
  • 森林法施行規則 第5条
No. 26. 森林関連許認可におけるデジタル化の推進
<要望内容・要望理由>

林業に関する届け出申請手続については、依然としてデジタル化が進まず、紙ベースでの運用が主流であるために、利用者の利便性という観点から極めて非効率な地方公共団体(都道府県レベル)も散見される。とりわけ、保安林伐採許可申請にあたって添付が求められる書類は多岐にわたるため(※ 以下例)、申請者の負担は大きい。

  • 保安林内作業許可申請書・位置図(50,000分の1)・図面(5,000分の1)・履歴事項全部証明書・公図

  • 登記事項証明書・権利一覧表・隣接地境界の確認資料・現況

  • 隣接地境界の写真・事業計画書・横断図面

  • 写真位置図・作業道計画横断図・写真帳・同意書 等

事業者によっては、これら書類を現場毎の地方公共団体に年間100件以上提出する必要があり、郵送や物理的な書類提出に伴う移動、手作業による審査・確認等、時間(工数含む)やコスト等の面で著しく重い負担となっている。

そこで、「デジタル社会の実現に向けた構造改革のための5つの原則」(2021年12月24日閣議決定)も踏まえ、伐採届や保安林伐採許可申請をはじめ、林業全般に係る届け出申請手続について、紙を廃し、デジタル化を断行すべきである。

これにより、申請にかかる時間やコストが大幅に削減できるとともに、申請内容や許可状況をオンラインで確認することも可能となり、申請者・行政双方の負担軽減を通じて、効率的な行政運営が実現する。また、これら申請手続をデータで管理することによって、林野庁や都道府県・市町村等関係機関間の情報共有が円滑化し、履歴検索や統計分析が容易となるため、森林政策の効果測定や改善に資することも期待できる。

<根拠法令等>
  • 森林法 第10条の8、第10条の9、第27条、第34条、第34条の2、第34条の3、第38条
  • 森林法施行規則 第44条、第59条、第68条
No. 27. 遠隔監視が担保された場合における「くくり罠」見回りの免除
<要望内容・要望理由>

「くくり罠」(ワイヤー等で輪を作り、動物の足や体をくくり捕獲する罠)を設置する場合、鳥獣保護法および都道府県条例により、1日1回以上の現地見回りによる目視確認が義務付けられている。過疎化や高齢化が進む中山間地域において狩猟の担い手が著しく不足する中、当該規制は、農林業に多大な被害を与える害獣に必要十分な対策を講じることを困難なものとしている。

そこで、通信機能付きカメラ等のICT機器を活用し、遠隔であっても目視と同等程度の効果を確保できる場合には、現地見回りによる確認義務を免除すべきである。

これにより、狩猟の効率性が向上し、①害獣による新植地の食害、②天然更新(自然に落ちた種から出た稚樹や、伐根からの萌芽が成長して森林が育つこと)の阻害、③樹皮剥ぎ等の林業被害、等の軽減に寄与することが期待できる。また、天候によらずリアルタイムで鳥獣の捕獲状況を把握し、対処できるようになることで、捕獲された害獣に不必要な苦痛を与えることを防ぐとともに、錯誤捕獲(本来意図していない鳥獣の捕獲)の際、速やかな処置を講じることが可能となる。

ローカル5Gの普及拡大に伴い、中山間地域においても通信環境の整備が進み、遠隔監視に支障をきたさない地域も増加している。「構造改革のためのデジタル原則」(2021年12月24日閣議決定)の下、目視等を義務付ける手続・業務について、デジタル処理での完結、機械での自動化(デジタル完結・自動化原則)を基本とする方向で規制の点検・見直し作業が進められている中、くくり罠についても規制を見直すべきである。ICTを活用した管理手法を確立することで、狩猟における高齢者依存を軽減し、若年層や異業種人材の参入を後押しし、地域における新たな就業機会の創出にもつながることが期待される。

<根拠法令等>
  • 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 第9条
  • 環境省「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン」

3. イノベーション・デジタル

No. 28. 前払式支払手段におけるシステム障害発生等の報告義務の緩和
<要望内容・要望理由>

IC型またはサーバ型前払式支払手段についてコンピュータシステムの障害等が生じたとき、前払式支払手段発行者は当該障害等について「障害等発生報告書」として財務局に報告することとされている。報告を要する障害等の範囲に限定はなく、例えば、ゲーム内でのみ利用されるアイテム購入のためのゲーム内通貨が一定時間利用できない場合なども含めて報告が求められており、事業者に過重な負担を強いている。また、報告を求める法令上の根拠は明確でない。

そこで、資金決済法に定める前払式支払手段におけるコンピュータシステムの障害等が生じた場合の財務局への報告について、報告不要とすることのできる適用除外の範囲を拡大すべきである。

これにより、前払式支払手段発行者において、報告業務の負担が軽減され、限られた労働力を顧客サービスの向上や新規事業の開拓などに充てることが可能となる。また、当局側においても、報告の確認・受付の業務負担に人員を割く必要がなくなり、より重要度の高い業務に人員を充てることが可能になる。

<根拠法令等>
  • 資金決済法第24条第1項
  • 金融庁「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」(5 前払式支払手段発行者関係 Ⅱ-3−1−2 監督手法・対応)
No. 29. 生成AIを活用したリーガルテックサービスの提供条件の見直し
<要望内容・要望理由>

経営環境が複雑化する中、法的に適正な企業活動を支える企業法務の重要性が増す一方、企業法務部門の人的リソースは限られている。また、企業活動の適正性と透明性を重視するガバナンス強化が求められ、法制度の変更等に応じて、企業法務を担う組織は業務が拡大する傾向にある。このため、企業法務に関わる業務効率化は喫緊の課題であり、AI等デジタル技術を用いたサービスの提供・利用拡大が急がれる。

しかし、現状のサービスの内容は、契約書等のひな形やチェックリスト等の文言と照合し、記載条文の差異や抜け落ちを表示するサービスの提供に留まっており、書面の文言等を適切に自動修正する生成AIサービスは提供されていない。また、法務省は令和5年8月にガイドラインを公表しているが、個別の企業法務業務に関するサービスへの適法性について言及しておらず、サービスの提供範囲が拡大していない。

そこで、出力結果の利用責任は企業が負うことなど一定の措置を講じることを条件に、書面の自動修正を行う生成AIサービスの提供に加えて、生成AIサービスを提供できる具体的な企業法務業務を法務省ガイドラインに追記すべきである。

企業法務において個別の事案に応じた契約書等の修正・審査が業務の中心であることから、書面の自動修正を行う生成AIサービスの提供が認められた場合、修正・審査にかかる業務負担の6割から7割程度の削減効果が期待される。

また、契約書等の修正・審査のほかにも、例えば、広告表示審査や個人情報の取り扱いに伴い必要となる本人同意書面の作成・修正で生成AIサービスが提供・利用が可能となった場合、契約書等の修正・審査と同等の業務効率化が期待される。

企業法務を担う組織における生成AIサービスの活用環境が整うことにより、業務の効率化を通じて企業法務の機能向上やより高度な法務業務へのリソース投入を図ることができ、ひいては、企業のガバナンス強化や国際競争力強化に資する。

<根拠法令等>
  • AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について(令和5年8月法務省大臣官房司法法制部公表)
No. 30. 株主による取締役会等の議事録の閲覧・謄写請求の要件の見直し
<要望内容・要望理由>

会社法上、監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社において、株主は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、取締役会、監査役会および各委員会(以下「取締役会等」)の議事録の閲覧・謄写を請求することができる。株主が行使する権利には、共益権のみならず自益権も含まれると解されており、例えば、株主総会における議決権行使に役立てるためや剰余金の配当請求権を行使するために必要といった場合もこれにあたると解されている。

請求にあたって、株主は、行使しようとする権利の種類および知ろうとする事実を具体的に特定して疎明し、権利を行使するために閲覧等が必要であることを客観的に明らかにする必要があると解されてはいる。しかし、条文上、そのような規定は設けられていないため、近時においては、必要性が明らかにされることなく、議決権行使に役立てるためといった抽象的な理由のみで、また、それが主たる目的でなかったとしても、株主による取締役会等の議事録の閲覧・謄写請求が裁判所に許可されることがある。

この点について、会社法上、裁判所は、会社等に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、閲覧・謄写請求を許可することができないとされている。しかし、会社が著しい損害を及ぼすおそれを立証することは困難であるとともに、仮に立証が可能であったとしても一方的かつ多大な手続的負担が生じうる。裁判所においても、生じ得る損害の可能性や規模について正確に評価し、判断することには一定の限界がある。

他方で、株主の議決権行使等に必要な情報は、特に上場会社においては、会社法に基づく株主総会参考書類、事業報告および計算書類等によって十分に開示されている。そのため、議決権行使等のみを理由として取締役会等の議事録の閲覧・謄写請求を認める必要性は小さい。

そこで、特に上場会社において、株主が、議決権行使等のみを目的として取締役会、監査役会または各委員会の議事録の閲覧・謄写を請求することは認めないこととすべきである。

これにより、取締役会等の議事録を真に必要とする株主のみが閲覧・謄写請求を行うようになり、会社が本来の企業活動に専念できるようになると期待される。

<根拠法令等>
  • 会社法第371条第2項・第3項・第6項、第394条第2項・第4項、第399条の11第2項・第4項、第413条第3項・第5項
No. 31. 商業・法人登記における代表者住所非表示措置の対象範囲の拡大
<要望内容・要望理由>

2024年10月に施行された改正商業登記規則等により、代表取締役等のプライバシーを保護し、起業の促進を図る観点から、株式会社に限り、一定の要件の下、代表取締役等の住所の行政区画以外の部分について、登記事項証明書等において非表示とする措置(住所非表示措置)が認められた。

しかし、スタートアップにおいては、株式会社よりも柔軟な運営が可能な合同会社の形態を採用することがある。また、社会課題の解決やイノベーションを促進する非営利法人(一般社団法人、公益社団法人等)も重要な役割を果たしている。これらの法人においても、プライバシーの保護の観点から、登記事項証明書等において、代表者等の住所の一部を非表示とすることに強いニーズがある。

そこで、以下の者についても、株式会社の代表取締役等と同様の要件の下で、登記事項証明書、登記事項要約書および登記情報提供サービスにおいて、住所の行政区画以外の部分を表示しない措置を認めるべきである。

  1. ① 株式会社以外の法人(合同会社、一般社団法人、公益社団法人等)の代表者

  2. ② 会社等の支配人

  3. ③ 合同会社の代表社員が法人である場合における職務執行者

その際、履歴事項証明書および閉鎖事項証明書に表示される過去の代表者等の住所についても、遡って当該措置を認めるべきである。

これにより、株式会社以外の法人の代表者等に就任しようとする者のプライバシーの保護も図られることになり、当該法人の活動が推進されると期待される。

<根拠法令等>
  • 商業登記規則第31条の3
No. 32. 特商法契約書面等の電子交付の合理化と承諾手続の電子化
<要望内容・要望理由>

現行の特定商取引法において、訪問販売等で契約書面等の電子交付を実施する場合、事前に消費者へ多岐にわたる説明と確認を行い、消費者の承諾を取得した上で、承諾を得たことを証する書面を交付することが義務付けられている。こうした手続は、消費者保護の観点から理解できる部分はあるものの、内容が細かく煩雑であり、紙の書面が介在することにより、デジタル化を望む事業者、消費者双方にとって過大な負担となっている。契約書面等の電子交付の本来のメリットである迅速性・効率性が十分に発揮されず、消費者が可能な限りデジタル化の恩恵を受けられる内容にはなっていない。実務に即した柔軟な制度設計が求められる。

そこで、訪問販売を含む特定商取引において、契約書面等の電磁的方法を望む消費者に対する事前確認項目の合理化と、承諾の電磁的手続を認める制度改正を行うべきである。

具体的には、以下について改正を求める。

  1. ① 事業者による ア)消費者が利用する端末の画面サイズの確認、イ)端末のセキュリティ対策状況の確認、ウ)交付書面が端末上で閲覧できることの確認、エ)契約者が希望した場合の事業者から第三者への契約内容の共有、を不要とする

  2. ② 承諾取得を、記号やチェックボックス等の機械可読な形式に変更する

  3. ③ 承諾したことを電磁的方法で証することを認める

  4. ④ 電磁的方法を選択した消費者へ、割引やポイント付与といった財産上のメリットを提供することを認める

これにより、必ずしも消費者利益の確保につながらず、事業者の負担を過度に増やしている電子交付にかかる事項の説明や確認を不要とし、希望する消費者に対しては非対面での契約締結が可能となる。消費者と事業者双方の負担軽減により、手続全体の効率が向上し、契約書面等の電子交付が持つ迅速性・柔軟性といった利点を消費者が最大限に活用できるようになる。ペーパーレス化や郵送コストの削減、事業者の移動負担の軽減にもつながり、社会全体のデジタル化の推進、環境負荷の軽減にも寄与する。なお、高齢者やデジタル機器の利用に不安を抱える者に対しては、紙による交付手続を引き続き明示的に選択可能とする制度設計とし、本人の意向確認を適切に行うことで、デジタル化と消費者保護の両立を図ることは可能である。

<根拠法令等>
  • 特定商取引に関する法律 第4条、第5条(訪問販売の場合)
  • 契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係るガイドライン
No. 33. 本人確認手続における「ワ方式」での補完書類提出の容認
<要望内容・要望理由>

犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)に基づく取引時の本人確認について、マイナンバーカードのICチップに格納された署名用電子証明書を用いる「ワ方式」を利用する際、顧客の申告住所とマイナンバーカードに登録された住所が一致しないケースが生じている。たとえば、顧客が住民票記載住所から一時的に移動(単身赴任等)しており、申込書記載の住所と住民票の住所が一致しない場合や、住所変更手続を済ませていても、ヒューマンエラー等によりICチップ内の住所が更新されていない場合が該当する。

現行制度では、こうしたケースにおいてワ方式での補完書類の提出が認められず、補完書類の提出が認められている他方式(例:イ方式=対面にてマイナンバーカード等の写真付き本人確認書類の掲示を受ける方式/ヘ方式=非対面にてマイナンバーカード等の写真付き本人確認書類のICチップ情報を専用機器で読み取ることに加え、本人の容貌の画像情報を送信させる方式)を改めて案内せざるを得なくなっている。

このため、事業者は多様な方式を併存させる必要がある点で負担が大きい。また、顧客にとっても再手続が不便であり、再手続による離脱リスクも高まっている。

そこで、以上を踏まえ、犯収法施行規則第6条2項の補完書類の対象方式にワ方式を加えるよう、制度改正を行うべきである。

この改正により、ワ方式を利用して手続を進めた後に住所不一致が確認された場合でも、補完書類の提出によって他方式への案内が不要となり、顧客の手続負担が軽減される。また、他方式への再案内が不要となることで、事業者の業務負担の軽減や運用の効率化が期待できる。さらに、将来的にワ方式への手続の一本化が進むことで、マイナンバーカードを通じた国民の利便性の向上やデジタル化の促進にも寄与する。

<根拠法令等>
  • 犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則第6条
No. 34. 車検制度におけるデジタル活用の更なる促進に向けた見直し
<要望内容・要望理由>

車両販売店の整備現場では、点検結果の入力支援、点検作業のエビデンス管理、音声ガイドによる点検支援等、車検作業のデジタル化が推進されている。デジタル化は、法令に基づく点検を着実かつ効率的に実施し、自動車ユーザーの安全確保や整備士の負担軽減を図る上で喫緊の課題である。

しかし、現状においては、以下のような制度面の不明確さや地域差が、デジタル化推進の障壁となっている。

第一に、「車体整備の消費者に対する透明性確保に向けたガイドライン」では、板金・塗装などの車体整備作業に関して、作業内容、方法、料金、画像などの情報を記録・保存することを求められているが、保存期間については、「一定の期間、電磁的に保存すること」「事後的な検証を可能とするに足りる期間、電磁的に保存すること」と記載されているのみで、具体的な期間が明示されていない。この曖昧さがシステム開発や現場での運用において混乱を招いている。

第二に、車検の点検結果を「指定整備記録簿」に記録する際の記号(例:レ点=良好、〇=分解)の使い方について、陸運局の指導内容が、地域や陸運局支局ごとに異なっており、入力ルールの違いがシステム化の妨げとなっている。

こうした独自ルールやガイドラインの不明確さは、システム要件を複雑化や、開発費の増加、開発リードタイムの長期化を招き、結果として車検費用の上昇や、整備士の効率的な働き方の実現を阻害している。

そこで、「車体整備の消費者に対する透明性確保に向けたガイドライン」を改定し、車体整備作業に係る記録情報の保存期間を明確化するとともに、「指定整備記録簿」への点検結果の記録方法を全国的に統一すべきである。

これにより、車検作業のデジタル化が一層促進され、自動車ユーザーの安全確保と、整備士の負担軽減につながる。

<根拠法令等>
  • 車体整備の消費者に対する透明性確保に向けたガイドライン
  • 4.2.(1)<その他>、4.2.(3)<その他>、4.2.(4)<その他>、4.2.(5)<その他>
No. 35. 限定訪問特定整備制度における自動車の法定点検実施の解禁
<要望内容・要望理由>

自動車整備業界では、少子高齢化の進行を背景に整備士の人手不足が深刻化しており、今後の人材確保も一層困難となる見込みである。また、整備現場では、整備・点検業務に加え、車両の入出庫対応や引取納車等の車両回送などの周辺業務も多く、業務効率の低下に繋がっている。加えて、法定12か月点検(以下、法定点検)は法令で義務付けられているにも関わらず、その実施率は約6割にとどまり、車検と比較して、実施率に課題がある。これを改善するため、自動車使用者にとって法定点検の利便性を高める施策が必要となっている。

このような状況の下、2025年6月施行の道路運送車両法施行規則改正により、「限定訪問特定整備制度」が導入され、一定の条件下で、自動車使用者の自宅等における普通車・小型車・軽自動車の訪問整備が可能となった。しかし、同制度は、「修理」目的で訪問することはできるものの、「点検」目的で訪問することができない。具体的には、修理のためにブレーキパッド交換に伴うキャリパの脱着、オルタネータ、スタータ交換に伴うエンジンマウント、ドライブシャフト等の脱着、大特車のステアリングホースの交換は可能であるが、法定点検の目的で同一作業を行うことが許されていない。一方で、訪問整備は、働き方の多様化を通じた整備人材の裾野拡大に資する。具体的には、フルタイムでの整備士としての就業が困難な人材も、時間や場所の柔軟性を活かした訪問整備による副業・兼業の形で就業が可能となり、整備士資格を有する人材の活用余地が広がる。

そこで、限定訪問特定整備の実施対象項目をさらに拡大すべく、道路運送車両法施行規則および関連実施規程を改正し、普通車・小型車・軽自動車における訪問による法定点検の実施を認めるべきである。なお、近年の車両はデジタル化が進展しており、スキャンツール等のデジタル機器を活用することで、訪問による点検であっても、整備工場と同等の点検品質を担保することが可能である。

これにより、車両の入出庫対応といった周辺業務の軽減を通じた自動車整備士の業務効率の改善、整備人材の裾野拡大が期待できる。また、自動車利用者にとっても、自宅等で点検を受けることが可能となるため、法定点検の利便性が向上し、法定点検の促進につながる。

<根拠法令等>
  • 道路運送車両法施行規則 第62条2の2
  • 自動車特定整備事業者が事業場以外の場所において特定整備を行う場合の実施規程 第2条1項2号
No. 36. ビデオを活用した重要事項説明時における宅建士の立ち合い義務の緩和
<要望内容・要望理由>

不動産取引において、宅地建物取引士(以下、宅建士)は購入者や賃借人に対して取引に係る重要な事項をまとめた重要事項説明書を交付し説明することが義務付けられている。こうしたなかで、特に新築マンションの取引においては、複数の購入者に対する説明内容に重複が多く、説明時間も2~3時間にわたることから、宅建士による説明の様子を録音・録画したビデオを補助的に活用することが行われている。具体的には、インターネット上の動画配信サイトでビデオ説明を再生するという方法が取られている。しかし、現在の運用では、購入者からの質問に宅建士が適時適切に回答する必要があるなどの理由から、ビデオ再生時にも宅建士の立会いが求められている。このため、購入者は宅建士と日程調整の上、長時間のビデオを一度で視聴する必要があり、時間が空いた時に複数回に分けてビデオを視聴したいといった多様化する購入者のニーズに対応しきれていない実情がある。

そこで、ビデオを活用した重要事項説明時においては、①希望する購入者に対してのみ、②宅建士への質疑応答の時間を別途設けることを条件に、ビデオ再生中の宅建士の立会いを不要とすべきである。なお、実務上、重要事項説明の後に購入者に重要事項説明の内容を理解・納得した旨の受領書を取得する工程があるため、説明内容に疑義のあるまま契約行為に及び、購入者が不測の損害を被るおそれはないと考えられる。

これにより、宅建士の立ち合いを希望しない購入者にとっては、長時間のビデオを確認する時間や場所の自由度が増し、希望する時間に複数回に分けて視聴したり気になった箇所を繰り返し確認することが可能となる。

<根拠法令等>
  • 宅地建物取引業法第35条
No. 37. 税関提出書類の貿易プラットフォームからNACCSへの直接提出
<要望内容・要望理由>

現状、輸出入申告に必要な貿易関係書類を税関へ電子申告する際には、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)に、電子ファイル(PDF形式等)で提出することとされている。このため、民間の貿易プラットフォームを利用している企業では、申告に必要な書類データが同プラットフォームに既に格納されているにも関わらず、一旦ダウンロードし、電子ファイル形式に変換した上で、改めてNACCSに添付・送信する必要が生じている。

そこで、輸出入申告に必要な貿易関係書類を、民間の貿易プラットフォームから直接送信・提出できるようにすべきである。

これにより、貿易に係る一連の業務をデジタルで完結できるようになり、サプライチェーン全体におけるデータ連携が推進される。特に、提言「2018年度規制改革要望」で要望した、船荷証券の電子化に係る法改正が実現する見込みであるところ、船荷証券以外の提出書類も含めて一層の電子化を進めることは、貿易分野のDX実現に寄与する。

<根拠法令等>
  • 通達「輸出入・港湾関連情報処理システムを使用して行う税関関連業務の取扱いについて」
  • 事務連絡「電算関係税関業務事務処理要領」
No. 38. 古物営業法に係る特定手続のオンライン化
<要望内容・要望理由>

警察庁における行政手続については一部オンライン化が進められているが、古物営業においてインターネットを利用して古物の取引をしようとする場合には、当該ウェブサイト等のURLについて、紙の書類に記載した上で、営業所の所在地を管轄する各都道府県の警察署に対面で届け出ることが義務付けられている。対象のURLごとに届出が必要になることから、自社運営のサイト以外のプラットフォームを新たに利用する場合などには、その都度、紙・対面での届出が求められるため、事業者側の負荷が大きい。各都道府県の警察署においても、機械判読が困難な紙の書類に記載されたURLをデジタル化しデータベースへ入力している。また、URLの使用権限があることを疎明する資料(疎明資料)等についても紙・対面での提出が求められることから、プロバイダ・プラットフォーマーが紙に印刷・捺印した上で郵送を行っているなど、多大な工数とコストを要している。

そこで、古物営業法の許可申請時に対面による本人確認を受けた事業者が、インターネット上で取引行為を行う場合、オンラインによるURLの届出も認めるよう、国として通達を出すべきである。あわせて、疎明資料についてもPDF等の電子データでの発行・オンライン提出を可能とする仕組みを整えるべきである。

これにより、事業者は利便性・生産性が高まり、各都道府県警察署においても受理業務が効率化され、事務負担の削減が見込まれる。

<根拠法令等>
  • 古物営業法 第5条
  • 古物営業法施行規則 第1条の3
No. 39. 自転車防犯登録制度のデジタル化および全国一元化
<要望内容・要望理由>

現在の自転車防犯登録制度は、都道府県ごとに実施団体・様式・手数料・運用が異なっており、依然として紙ベースでの登録が主流となっている。このため、多店舗展開する販売事業者は都道府県ごとに異なる書式・手続に対応せざるを得ず、業務負担とコストが課題となっている。また、利用者にとっても転居のたびに再登録を強いられるなど、制度理解に混乱を招いている。さらに、登録情報の原本保管義務は販売店に課されており、保管期限は最長20年や無期限に及ぶ県も存在する。紙書類の長期保管は保管スペースを圧迫し、所有者が登録証を紛失した際には販売店が膨大な書類の中から履歴を探す必要があるなど、非効率な事務が発生しているほか、紛失・誤廃棄・情報流出のリスクも高く、個人情報保護の観点からも課題となっている。同時に、警察においても、登録に時間を要するほか、都道府県間の情報照会等に遅延が生じる可能性がある。

本制度は、法律により「都道府県公安委員会が指定する者の行う防犯登録を受けなければならない」とされ、運用は各公安委員会が定めることとなっているが、規制改革推進会議「ローカルルール見直しに係る基本的考え方」(令和5年6月1日)で示された、「地域的差異を設けることが合理性に乏しい」手続であり、デジタルを前提に全国一律での制度設計が望ましい。

そこで、デジタル庁と規制改革推進会議の関与の下で、現行の紙ベースによる自転車防犯登録制度を廃止し、申請フォーム・登録情報の統一化およびオンライン化を実現し、全国統一のデジタル登録制度・システムを実現すべきである。

これにより、利用者は転居時の再登録が不要となり、登録内容の確認・更新をオンラインで完結できるため利便性が大幅に向上する。販売店は紙書類の作成・保管・照会に要する工数と費用を削減できる。警察は都道府県間照会が不要となり、盗難車両の早期発見や窃盗犯の迅速検挙を実現するとともに、各自治体においては不法駐輪対策や街づくりの施策を機動的に進められるなど。業務効率化にとどまらず、社会全体の利便性と安全性の向上に資する。

<根拠法令等>
  • 自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律
  • 第12条 3項
  • ローカルルール見直しに係る基本的考え方
No. 40. 行政でのマイナンバー活用拡大
<要望内容・要望理由>

社会保険・税務手続分野において、行政機関(健康保険組合、年金事務所などの公法人を含む)から企業に対して様々な情報提供が求められているが、近年のマイナンバーの普及により、行政が把握可能な情報の範囲は拡大している。

しかしながら、現状では、行政がマイナンバー等を通じて既に取得可能な情報であっても、企業に対して改めて提供を求める運用が多く、企業側の事務負担の軽減につながっていない。たとえば、従業員の海外赴任に伴う介護保険料の適用除外申請に際しては、健康保険組合から国外居住(住民登録削除)の証明として住民票除票の提出が求められている。また、国民健康保険への切替時には、市区町村から、資格喪失日を確認するための資格喪失証明書の提出が求められている。これらの対応のため、企業には書類回収・管理や、未提出へのフォローといった業務工数が発生している。

社会保険・税務手続分野においては、既にマイナンバーの活用が進展している現状を踏まえ、行政内部で取得・確認可能な情報については、企業からの提出を不要とする運用へと見直すべきである。

この見直しにより、企業における事務負担のみならず、行政側の事務手続も簡略化され、社会全体の生産性の向上が期待される。たとえば、資格喪失証明書については、企業による対象者確認手続および行政による証明書作成業務の削減により、年間で120時間程度(1万人規模の会社1社あたり)の工数減が見込まれる。このように、マイナンバーの適切かつ積極的な活用は、企業と行政の双方にとって負担軽減につながる施策であり、国全体の業務効率化に資するものである。

<根拠法令等>
  • マイナンバー法 第19条(利用範囲の制限)、第20条(情報提供ネットワークシステムによる情報提供等)
No. 41. 電波法にもとづく技適マーク等の表示方法の緩和
<要望内容・要望理由>

電気通信事業法および電波法の技術基準適合認定・証明(「技適」)を取得した機器には、技適マークの表示が義務付けられている。また、総務大臣の型式指定を受けた高周波利用設備についても、型式指定のマークを表示することとなっている。過去、表示方法と表示の大きさ等について緩和が図られたものの、機器本体への直接表示が免除されるのは、体内埋込型やディスプレイ表示が可能な機器など一部のケースに限定されている。しかし、近年、自動車のコネクテッド化をはじめIoTが急速に進展し、デバイスの小型化・多様化が進む中で、製品の仕様上、物理的にマークの印字面積を確保できず、ディスプレイに表示することも困難であるため、レーザーマーキング時の印字欠陥や廃棄コストが増加する可能性がある。諸外国と比較しても、日本のマークは所要サイズが大きく、表記情報も多い。さらに技適の対象製品と高周波利用設備の対象製品を併載する製品では、それぞれ異なる法定マークの個別表示が求められるが、欧米では単一マークで共用できる。結果として、日本市場向け仕様のみが大型ラベルを必要とし、開発・生産コストの上昇や革新的なデバイスの市場投入の障壁となっている。

そこで、技適マークおよび型式指定マークを機器本体へ直接表示しなくてもよい要件の大幅拡充や、取扱説明書あるいは二次元コード(QR等)による表示の認可拡大、複数マークを単一マークで共用できる仕組みなど表示方法の緩和等を進めるべきである。

これにより、印字面積の不足によるレーザーマーキングの失敗や廃棄ロスを削減できる。また、仕向国ごとに異なる設計が不要となり、品番分け等を回避できる。そして、デバイス製造事業者のコスト削減と納期短縮により、日本企業の国際競争力強化が期待できる。さらに、革新的なデバイスが日本で発売されないままスルーされていく、いわゆる「ジャパンパッシング」の回避が期待できる。

<根拠法令等>
  • 電波法第38条の6、第38条の7、第100条
  • 電気通信事業法第53条
  • 電波法施行規則第46条の4
  • 特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則第8条
No. 42. 医師の業務を支援するAIの研究開発に向けた要配慮個人情報に係る規制の見直し
<要望内容・要望理由>

働き方改革関連法の施行により、医師の業務負担の軽減が急務となっている。医療分野における生成AIの活用が検討されており、特に医療文書の作成や患者の状態評価等を支援するAIへの期待が高まっている。そのようなAIを開発するには、診療録データを用いた学習が不可欠である。

しかしながら、現状では、事業者が医療機関から診療録データを取得する場合、たとえ個人を特定する目的でなくても、患者本人の同意が必要とされている。同意取得には手間とリードタイムを要し、かつ膨大なデータ量を扱うことを考慮すると、現実的な運用は困難である。

そのため、代替手段として、匿名加工情報を用いる場合がある。しかし、匿名加工には情報の喪失や変質といった問題が伴い、高精度かつ高性能なAI研究開発を阻害する要因となっている。さらに、医療機関においては個人情報のマスキング作業が大きな負担となっており、実際、匿名加工の作業に半年を要し、AI研究の開始が大幅に遅れた事例も報告されている。

そこで、個人情報保護委員会「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について」(2025年3月5日)の「第1 個人データ等の取扱いにおける本人関与に係る規律の在り方」を踏まえ、かかるAI開発に必要な要配慮個人情報については、「統計作成等にあたるもの」との位置付けを明確化した上で、本人同意なしでの第三者提供を、倫理性を担保できる医療機関等から政府が公表する医療情報の取り扱いに関する指針等に準拠する事業者への第三者提供に限ることなどにより、可能とすべきである。

この改革により、事業者は医師の業務を支援するAI開発に必要なデータを円滑に取得でき、研究開発の迅速化が期待される。また、匿名加工情報ではない、診療録のローデータやそれを仮名化した情報を活用することで、希少な症例を含む多様かつ豊富な情報が利用可能となる。これにより、精度・性能の高いAIの開発が可能となり、医師の負担軽減とともに、国民に対してより質の高い医療の提供が実現される。

<根拠法令等>
  • 個人情報保護委員会「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について」
  • 個人情報保護法 第27条、個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン第2-18節「学術研究機関等」、第2-19節「学術研究目的」
No. 43. 医薬品開発促進に向けた個人情報に係る規制の見直し
<要望内容・要望理由>

日本におけるドラッグロスや医薬品開発の日本離れといった状況の中、創薬力の強化は国家的な重要課題である。その打開策として、医療ビッグデータを活用した臨床試験の早期化及びコスト低減が急務である。

臨床試験(治験および治験以外の臨床試験を含む)では、患者個人のデータではなく統計化されたデータを用いて、有効性及び安全性を確認することが一般的である。とりわけ、電子カルテ情報などの医療ビッグデータを、臨床試験におけるプラセボ群の代替となる「外部対照群」として活用できれば、治療群の被験者のみで試験を構成できるようになり、コスト削減や期間短縮が可能となる。

しかしながら、このような医療ビッグデータを規制当局に提出可能なレベル(レギュラトリーレベル)にまで高めるためには、患者本人の同意が必要とされる(「外部対照群」としての活用も例外ではなく、本人同意が求められる)。しかし、実務上、本人同意の取得は困難であり、匿名加工情報を用いた場合には、データの精度や網羅性が損なわれ、レギュラトリーレベルの品質を確保することができない。また、個人識別符号(レアバリアントや複数の遺伝子異常情報など)は匿名加工が困難であり、現状では利用することができない。

そこで、個人情報保護委員会「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について」(2025年3月5日)の「第1 個人データ等の取扱いにおける本人関与に係る規律の在り方」を踏まえ、臨床試験における外部対照群等の作成等、利用目的が限定されており、適切な管理体制が担保されていることを条件として、かかる個人識別符号や要配慮個人情報を含む個人データを「統計作成等にあたるもの」と明確にした上で、本人同意なき第三者提供を認めるよう、制度の見直しを要望する。

この改革により、多様かつ希少な症例を含む高品質な医療データの活用が可能となり、医薬品および医療機器の研究開発の加速が期待される。結果として、新規医薬品の創出が促進され、ドラッグロスの軽減や、国民への迅速かつ質の高い医療提供が実現される。

<根拠法令等>
  • 個人情報保護委員会「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について」
  • 個人情報保護法 第2条、第18条、第27条
No. 44. 薬事関連申請における手数料納付のオンライン化の早期実現
<要望内容・要望理由>

医薬品等の申請手数料について、令和4年時点でオンライン化に向けた検討の方向性が示されたものの、依然として、国(厚生労働省)分は収入印紙の貼付が義務付けられ、一部の都道府県においては収入証紙での支払いが必要とされている。印紙の購入には郵便局などへの往訪や現金の持参・管理が不可欠であるほか、台紙の印刷・貼付作業、郵送手続など、企業側に相当な人的・時間的負担が生じる。また、証紙は発行元の県内でしか購入できないため、現地に出向くか現金書留での対応が必要となる。一方で、審査機関である医薬品医療機器総合機構(PMDA)の手数料は銀行振込が可能であり、オンラインで手続が完結するため、国・自治体との間に著しい非効率が生じている。医薬部外品の申請受理件数は約2,000件に上り、印紙・証紙の調達から貼付・郵送までの作業負担は業界・行政双方に莫大なコストが生じている。

そこで、薬事関連申請における国への手数料納付について、収入印紙を廃止し、銀行振込などの電子納付を早期に実現すべきである。また、都道府県も含めた全国一律での申請・決済のオンライン化に向けた共通システムの整備も検討に値する。

これにより、企業は印紙・証紙の購入費や郵送費、台紙印刷・保管の手間を削減し、申請リードタイムを短縮できる。行政は受領・貼付確認や台紙管理といったアナログ業務から解放され、事務コストを大幅に削減できる。電子化によりペーパーレス化が進み、大量の紙資源と輸送燃料の節減によりGX(グリーントランスフォーメーション)にも寄与する。また、結果として、承認までの時間が短縮され、医薬品や医薬部外品がより早く市場に供給されることで国民のQOL向上へとつながる。研究開発のリソースを本来業務へ集中させることで、医薬品・ヘルスケア産業全体の競争力強化とイノベーション創出も期待できる。

<根拠法令等>
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律関係手数料規則 第1条
No. 45. 統計情報等の作成・利用における倫理審査委員会の緩和
<要望内容・要望理由>

患者一人ひとりに最適な治療を提供するためには、医師や製薬企業が正確な医療データを入手し、タイムリーな治療方針の検討や創薬に活用できることが望ましい。そのため、医療データを扱う事業者などが個人情報から統計情報等を作成し、最適化したデータを医師や製薬企業へ提供するケースがある。

現在、個人情報を取得する際には、①倫理審査委員会の開催および②本人同意取得が義務付けられており、取得までに数か月以上を要する場合が多い。その結果、タイムリーな治療方針の検討や創薬が妨げられ、ドラッグラグ、ドラッグロスにつながっている。①については、データ取得企業や大学が自ら委員会を開催する必要があり、委員会の運営委託費や開催ごとの実費に加え、組成から結果公表まで最低2か月以上を要している。そのため、医療機関から企業への個人情報提供までに数か月かかっている。一方、②については、2025年2月の個人情報保護委員会において、統計情報等の作成・利用に関する本人同意のあり方や要配慮個人情報の取り扱いのあり方について検討が行われている。①倫理審査委員会の義務付けについては、現時点で議論されていないが、同様に見直す余地があると考える。

そこで、倫理審査委員会の義務付けを定める「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」について、個人情報を統計情報等の作成にのみに利用することが担保されている場合には、当該委員会の開催を免除する、または実施内容を見直すべきである。

これにより、医師や製薬企業は医療データをより迅速に入手し、タイムリーな活用が可能になる。その結果、薬剤や医療機器の副作用や有効性を評価が促進され、医薬品等の普及やドラッグラグ・ドラッグロスの課題解決に寄与することが期待できる。また、データを保有する企業・大学・製薬会社にとっては、倫理審査委員会開催に関わる負担や個人情報取得の費用を削減し、ソリューション提供までの期間短縮が見込まれる。さらに、医師・病院にとっても、 必要な医療データの収集にかかる時間や手間が軽減され、分析結果に基づく効率的な治療方法や投薬の選択が可能となる。最終的に、患者が一人ひとりに最適化された治療を受けられる環境の実現につながることが期待される。

<根拠法令等>
  • 人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針の第3「適応範囲」の第1
  • 経済産業分野のうち個人遺伝情報を用いた事業分野における個人情報保護ガイドライン第2項(3)、(6)、(13)
No. 46. 非医療機器プログラム(Non-SaMD)の効能・効果に係る広告規制の見直し
<要望内容・要望理由>

国民の健康維持・増進をサポートする「健康増進用行動変容アプリ(Non-SaMD)」の普及により、自らの健康に対する意識の向上や疾病予防活動を通じて、結果として医療費抑制への寄与が期待されている。また、Non-SaMDは、企業によるスピーディな市場参入が可能であり、実際、スタートアップ企業等から多様なアプリが提供されている。

しかし、Non-SaMDは、医療機器として認証を受ける必要がなく、科学的根拠を提示するプロセスを必要としないこともあり、一般に国民の誤解を招くことがないよう、当該アプリには効果・効能を謳う広告が厳しく制限されている。このため、広告で提示できる内容が、機能表示に留まり、効能・効果まで訴求することができず、健康増進用の行動変容アプリの利用・市場拡大に際し、消費者の理解が得にくくなっている。他方、効果・効能を訴求したい場合はSaMD認証を受ける手段があるものの、一般的に数百人規模の治験実施には2~3年で数億円程度の時間と費用を要するなど、認証までの負担が非常に大きく、当該アプリをタイムリーに提供するという点で現実的ではない。一方で、健康増進につながるか定かでない、いわゆる「野良アプリ」が氾濫し、消費者保護の観点からも問題になっている。

そこで、こうした状況を改善するために、医療機器の中でも、特に健康被害等のリスクの低いNon-SaMDの一部を新規カテゴリに設定し、機能性表示食品のような届出制度を新設することを検討し、必要な措置を講じるべきである(非医療機器プログラム(non-SamD)の効能・効果に係る届出制度の新設)。具体的には、薬機法の第68条に基づく、承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止を見直し、例えば「健康増進等を目的としており、疾患の診断、治療又は予防を主たる目的としないこと、かつ、効能又は効果に関する科学的根拠を示す資料を添えて厚生労働大臣に届出を行い受理されていること」等を追加することによって、「健康増進用行動変容アプリ」について効能・効果を広告できるよう規制見直しを図るべきである。

この規制見直しにより、効果・効能に関する広告が可能となり、Non-SaMDの市場普及・拡大が見込まれる。こうした取り組みを通じ、「予測・診断による早期発見」、「投薬量の削減」「通院回数の削減」、「入院の予防」などが促進されることにより、医療費抑制効果は、民間調査によると、9.4~11.6兆円に達する可能性がある。また、利用者が、個々の年齢・既往歴・生活スタイルなどを踏まえた具体的なアドバイスを得ることで、患者自身のセルフケアの質も向上することも期待される。例えば、同じ「運動不足」の人でも、年齢・持病・体力・生活リズムに応じて推奨される運動や頻度を変えることが可能となり、より個人の属性に合わせた実践的なセルフケアが可能となる。実際、特定カテゴリを定めた上で、届出制度に基づきエビデンスを提出し、効能・効果を広告できるようにした前例として、「機能性表示食品」があり、民間調査では、市場規模は7,300億円超まで拡大しているとの試算もある。

<根拠法令等>
  • 薬機法第68条
No. 47. 医薬部外品の同一申請区分に係る承認申請における標準審査期間の新設
<要望内容・要望理由>

医薬部外品の承認申請手続における審査期間は、審査の迅速化により短くなってきており、足下では、実績3.7ヶ月となっている#1。申請区分別の審査期間は公表されていないが、同一申請区分(区分(5)-1)の審査において平均約4か月を要しているのが実態である。

しかしながら、同一申請区分(区分(5)-1)の審査においては、医薬品医療機器総合機構(PMDA)から一度も照会を受けることなく承認に至った品目が全体の約半数を占める。また、照会を受けた場合であっても、その大多数は誤字脱字の修正といった「定型的な内容確認」にとどまっている。

医薬部外品は季節商品としての性格が強く、事業者においては、年2回(春・秋)の新商品投入に向けて開発スケジュールが組まれている。そのため、承認に時間を要すると、消費者ニーズと乖離することや、発売時期が大幅にずれ込むといった課題があり、発売が1年延期されるリスクすらある。

そこで、医薬部外品の同一申請区分(区分(5)-1)の承認申請においては、他の申請区分と区別し、実情に即した適切な標準審査期間を新設すべきである。

これにあたり、AI技術等を用いた過去承認案件との迅速な同一性判定により、照会のない案件や軽微な修正にとどまる案件をはじめ、審査に係る事務処理を効率化し、審査期間を短縮すべきである。

実情に即した適切な審査期間が設定されれば、承認時期の予見可能性が高まり、承認後の販売に向けた準備をより充実させることができる。さらに、企業はより発売間際まで開発ができるため、消費者ニーズに即した高付加価値な製品の市場投入が可能となり、国民生活の向上にも寄与する。

<根拠法令等>
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)第14条
No. 48. カルタヘナ法輸出規制但し書きへの再生医療等製品の追加
<要望内容・要望理由>

現在、遺伝子組換え生物等を含有する再生医療等製品は、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(以下カルタヘナ法)に基づき、輸出時に通告・表示が求められている。この通告・表示の要求に関して、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下薬機法)第2条第1項に定める医薬品」は、カルタヘナ法第27条の但し書きにより適用除外とされている一方、薬機法第2条第9項の「再生医療等製品」は、同但し書きに記載がなく、適用除外が認められていない(※実際に2025年初旬に厚生労働省に照会したところ、「再生医療等製品」は適用除外とならないとの回答があった)。

カルタヘナ法が求める通告や表示等にかかる輸出実務の手続には月単位の期間を要するところ、日本発の製品を海外に輸出する際に大きな負担となることに加え、海外からの導入品についても国内医療機関から返品された製品を海外製造元に返送する場合等に実務上の大きな負担となる。

また、「再生医療等製品」という分類は、日本独自のものであり、他国ではカルタヘナ議定書第5条の趣旨により適用除外と解釈されている。今後、日本からの「再生医療等製品」の輸出が本格化する可能性を見据えれば、規制の国際的な調和の観点から制度の見直しが必要である。

そこで、カルタヘナ法の輸出にかかる規制に関し、カルタヘナ法第27条の但し書きに、薬機法第2条第9項に規定される「再生医療等製品」も追加すべきである。

これにより、再生医療等製品について他の医薬品同様に適用除外されれば、輸出先国の当局への通告や、輸出するたびに発生する表示等の製品サプライチェーン上のフリクションコストを低減させることができる。特に、再生医療等製品では、個々の患者ごとに製品を輸出するもの等も想定されるところ、表示の手続が不要となれば、輸出対応の柔軟性と迅速性が高まる。ひいては、日本発の再生医療等製品の海外展開を後押しし、イノベーションを通じて創造された価値を、世界に提供しやすくなるほか、市場としての魅力を高めることができる。

<根拠法令等>
  • 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成十五年法律第九十七号)(カルタヘナ法) 第27条、第28条
No. 49. 医薬品へのニトロソアミン類混入に係るリスク管理措置の国際調和
<要望内容・要望理由>

近年、医薬品中のニトロソアミン類の混入を低減・管理するために、各国当局より、ニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検が求められており、混入が確認された医薬品については、混入レベルに応じてリスク低減・管理措置が必要となる。欧米では、米国食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)より、ニトロソアミン類の混入が確認された医薬品のうち、混入が限度値の10%未満の医薬品に関しては、規格設定などリスク低減・管理措置の承認書への反映は求められていない。一方、日本では厚生労働省より、ニトロソアミン類が限度値の10%未満の医薬品においても、製剤規格へのニトロソアミン類の規格追加やリスク要因を特定した上で適切なリスク管理措置を承認書に承認事項として反映することが求められている。その結果、日本においては、医薬品へのニトロソアミン類混入のリスク要因特定など適切なリスク管理措置を講じるために数年を要することに加え、各国当局により求められる対応が異なることで、医薬品のグローバル供給が複雑化し、多大な労力と費用を要している。また、こうした日本固有の規制が、グローバルに展開する製薬企業の日本市場への参入障壁の一因になることが懸念される。

そこで、厚生労働省事務連絡「『ニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検に基づくリスク管理措置に係る薬事手続きについて』に関する質疑応答集(Q&A)について」(令和6年12月26日)を修正し、「ニトロソアミン類の混入が限度値の10%未満の場合は、規格設定などリスク管理措置の承認書への反映を不要」とする旨を明記すべきである。

これにより、欧米に比較して負担となっている時間、労力や費用を、新たな医薬品の研究開発に費やすことが可能となり、さらなるイノベーションの創出に繋がる。さらには、日本における医薬品開発の活性化、ひいては、ドラッグラグ/ロスの解消にも繋がる。

<根拠法令等>
  • 厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長、医薬安全対策課長、監視指導・麻薬対策課長 通知 令和6年12月26日「医薬薬審発1226第1号」「医薬安発1226第7号」「医薬監麻発1226第1号」「ニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検に基づくリスク管理措置に係る薬事手続について」
  • 事務連絡「『ニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検に基づくリスク管理措置に係る薬事手続きについて』に関する質疑応答集について(Q&A)」
No. 50. 新規薬効群のスイッチOTC医薬品における先発企業の権利を考慮した承認条件の見直し
<要望内容・要望理由>

現行制度では新規薬効群のスイッチOTC医薬品に対し、成分単位での副作用評価が主眼とされている。また、同スイッチOTC医薬品に対し、先発権的な知的財産を保護する制度はない。令和6年10月4日開催第29回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(以下、評価検討会議)以降、規制改革実施計画に基づき、検討の進め方が変更され、申請された候補成分について当該企業の関与が強化された(例:申請企業が評価検討会議に出席し意見陳述等)。承認申請には企業の知的財産が多く含まれるため、評価検討会議で検討される必要のある新規薬効群のスイッチOTC医薬品では、先発企業が承認申請した事実や独自に策定した適正使用や適正販売に関する方針が、同業他社に早期に知られることとなり、先発企業の競争上の優位性がこれまで以上に低下するおそれがある。加えて、学会・医会等との事前調整やPMDA相談など、多大な作業負担が発生する。一方、後発品は評価検討会議を経る必要がなく、先発企業の公開情報を入手できる。また、製造販売後の安全性調査は先発品の残余期間で実施できるため、先発と比較して、少ない労力と短期間で当該市場への参入が可能となる。しかしながら、このような状況は、競争条件が同一でないため、スイッチOTC医薬品の開発意欲低下につながる懸念がある。

このような背景の下、単に先発の会社の利益を守るということではなく、今後、セルフメディケーション推進の一環で生活習慣病薬等のスイッチOTC化の推進が最も重要である。そのために、OTC市場に初めて参入するスイッチOTCの製造販売業者および先発に続く何番手の製造販売業者であっても、新有効成分含有医薬品と同様に、適正使用・適正販売が同じレベルで行えることを製造販売後安全性調査で確認することに意義があると考える。

そこで、国内では現在原則3年間の製造販売後安全性調査の実施が承認条件とされていることを踏まえ、後続の品目が以下の条件に当てはまる場合には、薬機法施行規則第七条の二 2項に厚生労働省令で定める期間は先発品と同じ期間となる旨を追加し、3年間の製造販売後安全性調査が求められることとする。例えば、「先発品目が要指導医薬品に指定されている期間に承認された品目」および「先発品目の要指導医薬品の期間に承認申請を行った品目」が該当するとするようにすべきである。ただし、先の品目か後続の品目かに関わらず、製造販売後安全調査実施期間中に、同じ製造販売者からの剤型追加申請や一物多名称申請が承認された場合など、両品目間の同等性が担保された際には、先行する製造販売後安全性調査で収集したデータを活用できる旨を通知(Q&A)にて明示することを要望する。

2024年9月の要指導・一般用医薬品部会における「スイッチOTCの審査の改善方策等について(スイッチOTC WG)」の審議では、購入時の確認事項・指導内容の充実性や適正使用確保のための方策の適切性を含めた審査とともに、承認後の製造販売後調査を通じて、適正使用状況の評価を行うことが改めて確認され、製造販売者による適正使用確保策の実施が徹底される。本提案の実現で、医療費削減とセルフメディケーションの推進につながることが期待できる。

<根拠法令等>
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(第四条第5項第三号、第十四条第4項、第七十九条)
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行令(第七条の二)
  • 医薬発 1009 第1号厚生労働省医薬局長通知
  • 薬食審査発0612第5号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知
  • 医薬薬審査発1009第3号厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知
  • 令和6年10月9日付事務連絡 厚生労働省医薬局医薬品審査管理課「要指導・一般用医薬品の承認申請区分及び添付資料に関する質疑応答集(Q&A)について
No. 51. 輸出貿易管理令における「重水素又は重水素化合物」の輸出規制の緩和
<要望内容・要望理由>

重水素及び重水素化合物の輸出は、原子炉用途で用いることを防止するために、原子力技術の輸出を規制する国際的な組織である原子力供給国グループ(Nuclear Suppliers Group:NSG)のガイドラインに則り、規制されてきた。医薬品としての重水素化合物の輸出については、2022年に大幅な規制緩和が達成されたが、それ以外については、一般包括許可、特別一般包括許可又は特定包括許可を有していたとしても、半年ごとに実績報告書を資料とともに報告する必要が加えられ、以前よりも負担が増している。

2023年にNSG Part 1 Guidelinesが更新され、重水素及び重水の輸出規制の対象について原子炉使用であることがより明確に記されたが、わが国では輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令 第1条第3号において、「重水素又は重水素化合物であって、重水素の原子数の水素の原子数に対する比率が五、〇〇〇分の一を超えるもの」とされているため、現在も原子力使用を目的としないものも輸出規制が継続されている状況にある。

医薬品の研究開発において、重水素化合物は、被験物質の内部標準物質として微量定量分析時に必須であるが、諸外国では規制範囲を原子力発電所における使用目的に限定している。そのため、医薬品開発などで重水素化合物を海外で利用する場合、規制に沿った手続や報告に加え、組織内の教育・管理体制の構築等が必要であることから、諸外国と比較して研究開発上の大きな障害となっている。

そこで、重水素又は重水素化合物の輸出規制の範囲を、原子炉用のもの、もしくは原子力発電に関わるものに限定すべきである。そのため輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令 第1条第3号の「重水素又は重水素化合物であって、重水素の原子数の水素の原子数に対する比率が五、〇〇〇分の一を超えるもの」という記載を、安全保障貿易上のリスト規制の基となっている原子力供給国グループのガイドラインNSG Part 1 Guidelines 2.1.における記載に則り、「重水素又は重水素化合物であって、重水素の原子数の水素の原子数に対する比率が五、〇〇〇分の一を超え、原子炉用のもの」に変更すべきである。

日本は世界でも数少ない創薬国のひとつであることから、本規制を緩和することで、日本発のグローバル医薬品開発が円滑に進み、新薬を待ち望む世界中の患者へ薬を早急に届けることが可能となり、ひいては日本以外の国々の社会的メリットにもつながる。

また、重水素は、半導体や光ファイバーで使用され、有機ELの発光層の研究が進められるなど、産業界における重要度が増している。そのため、国際レジームであるNSG Part 1 Guidelinesに正確に準拠することで、国際ルールとの整合性が確保され、日本の先端産業推進、研究開発の環境整備につながる。

<根拠法令等>
  • 輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令 第1条第3号
  • NSG Part 1 Guidelines - July 2023 Update
  • 2.Non-nuclear materials for reactors 2.1. Deuterium and heavy water
  • 米国国務省文書Federal Register Vol. 86, No. 191 Wednesday, October 6, 2021 Rules and Regulations, Bureau of Industry and Security, 15 CFR Part 774. Deuterium Under NRC and Its Evolution Into Broader Commercial Use

4. 環境

No. 52. フロン類算定漏えい量の報告・公表制度の見直し
<要望内容・要望理由>

フロン排出抑制法において、第一種特定製品の管理者たる事業者は、フロン類の漏えい量が事業者全体で一律1,000t-CO2以上となった場合に、漏えい量を国へ報告する必要がある。

漏えい量は、「充填量-整備時回収量」で算定されるが、整備時のフロン回収には技術的限界があり、現場においては数%程度の不可避な漏えいが発生する#2。そのため、第一種特定製品の所有台数やフロン封入量が多い場合、回収不可能な漏えい量の積み上げにより、報告基準の1,000t-CO2を超過することとなる。その結果、一定規模以上のフロン類を使用する事業者は、排出抑制の取り組みの厳格さに関わらず、必然的に当該制度の対象となってしまう。

したがって、現行制度下では、大規模事業者が排出を抑制するメリットが見あたらない。

そこで、第一種特定製品所有台数またはフロン封入量といった事業規模に応じた報告基準にする、算定方法において技術的に不可避な漏えい量を一定割合で控除するなど、実態を踏まえた合理的な制度に見直すべきである。

これにより、事業者のフロン排出抑制対策の実施に寄与するものと思料する。

<根拠法令等>
  • フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(フロン排出抑制法)
  • 第三章 特定製品に使用されるフロン類の管理の適正化に係る措置
  • 第一節 第一種特定製品の管理者が講ずべき措置
No. 53. 家電製品への再生材利用における食品衛生法の規制緩和
<要望内容・要望理由>

国内でプラスチック資源の循環を促進すべく、2023年に「プラスチック資源循環戦略」が策定され、2030年までにプラスチックの再生利用(再生素材の利用)の倍増が目標とされた。また、「資源の有効な利用の促進に関する法律」の改正案(以下、改正資源法)が成立し、経済産業省が事務局を務める「資源循環経済小委員会」では、今後政令で定める脱炭素化再生資源としてプラスチックを選定し、容器包装、家電4品目、自動車等へ原材料として利用促進することが検討されている。

そのうち、家電4品目については、家電リサイクル法に基づく回収ルートが確立しており、再生プラスチックとして再利用することが技術上は可能である。しかしながら、冷蔵庫や冷凍庫への再生材利用においては、食品衛生法に基づく食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度に基づき、再生材を部品として利用する範囲を限定している状況にある。

そこで、冷蔵庫等の食品用器具において、製品側で食品が直接材料に接触しない箇所および接触しない工夫を施した箇所については、ポジティブリストの対象外であることを明確にし、プラスチック再生材の利用が拡大しやすいよう措置を講じるべきである。

これにより、一製品における再生材利用量(率)が拡大し、製造・管理コストも低下することで、購買に繋がる価格での市場供給が促進される。結果、再生プラスチックの利用量及び利用率の向上、脱炭素化、および資源の国内循環の推進につながる。

<根拠法令等>
  • 食品衛生法 第16条、第18条、第52条、第53条
  • 食品衛生法施行規則 第66条の5
  • 食品衛生法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政省令の制定について(令和3年8月5日生食発0805第1号)
  • 食品、添加物等の規格基準(令和2年12月4日 厚生労働省告示第381号)
  • 食品用器具又は容器包装の原材料に含まれる物質の規格の改正等に係る要請の手引きについて(令和7年5月28日 消食基第357号)
  • 「食品用器具及び容器包装の製造に用いる合成樹脂の原材料としてのリサイクル材料の使用に関する指針」について(令和6年3月28日 健生食基発0328第8号 健生食監発0328第8号)
No. 54. 営利目的ではない試験研究用途の場合における廃棄物処理対応の明確化
<要望内容・要望理由>

営利目的ではなく、処理施設の整備もしくは処理技術の改良・考案もしくは発明に係る試験研究を行う場合は、環境省の通知により、産業廃棄物の収集運搬・処分の業の許可等を要しないとされている。また、一般廃棄物の処理において準用することを妨げるものではない旨も、事務連絡等を通じて周知されている。

しかしながら、廃棄物処理法上の許可を不要とする判断を受けるにあたり、自治体ごとにその手続に係る対応が異なり、また都道府県や市町村をまたがる試験研究の場合は自治体間の調整も行う必要があることから、多くの時間と労力を要している。また、環境省通知で示された「試験研究に係る合理的な期間」「試験研究に必要な最小限の量」「試験研究の結果を示すことができる合理的な期間に取り扱う量」に関して具体的な基準がないことから、本来必要な期間・廃棄物の量が認められず、廃棄物処理法に基づき通常通り業の許可が必要な状況に至っている。そのため、試験研究に多大なコスト・労力が生じたり、試験研究そのものを断念せざるを得ず、新技術の開発に積極的に取り組もうとする事業者にとって、迅速な事業展開やアップサイクル事業への参入の障壁となっている。

そこで、各自治体での判断や申請書類等の基準について定めたガイドライン等を国において新たに策定し、都道府県等及び市町村に対して周知徹底させるべきである。

これにより、資源循環等を推進する試験研究や事業者主体のイノベーションが国全体で促進され、廃棄物処理コストの削減、資源循環の高度化、再生資源の利用促進等に繋がるだけでなく、地域の再生可能資源の徹底活用や循環経済型ビジネスの拡大にも寄与する。

<根拠法令等>
  • 「規制改革・民間開放推進3か年計画(平成17年3月25日閣議決定)において平成17年度中に講ずることとされた措置(廃棄物処理法の適用関係)について(平成18年3月31日環廃産発第060331001号 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長 通知)
  • 第12回再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(令和3年7月2日開催)を踏まえた廃棄物の処理及び清掃に関する法律の適用に係る解釈の明確化について(令和3年9月30日 環循適発第2109301号・環循規発第2109302号 環境省環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課長、廃棄物規制課長 通知)
  • 「令和4年の地方からの提案等に関する対応方針」を踏まえた廃棄物の処理及び清掃に関する法律の適用に係る周知について(令和4年12月22日 環境省環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課長 事務連絡)
No. 55. 再資源化を目的とした廃棄物等の輸入手続に関わる緩和措置
<要望内容・要望理由>

わが国の資源安全保障の観点を踏まえると、海外の廃棄物等の取り込みや、日本企業のグローバル経済活動で生じた廃棄物等を海外に流出させずに国内で再資源化を促進する取組みも重要である。

しかしながら、廃棄物等を輸入するためには、バーゼル条約ならびにバーゼル法および廃棄物処理法(以下、廃掃法)に基づき、環境大臣および経済産業大臣の承認が必要となる。海外で販売され使用済みとなった自社製品を回収・輸入し、リユース・リサイクル等の再資源化や、再生利用ならびに環境負荷低減等に繋がる製品改良のための分析・解析を行う場合も、バーゼル法・廃掃法の規制対象物に該当すれば法規制の対象となり、煩雑な手続に労力を要するとともに循環ビジネス促進の障壁となっている。

そこで、バーゼル法において規制対象となっている電気および電子機器等をはじめとする製造事業者等(製品等の製造、加工、販売等の事業を行う者)が、自社製品に係る廃棄物等の効率的な再生利用や、その推進のための分析・解析等を目的として廃棄物等を輸入する場合は、手続の簡素化の特例措置を設けるべきである。

例えば、バーゼル法における再生利用等目的輸入事業者・再生利用等事業者の認定制度を拡充し、該当する製造事業者等も輸入承認手続が不要となるような運用にすべきである。

これにより、国内での資源循環のさらなる推進と、適正な国際資源循環体制の構築および国内外一体の高度な資源循環ネットワークの構築に寄与する。

<根拠法令等>
  • 特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律 第十四条・十五条
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律 第十五条の四の五および六
No. 56. グリーン購入法における特定調達品目の「判断の基準」の見直し
<要望内容・要望理由>

国等の公的機関は、グリーン購入法に基づき、環境に配慮した物品、サービスの調達を推進している。同法の趣旨は、需要側の取組から市場を環境物品等に転換し、持続可能な社会を構築することである。

しかし、政府がカーボンリサイクル拡大に向けたロードマップを描く中、現状では、カーボンリサイクル技術#3を活用した製品が特定調達品目の「判断の基準」として明記されていない。

そこで、「判断の基準」にカーボンリサイクル技術を活用した製品を明記すべきである。具体的には、二酸化炭素の長期固定が期待できる公共工事の資材分類に関して、「木材・プラスチック再生複合材製品」、「ビニル系床材」、「セラミックタイル」、「断熱サッシ・ドア」、「コンクリート及びコンクリート製品」といったカーボンリサイクル技術を活用した製品への代替可能性が高く、市場規模が比較的大きな品目に対し、より高い環境性能を示す「基準値1」としてカーボンリサイクル技術を活用した製品を要件化すべきである。

これにより、公共調達による初期需要創出が見込めることから、事業者にとっての投資予見性が高まり、各製品分野における早期の技術確立、低コスト化、普及が促進される。

<根拠法令等>
  • 国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律第6条
  • 環境物品等の調達の推進に関する基本方針
No. 57. 風力発電に係る再エネ特措法上の事業認定失効期限の延長要件緩和
<要望内容・要望理由>

再エネ特措法の下で認定されたFIT・FIP事業には、電源種別等に応じて一定の運転開始期限が設定される。同期限を超過した場合、超過した期間に応じてFIT調達期間・FIP交付期間が短縮される。加えて、運転開始期限を原則として1年間超過すると、事業認定が失効する。ただし、失効の1か月前までに「系統連系着工申込書」を提出することで、失効期限の延長が可能となる。

再エネ特措法施行規則の定めにより、2018年以来、環境アセスメントが必要な風力発電の運転開始期限は、事業認定の取得から8年後とされている。しかしながら、同施行規則の制定後、当時は想定できなかった要因によって既認定案件の稼働に向けた準備に追加の時間を要するケースが多発している。具体的には、盛土規制法の施行を踏まえた追加検査や、林野庁が定める「保安林の指定解除事務等マニュアル(風力編)」の改訂を受けた同庁および地方公共団体との協議の長期化などが生じている。こうしたなかで、失効期限となる9年後までの運転開始が困難な案件が増加している。

失効を回避するには系統連系着工申込書の提出が必要であるが、運転開始までのプロセスが7~8割方進まなければ、必要となる情報を揃えることができない。上述のような要因による遅延の影響の結果、系統連系着工申込書の提出までに、認定取得から9年を超える長期間を要するケースが今後とも発生すると見込まれる。

2026年頃から運転開始期限を迎える案件が増加するとみられる中、制度を現状のまま据え置けば、事業者が自身の責によらない事由による支障にも適切に対応しながら有望案件の開発を継続するインセンティブが消失し、撤退を招くことにもなりかねない。その場合、有望な再エネポテンシャルの開発が滞り、2030年度に向けた再エネ導入目標の実現も遠のくことになる。

そこで、環境アセスメントが必要な風力発電案件のうち、失効期限までに「系統連系着工申込書」を提出できないものについて、系統連系着工に必要な許認可手続が合理的に進行中であることを客観的に示す書面を提出すること等により、事業認定の失効を延期する措置を設けるべきである。

なお、稼働の意思がない案件の延命を排除する観点からは、遅延の具体的な要因や、運転開始に向けたスケジュール、可能な範囲で見積もった系統連系着工申込書の提出予定時期を明示した書類の提出を求めるとともに、進捗状況の定期的な報告を義務付けるといった対策を併せて講じることで、新たな措置の濫用を防ぐことが可能と考えられる。

これにより、運転開始に向けて着実に取り組んでいる風力発電事業者による有望案件の実現、ひいては再生可能エネルギーの導入拡大に資する。加えて、わが国のエネルギー安全保障の強化、地域経済の活性化、GX実現に向けた民間投資の促進といった多面的なメリットが期待される。

<根拠法令等>
  • 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法 第十四条(認定の失効)
  • 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法施行規則 第十三条の二(再生可能エネルギー発電設備の区分等ごとの失効までの期間)第二号
No. 58. 非化石証書に関する制度の改善
<要望内容・要望理由>

非化石証書は、当初、エネルギー供給構造高度化法に基づく小売電気事業者の非化石電源比率目標の達成手段として措置されたが、変化するニーズに応じ、累次の制度改正を経ながら、多様な小売メニューの提供やバーチャルPPAの組成、需要家の再エネ価値訴求などに活用用途を拡大してきた。

電気事業や非化石価値を取り巻く状況は急速な変化を続ける中、証書利用者のニーズへの対応や使い勝手の向上が求められており、非化石証書のあり方についてのさらなる検討と改善が必要である。検討の軸として、3Eのバランスのもとでの脱炭素電源の導入拡大に資すること、国内外からの多様な要請や企業のニーズに応えられること、および電源の脱炭素化以外の手段によるものを含むわが国の中長期的な脱炭素化を阻害しないことを念頭に置くことが肝要である。

そこで、非化石証書の制度設計に係る以下の事項について、制度の改正を視野に、今後の方向性に関して検討を行い、結論を得るべきである。

  1. ① トラッキング制度の拡充:需要家ニーズを踏まえた、非FIT非化石証書を含む属性情報の充実。具体的には、発電日時(例えば1時間刻み)、発電設備の名称・立地・運転開始年月日、より詳細な発電方式等。

  2. ② 取引制度の見直し:市場の厚みと取引の流動性・安定性のバランスを踏まえた、オークション開催回数の増加および証書の転売制限緩和の可能性。併せて、希望する電源種別の割当に係る確度を向上させる仕組みの整備。

  3. ③ 有効期限の見直し:期末の保有量超過・不足リスクが証書活用を制約していることを踏まえた有効期限延長の可能性(例えば1年程度の延長。高度化法上の義務達成および温対法上の排出削減効果に係る整理を含む)。

これにより、非化石証書がより広く活用されることで、非化石電源の拡大、ひいてはわが国のGXの加速に資する。

<根拠法令等>
  • エネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律施行規則 第4条第1項第二号
以上

  1. 出所:医薬品医療機器総合機構(PMDA)令和5年事業年度業務実績
  2. 「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律施行規則」においても、100%の回収(絶対圧力0Mpa)を前提としていない。
  3. CO2を分離・回収し、再利用することで、従来どおり化石燃料を利用した場合と比較して大気中へのCO2排出を抑制し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献するもの。

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