Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年11月1日 No.3107  海外における高齢者住宅の現状と今後の方向性を聞く -高齢社会対応部会

経団連は10月17日、東京・大手町の経団連会館で、都市・地域政策委員会・住宅政策委員会共管の高齢社会対応部会(渡邊大樹部会長)を開催した。今回は、東京家政大学の松岡洋子講師から、欧州を中心に高齢者住宅の現状と今後の方向性について説明を聞いた。

■ Aging in Place の実践

世界の潮流としては、1990年代から“Aging in Place (地域居住)”という考え方が始まっている。欧米では60年代以降に高齢者施設の建設が進んだが、財政の逼迫や高齢化率の高まりを背景として施設整備に対する反省が行われ、80年代から施設の代替を模索してきた。Aging in Place の固定した定義はないが、住み慣れた地域でその人らしく住み続けるために、高齢者を介護の対象としてみるのではなく、尊厳を持って自立を支援する環境を守るというものである。住まいとケアを分離する手法によって、先駆けとなったデンマーク以外にオランダでも実践されている。欧州各国の現状をみると、高齢者向けの施設・居住系と高齢者住宅でそれぞれ高齢者人口の5%ずつ(合計10%)以上を備えており、両者を合わせて4.5%しかカバーしていない日本との違いは大きい。

■ 行政の役割

デンマークでは、地域に高齢者住宅を設置すると同時に24時間ケアを実施している。高齢者施設「プライエム」の新設は1988年に禁止されたが、それ以前から85%以上の市町村で24時間ケアの体制が整備されており、特別養護老人ホームの建設を実質禁止してから24時間ケアを進めようとしている日本の動きとは逆である。ケアが「住まいに付く」のではなく、「人に付く」という発想をしている。ケアは在宅・施設居住にかかわらず無料となっており、概ね月10万~13万円の家賃で暮らすことができる。年金所得しかない層には家賃補助も整備されている。その背景として、地域内では施設職員、介護士、家族、ボランティア、NPOといった人的資源の共有化が図られ、医療との連携も充実している。そのため、高齢者住宅からの退去理由として死亡が86.9%、認知症によるリロケーションが13.1%となっており、介護力の不足を抱えてリロケーション率の高い日米とは数字が逆転している。

オランダでも1988年から「住まいとケア革新プロジェクト」を進めており、社会サービスや交通も含めたまちづくりの発想をしている。今後、日本において拠点としての住宅を整備する地域力を高めるためには、人、まち、家族の力が重要となることは当然ながら、行政がイニシアティブをとって、主に生活支援の担い手やまちづくりの問題を含めた地域政策を積極的に進める必要がある。

【産業政策本部】